イワナ谷の美景、大雨・濁流、濁流のイワナ釣り、スクラム渡渉、イワナ寿司、雨後の入れ食い、卵と白子
2010年9月上旬・・・2泊3日の日程で、今年最後のイワナ釣りへ
秋田のイワナ釣りは、9月20日まで・・・なのに何故最後なのか
9月中旬以降になると、マイタケを筆頭にキノコ狩りの人たちがどっと押し寄せ、谷は銀座と化す

特に、日帰り領域のイワナは、釣りにならないからだ
だから9月中旬以降は、竿を捨てマイタケ採りモードに突入した方が懸命な選択だと思う
上のイワナは、2010年最後のフィナーレを飾ってくれたイ・ワ・ナ
9月に入っても気温は30度前後と高く、猛烈な残暑が続いていた
重い荷を担ぎ、朝露で濡れた杣道を3.5kmほど歩き、谷に降りる
木漏れ日を浴びて谷を遡行する涼しさは、やはり格別である
イワナが棲む谷の素晴らしさは、透き通るような美しき水にある
美和ちゃんが言った・・・「秋田の沢だば、岩手と違って水の透明度が違うな」
「いやいや、和賀川や葛根田川源流も素晴らしいよ」

「んだがなぁ」・・・
これは他所の沢が美しく見える錯覚だろう
清流の証・イワナの魚影から判断すれば、水の透明度に差がないことは明白であろう
深緑の渓畔林が谷をすっぽり包み込むように迫り出している
日陰の岩は一面苔に覆われ、原始的な谷の雰囲気は満点である
谷の風景を眺めるだけで、イワナの世界に分け入ったことが分かる
ゴーロやナメ床を過ぎると、一転穏やかな河原となる
ブナやサワグルミ、トチなどの広葉樹・・・その樹上からセミの声がうるさいほど降り注ぐ
緑の氾濫が続く谷にオオカメノキの赤い実が際立つ
今年の夏は、局所的なゲリラ豪雨が頻繁に発生している
だから、テン場の選定には細心の注意が必要だ
沢が90度に蛇行しているカーブ地点・・・その左岸高台にベースキャンプを構える

藪を刈り払い、ブルーシートとテントをセットすれば快適なテン場に早変わり
次に対岸に横たわっていた倒木をノコギリで切って焚き火用の薪を調達する
昼食後、待ちに待ったイワナ釣りへ
イワナの宝庫とは言え、テン場周辺はまだまだ日帰りの釣り場
砂地には、釣り人の足跡が延々と刻まれていた
昨日歩いたばかりなのか・・・イワナは岩陰に隠れているらしく、影すら見えない
釣れない釣り日和に加え、スレたイワナを釣るには殊の外難しい
▲薄い着色斑点をもつニッコウイワナ

山釣りのメインデッシュはイ・ワ・ナ
だから、どんな悪条件でもイワナを釣る技術がなければ話にもならない
川幅が広い本流のスレイワナを釣るには、イワナに気付かれないようにアプローチすることが基本

6.1mの竿に長めの仕掛け、オモリはガン玉B、エサはブドウ虫をつける
慎重にポイントに近付き、巻き込みの流れに乗せて岩陰にエサを送り込む
ツンツンというイワナ独特のアタリが竿を握る手に伝わってきた

すかさずラインを張り、イワナを挑発する
イワナは咥えたエサを逃がすまいと、岩陰に走る・・・その瞬間をとらえて合わせる
イワナが水面を割り、中空を舞う瞬間は、野生的な快感が全身を駆け巡る
▲枝沢の清冽な小滝
清冽な枝沢が合流する地点には、イワナが潜む絶好のポイント
なぜなら、枝沢と本流の両方からエサが流れ込むからだ
特に食い気のあるイワナは、こうしたエサが流れ込みやすい位置に定位する
▲頭部に若干虫食い状の斑紋をもつイワナ
この沢に棲むイワナの特徴は、全身に散りばめられた斑点が鮮明なこと
9月ともなれば、尺イワナたちは産卵に備えて遡上を開始するはずだが・・・
スレているとは言え、いつもよりサイズがワンランク小さい

