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新緑の春山、暴風雨とブルーシート、イワナ&シドケ・アイコ、北アルプス6人遭難死・・・
▲大雨と雪解け水で荒れ狂う谷

GW後半は、新緑と山菜が最盛期を迎えつつあったが、天候は最悪だった
新聞報道によると・・・5月3日午後10時24分、八峰町八森で最大瞬間風速21.6mを記録

5月4日、北秋田市阿仁川では、雨と雪解けで増水、流れも激しい中、
川下りをしていた弘前大探検部の4人が川へ転落、幸い全員が助かったものの、
2人は一時行方不明になり、翌日捜索隊に救出される騒ぎになった

また、5月4〜5日、天気が急変した北アルプスで山岳遭難が相次ぎ、
低体温症で死者8人の大量遭難が発生した
我々は、沢遊びとは言え、その最悪の5月3日〜5日までイワナ谷にこもっていた
春山は、まだ残雪が多く、雨が降らなくとも谷は雪代で荒れ狂い、渡渉は困難を極める
まして大雨が降れば上ることも下ることもできなくなる
故に春の山釣りは、杣道を辿り、本流を一度も渡渉することなく目的地に行ける沢を選択する外ない

しかし、今回想定外だったのは、思わぬ強風が吹き荒れたこと
雨対策として張るブルーシートは、強風に弱い・・・
果たしてその難局をどう克服したのだろうか
▲崩落したガレ場をゆく ▲アズマヒキガエルの交尾

今回は雨を予想し、カメラはデジタル一眼レフに加え、予備にコンパクトデジカメを持参した
山は萌黄色の新緑に燃え、水たまり周辺にはアズマヒキガエルの交尾が多数見られた
新緑の春山を歩く気分は最高だが、この時、午後から暴風雨に襲われるとは思っていなかった
▲新緑と雪代
本流は朝から雪解け水で溢れ、沢通しの遡行は無理
杣道を辿るも、重い荷を背負って標高差約150mを一気に上るのはきつい
何とか上りの傾斜が緩い杣道まで来ると、新緑の散歩道へと変わる 
▲タチツボスミレ ▲キバナイカリソウ ▲ヒトリシズカ
▲新緑の春山

GW前半は、好天に恵まれ夏日を思わせるほど気温が高かった
それがために、遅れていた春を一気に取戻し、新緑の波は既に峰まで広がっていた
全山新緑の谷を見下ろしていると、待ちに待った山菜シーズンの到来に胸が膨らむ 

杣道沿いには、スミレ類、ニリンソウ、キバナイカリソウ、ヒトリシズカ、ミヤマキケマンなどの草花
新緑に一際目立つ紅色のムラサキヤシオツツジやオオカメノキの白花、クロモジの花も咲き始めた
生命踊る森を鑑賞しながら歩けば、身も心も元気になる
▲ムラサキヤシオツツジ ▲オオカメノキの白花
▲オオバクロモジの若葉と花

オオバクロモジは、ブナの森でよく見かける低木林の代表
クロモジの花は、葉が開く前からクリーム色や薄黄色の花を下につける
新葉が開くと、まるで羽子板の羽の形に似て美しい
▲エゾエンゴサク ▲残雪とニリンソウ

いつもの杣道から谷へ標高差約200mを下る
その急斜面の中間点から湧き出す名水をコップに汲み喉を潤す
日当たりの良い斜面には、ニリンソウやエゾエンゴサク、ミヤマキケマンが咲き乱れ
猛毒のトリカブト群落の茎も大きく成長していた
▲小沢で山菜採り ▲アイコ  ▲シドケ
▲アイコの群生

日当たりの良い東斜面には、ちょうど食べ頃のシドケ、アイコが群がって生えていた
下るにつれて群生の規模は大きくなる・・・あっという間に袋一杯に
山菜採りの楽しみは、明日以降に残すことにして足早に沢へ向かって下る
▲ミヤマキケマン群落 ▲山菜を採りながら谷へと下る
▲爆弾低気圧で倒れたブナの倒木 

いつものテン場の斜面を見上げると、爆弾低気圧で倒れたばかりのブナの倒木があった
焚火用の材には、ブナの風倒木に勝るものはない
それだけに倒れたブナには悪いが、大変有難いと思った

