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深緑の谷、夏バテのイワナ、大滝F1〜F4、夏きのこ、マタギのナタ目、ミズたたき、源流探索、清流ざるそば・・・
夏恒例の山旅は、仲間との日程調整がつかず断念
今年の6月下旬、20数年ぶりに訪れた懐かしの岩魚谷に向かった

初日(8月10日)の最高気温は34度、二日目の11日は33.4度と猛暑が続いた
8月11日、秋田県内で熱中症と見られる症状で13人が救急搬送されたという
そんな猛暑が続く夏こそ、清冽な滝の飛瀑が恋しくなる

ブナの谷に真夏の強い陽射しが降り注ぎ始めた
岩魚谷は、気温と水温の差が激しく、水面から大量の濃霧が立ち上っていた
そんな神秘的な谷沿いの廃道を歩く

しかし、草茫々でむせかえるほど暑苦しい
すぐさま沢に下りて、清流と戯れるように歩く
谷に迫り出した森の美しさ、清らかな流れに心は躍りはじめた
▲車止めにあった看板
 「熊!!多し 出没に注意」
▲岩魚谷は、熊が大型の草(エゾニュウ、フキ)を食べた痕跡がやたら多い
▲廃道となった旧林道の橋 ▲テン場・BC

最初は、左の写真上部の橋の下にBC(ベースキャンプ)を構えようかと思った
ブルーシートを張る手間は省けるものの、肝心要の「別天地に泊まる」にはほど遠い
重い荷を下ろし、穏やかな河原を歩いて、BC適地を探す

右岸の高台に、ブナが林立するビバーグ適地を発見!
対岸を探ると、高台に平らな場所があったが、少々沢まで遠い
次に焚き火用の薪はあるか・・・燃えないサワグルミは×、ブナは◎

右岸には、ブナの小枝や風倒木もたくさんあった
高台の藪を刈り払い、平らな場所にブルーシートとテントを張る
三日分の薪を集め終えると、BC地点の完成である
▲テン場脇の穏やかな流れ・・・これもテン場選定の重要なポイント
いつものテン場は、落差が大きく、大雨でも降っているかのように少々うるさい
今回のテン場は、まさに「せせらぎの音」「瀬音」・・・
穏やかな流れのテン場は、心地よいBGMを聴きながら眠ることができる
▲光煌く深緑の谷を釣る
両岸から草木が谷に迫り出し、一見、釣るには障害物が多過ぎるように見える
しかし、この深い森林美と穏やかな流れこそ、イワナの宝庫の証である
ブナ帯の典型的な渓相が続く
▽夏バテのイワナ
通常、真夏のイワナは瀬尻、淵尻に偵察隊のイワナが定位している
不用意に近付けば、イワナに走られるのが常である
しかし、猛暑の夏は「沈黙の谷」に一変していた

わざとポイントに近付いても、走るイワナの姿は全く見えない
稀に走るイワナは、赤ちゃんサイズばかり
これはどうしたことか・・・イワナがいなくなったとは到底考えられない

猛暑続きで水温が急激に上昇・・・さすがのイワナも「夏バテ」になっているのだろうか

イワナのポイントである瀬や瀬脇、淵尻、淵の巻き込み・・・
そのポイントのどこへ毛針を振り込んでも反応がない
夏バテのイワナは、どうも落ち込みの渦の岩下に隠れているようだ
▲ゴーロが続く小滝を釣る

▽半毛針で釣るも×
真夏の日中・・・毛針釣りはイワナの食いが鈍い
そこで、毛針に本物の餌をつける半毛針釣法を試して見る

枝沢が合流する巻き込みに半毛針(毛針+ブドウ虫)を振り込む
白泡の下まで送り込むと、突然、目印が走った
すかさず合わせたが、空振りに終わった・・・それが連続二回も続いた

猛暑の日中は、イワナの食いが極めて浅い
試しにカワゲラを採取し、毛針に川虫を刺しても結果は同じだった
▲真夏の谷の花・エゾアジサイ
▽夏バテのイワナは釣れない
毛針もダメ、半毛針にブドウ虫もダメ、川虫もダメ・・・
たまに掛かってくるのは、7寸前後の小物ばかりだった
結論から言えば、夏バテのイワナは釣りにならない

