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ゴルジュに懸かる滝、ナメ滝、尺イワナ、美白イワナ、奇形イワナ、コケイラン、イワナと放射能・・・
イワナ釣りのベストシーズンだというのに、依然として左足は良くならない
いつもの沢は、足への負担が大き過ぎる
普段の1/2の速度でもイワナが釣れそうな枝沢を探すしかない

イワナの情報は全くないが、地元ではマイタケ山で有名な枝沢に目が止まった
地図に穴があくほど眺める
距離は短いが、渓畔林が豊かな山岳渓流であることに間違いはなかった
小さな枝沢とは言え、歩けば新たな発見があるものだ
尺イワナや真っ白な美人イワナ、果ては上顎が突き出した奇形イワナ・・・
美しいナメ滝やゴルジュに掛かる滝群、谷を彩るコケイラン、マイタケが生えそうなミズナラの巨木

しばし、マイタケ山一帯の未知の渓を探るイワナ旅も面白そうだ
しかし、左足不調のままでは、思うように歩けず、情けないことこの上ないのだが・・・
▲ミズナラの巨木 ▲ミヤマカラマツソウ ▲谷に迫り出した渓畔林と太い流れ

2011年6月下旬、朝4時半・・・車止めで着替え、未知の渓を歩く
二日前の大雨で、沢は増水していたが、流れは澄んで美しい
ほどなく、地図にはない堰堤が現れる

堰堤の右岸を越え、さらに進むと、二つ目の堰堤が現れる
ここは左岸を越えるも、既に左足が悲鳴を上げ始めた
堰堤上流の川原に座り込み、しばし休む

S字状にカーブした淵を覗くと、やっとイワナが走る魚影を確認できた
これより上流部は人工構造物は皆無であった
川原に座り込み、チョウチン仕掛けに竹濱毛針を結ぶ
▲上顎が突き出したイワナ

カーブ地点の深い瀬脇に第一投目の毛針を落とす
すぐさま水面を割って出たイワナは、毛針をくわえ反転した
意外に早く釣れたイワナに心が躍る

口元を見ると、下顎が小さく上顎が突き出したような奇妙な口に驚く
「頭のつぶれたイワナ」は、上顎がなくなっているが、
このイワナは、下顎が退化したような奇形イワナ
に見える

この上顎が突き出したイワナは・・・
今から7年前、八幡平の源流で多数生息していたのを思い出す
▲下のイワナは、上顎が突き出したオスイワナ(2004年6月、八幡平D沢源流)

 当時のコメント・・・口を閉じても、上顎がかなり前に突きだしている。こんな妙な岩魚は初めてのこと。それも一匹や二匹ではなく、この源流に棲むオス岩魚の大半を占めていた。なぜ上顎と下顎が噛み合わないアンバランスな形をしているのか。それが遺伝しているとは、どういう意味、役割があるのだろうか。
白い花崗岩の渓で、水は冷たく、透明度もすこぶる高い
ポイントを丁寧に探るも、全くイワナの魚信がない
恐らく、相当釣り人が入っているに違いない

日帰り釣りの入渓者が多い区間では勝負にもならない
痛みをこらえ、しばし歩くと、通らずの滝に出くわす
▲通らずのゴルジュに懸かる滝

暗く湿ったゴルジュの滝は、一見巻くのは不可能なように見えた
まずはザックを下ろし、カメラを三脚にセット・・・美しき水と滝の美を撮る
周囲を見渡すと、左岸を高巻くしかないようだ

左足の痛みをこらえて、この滝を越えられるだろうか
未知の渓を歩く楽しさは、この滝を越えると、その奥に何があるのだろうか
未知の扉を開けて奥へ奥へと分け入るドキドキ感がオモシロイ!

これは山釣り、沢登りを問わず、沢を歩く人たちに共通した楽しみであろう
滝の下流に、わずか1匹のイワナを編み袋に入れてデポしておく

急崖の草付けの根元をつかみ、きわどく這い上る
枝木をつかみ斜面が緩くなる地点まで上る
左足が痛み出すと、足に力が入らなくなる

いつもより慎重に上流へとトラバース・・・
脇尾根を越えると、崖は沢に向かってすり鉢状に切れ落ちていた
左足の筋力低下を考えると、ザイルで補助して下りようかと思った

しかし、この先がどうなっているか分からない以上、安易にザイルに頼るのを止めた
草木を頼りにS字状に下り、最後は木にぶら下がって沢へと一気に飛び下りた
▲竹濱毛針を丸呑みにしたイワナ