ブルーシートを張り、テントを設営した後、3日分の薪を集める
今日は雨の予報だったが、幸い朝からほとんど降らず、昼近くには晴れ間が広がった
もしかして、天気予報は外れたのか・・・と、一瞬思った

ところが、昼頃に雨が降り出し、ほどなく本降りとなった
沢の水かさは、これまで見たことがないほど水位が高い
いつも山釣り料理をしている河原は、完全に水没していた
イワナは、エサを追うどころではない・・・流れの緩い岩陰などに緊急避難していることだろう

こんな時、匂いと動きで誘う大型のミミズが効果的だ
ほどなく8寸クラスのイワナが掛かった
釣り上げたイワナをよく見れば、針は口ではなく腹部にガラ掛けになっていた
こんなガラ掛けは複数回あった

推察するに、雨と雪解け水で増水すると、イワナの定位とテリトリーが一気に崩れ
緩流帯に避難した群れは、パニック状態になっていたのではないか 
300mほど釣り上がると、対岸に渡渉しなければ、上流へは進めなくなった
高い水位と急流は、見ているだけで目がくらむほど凄まじい
全員でスクラム渡渉をしたとしても、100%安全とは言えない状態だった

計画では、ヨドメの滝まで釣り上がる予定であった
しかし、協議の結果、無理をせず計画は中断・・・全員竿を畳んで帰ることに決定した
雨対策用のブルーシートは、上の写真のように焚火の炎で焼けない高さで、ほぼ水平に張っている
この張り方は、雨対策としては○だが、強い風が吹けば簡単に吹き飛ばされる欠点があった

今回、テン場に戻ると、強風でブルーシートの穴が数か所破られ、
巨大な青凧のようにバホバホはためていていた
速やかに復旧するも・・・沢の上流斜め方向から吹き上げる風は雨を伴って激しさを増し、何度も壊される

最終的にどう張り直したかというと・・・
雨と風を防ぐには、ブルーシートを風の吹く方向に斜めに張るしかない
上も下もザイルなどのメインロープを使って張り直す
しかし、暴風雨ともなれば、ブルーシートだけでは巨大な風圧に耐えられそうにない

暴風雨にたたられながら、お互いに知恵を出し合い、決死の復旧作業が続いた
最終的に太い木を三脚に組み、二列三脚でブルーシート全体を支える方式を採用
さらに下側のシートは、風であおられないよう河原の石で押さえた

雨と汗で全身がびしょ濡れ・・・気温の低下と強風はさらに体温を奪う
谷は次第に暗くなる・・・
一時はどうなるかと思ったが、午後5時頃、何とか完成にこぎつけた
とり急ぎ、焚き火で暖をとる
焚き火さえできれば、パニックに陥ることなく、冷静さを取り戻すことができる
やはり焚き火は、難局に遭遇した場合、なくてはならない特効薬である

しかし、現実はそう甘くなかった
雨も風も止む気配はなく、益々激しさを増した
これじゃ外での宴会は無理・・・テントの中へ避難して宴会をすることに
テントの中での宴会は、昭和61年以来、26年ぶりのことだった
思わぬ雨風と復旧作業で全員が疲れ切っていた
濡れた衣服を着替えて酒を飲むものの・・・

アルコールは超特急で体中を駆け巡り、早めにシュラフに潜り込む
外は依然として雨を伴った暴風雨が吹き荒れていた
応急処置したブルーシートは、果たして耐えられるだろうか
もし一晩中続いた暴風雨でブルーシートがやられていたら、焚き火は不可能になる
焚き火ができないということは、山での最大のエネルギーを失うに等しい
そうなれば、雨が降り続く中、快適な山ごもりなどできはしない

朝4時半頃、テントから外を覗くと・・・ブルーシートは何とか無事だった
昨夜は、八峰町八森で最大瞬間風速21.6mを記録するほどの強風であった
にわか仕込みのブルーシートが、よく耐えたと思う

焚き火のオキは、雨に濡れずに残っていた
これも三脚で補強したブルーシートのお蔭・・・着火剤で火をつけると簡単に燃え上がった
焚き火は、悪天候になればなるほど、その有難さが骨の髄まで沁みた
沢の水位はさらに増し、渡渉は不可能である
安全に釣れる区間は、上下流合わせても300mにも満たない
これじゃまるで管理釣り場のイワナ釣りではないか・・・

