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2011年5月下旬・・・残雪と新緑、山ワサビ、山ウド、ゼンマイ、旬のイワナ、イワナ料理、盛大な焚き火、ヒラタケ・・・
▲残雪とブナの新緑

2011年5月下旬、2泊3日の日程でブナ帯のイワナ谷へ向かった
あいにく天候が悪く、コンパクトデジカメで撮影するしかなかった
特にメインの2日目は、一日中雨が降り続き、最悪の天候に見舞われた

しかし、山で雨が降るのは日常茶飯事のこと
写真撮影には、光が乏しく、出来映えは良くないが、天候には逆らえない
▲斑点が大きく鮮明なイワナ

この谷に生息するイワナの特徴は、北海道のエゾイワナか・・・
と思うほど、白い斑点が大きく鮮明な点である
冷たい雪代と容赦なく降り続く雨・・・
雨合羽を着ていても、内側まで濡れ、身体が震えるほどの寒さに襲われる
こうした悪天候に見舞われると、焚き火のありがたさが骨の髄まで沁みる

しかし、雨に見舞われた場合、誰もが焚き火を焚けるわけではない
この寒さを吹き飛ばす焚き火は、「スーパー爺さん」の異名を持つ会長の得意技である

▲スミレサイシン
▲エゾエンゴサク ▲オオバキスミレの群落 ▲ムラサキヤシオツツジ

車止めで3日分の荷造りと山釣りスタイルに着替える
今にも雨が降り出しそうな気配だったが、気分は、むしろ楽しみでワクワクしていた
いざ、重い荷を担ぎ歩き出すと、またまた左足の太ももが悲鳴を上げ始めた

通い慣れた杣道だが、歩くスピードはほぼ半分程度にスローダウン
仲間も私の不調を気遣って、山菜やヒラタケを採りながらゆっくり歩いてくれた・・・本当にありがたい
▲ブナ帯のイワナ谷を象徴する風景

分厚い残雪と谷を覆い尽くすように渓に張り出したブナの新緑
その谷間を流れる清流には、イワナとヤマメが混生している
この美しき風景を眺めながら、のんびり朝食を食べる
▲白花が満開の山ワサビ
▲山ワサビ畑から顔を出したウド ▲旬の山ウド

平坦な河原に群生した山ワサビの花の群れは、いつ見ても美しい
さらに旬の山ウドが顔を出すと、その美しさは倍加する
ベストからナイフを取り出し、できるだけ太い根本から切り取る
▲ゼンマイが群生する急崖の斜面。まだ下には、雪崩の残雪が残っていた。その危険な地形から、素人が簡単に採れる山菜でないことが分かる。 ▲大きくなったゼンマイ
奥に入るに連れて、雪崩の残雪が杣道を覆い尽くしていた
一旦、沢に下りて迂回し、また高台の杣道に戻る
左足太ももへの負担は、こうしたアップダウンルートが最も大きい
休みながらも、仲間の歩く姿を撮っていると、気分が紛れる
▲カタバミの白花
▲わずかに咲いていたシラネアオイ。この花が咲くと、ゼンマイシーズンの到来を告げる。 ▲イチゲの花が咲いているということは・・・山菜最盛期には、まだ早いことを物語る。今年の異常天候を物語る光景であった。
▲白い花を咲かせた山ワサビの大群落

山ワサビは、沢沿いの湿地帯を好む
一体の林相は、サワグルミ林の場合が多い
ワサビが優占するような場所には、他の山菜(アイコやホンナ、シドケ)は少ない
白い花を咲かせる頃が、採取の適期である
▲テン場に着いたら、焚き火用の薪を確保するのが一番仕事
▲サワグルミと山ワサビ ▲山ワサビのアップ ▲薪を確保したら、テントとブルーシートを張れば、テン場設営完了

テン場選定の必須条件は、焚き火の薪を調達する風倒木があること
次に水を得やすく、洪水でも安全でかつ平らな高台であること
山では雨が降るのは日常茶飯事・・・雨対策としてブルーシートを張る

いよいよ、今晩の食材・イワナと山菜調達に出かける
私とMちゃんはイワナ釣り、K氏は山菜採り、会長はゼンマイ採りと別れて出発
▲大きな白い斑点と丸々太った旬のイワナたち

イワナの旬は、雪代が終わりに近づく5月下旬から6月頃である
イワナは、小さな虫たちを胃袋一杯に食べていても、目の前にエサがくれば貪欲に追う
雪代で増水した渓は、釣るポイントが限られるが、入れ食い状態で釣れてくる

