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和賀山塊の概要と考察、鳥瞰図、横岳(コケ平)、和賀岳、構造土、高山植物・お花畑、展望図、川虫・・・
▲横岳(1337m)から和賀岳(1440m)を望む

和賀岳(1440m)、薬師岳(1218m)、白岩岳(1177m)、朝日岳(1376m)、高下岳(1323m)が連なる和賀山塊
かつては、村人の山岳信仰や仙北マタギ、沢内マタギの猟場であった
堀内沢オイの沢にあるマタギ小屋(お助け小屋)が象徴するように、山懐が深く、
ひとたび山に入ると日帰りは不可能で、秘境の面影を色濃く残す山塊である

それだけに一般登山の歴史は浅く、昭和50年代に入ってからのことである
主峰・和賀岳、登山道のない朝日岳への登山もさることながら、
この山塊の本命は、沢登りにあるように思う

堀内沢マンダノ沢、八滝沢、朝日沢、生保内川、シトナイ川、袖川沢
和賀川、大鷲倉沢、高下川・・・名渓が深い谷を刻んでいる
特に、8月ともなれば、堀内沢、生保内川を詰めて、
原始の山・朝日岳に至るルートに人気が集中する・・・言わば、沢登りの全国区になっている

登山者に人気が高い山は和賀岳だが、沢登りに人気が高い山は朝日岳である
その山の共通点は、アプローチが極めて長いこと
そして山頂は、高山植物の楽園で、構造土と呼ばれる珍しい地形は、
この世の別天地、桃源郷、極楽浄土と呼びたくなるような景観が広がっている
▲和賀川・和賀岳鳥瞰図(カシミール3D)
和賀川渡渉点から横岳まで標高差約620m、和賀岳まで標高差720m
標準タイムは、横岳まで2時間、和賀岳まで2時間半〜3時間程度
薬師岳コースに比べると、高下コースはマニアックなコースで、静かな登山を楽しむことができる

特に、薬師岳コースは、和賀岳山頂に立つと、時間的余裕がなくなる
途中に避難小屋は皆無だから、そのまま急ぎ引き返さざるを得ない
つまり、薬師岳コースは、日帰り登山しか成り立たないのが最大の欠点である

高下コースは、和賀川渡渉点右岸に素敵なテン場がある
ここに一泊すれば、横岳あるいはコケ平と呼ばれる平らな台地と
構造土の素晴らしい景観を鑑賞しながら、のんびり和賀岳登山を楽しむことができる
つまり、高下コースの最大の特徴は、野営登山が可能な唯一のコースであること

▲和賀川渡渉点下流
3日目も好天に恵まれ、絶好の登山日和に恵まれた
私の足ごしらえは、水陸両用の渓流足袋+ピンソール
相棒は、和賀川を渡渉してから登山靴に履き替える

対岸のテン場には、3パーティ、合計6名が泊まっていた
私の妙な足ごしらえを見て、「すげぇ装備だねぇ」と驚かれた
宮城から来た高校生1名と先生2名のパーティを追って登山開始
登山道は、尾根沿いにほぼ直線的で、傾斜のきつい登りが続く
見るべき場所は、上のブナ林ぐらいで、ひたすら高度を稼ぐのみ
しかも、山頂まで水場はゼロ・・・年寄りにはきつい
ブナと笹薮の中を縫うように続く登山道
昨日は、和賀川源流を往復6km歩き、その後遺症か・・・軽装備でも足取りは重くなる
30分歩いては、5分ほど休むスローペースで登る

若者たちは、さすがに元気で、軽い足取りで追い越していった
「ウサギと亀」じゃないけれど、いずれは山頂に辿り着く
それにしても夏の登山は、蒸し暑く、全身から汗が噴出す
次第に急登の道は、雨水で浸食され歩きにくい
標高1200mになっても森林限界には達せず、視界は全く悪い
ブナやダケカンバは、さすがに樹高が低くなる
やがてハイマツと潅木類に変化するものの、なかなか展望は良くならない
これでは、まるで地獄の苦行そのものではないか
振り返ると、眼下に沢内村が見えた・・・後もう少し・・・
▲横岳から真昼岳方向を望む
やっと、標高1337mの横岳に辿り着く
急登の藪から一転、360度のパノラマが広がる
この感激は、薬師岳ルートの稜線歩きとは明らかに異なる