イワナは「足で釣る」とは言うものの、渡渉できなければ諦めるほかない
まずはテン場のすぐ傍で釣りキチ小玉氏が竿を出す
ほどなく9寸ほどの良型イワナを引き抜いた
斑点は大きく鮮明で、側線前後に薄い着色斑点を持つニッコウイワナであった

私は一人、下流に100mほど下がって釣りあがることにする
他の仲間は上流200mほど釣り上がり、帰りに山菜を採りながらテン場に戻るという
▲雨に濡れたイワウチワ

依然として雨は降り続いていた
増水した右岸の岩場を慎重に下り、斜面を見上げると白い花の群れが目に止まった
近づくとブナの林床を彩る早春の花・イワウチワの群落だった
右岸の笹薮を下り、増水した渓に降り立つ
いつものポイントは水位が上昇し釣りにならない
あくまで緩流帯を狙って釣るべきだが、対岸の深瀬が気になり振り込んだ

流れは速く、あっと言う間にエサのミミズは流された
上げようとしたら、底石か流木にでも根掛かりしたように動かない
竿を上下にあおったら、イワナの動くような感触が竿を握る手に伝わってきた

急流でもイワナが針まで食い込むように、張っていた糸を緩める
しばらく粘っていると針に食いついたのか、上流に向かって走り始めた
そこを合わせる・・・久々の重いアタリ・・・無理をせず早瀬の水面を引きずり取り込む

尺には若干足りない泣き尺のイワナ
例え釣れる区間が短くとも、感激のイワナが釣れた
しかも、黒いサビはなく、雪代に磨かれた真っ白な美魚に大満足だった
荒れ狂う渓流は、釣るポイントは少ないものの
8寸〜9寸クラスのイワナが立て続けに釣れた
わずか100mもない区間で6匹のイワナをキープ・・・満足してテン場に戻る

しかし時計を見れば、まだ9時を過ぎたばかり
上流に釣り上がった仲間を追った
すると、既に8匹のイワナを釣り、高台の斜面で山菜採りモードに突入していた
▲アイコ ▲シドケ ▲ウルイ

土から顔を出したばかりのアイコもシドケも今が旬だった
家に持ち帰る山菜も含めて、できるだけ茎の太い上等品を選んで折り採る
30分ほど採ったら、大きな袋一杯になった
アイコの葉と天然ナメコの味噌汁・・・アイコの葉は手でちぎり、天然ナメコ(冷凍保存又は缶詰)の味噌汁に入れると色鮮やかで絶品 ▲茎は湯がいてから、冷水にさらし、皮をむく・・・マヨネーズ和えが美味い

イワナ釣りと山菜採りは午前中で終了
しかも、ほとんど歩くことなく、今晩の食材は有り余るほど調達できた
終わってみれば、悪天候も悪くはない結果となった 
▲アイコ(ミヤマイラクサ、深山刺草)
▲シドケ(モミジガサ、紅葉傘)

雨の合間をみて、山の恵みの撮影にとりかかる
本流は濁りが入って背景にするには×
右岸から流入する小沢は、全く濁らず清冽そのものであった

悪天候で光が乏しく、日中でもNDフィルターなしでスローシヤッター撮影が可能であった
旬のシドケとアイコを清冽な流れを背景に何度もシャッターを切る
美しき水とブナの恵みの素晴らしさが伝わるだろうか
▲ネコノメソウ ▲清流とイワナ 

シドケ特有のクセを消す料理
シドケは山菜特有のクセがあり、嫌いな人も少なくない
そんな方には、マヨネーズで和えた後、醤油を少々いれると、クセが薄れ万人向けの味となる
もちろん生のまま天ぷらにすれば、クセは完全に消える
▲刺身用イワナ
今夜の刺身用イワナは、9寸から泣き尺サイズ
雪代に磨かれ丸々太ったイワナは、食材として申し分なし
釣りたてのイワナ料理をその場で食べられるのは、釣り人だけの特権である
▲山釣り定食の定番「イワナの刺身」(右)、左の皿のアラと皮は唐揚げにする

