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雨後の笹濁り・異常なる爆釣、川虫、食い溜め、ウルイの花、夏の沢はクマに注意、水の風景、杞憂・・・
長年山釣りをしていると、数泊の野営を伴うようなイワナ谷は、ほとんど歩き尽くしてしまう
次第に足腰も弱り、冒険心も失せ、安易に定番の沢で楽しむパターンが多くなる
確かに定番の沢も楽しいが、未知の谷を歩くワクワク感がなく、物足りなさを感じる

未踏破の沢を日帰りの沢まで拡大して眺めると、
まだまだかなりの数がある
ことに気付かされる
マイタケ山源流部だけで、未知の小沢は、まだ5本ほどもあった

地図を見る限り、いずれもイワナ谷に間違いないだろう
2011年7月初旬・・・単独で未知の渓を釣るPart2に挑んだ
沢は、雨後の笹濁り・・・イワナ釣りにはこれ以上ないベストコンディションだった
イワナの「異常なる爆釣」・・・未知の渓にしては魚影の濃さに驚かされてしまった
イワナに狂わされ、リハビリどころか、左足の不調はさらに悪化してしまった
▲アザミの花 ▲ヤグルマソウ ▲オニシモツケ
7月に入ると、渓流釣りファンの多くはアユ釣りへと向かう
渓流一筋のFFやルアーといった「線」で釣る人たちは、障害物の多い源流部を敬遠する
従って、川幅の狭い源流部は、静けさを取り戻す
▲急流となって走るイワナ谷 ▲草木がなぎ倒され、凄まじい洪水の痕跡が至る所に見られた

車止め発4時半、急斜面を滑り落ちるように下り、沢へと下りる
この沢は、目的の沢の枝沢である
少し下ると、本命の沢へと合流している

連日、洪水被害が出るほどの大雨が続いた
昨日は一日晴れたので、濁流は収まり、笹濁り状態になっていた
いざ渡渉するとなれば、足下をすくわれかねないほど流れが太く速かった
藪沢ではないが、草木が渓に張り出し、谷は薄暗い感じだ
FFやルアー、テンカラをやるには障害物が多すぎる
まさに「チョウチン釣り」の世界そのものといった渓相である

下流部は釣り人が入っているだろう
少し歩くも、黒い陰があちこちで走るのが見えた
たまらず、6月の残りブドウ虫を使って、釣り始める

最初は7寸前後の小物が多かったが、「入れ食い」で釣れてくる
中には、手のひら以下の小イワナまで、残り少ないブドウ虫を食い潰す
これではエサが幾らあっても足りなくなる・・・大場所を荒釣りしながら釣り上がる
とりあえず7寸〜8寸未満のイワナも編み袋に入れて釣り上がった
ところが、大きな壺やカーブ地点の淵では、8寸〜9寸クラスのイワナが竿を絞り始めた
あっという間に編み袋が重くなった

イワナの魚影が濃い沢であることは明瞭であった
8寸未満のイワナ5尾ほど全てをリリース
キープサイズを8寸以上に格上げして釣り上がる
笹濁りの瀬尻でエサを待っているイワナが見えた
水嵩が増した流れは速く、瀬では2B程度のオモリでもエサが浮いてしまう
するとイワナは、急流の水面を割ってブドウ虫に食らいついた

まるで毛針釣りでもしているような錯覚に陥る
イワナは、雨後の笹濁りになると狂ったようにエサを追う
まさに異常と思えるほどの爆釣に、イワナ以外目に入らなくなった

当然のことながら、持参したエサはすぐに底をついた
毛針に切り替えようと思ったが・・・エサの誘惑に負けた
折りたたみ式の川虫採り網をザックから取り出し、採取開始・・・
増水した渓で川虫を採るのは殊の外時間を要する
川虫たちも、流されるのを嫌い、岸辺の緩い場所に避難しているのは分かる
しかし、そうした採取適地が極端に少ない

岸辺や中州の浅く緩い場所の石をひっくり返してはカワゲラを採取する
一度に大きなカワゲラが3匹も入る場合もあるが、小さなカワゲラも多かった
イワナの食いはピークに達しているだけに、小さくともエサとしては十分である
川虫採りをしている時間がもったいないと思うほど、イワナの食いは凄まじい
大きなカワゲラの尻尾にチョン掛け(左写真)にして、瀬脇に落とす
イワナは、常食エサの水生昆虫を見つけると、電光石火のごとく食らいつく

その強い引きに誘われて早合わせをすると、釣り上げる途中で外れてしまう
慎重に遅合わせをすると、針を喉の奥まで飲まれてしまう
エサ釣りの場合、針を飲み込まれないように釣る(右写真)のが意外と難しい