高下ルートは、源流を詰め、藪と潅木類に悩まされながら天国の稜線に躍り出る・・・
どちらかと言えば、沢登りの感動に近いように思う
その共通点は、地獄の苦しみから一気に解放され、極楽浄土に辿り着いたような快感である

▼同上カシミール3D展望図
▲構造土
草花が全く生えていない裸地が、奇妙な形で幾つも点在している
しかも沢に向かって、石が一列縦隊に並び、奇妙な軌跡を描いている

冬は稜線に多量の雪が積もる・・・そして気温の寒暖と烈風・・・
土の水分が凍結と融解を繰り返し、自生する植物を剥ぎ取ってしまうらしい
▲ミネウスユキソウ
▲ムカゴトラノオ ▲ハクサンフウロ
▲オオカサモチ
▲トウゲフキ ▲クルマユリ
▲ミヤマウイキョウ ▲ハクサンシャジン
▲ウラジロヨウラク ▲クモマニガナ
▲オニアザミ
▲シロバナトウウチソウ ▲花に群がる虫たち
▲大鷲倉沢の谷と薬師岳を望む
和賀川支流大鷲倉沢は、和賀岳に至る沢登りルート
稜線から俯瞰すれば、屹立する谷を歩いてみたい衝動に駆られる
▲雪田・・・夏まで解けずに残る残雪を雪田と呼ぶ。確かに田んぼのような形をしている。 ▲コバイケイソウの実
▲和賀岳山頂(1440m) 
和賀岳は、山岳信仰の「山の神」と「阿弥陀仏」の神仏混合の山だった
この地に立てば、誰しも人間社会を下界と呼びたくなる

俗人の目線で下界を眺めれば・・・
苦行が絶えない不幸な現世から逃れ、せめて死後は「極楽浄土」の夢を見るしかなかったのだろう
その心の隙間に、神や仏がやってくる

極楽浄土の山頂は、そんな落人の群れでごったがえしていた
その群れは、中高年が圧倒的に多いが、若者も少なくない
この不思議な現象は、先行き不透明な時代を反映しているように思う
山は神のように絶対的な存在であり、その頂に立てば、生きるパワーをもらえるような気がする
▲和賀岳山頂から高下岳、和賀川源流を望む
昨日歩いたばかりの谷を、山頂から俯瞰する
谷の様子が手にとるように分かる
正面のピークが高下岳、谷の左の二又が約3km地点の上二又
その下流のガレ場もよく見える・・・その下流に3段の滝が懸かっている
▲和賀川源流行 
▲和賀岳山頂・・・赤とんぼの群れは凄まじかった
赤とんぼも人間同様、山頂や和賀川源流の涼しい所が好きらしい
できることなら、BCまで乗せてくれればいいのだが・・・
▲和賀岳山頂の祠に燻製イワナをお供えし、山の恵みに感謝する
和賀山塊の主峰・和賀岳は、命の水、四季折々、山の恵みをもたらしてくれる神の山である
これまでどんなにお世話になったことか・・・イワナ2匹をお供えし、感謝と豊漁を祈った
お供えしたイワナの燻製は、相棒と二人で美味しくいただく
▲薬師岳ルートでやってくる登山者は後を絶たない
高下ルートは、どう数えても30人にも満たない数だった
ところが、薬師岳ルートは、数百人レベル
しかも圧倒的に中高年が多い・・・中高年登山ブームの根強さを感じる
▲小鷲倉、薬師岳を望む
薬師岳〜小杉山を二度も歩きながら、なぜ和賀岳を目指さなかったのだろうか
八滝沢源流に懸かる10m滝・標高940mまで沢を歩き、なぜ和賀岳を断念したのだろうか
いずれにしてもイワナと登山を兼ねようとすれば、和賀岳へのアプローチは遠い

▼同上カシミール3D展望図
▲和賀岳山頂北斜面のニッコウキスゲ
お花畑の核心部は、治作峠・朝日岳方向に広がるニッコウキスゲの群落
まだ八分咲きだが、満開になると、まさに極楽浄土のピークに達するであろう
▲白岩岳、錫杖(シャクジョウ)の森方向を望む
錫杖の森、白岩薬師、薬師岳、阿弥陀岳、青シカ山、女神山、熊ツル、南部ツル、治作峠・・・
山伏とマタギの匂いがプンプンするような山名、地名が並んでいる

