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イワウチワ、ニリンソウとトリカブト、エノキタケ、痩せたイワナ、山岳遭難相次ぐ、ブロック雪崩と災害、霧とガス、雪もみじ・・・
▲2012年5月3日 ▲2013年5月3日

今年は、大型連休後半になっても気温が上がらず、厳しい寒さが続いた。
上の二枚の写真をご覧あれ・・・昨年5月3日の山菜畑沢は、ブナの新緑に包まれていた。
今年はまだ森は芽吹かず、早春のまま時間が止まったような感じであった。
2013年5月3日、2泊3日の日程で恒例の山釣りに向かった。
心臓破りの坂を登り切り、杣道から山を望む。
奥の峰は、昨日降ったばかりの雪に覆われ、白神の山々は今だ長い冬の眠りから覚めていないようだ。
▲ブナの森の林床はイワウチワが満開

 ブナの森では、イワウチワの花が終わり、ニリンソウが咲き始めないと山菜は出てこない。
▲タラノメ ▲山菜畑沢を下る ▲アザミ
ニリンソウと混生していたトリカブト

上の写真を見て見分けがつくだろうか。
緑色の若葉がトリカブト、薄赤紫色の若葉がニリンソウである。
一般的な山菜は、アザミぐらいしか見当たらない。

だから、ニリンソウの若葉を見つけると、ついつい手を出したくなるのも分かるような気がする。
しかし、誤食を避けるために決して手を出さない。
▲芽を出したばかりのシドケとアイコ
今回のパーティは、W新人を含めて6名
右から流入する小沢は、雨でも濁ることがない湧水で、テン場としては一級品である。
雨対策としてブルーシートとテントを二つ張り、三日分の薪を集める。
雪代も加わり、水温はすこぶる低い。
5月に入っても異常低温が続いているせいか、イワナたちの活性度は極端に低かった。
流れが緩く、水深の深い大場所にポイントを絞って釣る。
岩穴に隠れているイワナは、重いオモリで目の前にエサをもっていかないと食い付かない。
上の写真は、幸先よく良型イワナが釣れた瞬間である。
▲早春の恵み・エノキタケ(ユキノシタ)

 北国の渓流では、4月になっても雪が深く、春雪をかぶって株立ちしていることから、別名「ユキノシタ」と呼ばれている。殺風景な渓流沿いに色鮮やかな茶褐色のエノキタケは一際目立つ。
▲立ち枯れ木に生えたエノキタケ
▲早春のキノコ採り

 エノキタケは、冬場の優秀な食菌で、茎の歯切れが良く、味噌汁、和え物、天ぷら、鍋物など日本料理によく合う。今回は、山菜が乏しい中、エノキタケの味噌汁は貴重な一品であった。
早春のイワナと同じく、胃袋はほとんど空っぽで痩せていた。
とても旬のイワナとは呼べない。
さらに小物が多く、刺身サイズのイワナがヒットしないのはどうしたことか?

寒が戻り、イワナは冬ごもりモードに戻ったような感じだった。
痩せたイワナを三枚におろし、刺身を造るのに苦労した。
▲アイコとシドケ ▲ホンナ

日当たりの良い斜面に、ポツリポツリと芽を出したばかりのアイコ、シドケ、ホンナ
それを腐葉土から丁寧に掘り出し、折り取る。
出始めは、特に貴重な山の野菜である。
寒が戻った山の夜・・・その寒さは半端じゃない。
盛大な焚き火を囲み、暖をとりながら山釣り人生を語り合う。
山釣り最長老・79歳の会長をはじめ、皆健康長寿・・・これは山釣りのお蔭だとつくづく思う。

谷の夜は、持参した衣類を全て着込み、スリーシーズンのシュラフに潜り込んでも寒かった。

大型連休、山岳遭難相次ぐ

 GW期間中、登山に訪れた人の死亡事故が相次ぐ長野県では6日、新たに3人の死亡が確認され、合わせて9人になったという。また、北秋田市の森吉山(1454m)阿仁スキー場で、行方不明の男性が6日、遺体で見つかった。遭難した男性が低体温症で死亡した可能性があるという。
二日目も曇天・・・峰は濃霧に包まれる中、最短ルートで上二又をめざす。
急斜面のガレ場を上り切り、屹立する崖の小段を低木類につかまりながら慎重に登る。
標高差200mほど登った杣道で休憩。

