山釣り紀行TOP

連日30度を越える残暑が続いていた・・・寝苦しく、朝2時に目が覚めた
ならば「水の風景」でも撮ろうと、近場の沢に向かった
林道に入ると、局所的なゲリラ豪雨の被害があちこちに見られた

猛暑が続く夏ともなれば、イワナの食いは極端に落ちる
渓流釣り愛好家の多くは、7月以降、中流域のアユ釣りへと向かう
イワナバカたちは、スレが激しい日帰りの沢は諦め、泊まり覚悟の奥山源流へと向かう

ゆえに近場の沢は、束の間の静けさを取り戻す
それを証明するかのように、草木が林道に迫り出しノロノロ運転が続く
車止めに着くと、もちろん誰もいない
沢に降りて驚いた
まるで雪シロ期と同じくらい水量が多い・・・山には相当雨が降ったらしい
早朝は、冷たい瀑風を浴びると、涼しすぎて肌寒いくらいだった
これなら夏バテイワナたちは、「水を得た魚」になっているに違いない
倒木が流され谷を埋め尽くしている・・・ゲリラ豪雨の傷跡だろう
これだけ流れが速く、水量が多ければ、毛針釣りは不利と判断せざるを得ない
餌釣りの仕掛けは持ってきていない・・・幸い、前回残ったブドウ虫を持参していた
竹濱毛針にブドウ虫を刺し、半毛針釣法を試して見る
半毛針を比較的緩い流れの水面にソフトに落とす
白泡の底から黒い影が走り、半毛針を追う

しかし、流れが速く、なかなか思うように食いつけない
イワナが食いやすい位置に半毛針をもっていき、イワナが出たら送り込む操作を行う
ここで竿は弓なりになる・・・ここで合わせると確実に外れる

イワナはブドウ虫の頭を咥えているに過ぎず、毛針のように一瞬の勝負をしようとすれば×
事実、二回も餌をとられてしまった・・・そうか、毛針の下には本物の餌が付いているのだ
食いついたら、餌釣りと同様の合わせに変えることが肝要であった
夏バテイワナ釣行から、わずか一週間余りしか経っていない
しかし、雨が降って増水すれば、あれほど無視され続けてきたイワナの食いは一変していた
型はワンランク落ちた感じだが、入れ食いが続く
こうなれば、夏バテイワナに翻弄された鬱憤が爆発する
夏のイワナは「朝夕まずめ」・・・朝飯前に釣りに集中する
冷たい飛沫を浴びながら、ひたすら「釣る、撮る」を繰り返す
夏バテの谷を生き抜いた野生の鼓動は、止むことを知らない
この谷には、ニッコウイワナ系とアメマス系が混在している
8時を過ぎると、峡谷に夏の強い陽射しが射し込みはじめた
核心部に到達する前に、餌がなくなってしまった・・・時計を見れば、まだ9時前であった
今晩のイワナには十分・・・納竿し、遅い朝食をとる
谷に迫り出した深緑、その下を流れる小滝、透き通るような流れが、光を浴びてキラキラと輝く
久しぶりに涼感満点の借景を眺めながら、のんびりオニギリとパンを頬張る
▲大きくなったトチの実 ▲オオカメノキ(ムシカリ)の赤い実
▲枝沢のミズ畑で、今晩の野菜を採る
8月下旬頃になると、ミズの茎と葉の付け根に小さな丸いムカゴ状の実(右の写真)がつく
秋田ではミズのコブコと呼んでいる
これを味噌漬あるいは浅漬けにすると、粘りのある美味しい漬物「ミズのコブコ漬け」ができる
▲ミズのコブコ。ムカゴ状の実がついた葉先を折採り、葉だけきれいに取って完成。熱湯でさっと湯がいてから浅漬けの素などで漬け込む。 ▲アカミズの根はミズたたき用に採取する。持続的な採取法は、根の部分を残すようにナイフで切り取ること。

晩夏・・・水の風景を撮る
▲ゴマ岩模様の花崗岩の上を滑り落ちる水
 美しき水の風景は、花崗岩の谷が最も美しいように思う

朝食後、今日の本命にとりかかる
一眼レフデジカメに軽量コンパクトな三脚をセットし、水の風景を撮影しながら谷を下る
水には、様々な動きがある

その清冽な動きを表現するには1/8以下のスローシャッター撮影が欠かせない
日中の晴天時でも、光量を減らしスローシャッター撮影をするには、ND-8フィルターが便利
光の乱反射が強い時は、PLフィルターにNDフィルターを重ねると良い結果が得られるように思う
▲小滝が続くゴーロ連瀑帯の谷は、「水の風景」の宝庫