▼同上カシミール3D展望図
▲朝日岳方向を望む
流れる雲海が消える瞬間を待ったが、残念ながら朝日岳は雲海に隠れて姿を現さなかった
かつては、和賀岳から朝日岳まで踏み跡があったというが、今は廃道と化している
なだらかな稜線を眺めていると、八滝沢を詰めて和賀岳山頂に登るのが最高のルートのように思う
どう見ても、夏山は沢登りが一番・・・ぜひ一度チャレンジしてみたい

▼同上カシミール3D展望図
▲和賀岳から平らな横岳方向を望む  ▲横岳・・・高下ルートは、ここが地獄から天国への入口。それだけに誰しも大休止をしたくなる場所である。
▲薬師岳から望む小鷲倉(左:1354m)と和賀岳(右:1440m)
▲小杉山から和賀岳を望む・・・奥のピークが和賀岳(1440m)
▲八滝沢源流部と和賀岳を望む
右のピークが和賀岳、その左斜めの谷が八滝沢
八滝沢の隣は、支流豆蒔沢、その沢とマンダノ沢を分かつ尾根は通称「南部ツル」と呼ばれている
その和賀川と堀内沢の鞍部は、治作峠と呼ばれ、かつて沢内マタギが堀内沢に通ったルートである

▼同上カシミール3D展望図
八滝沢の「○」印は、10m滝
2006年夏、この滝まで遡行し、和賀岳登頂を断念したことがあった
▲和賀川の清冽な流れ ▲採取したカワゲラ

和賀岳から下山し、BCで昼食をとる
時間が余り過ぎてやることがない
水の撮影に出掛けると、高校生が一人退屈そうにしていた

それじゃ暇同士、川虫採りを教えることにする
最初は、私が網を持ち、高校生に上流の石を起こしてもらう
慣れた所で、一人で川虫採りに挑戦・・・何と一発で川虫が入った

川虫の生息調査をすれば、水質やイワナの魚影を推定することができる
つまり、イワナの魚影は、川虫の量にほぼ比例する
▲ウスヒラタケの味噌汁
▲イワナの塩焼き ▲チャーハン
▲タマガワホトトギス ▲エゾアジサイ
高下コース・和賀岳賛歌
ブナの森の中を縫う尾根道は、楽しい散歩道、
神木のように仁王立ちした「ブナのモンスター」を拝み、
マタギが「牛の首」と呼ぶ水場で喉を潤し、和賀川渡渉点にBCを構える

BC上流は、ゴルジュ、河原、ゴーロ、滝、ガレ場、上二又・・・岩魚谷にふさわしい渓相をみせる
竿を片手に清冽な流れを蹴ってイワナを追う和賀川源流行

視界も利かず風も通らない尾根筋の急登は、地獄の苦しみだが、
横岳の平らな台地に飛び出せば、地獄から天国へ
構造土と草花が咲き乱れる天上の楽園を鑑賞しながら、お花畑が広がる和賀岳山頂へ

体はクタクタになるが、その分、心は充実感に満ち溢れる山旅を約束してくれる
和賀川&和賀岳に感謝!、感謝!
和賀岳=阿弥陀岳

昔、和賀岳は、里の暮らしを見守る祖先の霊が鎮まる場所と考えられていた
落日と日の出を画する稜線は、太陽の死と蘇りを示唆している
だから、里の人々は、その山の向こうに阿弥陀浄土を思い描き、「阿弥陀岳」と呼んだに違いない

山伏修験道の世界では、川や滝が、あの世とこの世の境界線と言われている
その川や滝で穢れを祓い、神仏の領域である山での修験に向かう
高下コースは、修験登山の奥の院?

こうした修験の目線で高下コースを振り返ると、極めて理想的なコースに思えてくる

尾根筋の深い静寂の森に神の気配を感じ、和賀川の清冽な流れにも神が宿っているように実感させられる
和賀川源流渡渉点は、あの世とこの世の境界線に当たる
この聖なる流れに身を沈め、水垢離をとってから阿弥陀岳に向かう

急な尾根筋を直線的に登る苦行の果てに、神が創造したかのような極楽浄土・・・
構造土と天上の花園・コケ平と阿弥陀岳に達する
高下コースは、実は、現代に残された修験登山の奥の院のように思えてならない
 参 考 文 献
「写真集 和賀岳の四季」(高橋喜平、小野寺聡、岩手日報社)
「秘境・和賀山塊」(佐藤隆・藤原優太郎、無明舎出版)
「ひとめで見分ける250種 高山植物ポケット図鑑」(増村征夫著、新潮文庫)
「山渓ハンディ図鑑2 山に咲く花」(永田芳男、畦上能力、山と渓谷社)

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