山釣り紀行TOP


マイタケ不作?、スギヒラタケ、マイタケパスタ、童話「キノコ取り名人」、タブー・言い伝え
今年初のマイタケ採り・・・結果はたったの1株
惨敗であった
今年の「高温少雨」は、マイタケ菌にとって「吉」ではなく、「凶」であったようだ

今後の冷え込みと恵みの雨に期待するしかない
▲秋の渓谷を彩るダイモンジソウ

2012年9月下旬、朝4時過ぎに家を出発
車止めに着いたのは5時半・・・既に7台の車があった
今年のマイタケ情報を聞く

「おっとい来たども、たったの1株・・・
マイタケ採り5回目だども、まだマイタケ見でねぇという人もいだ」
やはり・・・マイタケ不作・・・嫌な予感が走る
目的の沢の入口に着くと、早くも杣道を下りてきた人がいた
まさか、クマに遭遇して逃げてきたのではと思い、「どうしたんですか」と聞いた
「先に数人も入っているので止めにした」と言い、走るように別の沢に向かった

何だ・・・マイタケ山は広いから数人程度じゃどうてことないのに
杣道は、マイタケ採りの人たちに踏まれて、まさにマイタケ道になっていた
さらに崖地には、ご丁寧にロープまで張られていた

手前じゃ勝負にならんだろうから奥に向かった
沢の水も少なく、超渇水状態
時々岩魚が走るものの、ちょっと型が小さい
▲ミズのコブコ

車止めから歩くこと1時間半、目的の斜面に辿り着く
滴る汗をぬぐい、沢水を一杯飲んで斜面にとりつく
一昨年採取した巨木を中心に探し歩く

ない、ない・・・マメすら見当たらない
誰かが採った痕跡も皆無・・・
転げ落ちそうな急斜面の崖地・・・そのわずかな柴をつかんでトラバース、別の脇尾根に向かう
▲枯沢の杉の倒木に生えたスギヒラタケの群生

スギヒラタケは、斜面の杉倒木には全く生えていなかった
しかし、沢筋の湿り気の強い倒木に見事な群生があった
これは、何を意味しているか・・・高温少雨の影響であろう

スギヒラタケは、「スギカノカ」と呼ばれ、かつてサワモダシと同じく秋田人に人気のキノコであった
2004年、スギヒラタケが原因とされる急性脳症が多数報告されて以来、毒キノコに分類されている
採取すれば(自己責任で)、十分すぎるほどの量ではあったが、そんなことをしている余裕もなかった

ちなみに、昔から「スギカノカが生えると、マイタケが生える」との言い伝えがある
▲沢筋の倒木に生えていたサワモダシ(ナラタケ)

サワモダシは、この数本見ただけ
最もポピュラーなブナハリタケ、毒キノコの筆頭・ツキヨタケも全く生えていない
どうも今年は毒キノコまで不作のようだ

マイタケも乾いた岩山斜面や崖地は×
沢筋に近く、湿り気の多い場所を中心に探してみる
もう駄目かなと諦め、小沢が合流する二又に向かって下りた
その二又近くに、養分もすっから消失したような古ぼけた倒木が横たわっていた
辺りは、日当たりが悪く湿っぽい場所であった

こんな古ぼけた倒木に生えるとは想定しているはずもない
しかも黒っぽい倒木と同じ保護色のマイタケ・・・普通なら見過ごす所だった
ただ偶然にも、マイタケが生えている位置と私の目の高さが一致していた
あれっ・・・マイタケだがぁ
ここまでミズナラ林を何時間も彷徨い、マメすら見ていない
疲れがピークに達すると、単なる草木や岩がマイタケに見えてしまうことがある

一瞬、そんな幻覚症状かと疑ったほどだ
良く見ると、大きくはないが、傘も開き茎も充実した一株であった
鼻を近づけ香りをかぐ・・・紛れもなく天然マイタケ特有の強い香りだった

諦めていただけに感激は大きいが、いかんせん株がちょっと小さい
まだないか、倒木の周りを丹念に探る・・・一ヶ所だけマメが生えていた
これは小さいので残すことにした
初物マイタケは、どんな料理でいただくか
天ぷらや焼きマイタケ、マイタケご飯と浮かぶが、どれも手間が掛かりすぎる
そこで素材をそのまま生かした「お吸い物」と「マイタケスパスタ」を作ってみる