近年、こんな夏バテのイワナを相手にするのは記憶にない
沢歩きに切り替えるしか選択の余地はなかった
▲カツラの巨木
ブナ帯の沢沿いに自生し、根元から何本も株立ちしている大木は異様な威厳を放つ
見上げると、丸い葉を全身に着飾って美しい
起源の古い樹木で、生きた化石とも言われている
▲大滝F1 ▲大滝F2

BCから1km余り遡行すると、岩魚谷最大の大滝がある
この滝は、4段の滝が連続している多段の滝で、総落差は30m近い
かつての登山道は廃道と化し、迷った道があちこちにあり安易に進むと危険である

初めて遡行する場合は、連続滝の全貌が見えないだけに
巻きのルート選定が難しい
▲大滝F1の右岸を直登する
正規の巻き道は左岸にあったが、連続滝を一気に巻こうとすれば、左岸の屹立する壁に阻まれる
廃道となった巻き道は降り口が極めて不明瞭となっている
何度か探りを入れると、左岸の廃道からF1の滝上に降りるのが正規のルートだった
▲大滝F1の清冽な瀑布
下界では、熱中症で救急搬送されるほどの猛暑
そんな真夏日こそ、清冽なシャワーを浴びて滝を登るに限る
猛スピードで落下する滝の飛沫を横から眺めると、清冽な光と水が清涼感を誘う
▲大滝F3の淀みに夏バテを象徴するイワナが見えた
大岩の階段を上り、F3左の淀みを見下ろす
何と、9寸余りの良型イワナがいるではないか

滝の落ち水は右側にあるから、エサを待つには右を向いていなければならない
しかし、その逆の左を向いたまま微動だにしない
夏バテで体力温存モード=昼寝をしているのだろう・・・これじゃ、釣りにならないのも当たり前!
▲大滝F4のナメ滝
右岸の窪地を上り、廃道を辿って最上段のF4の滝下に立つ
巨大なシャワーとなって岩肌を末広がりに滑り落ちるナメ滝
清涼感は満点の滝である

ナメ滝の岩肌は適度な凹凸があり、シャワークライミングするには最高の滝のように思う
相棒に、シャワークライムをねだったが、濡れるのが嫌だと断られてしまった
その快感を撮影したかったのだが・・・残念
滝の瀑風と飛び散る飛沫は物凄く、手前の流木に絶え間なく降り注ぐ
この聖なるシャワーを全身に浴びると、噴出す汗がスーッと引いていくのが分かる
そこに佇んでいるだけで、細胞が活性化していくのが分かる
流木に座り滝行をすれば、水の神々から鉄人のパワーをもらえるような錯覚に陥る
滝下に近付き飛沫を頭から浴びて、清冽な水をコップ一杯に汲む
一気に飲み干す・・・五臓六腑に沁み渡る美味しさ
猛暑が続く真夏ほど、冷たい名水は何よりのご馳走である
▲廃道となった登山道をゆく ▲大滝上の壊れた歩道橋
▲沢を渡渉する時に使った草鞋 ▲美しいサルノコシカケ
▲ウスヒラタケ
大滝より上流は、穏やかな谷に一変する
ブナの風倒木も多く、秋になればキノコの山になるだろう
ブナの倒木に生えたウスヒラタケを見つけ採取する
▲立木に生えたヒラタケ科イタチナミハタケ
下から見上げると、ウスヒラタケの大群生のように見えた
際どく攀じ登り、ナイフで切り落とす
手にとると、傘が硬くキノコの匂いもきつい
ウスヒラタケのような柄もない・・・同じヒラタケ科のキノコだから紛らわしい
▲オオカメノキの実 ▲ヒロハチチタケ
▲ホツツジ
花がまるで穂のように立って咲くツツジ科の樹木だから「ホツツジ」
一見地味に見えるが、近付いて観察すれば、実に個性的で美しい花木だと思う
▲マタギの森に刻まれた刻印
廃道沿いにあったブナの幹に「クマ取り 平成1年11月15日」と刻まれていた
11月15日は、クマの解禁日
こうしたナタ目の刻印は、自然と人間と文化の足跡をしみじみ感じ取ることができる
だから、単なる「落書き」などと思うなかれ!

