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滝、名水、小沢のイワナ、源流ウォーク、夏シドケ、クマの足跡、清流の宿、クール沢遊びの楽しさ・・・
真夏日が続く2011年7月の3連休・・・
予定では、沢を登り詰めて山頂のお花畑コースを歩く計画だった
しかし、左足不調のままでは、ハードな山釣りは無理・・・

ならばどこに向かうべきか
林道はあるものの、崩壊で手前から歩かねばならない未知の沢があった
廃止になった林道と杣道ぐらいなら何とか歩けるだろう
この沢には、中間部にヨドメの滝がある
その滝上にもイワナが生息していると聞いていた
東北北部の梅雨明けは、平年より17日も早い7月11日・・・

連日30度を超す真夏日が続いた
暑さに弱いイワナには最悪の天候だったが、クール沢遊びは満喫できた
その楽しさとは・・・
かつて4kmほどあった林道は、土砂崩れでわずか700mほどで車止め
エゾアジサイが咲き乱れる廃林道を歩く
真夏の光が廃林道に降り注ぎ、全身から汗が噴き出す

ひたすら上りが続く林道・・・不調の左足は悲鳴を上げ続ける
相棒には悪いが、何度も座って休みを繰り返しながら歩く
廃林道は2km余り歩くと藪となる

ほどなく、沢に向かう杣道があった
滑り落ちるような急斜面の杣道を下る
それにしても良く踏まれた杣道だ・・・恐らくマイタケ道に違いない

滝の音が眼下から聞こえてきた
杣道は沢沿いに続いていたが、ヨドメの滝上に出る
V字谷のゴルジュに入ると別世界
吹き出す汗がピタリと止まり、雨合羽を羽織らないと寒いぐらいだった
荷を下ろし、時計を見るとまだ9時を過ぎたばかり

竿だけ持ってテン場適地を探しに釣り上がる
相棒がナメ滝の壺でイワナを掛けた
しかし、手前まで引き寄せてバラしてしまった
▲F1ナメ滝 ▲ゴルジュ左岸に懸る清冽滝

私はチョウチン毛針で釣り上がる
ゴルジュの右手に懸る滝下に毛針を振り込む・・・目印が微かに動く
早合わせすると、尺クラスのイワナが水面から顔を出した瞬間外れてしまった

連続三回もバラしてしまう
まぁ、リリースしたと思えばいい・・・その時は余裕だった
しかし、その後、悪戦苦闘が続くとは予想だにしていなかった
素晴らしいポイントが連続しているが、瀬尻で待つイワナは皆無
ゴルジュを抜けると、一転渓は開け、河原となる
その巻き込みで何とかイワナを釣り上げる
河原の区間は意外に短く、階段状のV字谷が続く
テン場適地は見あたらない
やむなく、ゴルジュ終点の左岸河原にテン場を構える

このテン場は、増水時になぎ倒された草が下流に向かって倒れていた
ということは、テン場の位置まで増水するというサイン
雨が降れば撤収覚悟で張るしかない
真夏の暑さにイワナは夏バテしているのか・・・
食い筋の瀬尻にイワナの気配は全く見られない
偵察隊の小イワナ一匹走らない・・・まるで沈黙の川に竿を出しているような感じだった
▲釜の巻き込みで毛針にヒットした刺身サイズのイワナ

終わってみれば、釣り上げたイワナはわずか2尾に過ぎない
水量、渓畔林ともにイワナの宝庫のような渓相が続いている
しかも、ポイントは蜘蛛の巣だらけ・・・

最近、釣り人が歩いた痕跡はほとんど見られない
なのに、上流に行けば行くほどイワナのアタリが遠のいていく
一般の常識とは逆の反応に納得がいかない

大洪水の痕跡、そして一転真夏日が続いている
それらを考慮にいれると、たった一回だけで「魚影が薄い」と判断するのは早計なように思う
▲通らずのS字廊下帯 ▲F2の大釜を釣る

通らずのゴルジュ帯は右岸を高巻く
岩の小段を辿り、尾根を直登してからトラバース、ゴルジュの上流に下りる
F2の滝壺は深く大きい・・・しかし、アタリなし
▲冷たい湧水を飲む

この岩場を滴り落ちる二条の湧水は、冷たく実に美味い
「クール沢遊び」の楽しみは、イワナだけでなく、こうした名水探しも楽しい
標高300m二股まで行く予定だったが、余りの貧果にその手前で引き返す
▲乱れ斑点を持つイワナ

側線前後の薄い着色斑点は、丸ではなく縦長に乱れている
これは何を意味しているのだろうか
清流が走る河原で、2匹のイワナを刺身用にさばく
心地良い清流の音、沢を渡る風がマイナスイオンとともに全身を吹き抜けていく
四囲を水と緑に囲まれた世界に佇めば、どんな病でも治るような気がする

満天の星空の下、原始庭園を借景に乾杯!
疲れた身体に熱燗は超特急で駆けめぐる
二人とも、早めにシュラフに潜り込む
連日猛暑日が続いているとは言え、「渇水」というほどではない
恐らく、平水より若干水位は高いように思う
昨日の探索から上流部は期待できないように思う

