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白子森登山道下見、ブナの白い森、新雪のブナ林、冷凍キノコ、「棲み分け」のシンボル・雪渓カワゲラ・・・
▲初冬のブナ林(2011年11月12日)
厳冬期の豪雪に備えて落葉したブナ林・・・
初冬の光を浴びると、森全体が白い宝石のようにキラキラと輝いて見える
(太平山系白子森登山道にて)
▲新雪と冷凍ムキタケ(2011年11月23日)
雪国秋田は、11月中旬頃になると、大抵初雪が降る
大荒れが続く合間を縫って、今年最後の山歩きに出かけた
▲雪渓カワゲラ(クロカワゲラ科、2011年11月23日)
例年なら雪が降る前に冬眠状態に突入していた
寒さを覚悟して新雪のブナ林を歩けば、やはり新たな発見があるものだ
苔生す小沢沿いの雪の上を、セッケイカワゲラが群れをなして歩いていたのだ

雪が降り、山眠ればクマも冬眠する
しかし、夏に眠り、冬になると眼が覚める雪虫・・・セッケイカワゲラ
イワナと同様、氷河期時代の生き残りと言われる・・・その不思議な生態には興味が尽きない
太平山系白子森登山道下見
太平山系で最高峰の山は、太平山ではなく白子森(1179m)である
また白子森は、ブナ林の狩人・比立内マタギの山でもある
さらに、近年は林道の崩壊が著しく、静かな登山を楽しめるという

そんなわけで、新緑の季節に登ってみたいふるさとの山の筆頭が「白子森」であった
2011年11月12日・・・これ以上ない秋晴れに恵まれた
来春に備えて白子森登山道の下見をするべく井出舞沢林道に向かった

井出舞沢林道車止め崩壊林道約3km登山口標高645mブナ林の急坂950m尾根
落石が林道を塞ぐ手前に車を止め、リハビリを兼ねてのんびり歩く
ほどなく朽ち果てた「白子森登山道」の標識があった
林道は斜面の崩壊に加え、深い草薮に覆われていた・・・長年放置されていたことが伺える
草茫々の林道は、背丈を超える草藪の中を縫うように続いている
幸い、密生していた草藪も枯れ意外に歩きやすい
澄み切った青空と落葉した山々を眺めながら歩く
▲崩壊林道から西荒沢方向を望む
ミゾレ混じりの冷たい雨と木枯らしが吹き荒れる初冬・・・
ブナ帯の森はその衣を脱ぎ捨て、茶褐色から荒涼とした灰白色へと変貌していた
ほどなく初雪が舞い、長く厳しい冬の到来を告げるであろう
▲登山口にある標識 ▲急峻な尾根沿いにある登山道

崩壊林道を歩くこと約1時間、登山道入口に着く
まっすぐ進むと「鉱山試掘跡」、右の尾根に向かうと登山道であった
林道は荒れていたが、登山道は意外にも踏み跡がしっかりしていて快適そのものであった
▲登山口・標高645m〜950m尾根は、ブナ林の急坂が続く

さすがマタギの森・・・見渡す限り、ブナの森に覆われている
急坂だが、ブナの美林とうず高く降り積もった落葉を踏みしめながら歩くのは楽しい
▲キヒラタケ・・・遠くからでも良く目立つキノコ。全体に黄色を帯び、傘表面が粗い毛に覆われている。食用には不適。 ▲乾燥ナメコ
▲ブナの巨樹 ▲衣を脱いだ裸木の輝き
▲白い幹が際立つブナ、ブナ、ブナ・・・
白子森(1179m)とは、この白いブナ林から命名されたのではないか・・・
と思うほど、見渡す限り白い森が広がっている

白子森の名の由来は、この山の基盤岩である花崗岩が風化分解し、
石英が白い砂となって大量に流れ出ることに由来しているという
ブナの白い森・・・新緑の季節はさぞ美しいに違いない・・・ぜひ来年登ってみたいと思う
▲ブナの刻印 ▲ブナのコブ ▲朽ち行くミズナラ

新雪のブナ林散歩
連日、みぞれ混じりの冷たい雨と寒風が吹き荒れていた
さらに二日ほど雪が降ったが、幸い全て消えていた
2011年11月23日・・・悪天候の合間を縫っていつもの仲間二人と最後の山へ向かった

平地と違って山の雪は半端じゃなかった
地下足袋では足が冷たく、痛さを通り越して感覚が全くなくなるほどだった
新雪のブナ林を歩くのは初めてのこと・・・それだけ学ぶ点が多かった
▲雪を被った冷凍ムキタケ ▲小沢沿いのブナ林をゆく
▲冷凍ムキタケの群生

