山釣り紀行TOP


天国の散歩道、ニリンソウ、シドケ、アイコ、雪代イワナ、斜面を歩くクマ、おひたし、味噌汁、天ぷら
GWから1週間後、再び山菜採りで訪れたら山は新緑の衣に包まれていた。
この劇的な変化は、人間の想像を遥かに超えるスピードである。
待ちに待った「山笑う」季節の到来に嬉しさを隠しきれず、何度も感嘆の声をあげた。
春の陽射しを浴びてニリンソウが咲き始めた斜面には、
待ちくたびれたアイコ、シドケ、ホンナなどの春の山菜が怒涛のように萌え出していた。
対岸の斜面を歩くクマを目撃したが、その時カメラを持っていなかった・・・残念!

2013年5月12日(日)、予報は曇りのち晴れだったが、朝から雲一つない好天に恵まれた。
白神に向かう途中、どこもかしこも濃霧に包まれ視界がすこぶる悪かった。
車止めに着くと、雲一つない青空・・・

山は新緑に彩られ、オオヤマザクラが満開に咲き誇っていた。
▲キバナイカリソウ ▲タチツボスミレ
▲ヒトリシズカ 
心臓破りの急坂を登り、杣道から新緑の山を望む。
霞が谷底から湧き上がり、新緑の山を覆い始めた。

霧と霞
 俳句の世界では、「霧」は秋、「霞」は春の季語として使い分けている。
 「春なれや名もなき山の薄霞 芭蕉」
気温が急上昇すると、悪いことも起きる・・・ブヨが出始めた。
これは想定外だけに、防虫ネットやスプレーは持参していない。
刺され放題・・・これにはホトホトまいった。
一週間前、曇天と震えるような寒さから一転、新緑と青空と暖かい陽射し、
うるさいほどの小鳥のさえずり・・・まるで「天国の散歩道」を歩いているような気分であった。
日当たりの悪い場所のブナは、芽吹きが始まったばかり・・・
強い斜光線を浴びると、ダイヤモンドのように輝いた。
斜面に咲き乱れていたイワウチワは、全て終わっていた。
▲山菜畑沢に咲き始めたニリンソウ
 
山菜畑沢の両サイドには、やっと山菜が生え出していた。
湧水が湧き出す中腹で軽い朝食タイム。新緑の谷を借景に食べると、何を食べても美味い。
朝食後、山菜採り用のエプロンバックを着て、いよいよ山菜採り開始。
昨夜降った雨で濡れた斜面・・・
腐葉土から顔を出したシドケも雨露に濡れて一際美味しそうに見える。

 生えていた山菜は、アイコ、シドケ、ホンナ、ミズ、アザミ、ワサビ、コゴミ、バッケ、ウバユリ、ニリンソウ、トリアシショウマ、ヤマブキショウマ、ダイモンジソウ、スミレ類など・・採る山菜は、種類ではなく、美味しく大量に採取できるものに絞って採る。今回のターゲットは、アイコとシドケの二種である。
▲山菜の王様・シドケ(モミジガサ) 

生えている姿が美しく、撮るのも採るのも楽しい山菜である。
茎の太いものを選び、間引くように根際から折り取る。
斜面から顔を出したばかりの赤ちゃんサイズも到る所に見られた。

この谷のシドケ、アイコのピークは一週間前後当たりであろう。
▲山菜の女王・アイコ(ミヤマイラクサ)
▲エゾエンゴサク ▲エンレイソウ ▲シラネアオイ
▲ホンナ(イヌドウナ)
▲旬のアイコとシドケ

一週間前、テントを張った高台で採取した山菜を洗い、種類別に分ける。
山菜畑沢までは、空身でも二時間はかかる。
たかが山菜を採るのに、なぜそんな奥地へ行くのか・・・

近場の杉林などに生える痩せシドケ、痩せアイコとは物が違う。
イワナも山菜もキノコも、本物は原生的なブナ帯に限られるからである。
昨夜の雨と雪代で流れはピークに達していた。
渡渉は無理・・・右岸だけ歩いて釣れる区間は200m〜300m程度。
こういう時はミミズに勝るエサなし・・・持参したミミズを相棒と半分に分け、釣りモードへ。