腹を裂けば、不思議と卵も白子も小さい
例年より残暑が厳しく、イワナもまだまだ夏と思っているのだろうか
▲イワナ谷の美景
広葉樹の渓畔林に包まれた穏やかな流れは、イワナの楽園を象徴する風景である
底石には、カワゲラ、トビゲラが潜み、風が吹けば樹上から落下昆虫が大量に落ちてくる
残暑が厳しいからだろうか・・・赤とんぼは里に帰れないらしく、秋谷に大量に飛び交っていた
当然のことながら、イワナは赤とんぼを大量に捕食していた
▲全身に散りばめられた斑点が美しいニッコウイワナ

▽釣り人をバカにする赤とんぼ
赤とんぼが針先のエサに止まった
ポイントに振り込もうとしても、赤とんぼが邪魔をするから、ほとんど飛ばない
振り払おうとしても、ピタッと張り付いて離れない

水面に落とすと、エサは沈まず、浮かんだまま流れてしまう
赤とんぼをエサから取り外すと、今度は、目印に止まった
釣りの邪魔をする赤とんぼには、ほとほとまいった

後で考えると、赤とんぼをエサにして釣る方法もあったなと思う
▲ゴルジュを巻くと、ほどなく大淵の小滝に出会う
大淵の流れは滝の左から右へと360度の流れになっている
イワナが定位している位置はどこかお分かりだろうか
真ん中の瀬尻から右の巻き込みにかけてイワナは群れている

だから流れの上流に位置している左からアプローチすれば、イワナには丸見えとなる
釣れるはずのポイントでも、アプローチを間違えば100%釣れない
ここは左岸の泥壁を攀じ登って巻く・・・アッちゃんと美和ちゃんは、ここで敗退

この沢の核心部は、テン場からさらに2kmほど上流まで遡行しなければならない
明日のことを考え、雑木に10mザイルを固定し残置しておく
この時、まさか明日丸一日、大雨濁流になるとは・・・
▲狭いゴルジュは左岸を巻き、窪地上の岩壁を伝って降りる
以降、いつもの相棒と二人で静かな釣りを楽しむ
日帰りの釣り人が歩いた痕跡はまだまだ続く・・・
時折、チビイワナを釣り上げては大笑いすること数回・・・
それでも粘って今晩のメインデッシュを釣る 
▲狭いゴルジュを走る激流
濡れた岩肌を際どくヘツリ通過すると、右手に涼感を誘う枝沢の滝が懸かっている
▲枝沢に懸かる涼感満点の滝
思わず背中からコップを出して飲みたくなるような滝だ
▲この谷のイワナの特徴・・・斑点は大きく鮮明だが、着色斑点は薄い
▲たまに着色斑点の濃いイワナも生息している
全体的に顔が小さい割りに魚体は太く大きい
これはイワナの成長の早さを物語る
従って、大物が期待できる沢であることが分かる
▲流木が横たわる小滝
この小滝下流は細長く深い淵を形成している
下流から接近すると、イワナが群れいるのが見えた・・・これじゃ天然釣堀だ
淵尻にエサを落とすと、黒い影がエサに向かってきた

ところが突然、向きを変え上流の深みへと消えてしまった
こちらが見えると言うことは、イワナにも丸見え・・・イワナの勝ちである
イワナは足で釣る・・・とは言っても、時間切れで竿を畳む
▲清流に咲くタニガワコンギク(花期は夏〜晩秋)
▲下りは、カメラに三脚をセットし、水の風景を撮りながら下る
イワナが棲む水の風景は、心が洗われるほど美しい
渇いた心を潤す風景・・・ブナ帯の谷は美的感覚を呼び覚ます力がある
▲岩を滑り落ちる小沢の名水
左の苔生す岩場には、ダイモンジソウが群生していたが、
なぜか白い花は全く咲いていなかった
これも残暑が続く秋の珍事と言っていいだろう
▲テン場で山の幸料理 ▲山ごもりに欠かせない焚き火
▲ミズのコブコの塩昆布漬け ▲イワナの刺身と蒲焼