一眼レフデジカメに三脚をセットしたまま、険しい谷を下る
それには軽量コンパクトな三脚が必携である
私が気に入っているのは、スリック・スプリントMINIU

重量が780gと軽く、仕舞寸法は35cmとコンパクト
これなら足を畳めば、カメラをセットしたまま移動するにも快適である
問題は、石がゴロゴロした不安定な谷では、三脚を水平にセットするのは不可能なこと

そんな時、役立つのが「自由雲台」である
さらに、「クイックシュー」がついているから、カメラと三脚をワンタッチで装着・分離できる
低価格な割りに、工夫が随所に施されている製品だと思う
小滝の流れが強い陽射しを浴びて、眩しいくらいに輝く
水は無色透明なはずだが、光と影のお陰で、動的質感と美しい流れの軌跡を撮ることができる
落下した釜は、沸騰したように白く泡立つ
小滝の直下にカメラをセットすれば、聖なる冷風を浴びて清涼感を味わいながら撮ることができる 
▲左岸の岩場から沁み出す湧水
苔生す岩肌を滴り落ちる湧水は、乾いた喉を潤すのに最適だ
▲蒸し暑い夏こそ、苔生す岩穴から湧き出したばかりの「おいしい水」を飲みたくなる
この名水は、夏でもすこぶる冷たく美味い
谷を歩く魅力は、どこでもいつでも美味しい水を飲めるところにある
命の源である水は、山の恵みの根源であり、本当にありがたい
▲雲のような流れ
水量の多いゴーロ滝は、1秒程度で撮影すると雲のような流れになる
この柔らかい流れのフォルムと角ばった岩の対照が美しい
▲飛び散る飛沫
本流から外れた水量の少ない落下水は、飛び散る飛沫の軌跡が美しい
▲ゴーロ連瀑帯
夏の強い光が峡谷に降り注ぐ日中は、明暗差が激し過ぎる
NDフィルターだけでは、明るい水の流れが白飛びしてしまう
こんな場合は、PLフィルターと重ねれば良かったように思う
▲美しい水の軌跡
水の流れは、大小さまざまな岩にぶつかり、千差万別の軌跡を描く
これも水と岩が織り成す自然の造形美の一つ
▲小さな階段状の流れ
よく見ると、流木が河原に埋もれて絶妙な流れを演出している
底石まで見える透明度にも注目
▲巨岩ゴーロの瀑布・・・下から見上げるように撮る
▲流木が積み重なったゴーロ滝
激しいゲリラ豪雨に見舞われると、崩れた岩と流木が積み重なり、流れを堰き止める場合もある
豪雨などで決壊すれば、一気に鉄砲水となって下流を襲う
こうした谷にテン場を構える場合は、テン場の選定に細心の注意が必要だ

今年の8月中旬、日高山系歴舟川源流で野営していた4人が鉄砲水に
テントごと流され、3名が死亡するという痛ましい事故が発生した
改めて、水は「美しき水」と、「恐ろしい水」の両面を持っていることを痛感させられる
▲縦構図で撮る・・・小滝が続く本流 ▲枝沢の流れ

滝もそうだが、水の風景は縦構図が似合う
しかし、不安定な沢では、縦アングルは、セットが殊の外難しい
足で撮る人にとっては、横構図一辺倒に陥りやすい
▲流木滝
落差の激しい階段状の谷には、流木が流れに直角に挟まり、一時的に流木滝を形成する
▲滝行その1
滝に打たれている岩は、苦行に耐える「滝の行者」のようにも見える
吹き出すように落下する水が岩の頭を絶えず打ち続ける
岩の行者は、唇をグッと噛みしめて絶え続けているようにも見える
よく観察すれば、水の風景は、多様性に富んでオ・モ・シ・ロ・イ
▲滝行その2
頭から滝の落下水を浴びている岩は、まるで人の顔のようにも見える
これも水と岩が織り成す造形美の一つ
この美しい岩下に、野生のイワナが潜む・・・だから、イワナ釣りを覚えると病みつきになる
▲ゴルジュに懸かる滝
狭いゴルジュになると、流れは一気に圧縮され、轟音を発して落下する
屹立する花崗岩の岩肌は、飛沫に濡れて苔生し、幽玄の美を感じさせてくれる
一日谷を歩き、山の恵みを肴に撮った画像を眺める
沢遊びにとって、水の風景ほど渇いた心を潤してくれるものはない
水の風景の代表は、落差の大きい滝である

しかし、日本の谷には、四季折々、千差万別の水の風景が存在する
それを撮ろうとすれば、被写体は、無限に存在する
加えて、多様なイワナや山菜、きのこ、山野草、高山植物、森林美、野生鳥獣、虫、山の民俗・・・

それらを撮ろうとすれば、テーマも無限で、体が幾つあっても足りない
思えば、無知な私に、水が織り成す感動的な世界の奥へ奥へと誘ってくれたものは、
聖なる水の世界に棲むイワナであった

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