ならば、昨日釣った区間を釣り上がり、右岸の枝沢でイワナを釣ることにする
アタリの少ない沢でイワナを釣るには、エサ釣りに勝る釣法はない
100m区間で何とか2尾を釣り上げ、右岸の枝沢を探る
水量の少なさが気になったが・・・
枝沢の小さな壺にエサを振り込む
ツンツンと竿を握る手にイワナのアタリが伝わってきた
合わせると、竿が震え、イワナが岸辺で踊った

嬉しさを隠しきれず、本流を釣っていた相棒に向かって叫んだ
「イワナがいるぞぉ〜!」
急遽、二人で枝沢を釣り上がる
藪沢で雰囲気は悪いが、イワナに気付かれないように釣るには、階段状の枝沢が一番
水量は少ないものの、壷が連続している
深みのある壷にエサをソフトに振り込むと、イワナはエサをくわえて上流に走った
背中に虫食いの斑紋
測線より上は、大きい斑点と小さい斑点が隙間がないほど多く散りばめられている
測線前後の斑点は大きく、若干縦長に乱れている斑点が散見される
▲真っ黒なトンボ
▲カモシカがミズの先を食べた痕跡 ▲何とか今晩の食材を確保

今日の本命の釣りは終わり・・・
後は滝の写真を撮りながら、源流ウォークを楽しむことにする
▲階段状のゴーロの向こうにF2の滝が現れる

河原、ゴーロ、瀬、淵、滝、ゴルジュと変化に富み、沢を歩くだけでも楽しい
特にイワナが生息する渓は、穏やかで歩きやすいのが最大の特徴である
その渓谷美を撮るべく、三脚とNDフィルターを使ってスローシャッター撮影を楽しむ
▲F2の滝は右を巻く

滝は渓谷の華である
深く大きい滝壺は、春のイワナ釣りのポイントだが、
真夏の暑い日中となれば、ほとんどアタリがなく、パスするのが賢明な選択だ
▲名水その2
▲名水その1 ▲地図で現在地を確認しながら遡行する

未知の沢を歩く楽しみは格別である
左右に曲がる、滝を越えると次はどんな渓谷美が待ち受けているのか
谷のもつ原始性と内なる冒険心を限りなく刺激する

岸壁から滴り落ちる名水を見つけると、コップに汲み乾いた喉を潤す
殊の外冷たく、五臓六腑に染み渡るほど美味い
時々、地図を取り出しては現在地を確認し、慎重に遡行する
▲F3の滝 ▲F4、ゴルジュ滝

F4のゴルジュに懸る滝の釜は、深いエメラルドグリーンに染まっている
左の巨岩下の穴は大きく、大イワナが潜んでいるような神秘性を秘めている
沢は変化に富み、クール沢遊びには一級品の渓流である
▲旬を過ぎたウスヒラタケ
▲左の小沢を上って巻く ▲二股・・・渓畔林が豊かな河原 ▲二股下流左岸に唯一のテン場適地があった

F4のゴルジュ滝を越えると、一転、渓は開け穏やかな河原となる
ここまでV字峡谷が続き、安全なテン場はゼロに等しい
唯一、素晴らしいテン場は、二股下流左岸の高台である
▲二股のブナ林 ▲右のN沢・・・ちょっと藪沢的な印象が・・・ ▲イワナの生息を確認

二股右のN沢は、両岸に草木が迫り、一見藪沢のように見えた
左のK沢は、高台に見事なブナの原生林が広がり、渓も開け明るい
K沢に進路をとる・・・イワナが走る姿は皆無だったが、確かに生息していた
▲左のK沢を探る ▲走るイワナは皆無に近かったが、確かにイワナは生息していた
▲真夏の珍事・シドケ・・・雪解けの遅い斜面に旬のシドケが群生していた

真夏ともなれば、旬の山菜はミズ(ウワバミソウ)ぐらいしかない
幸い、雪解けの遅い雪崩斜面に、春の山菜の王様・シドケの群生を発見!
こんなありがたいことはない・・・実にラッキーな珍事だった
▲K沢は、イワナの楽園のような美渓がつづく

源流部は、ブナ帯の原生林が深く、イワナの宝庫を連想させる
しかし、気温、水温ともに高いせいか、瀬を走るイワナは皆無に等しかった
真夏日が続く渓では、目視や釣りによってイワナの魚影を確認するのはほとんど不可能に近い

釣りのアタリは極端に少ないものの、イワナが生息していることは確認できた
改めて、春一番あるいは雨後の笹濁り時に探ってみたい
恐らく、イワナがどこから湧いてきたのかと驚くほどの入れ食いが続くであろう

それだけ、イワナを育む自然度は高い
▲上二股下流のナメ床

一枚岩盤の上を清冽な水が滑るように流れ下るナメ床・・・
命の水の音、セミの鳴き声、野鳥の囀りがシャワーのように降り注ぐ
原生林に包まれたナメ床は、「天国の散歩道」と呼ばれるほどの別天地である
▲ナメ床の上流から下流方向を望む

