真夏の源流2001-1 真夏の源流2001-2 山釣り紀行TOP


ゴーロと滝、ミズナラ、アズマヒキガエル、クマイチゴ、ニホンカナヘビ、イワナ群れる淵、岩魚と嘉門次・・・
N沢は、巨岩が積み重なったゴーロが延々と続く
清冽な瀑布は、強い陽射しを浴びてギラギラと輝く
炎天下のイワナ釣り・・・イワナも熱中症になるのではないかと心配になるほど暑い

こんな日は、朝夕だけ釣るのが賢明な策だが・・・
ひたすら竿を片手に釣り上がる
イワナが潜むポイントは、階段状に連なっている
岩陰に隠れて、エサや毛バリを落とす
8寸以上の良型イワナが寄って来るものの食いつかない

稀にエサに食いつくのは、ワンランク下の小物が多い
イワナに遊ばれながら釣り上がる
北海道のエゾイワナのように、斑点が大きく鮮明な点が際立つ
側線より下に橙色の着色斑点を持つニッコウイワナである
このイワナの特徴は、分水嶺北側に生息するイワナとほとんど同じである
▲オオバキボウシ ▲クガイソウ
「これは川ではなく、滝だ」・・・
巨岩が累々と積み重なり、その間を清冽な水が多段の滝のように流れ下る
こうした渓相を「ゴーロ連瀑帯」と呼んでいる

清冽な水しぶきを浴びながら、ゴーロの階段を上る
清涼感、爽快感は満点である
▲右の岩下にイワナが群れていた ▲巨大なミズナラの倒木
切り立つ脇尾根沿いには、ミズナラの巨木が林立している
急峻な地形、花崗岩、ブナ帯の林相から「マイタケ山」であることが分かる
イワナとマイタケ・・・その相関は極めて高い
▲オオカメノキの実・・・真っ赤な実は、次第に黒く熟してゆく
沢沿いには、アブやトンボなどの虫たちも盛んに飛び交う
アズマヒキガエルは、微動だにせず虫を待ち、射程内に入ると貪欲に捕食する
長谷川副会長は、ガマの目の前にブドウ虫をちらつかせる
上の写真は、そのブドウ虫に食い付いた瞬間である(口の右側に青いイワナ針が見える)
動作が緩慢に見えるガマだが、エサを食べる瞬間はさすがに素早い
ゴーロ滝の落ち口に毛バリを落とし、流れに任せて流す
道糸に付けた赤い目印が上流に走った
上のイワナは、エサ釣りと同じく、向こう合わせで釣り上げたイワナである
傾斜のきついゴーロ連瀑帯は、魚影が薄いのが一般的である
そんなゴーロ帯を越え、穏やかな瀬にイワナが群れているものである
しかし、この沢は、上るに連れてゴーロの傾斜はきつくなり、終わる気配がない

まるで和賀山塊マンダノ沢のミニ版のような渓相が続く
「岩魚」の字のごとく、苔生す岩陰にイワナは確実に潜んでいた
まるでイワナの穴釣りのごとく、岩陰を丹念に探る
炎天下という最悪の条件ではあったが、稀にイワナが掛るから釣り人を飽きさせない
落差の大きいゴーロを撮るには、どうしても縦構図が多くなる
轟音を発して流れ下る連瀑帯の美しさは、スローシャッター撮影に限る
しかし、テン場にNDフィルターを忘れてきてしまった・・・残念無念!

巨岩の岩陰から、清冽な水に同化した美しいイワナが飛び出した
白っぽい魚体に、腹部の濃い柿色が際立つ
透明感溢れる水もイワナも、強い陽射しを浴びてキラキラと輝く
▲クマイチゴ

クマイチゴ(熊苺)は、クマが食べるイチゴという意味で、旬は7月頃
標高が高いせいか、一ヶ月遅れの8月中旬に旬を迎えていた
熟れた赤い実は、生でも甘く美味しい
▲マスタケの老菌 ▲ニホンカナヘビ
▲巨岩のゴーロ連瀑帯をゆく
標高570m、二又近くになると、巨岩帯となり傾斜もさらにきつくなる
▲ソバナ ▲稚拙な毛バリに食い付いたイワナ
▲ヤマアジサイ 
1km以上続いた階段状のゴーロが終わると二又に達する
本流は左に曲がり、その奥に滝が懸かっていた
私は、左岸から流入する枝沢に入った 
枝沢は水量が少ないものの、イワナがいるに違いない
毛バリを小滝の壷に落とすと、目印が微かに動いた
すかさず合わせると、竿が弓なりとなる

久々に掛けたイワナ・・・野生の感触を楽しむように手前に寄せる
上下左右に暴れ続けるイワナを眺めていると・・・毛バリを外し、岸辺を這い始めた
足で止めようとしたが、それもむなしく流れの中に消えてしまった
流木と岩が積み重なった小滝の淵は、細長く深い
流れはほとんどなく止水に近い
下流から近付くと、イワナが丸見えだった