ブナ帯の渓流は、まさにイワナの楽園である
お陰で、わずか2時間ほどで、4人分のイワナは簡単に釣ることができた
▲旬のイワナ

釣り上げたイワナは、網袋に入れて生かしたまま釣り歩く
竿を納めた時点で野ジメにすれば、最高の旬を保つことができる
上の写真は、野ジメにした直後の写真である

この沢には、アメマス系と薄い着色斑点を持つニッコウイワナが混生している
上の良型5匹は、4人分の刺身用イワナである
▲腹を裂き、内臓とエラを取り去り、背中の血合いを綺麗に洗い流す ▲頭に切れ目を入れ、前歯で皮をかみ一気に皮を剥ぎ取る。旬のイワナは、薄ピンク色で食欲をそそる。 ▲三枚におろし、太めの長さに切る。雨で濡れると味が落ちるので、蓋付き容器を利用するのがベスト。
▲皮と刺身用で残ったアラは、唐揚げ用に使う。頭と骨は、焚き火で燻し、骨酒用に使う。 ▲春のキノコ・ヒラタケ・・・山菜と一緒に味噌汁の具として使用 ▲イワナの刺身、アイコ、シドケのおひたし、その他ウドの酢みそ和え、ワサビ醤油漬け
▲会長が採ったゼンマイ10数kg ▲盛大な焚き火は、会長の右に出る者はいない。どんな悪天候に見舞われようと、確実に焚き火をおこす技術は素晴らしい。
コンパクトデジカメでも、大きな炎の光さえあれば、これだけ鮮明に撮ることができる
そのためには、デジカメと言えども三脚は必須である
燃え盛る炎、飛び散る火の粉の軌跡、遠赤外線で煌めく串刺しイワナ・・・
雨と寒さを吹き飛ばす焚き火の技術の高さと有り難さが伝わる一枚だと思う
▲ヒラタケ
▲昨夜の雨で濁流と化した流れ ▲雨で濡れた焚き火場の復旧作業 ▲雨の中、イワナを釣る

予報どおり、夜から雨が降り続き、やむ気配なし
結果的に丸一日雨が降り続いた
大雨で濁る場合、匂いを放つミミズは魔法のエサに変身する

しかし、残念ながら、ミミズは持参していなかった
匂いのないブドウ虫で挑戦したが、やはり苦戦を強いられた
雨のため、撮影はほとんどできなかった・・・残念
▲雨に煙る渓 ▲何とか釣り上げたイワナ ▲シドケを採るK氏
▲昼は焚き火で暖をとり、昼食 ▲エゾハルゼミの幼虫 ▲午後から4人分の刺身を釣る

エゾハルゼミは、ブナ帯を代表するセミである
羽化は5月下旬頃から始まる
林床に小さな巣穴をつくり、暗くなると木に登って羽化する

上真ん中の写真は、焚き火の暖かさに誘われて、巣穴から出てきた幼虫だろう
産卵から羽化するまで約7年もかかるという
それなのに成虫の命は1週間からわずか1ヶ月で一生を終える
上流に一人で出掛けたスーパー爺さんは、スパイク付き地下足袋を履いていた
増水した川を渡ろうとしたら、岩の上でスパイクが滑り、腰上まで冷水に浸かったという
ゼンマイ採りを諦め、イワナとヒラタケを背負って、意外に早く帰ってきた

雨具の内側もびしょ濡れになれば、寒さは極限に達する
素早く着替え、盛大な焚き火で暖をとれば、生き返ったように元気になる
まさに山での焚き火は、最大のエネルギー源である
雨は相変わらず降り続いていた・・・沢の轟音を聞きながら・・・
焚き火の傍らで、山釣り定食を囲むように車座になり源流酒場開宴
会を結成して26年・・・山語りは尽きることがない

時々、イワナの焼き具合を調整したり、焚き火が消えないように管理する
宴会が一段落すると、燃えさかる焚き火の上に飯盒を乗せ、飯を炊く
焦げ目がつかないように炊くのは難しいが、幸い最高の飯が炊けた

納豆ご飯とヒラタケの味噌汁で腹ごしらえ・・・美味い、美味い
3日目・・・やっと雨も小降りとなり、野鳥の囀る音が森に響き渡った
焚き火で濡れた衣服を乾かす
▲一週間前のブナの新緑・・・

晴天になれば、コンパクトデジカメでも、萌黄色に燃える輝きを撮ることができる
しかし、曇天や雨になれば、極端に描写力が落ちる
これは、一眼レフとの大きな違い・・・レンズの差がはっきり出るのはいたしかたない
▲萌黄色の新緑アップ
▲今回は、新緑の色も大分濃くなってきた・・・初夏が近いことを告げる
▲ブナ帯の風景
▲帰路、ヒラタケの群生を発見
重いゼンマイを背負っていた会長は、もはやこれ以上背負う余裕はなかった
このヒラタケはパスすると思っていたが・・・何と、荷を下ろしさっそく採り始めた
この不可思議な行動は、採集の遺伝子の性なのだろうか
▲山ワサビと山ウドの群生

ネイチャーフォトカメラマンと称する人たちは、四季の風景や動植物、昆虫などの作品がほとんど
ブナ帯の自然は、美しいだけでなく、「命」を支える「食」の宝庫である
なのに、なぜ「ブナの森の恵み」をテーマに撮らないのだろうか

命の水や山魚、山菜、きのこ、木の実は、自然の造形美としても一級品
東日本大震災の教訓・・・自然の恵み、「水」と「食」の大切さが浮き彫りになった
美しき水と食を求めて、ブナ帯の沢を彷徨う「山釣り」の素晴らしさも浮き彫りになったように思う

僕たちは、ブナの力を信じている

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