山と谷は、見渡す限り、寒々とした鉛色の風景一色であった。
斜面にへばりつくように残る杣道を辿り上流へ
芽吹く前の森は、見通しがすこぶる良い。
対岸の残雪をクマが歩いていれば、丸見え・・・春クマ狩りには最適な季節である。
芽吹く前のブナ林の斜面には、イワウチワの大群落が満開に咲き美しい。
イワウチワの大群落は、遠くから眺めると、斜面が桜吹雪のように見えてとても美しい。
対岸には大量の雪渓が連なり谷を埋め尽くしている。
いつもなら芽吹きが始まる時季だが、冬芽のまま・・・今年はかなり遅い。
上二又のカタクリは、まだ雪が解けたばかりのようで咲いていなかった。
早速仲間が釣り開始・・・
昨日とは劇的に変わって、良型イワナが入れ食いモードで釣れた。
真っ黒にサビついたイワナが雪の上で舞い踊る。
「春一番のイワナ釣り」を予感させるスタートであった。
全身が黒っぽくサビつき、全体的に痩せている。
釣れてくるイワナは、典型的な早春イワナである。
5月に入っても、雪代の洗礼をほとんど受けていないイワナが釣れるとは・・・

今春の異常気象は、イワナの個体にも歴然と現れていた。
久々に入口の7m滝を際どく攀じ登り、K沢に入ってみた。
2008年以来、実に5年ぶりのことであった。
左手に仁王立ちしている巨木、苔生す太古の流れ・・・懐かしい風景であった。
▲全身が真っ黒なザヒイワナ

 半年間、暗い岩穴の底深くじっと動かずにいると、保護色であるイワナは、全身真っ黒な魚体となる。特に小沢では、隠れる範囲が狭く、同じ岩穴に潜るケースが多く、こうしたタイプのイワナが多い。
▲K沢では珍しい美白のイワナ

 小沢でも、比較的明るく大きな淵に棲むイワナで、かつ白っぽい花崗岩系統の岩の場合は、こうした白っぽいイワナに変身する。イワナは保護色だから、棲む環境で自在に変貌する。
▲K沢を代表するイワナ・・・魚体に比べて顔がデカク、腹部は鮮やかな柿色に染まっている。狭い谷の奥に陸封された独特の個体である。

 K沢は、200mほど釣り上がると谷は雪渓に埋もれて釣りにならない。納竿して谷を下り、本流班と合流した。金光氏は、寒さで震えが止まらない・・・聞けば、冷たい流れに腰まで浸かったという。雪渓が連なる谷の風は冷たい。さらに濡れると体感温度をさげる。早めに昼食をとり、本流班3名は早めにテン場に戻ることにした。
ブロック雪崩

 雪庇・雪渓などの雪塊が崩落し、雪が大きな塊(ブロック)のまま落ちてくる雪崩をブロック雪崩という。ブロック雪崩の大きな特徴は,崩落した雪塊が壊れながらもブロック状態を保って流下・堆積することにある。春から夏にかけて雪渓を使って沢を遡行する際に,雪渓の一部が崩れて登山者を直撃する災害が起こっている。
 ブロック雪崩災害のほとんどは、山菜採り中または山菜取り遭難者の捜索・救助作業中に発生しているという。雪渓を使えば急斜面の山菜の穴場に容易にたどりつけることから,山菜採りブームの高まりとともにブロック雪崩による災害が多く発生している。

 2000年6月18日、新潟県の浅草岳において、山菜採り遭難者の遺体搬出作業中の捜索・救助隊がブロック雪崩に襲われて4名が死亡している。
上流に上るにつれて、雪崩で谷を塞いだ雪渓が延々と続く。
竿を出すポイントはほとんどない。
おまけに小雨が降り、谷を吹き降ろす風は雪渓の冷風を伴いひどく冷たい。時折、突風のごとく吹き荒れた。

残雪期は滑落事故に注意!