ここからイワナのアタリが一変する
狙ったポイントでは、必ずと言っていいほど、イワナが毛針を追い始めた
やはり、通らずのゴルジュに懸かる滝であっさり引き下がるか・・・

それとも、一踏ん張りして越えるかでは、天と地ほどの落差がある

イワナは「足で釣る」のセオリーどおりの展開になった
イワナ釣りの盛期ともなれば、やや深い早瀬に良型のイワナが定位している
その早瀬に毛針を流すと、良型のイワナが飛び出すものの、流れが速すぎて食いつけない
そんな光景を何度見たことか・・・

こういう場合は、オモリを付けて毛針を沈め、
食いやすいようにイワナが定位する位置へ毛針を送り込むのが良いだろう
しかし、オモリは持参していなかった

雨後の増水時は、やはり「エサ釣りに勝るものなし」と思っても・・・
エサ釣りの仕掛けも持参していない
まぁ、毛針に飛び出すイワナを観察しながら釣り上がるのも悪くはない
奥に入るにつれて、サワグルミやブナ、ミズナラの渓畔林も深くなる
渓の勾配も次第にきつくなり、典型的な山岳渓流の趣となる
▲上顎と下顎が短く、極端に口が小さいイワナ

魚体の大きさに比べると、口がやたら小さい
まるで上と下の顎が共に退化したようなイワナである
こうしたイワナは、「頭のつぶれた怪魚」が棲む谷に多く見られる

もしかすると、この谷にも「頭のつぶれたイワナ」が生息しているのだろうか
もし生息しているとすれば、毛針では決して掛からない
なぜなら、毛針が掛かる上顎が全くないからである
轟音を発して流れ下る階段状のゴーロが続く
この下流に、左岸から流入する枝沢がある
その合流地点で良型イワナがヒット・・・滝より上流でキープしたイワナは4尾に

合流地点は、デポする目印として格好の場所である
4尾を生かしたまま網に入れてデポする
その直後、比較的深い淵で尺イワナが竿を絞った
▲頭がデカク、丸々太ったオスの尺イワナ

階段状の壺は、増水した流れに煮えたぎっていた
毛針を落ち込みにぶつけるように振り込み、白泡の渦の中へと送り込む
水中に没した毛針は見えないが、ガツンという強いアタリが返ってきた

竿は弓なりにしなったが、強引に引きづり込む
顔を水面に出した瞬間、尺イワナは最後の力を振り絞り、滝壺めがけて走った
それを何度か繰り返し、弱ったところで岸へ引きづり上げる

久々の尺イワナの引きに興奮はピークに達する
やはりこの感激は、苦労しないと味わえない
ザックを下ろし、尺イワナの感激を何度も撮る
毛針は大きな上顎にガッチリ掛かっていた
頭から背中にかけて、虫食い状に乱れた斑紋が明瞭である
上から眺めていると、まるでマムシの仲間・爬虫類のようにも見える
全身は彩る斑点は鮮明で星くずのように多い
側線より下に薄い橙色の斑点を持つニッコウイワナのオスである
縦に薄いパーマークもはっきり確認できる

一般的に、イワナは大きくなるに従いパーマークは消える
しかし、この沢に棲むイワナのほとんどはパーマークを確認できる
いずれにしても「深山幽谷のイワナ」にふさわしい美魚は、どこから切り撮っても美しい
左手から美しいナメ滝が流入する二股に達する
ナメ滝の滝壺は浅く、イワナが生息できるような空間がない
右手の沢に比較的深く大きなゴーロの壺があった

その壺の左に毛針を落とす
すぐに強いアタリがあったが、糸を張りすぎていた
イワナは違和感を感じたらしく、くわえた毛針を吐き出してしまった
▲白さが際立つ美白イワナ

諦めきれず、同じ壺の右側に毛針を落とす
糸を緩め、毛針を白泡の中に沈めると、イワナは勝手に毛針をくわえて竿が弓なりになる
完全な向こう合わせの毛針釣りで釣り上げた

白さが際立つイワナの美しさに釘付けとなる
全身真っ白な魚体、渓流魚の理想に近いプロポーションが素晴らしい
滑らかな曲線美を持つ腹部から尻尾にかけて橙色〜柿色の彩りが実に鮮やかである
魚体が白いだけに斑点が不鮮明に見える
測線下の薄い着色斑点も、よく見ないと見落としてしまうほど不鮮明に見える
久々の美魚に大満足・・・
▲清冽なナメ滝

荷を下ろし、水の風景を撮る
いろんな滝があるけれど、岩盤を滑るように流れ下るナメ滝が最も好きである
それは白い瀑布が清涼感を誘い、滝のシャワーを浴びて上るにも快適な滝だからである

