未知の小谷探釣、新緑とオオヤマザクラ、イワナと今西錦司、タラノメ、ヒトリシズカ、腹が白いイワナ・・・ |
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2012年4月30日、連日気温が異様に高く、桜は一挙に満開となった 雪代期は「イワナ天国」とは言え、いつも同じ渓ではつまらない ならば、かねてから気になっていた未知の小谷探索へ イワナを釣ることを目的にするならば、単独あるいは2名までが理想であろう 今回は3名・・・小谷を釣り上がるにはちょっと多過ぎる 結果は、車止めから竿を畳んだ源流部まで約7.5km、往復15kmも歩いた それでも一日好天に恵まれ、釣り場で他の釣り人に出会うこともなく、釣果は平均10匹余 帰りに大好きなアイコも採取・・・「釣りの一日」としては「◎」 |
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▲ブナの新緑に映えるオオヤマザクラの花 | ▲萌黄色に染まる新緑のドラマが始まった | |||||||||||
崩壊した林道を30分ほど歩く 下流部の谷は、萌黄色のブナの新緑が眩しいくらいの輝きを放ち一際美しい その新緑美を背景に淡紅色のオオヤマザクラは満開 林道脇には、ニリンソウやミヤマキケマン、ヒトリシズカ、キバナイカリソウなどが咲き乱れ まさに春爛漫の世界・・・林道歩きとは言え、気分は最高である |
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▲沢沿いに咲き始めたカタクリとイチゲ | ||||||||||||
林道歩きが終わり、二又を過ぎて右の沢に入ると季節は一変する 咲き始めたばかりのカタクリとキクザキイチゲが目立つ まるで春爛漫から早春に逆戻りしたような別世界である この沢は、何度か歩いているが、一度もイワナ釣りをしたことがなかった 滝やゴルジュなどの難所はほとんどなく、歩きやすい沢だけに入渓者も多い 案の定、昨日歩いた足跡が至る所にあった 当然のことながら、下流部はアタリが少なく、たまに釣れても二年魚と小さい 飛ばし釣りしながら先を急ぐ |
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▲右の大石の穴にイワナが潜む | ▲ミミズに食らいついたサンマイワナ | |||||||||||
二又合流点の大岩の穴・・・柴ちゃんに待望の8寸クラスのイワナが掛った 雪代期は、魔法の餌となる「ミミズ」が一番ということで、同じポイントにミミズで誘う 狙ったとおり、竿は弓なりにしなった 釣り上げてビックリ! サイズは8寸級だが、ガリガリに痩せたサンマイワナであった 食べても美味しくないのでリリースするほかない かつて全長32cmのガリガリに痩せた幽霊尺イワナを釣ったことがあった 何故、こんなに痩せているのか・・・よく見ると反対側の目が潰れた「左膳イワナ」だった いつも、他のイワナたちに餌を取られてばかりいるので極端に痩せているのであろう それにしても、ハンディを背負いながらも尺上になるまで生きるとは・・・ その謎は、イワナの世界も単なる弱肉強食ではなく、お互いに食い分けをしている 確かにイワナの定位とテリトリーに優劣はあるが、増水時にはその優劣も崩れる |
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二又を右に入る・・・ここからは未知の世界・・・大石が点在し、釜や大淵が連続 イワナ谷の渓相としては申し分ないのだが、サイズに不満が残った 良型イワナは釣り尽くされたのだろうか 否、昨日釣り上がった跡が明瞭に残っていたことを考えると、 イワナは釣り人を警戒して餌を追わないに違いない とにかく、釣り人の足跡が消える所まで上り続けるしかない つまり、「イワナは足で釣る」しかない |
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上るに連れて谷は狭くなり、際どいヘツリや高巻き、激流の渡渉が多くなった 次第に釣り人の足跡も消えた すると、8寸から9寸クラスの良型イワナがヒットし始めた 狙い通りの展開に、遅ればせながらイワナ釣りは全開モードに突入した |
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斑点は大きく鮮明で、側線前後の着色斑点は薄い橙色 腹部は柿色に染まり、上流部に居着いていることが分かる 尾びれは大きく、激流を生き抜くたくましさを感じる・・・サイズは8寸程度 |
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▲全身真っ黒にサビついたイワナ 「イワナはヤマメと同じように渓流魚といっても、こうした小谷的な生活条件に適応した魚でなかろうか、という疑いが生じないともかぎらない・・・日本アルプスの渓流では、小谷はもとより大川においても、イワナばかりが生息していて、ヤマメの姿はまったく見ない。イワナだって大川がきらいではないといわんばかりの勢いである・・・ 私にいわせるならば、この現象も簡単に、水温の違いとして説明できるのである・・・つねにイワナが優占圏内にはいる−すなわち真夏でも15度以下の−水温を示していたからである」(「イワナとヤマメ」今西錦司著、平凡社) |
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▲斑点が鮮明かつ濃厚な着色斑点を持つイワナ よく「イワナは低温を好み、夏でも15度を越えない渓流に棲む」と言われる この水温15度という値は、前述の今西錦司博士の論文が根拠になっている しかし、その後水温が18〜20度の河川でイワナが生息していた例がいくつか確認された イワナとヤマメの水温変換点がいくらか、などという学問的な議論には興味はない 経験的に言わせてもらえば・・・ イワナは深山幽谷に棲み、冷水を好む山魚であることに何ら疑う余地はない |