毛バリを水面に落とすと、数尾のイワナが寄ってきたが・・・
すぐに偽物と見破ったらしく食い付かない
諦め、左の岩場を歩き淵を見降ろすと、刺身サイズのイワナが群れているではないか

釣り人の接近には気付いていない
しばらくイワナ淵を鑑賞しながらシャッターを押す(上の写真には3尾のイワナが写っている)
未練がましく、再度毛バリを水面に落とし、虫がもがき苦しむように踊らせてみる
一瞬、毛バリめがけて浮上するものの、すぐに定位置に戻ってしまった
枝沢のイワナは、この細長い淵が魚止めの淵であった
狭い谷を右に曲がると、遥か頭上から落下する二段の滝が見えた
落差は若干20mに満たないが、なかなか見事な滝である
写真を撮って枝沢を下る
二又に戻ると、仲間二人は既に納竿して私の帰りを待っていた
聞けば、滝上には行かなかったという
本流に懸かる滝は二段の滝で、飛び散る飛沫が光に輝き美しい軌跡を描く

左にロープが下がっていた
地図を眺めれば、傾斜のきつい区間は終わり、穏やかな渓相に変化している
恐らく、この滝上がイワナの楽園であろう
下り始めたのは午後2時半頃
谷の暑さはピークに達していた
涼しい沢と言えども、照りつける直射日光は凄まじい

滝のように流れ下る水は、岩に砕け四方八方に飛び散る
その清冽な飛沫を浴びながら岩の階段を駆け下る
▲水の風景その1
▲水の風景その2・・・涼感満点の簾状の滝
▲水の風景その3・・・平らな岩を滑り落ちる聖なる水

渓流を流れる水の音は、音楽のように聞こえる
沢の傾斜や岩、水量の加減によって様々な旋律を奏でる
一日晴天で薪はすっかり乾き、焚き火の燃えはすこぶるいい
イワナを竹串に刺し、塩を多めにふり、遠火でじっくり燻す

岩魚と上條嘉門次(昭和12年6月、田部重治)

「黒部の主である品右衛門は、穂高の仙人といわるる、
神河内の上条嘉門治とともに、岩魚を中心としても考えられる男だ。
品右衛門が魚釣だけで谷の日を送っていたのに比べて、

嘉門治は神河内を中心とした山の開拓者でもあり、名案内人であった・・・
宮川池畔に居を構えていた彼は、岩魚を捕って楽な、自適な生活をしていた・・・
流れの魚を釣って一日平均三四円位の収入を得ていた・・・

何時も先登を行く彼は、荷と共に釣竿を担いで行くことを忘れなかった・・・
岩魚のいそうな処へ行くと一本立てる(休むこと)、その合間に彼は魚釣をした。
お客様に魚をご馳走したいという考えもあったが、

魚を見てそのまま行くというのは気がすまないと云うような様子も見えた」

「・・・白檜の枝で編んだ小屋がある。煙はその中から洩れているので、
覗いてみると人はいずに、炉の上の棚には岩魚が一杯干してある。
主は今方出て行ったらしく残り火だけがいぶっていたのだ・・・

広い川瀬の右岸を行くと、対岸に一人石を飛びながら魚を釣っている、
又一人下流の方から上って来た、先刻の小屋の主だなと思った。」
沢登りのパイオニア・田部重治は、深山幽谷で岩魚を釣り、
仙人のような山暮らしをしていた上條嘉門次を羨望の眼差しで描いている
焚き火にイワナはつきものである
イワナがないと、全く物足りない
それは山釣りのクライマックスに欠かせない山魚だからである 
「天幕を携えて行く山旅ほど愉快なものはない・・・
天気さえ良ければ小屋に泊るよりも河原の美しい砂の上に天幕を張り、
清流に臨み、山岳森林の景をよく眺めらるる処を選ぶ方がよい。

居ながらにして月明の夜、あるいは朝夕の渓の美しさ等を味わえるからだ・・・

谷にはウド、蕗、アザミ等の植物のある処も多く
岩魚の釣れる谷では食料はそれだけ恵まれる訳だ。
美しい水、豊富な焚物を得られるる渓旅では非常に美味である。

山旅では痩せ、渓旅では肥える傾向がある」
(昭和13年6月、「谷の渉り方」田部重治) 
「谷でも最もよく感じる季節は、初夏の新緑であるが、
渓水と親しみながら、自由に水の流動の姿をカメラに収めようとするには、
どうしても夏を選ぶに限ると思う」

(昭和12年6月、「渓谷写真の撮り方」田部重治) 

真夏の源流2001-1 真夏の源流2001-2 山釣り紀行TOP

inserted by FC2 system