雪が降ると、ほとんどのキノコは天然冷凍状態と化す
従って、虫もつかず、腐ることもなく旬を保っている
ムキタケはガチガチに凍っているから、ナイフじゃ刃が立たず、手でもぎ取るしかない
これだけ雪が積もれば、地下足袋は×
スパイク付長靴の必要性を痛感させられた
人間、痛い目にあわないと、なかなか究極の装備には至らない
倒木にこれだけ雪が積もれば、上や横に生えたキノコは全く見えない
つまりキノコ採りには最悪ということ
さらに急斜面は新雪で滑り易く、危険極まりない
今回は、倒木の下側に生えた冷凍ムキタケのみ
雪ナメコやヒラタケ、ユキノシタを採るには、もう一度作戦を練り直すしかない
それにしても寒い・・・10時にお湯を沸かして熱いコーヒーで体を温める
渓に降り積もった雪と冷たい流れ
イワナたちは産卵を終え、大きな淵で越冬する
半年以上に及ぶ深山の冬・・・

イワナたちは、エネルギーの消耗を最小限に抑えるため、仮死状態で過ごすという
果たしてそれは本当だろうか
雪上に群れをなして動く黒い虫たちを目撃したとすれば、イワナでなくとも飛び跳ねて食べたくなるだろう
清冽な水が流れる小沢で昼食をとる
ふと雪面を見ると、白い雪に一際目立つ黒虫たちが無数に動き回っていた
思えばイワナの解禁日に、雪の上を歩く黒い虫を何度か見たことがあった

良く見れば、イワナの常食餌「カワゲラ」とそっくりではないか
調べてみるとカワゲラの一種だが、一風変わった生態をもつセッケイカワゲラであった
▲夏に羽化するカワゲラの幼虫 ▲羽が退化したセッケイカワゲラの成虫

一般的なカワゲラとセッケイカワゲラを見比べると、姿、形が良く似ていることが分かる
頭の触角は、カワゲラが短く、セッケイカワゲラは著しく長い
セッケイカワゲラの体色は、白い雪と対照的な黒さが際立つ

セッケイカワゲラは、その特異な生態から氷河期の遺存種と言われている
季節を棲み分ける川虫「セッケイカワゲラ」
セッケイカワゲラの成虫には、羽がない
飛ぶことはできないが、冬の寒さに強く、歩くのが得意だという

幼虫は、夏の間眠って下流に流されながら過ごす
落葉の季節になると起き出し、降り積もった落葉を食べて急速に成長する
一番寒い冬に上陸し、ひたすら歩いて生まれた源流部めざして歩き続ける

2月頃までは歩き続け、交尾した後、オスは死ぬ
3月、雪が解けて水が出てくると、メスは水流に下りて卵を産む
流下と雪面遡上・・・彼らはこれらのパターンを繰り返すことによって一定の領域で生活しているという

食べ物がほとんどない冬・・・
もしかして、イワナやカワガラスは、このセッケイカワゲラを捕食しているのではないか
容易に人を寄せ付けない厳冬期の渓谷では・・・謎の食物連鎖が繰り返されているに違いない
▲氷河期時代の生き残り「トワダカワゲラ」(参考)
1931年、青森県十和田湖に注ぐ小渓流で発見されたことから、トワダカワゲラと命名された
全体的に鎧を被ったような原始的な姿をしている

セッケイカワゲラと同様、成虫に羽がなく、化石に出てくる昆虫そのもの
だから氷河期の遺存種と言われている
一般に夏でも水温が14度以下と低い山間渓流の湧き水や滝壺に生息している
▲セッケイカワゲラが生息していた美渓(新緑の季節5月下旬に撮影)
2011年は、閉塞性動脈硬化症に悩まされ、左足の激痛に耐えながら山を歩いた
歩けるだけでも幸せ・・・
ましてや山を自由自在に歩けることが、いかに幸せなことか

残雪と新緑 清流を彩るニリンソウ ウドと山ワサビの花園
山の野菜「アイコ」 ブナ帯の名水 清流の証「イワナ」
キノコの群生美「ナラタケ」
錦秋のブナ林 ブナ帯のキノコ採り「ナメコ」 この世の別天地「桃源郷・源流酒場」

雪国に遅い春の訪れを告げる山野草たち・・・
新緑に小躍りしながら山菜を採り、イワナを釣り、薪を集める
清流の音が絶えず鳴り響く原始庭園

その傍らで盛大な焚き火を囲み、山の幸を肴に酒を酌み交わす
黄葉、落葉を愛でながら、フナ帯の最後の恵み・キノコを採る
早春から初冬まで、山の恵みをありがたくいただく至福のひととき

決してお金で買えない幸せがあることを、
スローに歩きながら噛みしめる一年であった

「山眠る」季節になれば、我々も眠るほか術がない
しかしセッケイカワゲラは、「山眠る」季節に歩き出す
生存競争が激しい夏を避け、山眠る季節の隙間で進化した雪虫たちの群れ

やはり山と渓谷は、学びと発見の宝庫である

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