 急斜面の雪渓を歩く場合、足を滑らせると谷底へ一直線に突き落とされる。だから絶対に足を滑らせないよう足場を固めながら慎重に歩くことが求められる。登山でも、事故原因のトップは、残雪斜面などでのスリップ・滑落事故である。山と渓谷では、滑落は命取りになりかねないので、絶対にしてはならない。
山頂を覆っていた濃霧は、ついに谷全体を覆い始めた。
幻想的な風景に一変したが、寒いことこの上ない。
胴長スタイルの80歳老人は、寒さ知らず・・・やたら元気で釣りをやめようとはしなかった。

寒い残雪期の谷を歩くには、寒さ対策として胴長を履くのは〇
しかし山の斜面を歩くには、滑るし蒸れるし×。
我が会でそれができるのは中村会長だけである。
濃霧に包まれた源流部
イワナは越冬のポイントからほとんど動いていない。
そのポイントは少ないものの、刺身サイズのイワナが竿を絞った。

霧とガス

 ブナの森や渓流では、「霧」とか「濃霧」という言葉を使い、幻想的・神秘的な演出として歓迎する場合が多い。しかし、稜線での霧は危険信号とされ「ガス」と呼ぶ。ガスに巻かれることを「ガスる」という。そういう場合は、天候悪化や視界が悪いためにルートを間違えたり、滑落や落石に対する注意力も鈍くなると言われている。
本流のイワナは、K沢と違って全体的に白っぽい印象を受ける。
それは、白っぽい花崗岩のせいであろう。
左から小沢が流入する地点・・・その小沢は雪に埋もれて分からないような状態であった。
ここで午後1時頃だったが、暴走老人は約束の場所に来ても止めようとしなかった。
右にカーブした小滝で、止めるよう説得してやっと納竿させた。
▲小沢のニリンソウは、まだ花芽が出た程度

 カタクリやキクザキイチゲ、イワウチワのピークが過ぎると、ニリンソウが咲き始める。やがて、ニリンソウの大群落が満開になると、ホンナ、アイコ、シドケなどの山菜が次から次へと生えてくる。ニリンソウの開花は、山菜シーズンの到来を告げる草花でもある。だから草花たちの観察は、山菜のピークを読むためにも欠かせない。
今晩は、刺身サイズのイワナがそろった。
ただ一つの不満は、全体的に痩せて脂のノリが少ない点である。
イワナは、雪代の洗礼を受けないと旬のイワナにならない。
▲赤味が美しいイワナの刺身 ▲刺身をとった残りの頭と骨・・・骨酒用に燻す
▲皮とアラは唐揚げ用 ▲アザミのおひたし 
▲イワナの皮とアラの唐揚げ料理 ▲刺身、唐揚げ、アザミのおひたしで熱燗を飲む
渓流の音を聞きながら、燃え盛る焚き火を中心に車座に座る。
皿に盛りつけた山釣り定食で乾杯!
何度やっても飽きない源流酒場の宴会である。

それを祝福するかのように、夜空は満天の星が輝いていた。
ところが・・・翌朝になると、またまた雨が降ってきた。
▲今回のメンバー6名で記念撮影

 今年80歳になる会長は、昨夜焚き火を燃やす作業中に右足を打撲してしまった。悪いことに、足は大きく腫れ上がっていた。幸い、副会長が持っていたサロンパスを張ったが、なにしろ回復が難しい後期高齢者(75歳以上)である。明日は荷を担ぎ歩けるのだろうかと心配した。

 翌朝、起きると案の定、ビッコを引いた状態だった。ところが、出発する時間になるとほぼ完治・・・荷を担いでも、滑りやすい急斜面を胴長スタイルで、スタスタと歩いているではないか。驚くほかない。
▲山菜を探しながら小沢を上るも、ほとんど収穫なし・・・こういう時は、荷がやたら重く感じる。
▲ヤマブキショウマ ▲アイコ ▲エンレイソウ
▲ミズの若芽 ▲シドケを採る
▲冬芽が膨らみ始めたブナ
雪もみじ

 ブナの冬芽を包んでいたアズキ色の鱗片が、芽吹きとともに雪の上に落ちて赤く染まっているように見える。これを「雪もみじ」と呼んでいる。
▲ニリンソウ(食) ▲ミヤマキケマン(毒) ▲イタドリ(食)
▲スミレサイシン(食)
山での三日間、震えるような寒さが続いた。
ブナの芽吹きは、谷の下流部でようやく始まったが、今だ点に過ぎない。
気温が一気に上がり、雪代がどっと出ないと、山は眠りから覚めない。

特に渓流の王者・イワナには、雪代による攪乱が不可欠である。
山の神様に・・・雪代、新緑、山菜シーズンが一日も早く訪れることを祈りたい。

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