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▲赤腹イワナ 腹部全体が濃い柿色に染まり、「赤腹イワナ」と呼びたくなるような個体 着色斑点の橙色も濃く、源流の美魚に分類できる |
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▲奇妙なイワナ 体の割りに斑点が極めて大きく 大小入り乱れて、薄気味悪い印象を受ける 胸ビレ、腹ビレも小さく擦り切れているのも妙である |
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当然のことだが、上るにつれて残雪も深くなる ここまで来れば、釣り人が歩いた痕跡は皆無・・・良型イワナが入れ食い状態となる |
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▲丸々太った9寸イワナ 「日本の渓流に産するイワナは、はたして一種であろうか、それとも幾種類もあるのであろうか・・・困ったことには、我が国の魚学の権威者である田中茂穂博士と大島正満博士の見解が、まったく正反対になっているため、素人にはどちらにしたがったらよいのかわからないのである・・・ 田中博士に従うと、日本のイワナは一種である。これにたいして大島博士は四種のイワナを認めている・・・イワナやヤマメは、その生活の場の違いにより、かなりその色彩や形態の変化するものであることを忘れてはならない。同じ川の小谷に棲むイワナと大川に棲むイワナとだって、比べて見れば違うのである。だからこんな違いは種を分ける特徴とはならない」(「イワナとヤマメ」今西錦司著、平凡社) 今西錦司博士は、「イワナ属−その日本における分布」という論文で、日本のイワナはオショロコマとアメマス(イワナ)の二種と結論づけている。イワナは、斑点の大きさや色の変異が著しいために、学者をも混乱させたのであろう。現在は、アメマス、ニッコウイワナ、ヤマトイワナ、ゴギの四つの型は同一種内の変異に過ぎないと考えられている。 |
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▲またしても9寸イワナ 今西錦司博士は、渓流に生息する川虫の研究で画期的な「棲み分け理論」を発見した学者というだけでなく、山釣りをこよなく愛した釣りキチでもあった。それだけに「イワナとヤマメ」に関する論文は、釣り人の感覚で読んでも楽しい。「イワナとヤマメ」(今西錦司著、平凡社文庫)・・・ぜひご一読をお勧めしたい。 |
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▲腹部が真っ白の個体に驚く 源流部の右岸枝沢のさもないポイントで釣れたイワナ 何と腹部が真っ白、さらに無着色斑点のアメマス系ではないか 腹部が橙色〜柿色に染まっているイワナが、「居着きイワナ」の特徴と言われる ならば、上のイワナは下流から遡上したイワナということになる それにしても、こんな奥地で腹部が真っ白なイワナに出会うとは・・・心底驚かされた |
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源流部は残雪が深く、釣れるイワナの腹部は赤腹に近いイワナばかり 腹部が真っ白なイワナは、後にも先にも一尾のみ 右岸から枝沢が合流する地点で昼食をとる |
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▲源流部に懸かる滝F1 二又からここまで約4km・・・やっと滝らしい滝が現れた 滝壺は深く、イワナが相当群れているはずだが・・・ 最初に良型イワナが釣れたが、以降はリリースサイズ 左岸を巻き、滝上に出るとすぐにF2の滝が懸かっていた |
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▲F2の滝 | ||||||||||||
▲待望の尺イワナ | ||||||||||||
大量の残雪の向こうに落差4mほどの滝が懸かっていた 倒木下の滝壺は深く流れも速い ゴムオモリを付け、大きめのミミズを滝壺深く沈めた ほどなく、コツン、コツン・・・イワナ特有のアタリがかえってきた 竿の穂先を見れば、既に大きな弧を描いている 合わせるとズシリと重い・・・イワナの顔を水面まで上げ、滝壺下流に引きずり込む 精悍な面構えをしたオスの尺イワナ・・・ この滝上にもイワナは生息していそうだったが、日帰りにしては余りに奥深く入り過ぎてしまった ここで納竿・・・山菜を採りながら駆け足で下る 道草したとは言え車止めまで3時間もかかった |
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気温は26度と夏日・・・汗だくになりながら下流まで下ると、 対岸の山は萌黄色の新緑に包まれていた 源流部の早春から一気に春爛漫の別世界に戻ってきた・・・これじゃまるで浦島太郎ではないか |
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▲ニリンソウ | ▲伸びてしまったコゴミ | |||||||||||
▲クレソン | ||||||||||||
▲タチツボスミレ | ▲山菜料理(ヤマワサビ、アイコ、シドケ、細竹の子) | |||||||||||
クレソンが生えている湧水池周辺でアイコを探す あった、あった・・・アイコは袋一杯に採り、さらにシドケを少々採る 「釣りの一日は、都会の騒がしさや、わずらわしさを離れて、自然の静寂境にひたるところが、値打ちであるから、都会を遠く離れたところほどよい。そういう意味では、峠を一つ越えて向こう側の谷までいって釣った方が、気持ちにしっくりする・・・ いきおい釣りの時間は少なくなるけれども、それだけ遠くへゆけば、またそれだけに魚が濃くなることによって、償われるところがあろう」(「イワナとヤマメ」今西錦司著、平凡社) |