山の幸定食を肴に贅沢な冷酒で乾杯
やっぱり山の幸を山で食べる美味さに勝るものなし・・・極楽、極楽

明日は柴ちゃんが一日遅れで追い掛けてくる
4人なら大テント一つで間に合うが、5人なら二つのテントが必要だった
ところが、2〜3人用のテントを忘れてしまった

明日は誰かが一人ブルーシートの下で眠らなければならない
大雨が降れば最悪なのだが・・・それが現実となってしまった
▲大粒の雨に水嵩が増しはじめた
▲大粒の雨が水面を叩く ▲ブルーシートの雨水を集め、きれいな水を確保

二日目の朝・・・沢の音ではなく、雨音で目が覚める
時折、大雨となった・・・ついに雨水の流れが焚き火場に流れ込み、水浸しになってしまった
柴ちゃんのことだから、約束を反故にして帰ってしまうのではないか

車に置いてきたビールを家に持ち帰り、「ごちそうさま」なんて言っているんじゃないか
などと勝手なことを言い合っていると・・・8時前、柴ちゃんが現れた
「テントを忘れた」との書置きを見て、途中に捨ててあったブルーシートを拾ってきたという
これはありがたい
早速、二つ目のブルーシートを張り、新しい焚き火場を確保する
雨はやむことなく降り続き、時折、バケツをひっくり返したような大雨が襲う
谷は水かさが急激に増し、濁流と化していった

こんな時は、臭いを放つミミズが魔法のエサとなるはずだが、
残念ながらミミズは持参していなかった・・・これじゃ釣りにもならない
やむなく、尾根を登ってマイタケ探しに出掛ける

急斜面のミズナラを何度も見回るも影すら見えない
というのも、マイタケは山の気温が18度以下、15度以下にならないと生えないとも言われる
こうも残暑が続くとマイタケは期待できない・・・恐らく今年のマイタケは遅いだろう
▲濁流と化した流れ
これじゃ危なくて沢沿いすら歩けない
待てど暮らせど雨は一向に止まず、時間だけが空費していく
やや小振りになった午後2時・・・もはや残された時間はない
私と柴ちゃんは、今晩の食材調達に向かった
左岸に細々と続いている杣道を辿って上流へ向かう
何とか広河原を渡渉し、対岸に渡って釣り始める

▽濁流のイワナ釣り・・・命がけの食材調達
濁流の中、臭いのないブドウ虫は不利・・・どうやれば釣れるだろうか

避難しているイワナの頭にエサをもっていくしかない・・・選択の余地はない
淀みを丹念に探る・・・イワナの頭にエサがくると、イワナは猛然と食らいつく
こんな場合は、大小入り乱れて釣れてくるのが常である

水深が浅いトロ場は、幼稚園サイズが釣れてくる・・・これにはまいる
深い淀みにポイントを絞って、イワナを釣り上げる
雨は容赦なく頭を打つ・・・濡れた竿は固着し畳めなくなる

もはや釣りを楽しむ余裕はゼロ、感激もゼロである
本能だけで釣っているような妙なイワナ釣り

せっかく減水した流れも、見る見るうちに水嵩が増してきた
濁っているので深さも分からない・・・杣道は左岸にしかない
右岸から左岸に渡る・・・振り向くと柴ちゃんが胸まで水に浸かって渡渉しているではないか
何とか無事に渡り終えた・・・濁流ともなれば、食材確保も命がけだ