こういうナメ床を歩く場合、わざと流れの中心を歩くと清々しさが倍増する
とくに暑い夏は、ナメ滝のシャワーを全身に浴びると、最高の気分を味わうことができる
聖なる水で心を洗い清める・・・そのリフレッシュ効果は抜群である
▲標高330m上二股・・・右がK沢、左がS沢

ナメ床を過ぎると、深山幽谷の源流部らしい上二股に達する
右のK沢はナメ滝に大量の流木が積み重なっていた
左のS沢の深い瀬でイワナを釣り上げる・・・やはりこの奥地までイワナは生息していた
▲K沢方向を望む ▲S沢のゴルジュの奥に右から大きな滝が懸っている。恐らく魚止めの滝であろう。
▲クマがニョウサクを食べた残骸・・・源流部に来ると、さすがにクマの密度が高くなる ▲クマの足跡

一般にクマは、沢筋の草藪を歩き、砂地に足跡を残すようなことは滅多にない
その貴重な足跡が二カ所もあった
それだけ人跡希で、クマも警戒心が薄い証であろう
▲オニシモツケ
▲エゾアジサイ ▲ショウキラン ▲ヤマブキショウマ
▲ミズナラの老木 ▲ブナの巨樹 ▲カツラの巨木

緩斜面にブナ、急峻な脇尾根筋にミズナラの巨木
沢筋や斜面に風倒木も多く、秋にはマイタケ、サワモダシ、ナメコ、ムキタケが群がって生えるだろう
しかし、廃林道と化した現状を考えると、この奥地まで来るのは容易でない
▲清流の傍らで山釣り料理を楽しむ

二人用にキープしたイワナは、合計7尾
3尾は刺身用にさばき、残り4尾を塩焼きにする
塩焼き4尾は、夕食用2尾、翌朝の朝食用2尾・・・全てありがたくいただく
▲夏シドケ ▲シドケのおひたし ▲唐揚げ
▲皮をむいたミズ ▲ミズの塩昆布漬け
▲焚き火とイワナ ▲ミズの油炒め ▲イワナの塩焼き
心地よい沢の音、マイナスイオンの風、焚き火と串刺しイワナの芳香・・・
イワナと山菜のフルコースに舌鼓をうちながら、人生を振り返る
青春時代は、沖縄や西表島、タイ・インド・ネパールなど、南へ南へと放浪の旅を繰り返した

そして山釣りの旅は、青春時代とは全く逆の北へ北へと180度進行方向が変わった
冷たく美味しい水が無尽蔵に湧き出るブナ帯の源流
そこは生き物の賑わいに満ち溢れ、水と食の宝庫であった

追い求めていた人生の桃源郷は、意外にもふるさと秋田の源流にあった・・・
などと、たわいもない自然観、人生観を語り合いながら酒を酌み交わす
相棒もすっかり酩酊・・・持病の薬を飲むのを忘れて寝入ってしまった
▲山釣り朝定食・・・イワナの塩焼き、山菜のおひたし、納豆ごはん
北国の谷は、熱帯夜のような寝苦しさはゼロ
快眠するには、清流の宿に勝るものはない
お陰で、朝まで熟睡・・・清流の音、賑やかな鳥の囀りで目が覚める

朝陽が狭い谷間に射し込み、水も緑も輝く
焚き火でじっくり焼いたイワナと山菜をメインに清流朝定食を食べる
「食」を通して、「自然に生かされている」実感がフツフツと湧いてくる
ブナ帯の渓流は、美しき水の宝庫
水の造形美を鑑賞しながら、源流へと遡行する山釣り、沢登りは、
世界に誇りうる「渓流文化」である

沢登りのパイオニア・冠松次郎の黒部渓谷探検は、未知の渓谷探検にとどまらず、
渓谷の美観、原始性、生き物のごとく躍動する水、森林との見事な調和を賛美している
 
クール沢遊びの楽しさ

人跡希な沢は、原始性、神秘的な雰囲気に溢れている
 ・・・沢には探検欲、冒険心、好奇心を駆り立てる魔力がある
透明度の高い美しき水が無尽蔵に流れ、渓谷の中は天然クーラー
 ・・・水と戯れ、爽快感、清涼感を満喫できる

自然の恵みで生活できる・・・水、食(イワナ、山菜、きのこ)、エネルギー(風倒木)を得ることができる
 ・・・狩猟漁労採集時代の縄文人的世界を体験できる
日本独自の渓谷美・・・山水画のような四季折々の美の極致を鑑賞できる

道なき沢を自力で歩く・・・沢には道がないから十人十色の判断で幾つものルートを選定できる
 ・・・つまり、ルート選定の自由が無限大にある

は、「沢登りの楽しさ」、「山釣りの楽しさ」と言い換えても良いだろう
ただし、山釣りは、この四点の中でが最も大切だと考える
山釣りは、をベースにを楽しむのが基本的なスタイルである

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