▽旧登山道と沢歩き
大滝からテン場まで旧登山道を辿りながら歩いてみた
ブナの森の高台ルートは、道も鮮明で歩きやすいが、岩場や草付けルートは道も崩壊していた
噴出す汗、背丈以上の草を掻き分け進む区間は、むっとするほど蒸し暑い

真夏の藪こぎを強いられているような地獄の苦しみが続く
沢を遡行するのに比べると、旧登山道ルートは体力の消耗が倍以上に感じた
やはり、くそ暑い夏は沢歩きに勝るものなし
▲ミズたたき
 アカミズの葉をとってざっと熱湯を通し、ビニール袋に入れ、その上からナタの裏でたたいてつぶす。さらにまな板の上で粘りが出るまでナタでたたく。これに味噌を入れて混ぜながら軽くたたいて、最後に山椒の葉又はニンニクを細かく刻んで完成。
▲採取したウスヒラタケは、ミズと一緒に味噌汁に ▲イワナの蒲焼き
イワナの蒲焼、ベーコンとキャベツの炒め物、ミズたたき、もろきゅう、漬物・・・
渓流で冷やしたビールと冷酒で宴会モードに突入する

初日は、まだ体が山に馴染まず、食欲の回復は半分程度といった感じだが、
瀬音を聞きながらビールと冷酒を飲めば、語るほど、酔うほどにハイピッチで進む
お陰で翌朝までアルコールが残ってしまった
昨日は、イワナの姿がほとんど見えなかった
本日は、一気に大滝まで歩き、源流部を探索する予定で出発した
ところが、何と瀬尻からイワナが走るではないか

真夏のイワナ釣りは「朝夕まずめ」の言葉を思い出す
昨日は、アタリさえなかった相棒に待望のイワナが釣れた

ところが、谷に陽が射し出すとイワナの影はパッタリ消えた
竿をたたみ、廃道を辿って大滝をめざす
▲左がチチタケ、右がケシロハツモドキ ▲ケシロハツモドキ
廃道沿いには、チチタケやその仲間がたくさん生えていた
秋田では、チチタケを食べる習慣がない
それは肉質が硬くボソボソしているからだろうか
栃木県では「チタケ」と呼び、異常な人気を集めているという

秋田の夏のキノコの代表は、ブナの根元に生えるトンビマイタケ
チチタケは誰も採らないから、杣道沿いにたくさん生えている
栃木県の皆さん、チタケを採るなら秋田へおいで!
▲大滝で乾いた喉を潤す・・・やっぱり美味い ▲ミヤマカラマツソウ
▲アザミの花
標高660mを超えた源流部でも、相変わらずイワナの食いは鈍い
最初、右の枝沢に入る
半毛針を階段状の釜に垂直に落とす

岩陰から良型イワナがスーッと姿を現した・・・が、食いつかず、再び岩陰に隠れる
以降、何度も誘いをかけるが二度と出てこなかった
結局、釣れてきたのは、警戒心の薄い6寸ほどの小イワナだった

本流に戻り、急ぎ相棒を追い掛ける
相棒は、既に1尾をキープしていた
相変わらず食いは鈍いが、何とか粘って、今晩のイワナは確保する
▲ソバナ ▲クガイソウ
▲セリ科の白花
夏のむせかえるような深緑の中、見失いかねないほど地味で小さな花だが、
良く観察すると、先端に小さな白花を多数つけ、まるで線香花火のように美しい
▲イワナが自力で上れないナメ滝をゆく
天然分布のイワナなら、4段の大滝や、その上の滝にもイワナはいないはずである
しかし、マタギの谷では、そんな滝上全てにイワナが生息している
滝上にイワナが走る魚影を発見すると、先人たちの移植放流に深く感謝せずにはおれない
▲細流となった源流部にイワナを追う
ブナ帯の渓畔林に覆われた谷は、まさに岩魚谷と呼ぶにふさわしい
落ち込みに毛針を落とし、横引き、逆引きして誘うと、良型イワナが岩下から姿を現す
しかし、食いつかない・・・すぐに偽物と見破るのか、あるいは夏バテなのか

淵のトロ場の底に、良型イワナが微動だにせず定位していた
その周囲に毛針を落とし、何度も誘いをかけるが全く反応しない
食い気はゼロ・・・夏バテのイワナは、日中、無駄なエネルギーを使わない戦術をとるのだろうか