まして、異常なほど食いが立ってくると、わずかの時間差で針を胃袋まで飲まれてしまう
これだけは避けねばならず、バラしてもいいから早合わせぎみに釣り上がる
しかし、そういう時に限って尺クラスのイワナを目の前で落としたりするから悔しい
▲流木が積み重なったゴーロ滝

ブナ、ミズナラ、サワグルミなどの渓畔林に覆われた谷は、日中でも薄暗い
その谷を流れ下る清流にイワナが群れていた
命を育むブナ帯のパワーに改めて秋田の自然度の高さを感じ

夏とはいえ、滝の飛沫を浴びると寒さで震えるほど冷たい
「クール沢遊び」にピッタリな滝である
▲8寸以上のイワナは、この滝下に生かしたままデポしておく ▲デポした目印にフキの葉を並べて置く
▲ミズナラとブナ ▲イワナの魚付き林「ブナ」
▲ウルイ(オオバキボウシ)の花・・・夏の沢を彩る花の代表
▲丸々太ったイワナ

連日、大雨が続くとイワナは岩陰に潜み、空腹に耐え続ける
渇水期にあれほど警戒していたイワナは、雨後の笹濁りになると一変する
緩流帯や瀬に躍り出て、流れるエサを無警戒に貪り続ける

梅雨期になると、イワナは腹一杯ということはなく、チャンスが来れば「食い溜め」に走る
イワナの魚影を探るには、雨後の笹濁りの時も、またとないチャンスと言える
しかし、サラリーマン釣り師にとって、そんなに都合の良い週末に当たる確率は極めて低い
▲無着色斑点のアメマス系イワナ

増水時のイワナ釣り

イワナ釣りにとって、雨は「恵みの雨」である
平水を越えた水位の上昇時、あるいは増水の引き際に、イワナは「荒食い」をする
しかし、大雨の中、釣りの途中で濁り、木の葉などが流れてくると・・・

入れ食いと同時に大洪水がやってくるシグナルでもある
こうなれば、津波と同様、釣りどころではなく「逃げる」しか命の保証ははない
同じ荒食いでも、増水の引き際・・・雨後の笹濁りの時こそ「異常な爆釣」のチャンスである

今回は、その典型的な好条件に恵まれた
だから、こんな場合は、釣りの技術はほとんど不要
流れるエサにイワナが勝手に食いつく・・・という摩訶不思議な現象が起きる

その異常な爆釣を経験すると、釣り人はとかく有頂天になりがちである
もともと、そんなチャンスは滅多にあるものではなく、あったとしても長くは続かない
平水に戻れば、釣り人はまた苦戦を強いられる

つまり、特殊な好条件を除けば、釣り人の技術よりイワナの防衛本能が勝っていると言える
これは永遠に超えられない

そんな臆病で警戒心の強いイワナではあるが、
時には防衛本能が機能しなくなる弱点を併せ持っている

だから、イワナ釣りはオ・モ・シ・ロ・イ!
▲白い花崗岩に同化したようなイワナ
一日曇天の空だったが、時々、谷に光が射し込んだ
そのチャンスを逃さず、清流に寄せて撮る
清流がキラキラと輝き、イワナの美も一層輝く
▲長刀タケノコを食べたクマの痕跡

夏の沢はクマに注意!

沢筋には、竹藪やエゾニュウ、フキ、ミズなどが群生している
夏は恋の季節・・・クマたちは、多肉多汁の植物を求めて沢に集まってくる
上の写真は、既に旬を過ぎたタケノコの上部を折り採り、皮をむいて食べた残骸である

タケノコのほかエゾニュウの芯を食べた痕跡が至る所にあった
明瞭なクマ道の多さに驚かされる
クマの密度が高いということは、イワナの魚影も濃いという証なのだが・・・

クマ対策では、「夏は、エゾニュウなどが生える沢に入るな!」と言われている
従って、単独の場合は、クマ対策に万全を期すことが必須
腰に下げている「クマ避け鈴」を鳴らし、念のため「クマ撃退スプレー」を確認する
▲橙色の着色斑点をもつニッコウイワナ

この沢には、アメマス系とニッコウ系が混生している
上流に上るにつれて、ニッコウ系が多くなるように思う
このイワナは、急流の瀬尻に浮いたカワゲラに飛び跳ねて食いついた
カーブ地点の淵には、至る所にイワナが定位している
同じ瀬でも、浅く緩い瀬脇には小物が多い
こういう場所はエサがもったいないので全てパス