相棒は上流へ、私は下流に下って100mほど釣り上がることにした。
イワナに気付かれないよう、右岸の笹藪を掻き分け下る。
見上げれば、青空に萌え出たばかりの新緑が眩しい。
ほどなくゴルジュ滝の上流に降りる。

この濡れた岩場には、オオサクラソウの群落があるのだが、まだ花は咲いていなかった。
ミミズをチョン掛けにして対岸の淀みに振り込む。
ほどなく竿は弓なりに・・・竿を上下に煽り挑発すると、エサをくわえて走り出す。
そこを一気に引き抜くと、白泡渦巻く流れから良型イワナが飛び出した。
雨と雪代で増水すると、いつものポイントは渦巻き×。
釣るポイントは極端に少なくなるだけに、丁寧に釣り上がる。
釣り区間100mほどで何とか8匹ほど釣り上げる。今晩の食材としては十分である。
ゴルジュ帯右岸高台で山菜採りモードに切り替える。
この斜面は、質の高い山菜が生える場所だが、まだ山菜初期状態であった。
ピークはもう一週間後であろう。
▲茎の太いシドケ  
▲土から顔を出したばかりのシドケの若芽
▲アイコ 

 この斜面は、シドケに適した場所らしく、シドケの茎は太いがアイコの茎はやや細い。
▲シドケの写真を撮りまくる 
▲アイコ ▲シドケ ▲エゾニュウ(ニオサク)
山菜畑沢合流点に戻って昼食とする。
甘いヨモギ餅でガス欠状態を脱し、熱いミニカップラーメンを汁におにぎりをほおばる。
新緑を借景にマイナスイオンを四方から浴びながら、締めのコーヒーを飲む。

用をたしにブナの斜面の高台に上り、巨木の根元で対岸を眺めると・・・
真っ黒なクマが目に飛び込んできた。 
右の写真・・・クマが歩いていた斜面である。
対岸とはいえ、距離は15m程度・・・幸いクマは私に全く気付いていなかった。
ところが、いつも首にぶら下げているカメラがない!ない!

昼食をとった場所に置いてきてしまった。
こんな時に限って、夢のシャッターチャンスが来るとは・・・何とも皮肉である。
クマは、四つん這いでゆっくりと急斜面を上り、時折草を食べては巨木の陰に消えていった。

久しぶりの好天に誘われて、クマも待ちに待った新緑と山菜シーズンを謳歌しているのであろう。
帰路、再び山菜採りモードに切り替えながら急斜面をジグザグに上る。
採り過ぎると荷が重くなるし、女房と二人家族ではとても食べ切れない。
極上品のみを選び、折り取る。頭で分かっていても、結果的に採り過ぎてしまった。
▲「撮ってください」、「採ってください」と一斉に囁くシドケたち
▲逆光に棘が白く輝くアイコ群落
▲茎が太いアイコ ▲ミズ ▲アザミ

春、クマの食べ物・・・雪崩地に集まったドングリやブナの実、雪崩で死んだカモシカ、ブナの若葉と花、タムシバの花、クロモジの若芽、ミズバショウ、ザゼンソウ、そして食用の山菜の中では、フキノトウやアイコ、ミズ、セリ、エゾニュウ、アザミ類などを好んで食べる。
▲傘が開かない旬のシドケ・・・若芽は天ぷらが絶品 ▲「母なるブナ」の恵みに感謝
新緑の波が谷から峰に向かってモクモクとうねるように駆け上がっていく。
これを「黄葉の峰走り」にちなんで、「新緑の峰走り」と呼んでいる。
新緑の季節は、雪国・ブナ帯の山が最も美しく輝く季節である。
▲午後からは濁流と化した雪代の流れ

 この雪代の洗礼受けないと、イワナは旬のイワナに変身できない。雪崩、雪解け・・・やっと山も目覚め、攪乱の本番が始まったようだ。 
▲シドケのおひたし ▲アイコのおひたし
▲アイコの若葉は味噌汁用に ▲天然ナメコ汁の具にアイコの葉を使う
▲イワナの塩焼き ▲シドケの天ぷら

 シドケは、独特の苦味と香りがある。その山菜特有のクセが嫌いな人には天ぷらがオススメ。生のまま天ぷらにすれば、シドケ特有の苦味も香りも消え、万人向けの山菜天ぷらに大変身する。シドケが嫌いな人でも、天ぷらなら「美味い」と思わず叫ぶはずである。ぜひ試してみてください。

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