この滝の上を探ろうと思ったが、左足不調を理由に断念・・・
いつか、この滝上を探ってみたいと思う
沢筋の岩上に咲くコケイラン

解説書には、「初夏の湿った林内に生える」という
特に沢沿いを好むらしいが、イワナ釣りで出会ったのは初めてのことだった
いや、花が小さいだけに気付かなかっただけかも知れない
▲天然秋田杉とミズナラ ▲マイタケ山を象徴する花崗岩とミズナラの巨木
二股右の沢を上って探索・・・
階段状のゴーロをしばらく歩くと、谷は急に狭くなり、沢は左に直角に曲がっていた
その先に、ヨドメの滝があった
▲源流部に懸かる4段の滝

この4段の滝は、実質の魚止めの滝と思われる
流域面積から推定すれば、この上にイワナが生息するのは難しいように思う
▲ヨドメの滝左岸の直壁から滴り落ちる湧水

滝のマイナスイオンを浴びながら、屹立する岩壁から滴る湧き水を見ると
思わずコップで受けて飲みたくなる
水の造形美は、何一つ同じものがなく、個性があって美しい

時計を見ると、まだ11時を過ぎたばかり・・・二股まで下がり、昼食とする
▲縦構図で撮る

今回は沢が暗く、NDフィルターを使用せずに撮影した
帰宅後、撮影した画像をパソコンで確認すると、白飛びしている写真が多かった
やはり、日中、スローシャッター撮影をする場合はNDフィルターを使用すべきだと思う

対岸の河原でお湯を沸かす
ミニカップラーメン、漬物、焼きタラコ、鮭のオカズでおにぎりを食べる
京都の貴船では川床料理が有名だが、天然のナメ滝料理は何を食べても美味しい

食後は、ナメ滝喫茶店に早変わり・・・
清冽なナメ滝を借景に、ゆで卵をほおばり、熱いコーヒーを飲む
天然のイワナから放射性物質

怖れていたことが現実になった
福島市の阿武隈川水系のイワナと、真野川水系のヤマメ、ウグイから
食品衛生法の暫定基準値(500ベクレル/kg)を超える放射性セシウムが検出された

6月16日、国と福島県は、阿武隈水系のヤマメに続き、イワナの捕獲自粛要請を発令した
山林に飛散した放射能が雪解け水や雨で川に流れ込んだためと推測されている
イワナは、水生昆虫や陸生昆虫を主食としている

渓流の食物連鎖の頂点に位置するイワナは、主食の虫などを介して
放射性物質が高レベル化した可能性が指摘されている

人跡希な源流部に生息するイワナや水生昆虫は、水の安全安心を証明する清流のシンボルである

それが汚染されるという衝撃は余りにも大きすぎる
川の最上流部の草木や土壌、水、昆虫が放射能に汚染されたとすれば・・・
考えるまでもなく、思考停止状態に陥るしかない

原発事故の漁業被害は、海だけでなく山まで及んでいる
地元漁協は「祈るしかない・・・」とは言っても、
これだけは、山の神様にも救えない
▲源流部を彩るタニウツギの花 ▲ヤグルマソウ ▲ミヤマカラマツソウ
▲熊はタケノコが終わり、沢沿いの草食いの季節になったようだ ▲赤ミズを採る
▲ブナ帯の山魚 ▲9寸〜尺イワナは旬の刺身でいただく・・・山の神様に感謝!
12時過ぎ、デポしたイワナを回収しながら沢を下ることに・・・
無理して釣り上がったツケは、すぐに現れた
いくら休んでも、歩き出すと左足太ももに激痛が走る

ついには、足がもつれて前のめりに転んでしまった
半分、水に浸かってしまったが、カメラはザックに入れていたので無事だった
しかし、右手親指を突き指してしまった

転ばぬよう慎重に歩くには、山菜を採りながら下るに限る
美味しそうなフキの群落を見つけ、フキを採取する
さらに下ると、草が倒され、クマがエゾニュウを食べた痕跡があった

一帯を観察すると、赤ミズ畑にクマ道が山の斜面まで続いていた
クマはいつも素晴らしい所で食事をするものだ
太い赤ミズが一帯に生えていた・・・今晩の山の野菜として採取する

左足太ももは、歩けば歩くほど、ますます硬くなり、筋力が低下していくのが分かる
黙っていれば、今以上に硬くはならないが、かといって筋力が回復するわけでもない
整形外科の医者には、こう告げられた

「筋力が低下した状態に合わせて生活するか、
それとも、無理してそれを乗り越えるか・・・それはあなた次第だ」

ならば、無理して乗り越える選択しかない

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