これだけはイワナに聞いて見ないと分からない
掛かってくるのは、警戒心が薄い7寸前後の小物ばかり・・・
猛暑が続く真夏の日中は、イワナ同様、昼寝をするのが一番かも知れない
▲渓流流しざるそば
きそばを熱湯で5分ほど茹でてから、川虫採り用の網に入れ、冷たい清流でもみ洗う
万能つゆを清流で割り、薬味を入れて渓流流しざるそばを食べる・・・絶品である
夏の源流の定番は、そうめん、稲庭うどん、ざるそばである 
▲母なるブナ
ブナの森は美しいだけではない・・・生物多様性、恵みの宝庫であることが最大の特徴である
ブナの森は、決して見返りを要求しない「無償の恵み」を与えてくれる
だから「母なる森」と呼ばれている・・・感謝の念に思わず拝みたくなる神木である
▲岩魚谷に棲む美魚
側線より下に橙色の着色斑点を持つ典型的なニッコウイワナ
斑点も鮮明で、腹部、ヒレ、尾、口びるまで柿色に染まって美しい 
▲ウスヒラタケとミズの味噌汁 ▲イワナの蒲焼 ▲イワナの刺身
盛大な焚き火の傍らに、山の恵みをメインにした料理を並べる
せせらぎのBGMを聴きながら、渓流で冷やしたビールで乾杯
夏ならではの沢旅は、谷を詰め稜線を越えて源流へ辿るのが定番である
そんなハードな沢旅も楽しいが、BCを構え、宴会中心の山釣りもまた格別である

猛暑の中を丸一日谷を彷徨えば、下界の毒素は100%体外に発散される
聖なる水と山の恵みで体の中を総入れ替えすれば、体調は最高潮に回復することができる
恵み豊かな山と渓谷に感謝、感謝である
朝起きると、今日も天気が良さそうだった
ならば、緩斜面のブナの森でトンビマイタケでも探そうかと思った
ところが、朝食をとっていると、突然、風が吹き始めた

しかも、風の方向が上下流へとめまぐるしく変化した
台風4号が接近しているに違いない
いつものことだが、最終日ともなれば「帰りたくない病」に悩まされる
しかし、ここはグッとこらえて決断・・・急ぎ、テン場を片付け、沢を下る

車止めに着くと、案の定、雨が降り出した
ドライブインに入る頃には、どしゃ降りとなった
台風4号は今日の午後5時頃、秋田市に上陸、大雨、洪水、暴風警報が出されていたことを初めて知った
▲2010年6月下旬、同じ岩魚谷で釣れたイワナ

近年、釣りの技術に溺れる余り、イワナは創意工夫次第で釣れると錯覚しつつあった
しかし、今回の夏バテイワナには、ことごとく無視されてしまった
今年の異常な猛暑は、地球温暖化のせいだとすれば、
冷水性を好むイワナは、その地球の変化に、どう対応するのだろうか

氷河期時代、日本のイワナの祖先は、平地にも生息していたという
その後、地球温暖化ととともに、水温の低い上流部に移動し生き延びてきた
冷水性の遺伝子を持つイワナは、海に下ることができず上流部に陸封された山魚である

日本の陸封イワナは、世界の南限に当たる
従って、日本のイワナは、地球温暖化の影響を最も受けやすい種と言えるだろう
しかし、イワナには翼も足もないから、冷水を求めて落差の大きい滝を自力で上ることはできない

幸い、北東北の源流イワナは、先人たちによってヨドメの滝上へと移植放流され、その分布域を拡大した
そのお陰で、原種イワナの遺伝子を保った種が、
今なお絶滅危惧種に指定されることなく、生き延びることができた所以であろう

地球温暖化は、遅かれ早かれ、地球の運命と言われる
そして、その影響を最も受けやすいのが、ブナの森とイワナであるとも言われている
ゲリラ豪雨と猛暑が続く夏・・・冷水性を好むイワナが最も苦しい季節は、そんな真夏である
今回、夏バテイワナを目の当たりにすると、一体いつまで生き延びられるのかと心配になる
そんな心配は杞憂であることを祈りたい

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