流れは速いがミオ筋の深い瀬尻や淵の両サイドの巻き込みの岩下を中心に狙う
例え浅瀬にいる小イワナに走られたとしても、無関係に釣れる
早合わせでエサだけとられても、再度、エサを付け直して流せば、またエサに食いつく

数多く釣り続けると、ハリスが傷つき弱る
ある淵でのこと・・・合わせると、ハリスが切れて針ごとイワナに食われてしまった
大きめのカワゲラをつけて再度振り込むと、ハリスと針をくわえた同じイワナが釣れてきた

イワナが百発百中で釣れる
まさに「サルでも釣れるイワナ釣り」であった
こんな異常な体験をすると、簡単に満足しなくなる
▲赤腹イワナ

花崗岩の渓だけに、全身白っぽいイワナが釣れる
上の個体は、特に腹部の柿色が濃く鮮やかな点が際立つ
今回は、カワゲラ5匹程度採取したら、釣りを再開するというパターンで釣り上がった
しかし、イワナの食いは凄まじく、あっという間にエサが底をついた
釣れてくるサイズは7寸〜8寸未満が6割、8寸以上が4割程度であった

たまに1年〜2年魚の可愛いイワナも釣れ、サイズ別のバランスの良さを感じた
▲橙色の着色斑点が鮮やかなイワナ

これだけ釣っても尺イワナが釣れないということは、釣り人も多い証左であろう
さらに、流域の小さい源流部であるにもかかわらず、魚影の濃さには驚くほかない
来年は、ぜひ「春一番」に訪れてみたい小沢の一つである
▲二股合流点で釣れたコッコウイワナ

昼近くに、やっと二股に達する
ここまでイワナの遡上を阻むヨドメの滝は皆無であった
谷の勾配は総じて緩く、水生昆虫や落下昆虫の多い谷であると推察された
▲左の本流・・・落差のあるヤブ沢となる ▲右の沢・・・やや開けているが勾配は緩い

サブザックを下ろし、竿だけ持って左の本流を探る
立て続けに3尾釣り上げたが、全て8寸以下でリリース
次の二股まで400mほどあるが、しばらくヤブ沢が続くので引き返す

二股まで戻って右の枝沢に入る
渓は開けているが、小物ばかり・・・イワナの種沢だろうか
いずれにしても「魚止めの滝」を確認していないので、再度探ってみたいと思う
▲二股でお湯を沸かし昼食 ▲羽化した水生昆虫 ▲二股下流
▲森林軌道のあった証拠・・・廃レールの残骸 ▲下る途中、右岸に杣道を見つける
清流の証・イワナ

デポしたイワナを回収しながら沢を下る
左足の激痛に耐えられず、何度も岩や流木に座って休む
ただ休むだけではつまらないので、三脚を出して「水の風景」を撮る
今回、左足の不調を理由に、これまで見捨てていた小沢を釣り歩いた
意外にも、イワナの宝庫であった
かつて日帰り釣りしか知らない時代は、誰よりも早く入渓しようと競って入渓していた

さらに稚拙な技術を棚に上げ、良型イワナは期待できない・・・と思い込んでしまった
数泊を伴う山釣りでも、貧果に終わった谷は足が遠のいていた
後年、再度訪れると、イワナの宝庫であったことを思い知らされた

例え日帰りのキャパシティしかない沢であっても、
人工構造物がなく、かつブナ帯の渓畔林の豊かな渓であれば、
イワナの繁殖力は凄まじく、持続的なイワナ釣りを楽しむことができると言えるだろう
イワナ釣りを知らない人たちは、県外から押し寄せる釣り人の多さにこう呟く
「イワナを根こそぎ釣って持ち帰る釣り人が多過ぎる
こんな状況ではイワナはいなくなる・・・困ったものだ」と・・・

イワナがいなくなると心配されている沢は、この源流部一帯である
秋田市から近く、林道も奥までのびているから、釣り人が多いのは容易に推察できる
にもかかわらず、実際に探ると、イワナが激減しているどころか、「イワナの宝庫」そのものであった

こうした現場の事実と異なるイワナ観、自然観は、なぜか一般受けする
しかし、そうした安易な推察は、イワナの生態に対する無知と、
釣り人の数だけ見てイワナ見ずの杞憂に過ぎないように思う

こうした杞憂は、現代社会が、「身体の文化」を軽視し、頭で考え過ぎるからであろう
野生の生き物たちは、人間が頭で考えるほどヤワではない
むしろ、その生命力の凄まじさに驚かされるばかりである

僕たちはブナの力を信じている・・・「ブナ帯文化DE元気に!」

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