まずは調理サイズ用に縦に裂く
天然マイタケをたっぷり入れたマイタケのお吸い物
マイタケの香りと歯切れの良さを生かした一品

材料・・・マイタケ、絹ごし豆腐、こんにゃく、三つ葉、万能ねぎ、万能つゆ
 万能ねぎの切り方・・・参照「万能ねぎの小口切り

一般に太いネギは、根の部分の白い所が美味い
しかし、万能ねぎは、白い根の部分5cmほどは硬く不味いから切り落とす
そして長さをは半分にして、二つ揃えて細かく刻む
マイタケをオリーブオイルで軽く炒める
同じく、ベーコンを炒める
一般的なナポリタンに、炒めたマイタケとベーコンを乗せ、刻みのりとパセリを添えて完成

オリーブオイルで炒めた「マイタケは絶品」であった
やはり、キノコ料理はパスタに合う

先日、一年間冷凍していた最後のマイタケをきりたんぽ鍋で食べた
やはり、洗わないで冷凍したマイタケは香り、歯切れともに○であった
これで我が家の冷凍庫は空っぽになったが、肝心のキノコが不作だと電源を切らねばならなくなる

省エネには役立つかもしれないが、金で買えない楽しみを失うことになる
「雨よ降ってけれ〜、キノコよ生えてけれ〜」と、天に雨乞いとキノコ乞いをするほかない

参考:「キノコ取りの名人(「伊藤永之介童話作品集」無明舎出版)
 マイタケというキノコを取る人は、ぜったいに人におしえません。自分の家の者さえ知らせません。
 マイタケは、キノコの王様です。味がいいし、すばらしく大きいのです。まだ葉がスッカリ巻かないキャベツみたいなかっこうで、大きいのになると一貫目以上もあります。そんなのは一つで五百円も六百円もの金になるのです。・・・

 キノコ取りの名人である金助じいさんも、三十年も昔からマイタケ取りをしているのに、家の者さえおじいさんがどこからそれを取って来るのか、だれも知りません」

 ある日、金助じいさんは、マイタケ山で急に体が痛くなって動けなくなります。息子の銀助と孫の銀次郎が捜索し、エビのように体をすくめていた金助じいさんを見つけ、おぶって山を下りました。

 銀助は、病に伏す金助おじいさんから秘密のマイタケ場所を聞き出し、勇んで取りに行きます。ところが、道に迷ったのか、崖から落ちて大けがをしてしまいます。金助じいさんは、突然泣き出し、こう言いました。

 「銀助、わるかった。わるかった。オレがわるかった。マイタケの場所を、オレはうそを言ったんだ。それでお前は道にまよってけがしたのだ。あやまるよ、ゆるしてくれ。」

 この童話のように、マイタケだけは独り占めしたくなる不思議な魔力を秘めている。もともとマイタケは、ゼンマイと並び山村の人々の貴重な現金収入であった。マイタケ採りのプロには、様々なタブーや言い伝えが伝承されている。

@幼菌を手で触ったり、息を吹きかけたりするな!
 マイタケは、環境に敏感で、雑菌に極めて弱いという弱点を持っている。だから、マメの幼菌を手で触ったり、息を吹きかけたりすれば、成長が止まり腐ってしまう。だからキノコ木にはあまり近づかず、離れて観察すること。

Aマイタケを刃物でとると「ツキル」(次から生えない)
 マイタケを採る時は、長さ1m程度のツクシを使う。ブナやイタヤカエデなどの枝のさきをノミのように平に削ったものを「ツクシ」という。マイタケは、木の根の洞穴に生えることが多いが、そんな時マイタケの根の当たりに見当をつけてツクシを差込み、感覚をつかんで株全体を起こして根から壊さず切り取る。こうしないと商品価値がなくなる。

 この説には、賛否両論がある。あるプロに言わせると、30年ほど刃物を使っているが「ツキル」ことはなかったという。どうもこれは迷信ではないか。

B腐ったマイタケは、全て綺麗に取り去る
 マイタケを採る時は、根株が残らないように綺麗に採る。運悪く育ちすぎて腐ったマイタケを見つけたら、木の根から離してすっかり取り去る(死滅した菌糸が根を覆い、発芽に2,3年は休む)こと。こうしないと、来年その木から良いマイタケが採れない。

C暑い夏で、かつ台風が来ると豊作
 台風によってキノコ木が揺れ動かされると、マイタケ菌が刺激され、発芽が早まると言われる。

 マイタケ採りの極端な秘密主義の理由は・・・自分だけのマイタケ山・ナワバリを持つことは、持続可能なマイタケ採りを担保する唯一の方法であったのであろう。岩魚釣りを生業とした職漁師の場合は、密かに谷の奥の滝上に岩魚を移植放流し、秘密の隠し沢を持っていた。自然に生かされている野生動物と同様、山の恵みを生業とする者にとって、ナワバリを持つことはごく自然なことであった。

山釣り紀行TOP

inserted by FC2 system