赤味を帯びた天然イワナの刺身は、身が引き締まり、コリコリした歯ごたえが絶品
刺身は、素材を活かした最も簡単かつ美味な調理法で、源流定食には欠かせない定番である
刺身を作る際に剥ぎ取った皮は、真ん中から半分に切り、新聞紙でヌメリや水分をよく拭き取る

唐揚げ粉をまぶして油でカリッと揚げる
食べるとパリパリと音が出るほど・・・まるでイワナセンベイ
▲左がアイコ、右がシドケのおひたし
塩焼き用のイワナは、焚き火の炎から離し、じっくり燻しながら数時間かけて焼き上げる
時間はたっぷりあったので、今晩の宴会に間に合った
最後の晩餐は、盛大な焚き火を囲む

煙でじっくり燻した頭と骨を熱燗に入れ、イワナの骨酒で乾杯
最悪の暴風雨に見舞われただけに、今夜は「地獄から天国へ」一気に駆け上がったような気分だった
三日目も雨・・・しかも気温は極端に低く、手がかじかむほど寒い
雪のある水場で昼飯を食べたが、吹き下ろす風が冷たく震えるほどだった
これじゃ春山登山で遭難があるのでは・・・と、思うほどおかしな天候だった

家に帰り、テレビをつけてビックリ
GWの北アルプスで、何と死者8人の大量遭難が発生したとのニュースが流れていた
登山学校「無名山塾」を主宰する岩崎元郎さんの話(朝日新聞2012年5月6日付)

「残雪を踏みしめながら進む春の登山は夏にない魅力があるうえ、登りやすいと思われがちだが、そこが落とし穴だ。荒天になれば厳冬期に逆戻りし、経験豊富な登山家でも厳しい状態になる。中高年登山ブームが続き、標高の高い山を目指す人も多い。無理は絶対に禁物で、経験と体力に合わせて選ぶべきだ。」

今回、我々のメンバーは、60〜70代の4名のパーティであったが、
北アルプスで大量遭難した医師ら6名一行は、同じく60〜70代であった
どうも他人事とは思えない

▽北アルプス6人遭難死

北九州市の医師ら60〜70代の6人一行は、一人を除けば全員がベテラン
しかも装備は、決して軽装ではなかった
回収されたザックには、春、夏用のダウンジャケットや冬山用ズボン、保温機能のある登山用下着

予備の手袋、500ML入りの水3本、簡易コンロも二つ
さらに使用したとみられる簡易テントは、遺体に巻き付いていたという
なぜ持っていたダウンジャケットやズボン、着替えの衣類を着なかったのだろうか

栂池ヒュッテを出発した5月4日午前、白馬岳周辺は晴れて汗ばむほどだった
しかし午後から天候は急変、雨の後、猛烈な吹雪となった
6人が低体温症で亡くなった場所は、吹きさらしで隠れる所がない場所だったという

誰しも寒ければ、予備の服を着るはずだと思うが・・・

考えられるのは、そう思った時には既に風雪が強過ぎて着替えどころではなかったのだろう
「簡易テントは、遺体に巻き付いていた」
ということは、張ろうとしたが、張れずに体に巻き付くほど風が強かったに違いない

今回は、天候急変の予測が難しい「疑似好天」だったと推測する記事もある
低気圧が去った後、寒気が入り込むまで疑似好天が比較的長く続いた
だから、出発時は青空が広がり、汗ばむ陽気でTシャツ姿のメンバーもいた

しかし天候はにわかに悪化、昼頃には、横なぐりの雪で視界もほとんどなくなった
疑似好天であったために、6人一行は天候急変を予測できなかったのではないか

いずれにしても、テントや防寒着などをザックにしまったまま、
低体温症で死んだ例はいくつもあるという
装備は万全、かつベテラン登山者であっても、遭難事故は起きる

そうした例は、山岳遭難の歴史が、何度も繰り返し警告している
これが、頭では理解できない山の怖さなのだろう

余談だが、自然から遠く離れて暮らしている現代人にとって、
もう一つ恐ろしいのは・・・山での危険を予測感知する五感が鈍っている、
あるいは退化している
ことではないだろうか

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