▽スクラム渡渉
帰路、どうしても渡渉しなければならない箇所が二箇所あった
広河原だが、深さはすぐに股下まで達する・・・もはや渡渉するには危険水位を越えていた

単独渡渉なら濁流に呑み込まれる確率が高い
二人でスクラムを組み、お互いに大きな声を掛け合い、気力で渡り切る
こういう時こそ、仲間の力が遺憾なく発揮される
▲命がけで完成したイワナ寿司
苦労して釣り上げたイワナを調理するには、最高の料理でないと報われない
全員、腕をふるってイワナ寿司に挑戦!
むっむっ・・・やっぱり美味い

今夜は、柴ちゃんが背負ってきた缶ビールで乾杯
私はすっかり疲れ果ててしまい、早めにシュラフに潜り込む
朝まで深い眠りに落ちる・・・やはり人間は、原始的な世界で夢中に遊べば快眠できる
三日目の朝・・・雨も上がり水位もかなり下がった
いつもなら、最終日は竿を出さずに帰るのだが、残置してきたザイルを回収しなければならない
柴ちゃんは、朝飯前にイワナを釣ろうと下流へ向かった

私は、フランスパン、ソーセージ、カロリーメイトを背負い、ザイルの回収に向かった
仲間に「10時頃までには帰る」と告げ、一人杣道を辿って上流へ
テン場から釣り上がる仲間のために、ポイントを荒らさないよう1km弱ほど歩く
▽雨後の入れ食い
初日・・・仲間の竿にはほとんどアタリさえなかった区間で竿を出す
一日濁流が続いた翌朝、水量はあるものの濁りはほとんど消えていた
釣りにはこの上ないコンディション・・・イワナの魚影を確認するにはまたとないチャンスであった

思ったとおり、イワナの入れ食いとなった
初日は7寸前後と小型が多かったが、サイズもワンランクアップしていた
初日の貧果を思えば、一体どこから湧いてきたのか、不思議に思うほど良型イワナが竿を曲げ続けた

時折、小物が混じるものの、第一巻き地点で8寸前後の良型イワナ3尾をキープ
こんな時に限って、網袋は一つしか持ってきていなかった
やむなく一尾づつフキの葉にくるみ、買物袋に入れて岸の水面下にデポしておく
何の疑いもなくエサに食いつく野生のファイトには、釣り人もあっさり狂わされてしまう
これでは、遅々として前に進めなくなってしまった
こうなれば、ゆっくり朝飯を食べている時間はない

ソーセージ、カロリーメイトを食べながら釣り上った
ゴルジュとゴルジュの小滝までわずか100m弱の区間しかないが、8寸から泣き尺サイズ4尾をキープ
ザイルを残置した小滝に達する
釣りの誘惑に負けて、サブザックを置いて上流に向かった
案の定、アタリは止まらない

初日に引き返した天然釣堀まで行きたかったが・・・
サイズがさらにアップしかけたところで、エサがなくなってしまった
▲回収したザイルと良型イワナ
釣り時間は2時間ほどだが、キープしたイワナは10尾・・・
今年最後のイワナを記念撮影し、急ぎ谷を下る

それにしても、こんな素晴らしい釣りコンディションは滅多にあるものではない
もう一泊し、日帰り領域を越えた核心部で釣れば、
尺上から大イワナを釣る確率はかなり高かったように思う・・・それだけに残念というほかない
テン場で腹を裂くと、大きくなった卵と白子が入っていたのは半分にも満たない
それを醤油と酢でしめてから、美味しくいただく
遅い朝食だったが、ご飯が殊の外美味い・・・大盛り二杯もたいらげてしまった
▲今回のメンバー5名全員で記念撮影
今回は、丸一日、大雨濁流に見舞われ、停滞を余儀なくされたが・・・
一転、濁りが消え、水位が下がり始めると、イワナは狂ったように荒食いをする
大雨は誰だって嫌だが、イワナを釣るには・・・「幸運」の雨であった

増水した谷を下る難所は、大きな枝沢が合流する二箇所である
お互いにスクラム渡渉を楽しみながら下った
これでイワナ釣りは終わったが、マイタケ、サワモダシ、黄葉とナメコ、晩秋のナメコ・・・
山の楽しみは尽きない

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