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春もみじ、カモシカの毛と骨、ミミズ、雪代の洗礼を受けたイワナ、ホンナ、コゴミ、ヤマワサビとイワナの刺身・・・
内陸部の岩魚谷は、いつもより残雪が多いものの、やっと新緑前線の波が押し寄せてきた。
林床には、キクザキイチゲ、エゾエンゴサク、カタクリなど、春の花が咲きそろい、
湧水が滴る斜面には、ワサビ群落が一斉に白い花を咲かせ始めた。
今年のイワナは、5月に入っても「痩せたイワナ」が際立っていた。
地球温暖化で、イワナも狂いだしたのかと疑いたくなるほど、例年と違っていた。
そんな痩せたイワナも、待ちに待った雪代の洗礼を受けると、丸々と太りだしてきた。

イワナ釣りバカにとって、これほど嬉しいことはない。
春もみじ

5月中旬、秋田市を朝4時に出発。
予報は晴れだったが、昨日と同様、曇天の空模様であった。
林道は、いつもの車止めの手前で、落石と残雪のため通行不可になっていた。

K相棒と崩壊林道をしばらく歩く。
山は新緑を中心に多様なグラデーションの色彩に彩られていた。
まさに「春もみじ」と呼ぶにふさわしい。
林道を歩いている途中、右手の斜面には、カモシカの白い毛が夥しいほど散乱していた。
周囲を観察すると、カモシカの骨があちこちに散らばっていた。
恐らく、クマがカモシカを食べた残骸であろう。
▲朝から雪解け水で増水していた岩魚谷

岩魚谷右岸の杣道をしばらく歩く。
今冬の大雪のせいだろうか・・・雪崩斜面の崩落や谷に突き刺さっている倒木が目立つ。
沢に降りると、雪解け水は、飛沫をあげて勢いよく落下し、渦巻き走り去っていく。
雪解け水で増水している場合、イワナのエサは、ミミズがベスト
それもできるだけ大きなサイズのミミズが良い。
今回使用したのは、市販品の「熊太郎 スーパー極太」。

ブドウ虫に比べ遥かに食いが良かった。
大きなミミズほどイワナに対してアピール度が高いからであろう。
白泡渦巻くポイントでも、大きなミミズならすかさずイワナは反応してくれた。
K相棒は、ブドウ虫で釣っていたが、明らかに反応は鈍く、アタリまで時間が掛かっていた。
釣りエサの選択は、釣り人の好みではなく、あくまで自然の変化に合わせるべきである。
厚い雲は流れ去り、上流側から眩しいほどの朝陽が射し出した。
萌黄色の草木や岩に砕け散る雪解け水が逆光に煌めく。
これ以上ない好天に恵まれた。イワナの撮影には、最高のコンディションであった。

しかし、予想どおり、ブヨが大量発生し汗臭い顔、首を刺しまくりはじめた。
慌ててザックから防虫ネットを取り出し頭から被った
腹部は柿色に染まり、側線より下に薄い着色斑点を持つニッコウイワナ。
透けて見えるような尾ビレ、うっすらと縦縞のパーマークも見える。
越冬中の黒いサビもほとんどなくなり、雪代の洗礼を受けていることが分かる。
▲雪解けの岸辺に群生していたホンナ(イヌドウナ) 
 ホンナは、アイコやシドケより早く生え出す。葉の違いによって数種類あるが、葉の付け根が大きなヒレのようになったものが美味い。茎が空洞になっているので、折り取る時「ボン」という音がするから「ボンナ」とも呼ばれている。
▲コゴミ  ▲シドケ
▲エゾエンゴサク ▲残雪とキクザキイチゲ ▲カタクリ

 雪が解けたばかりのようで、沢筋にはカタクリ、バッケ、キクザキイチゲ、エゾエンゴサクといった春告げ花が目立つ。それでも谷に迫り出したブナ林は新緑に萌え出している。海岸部の谷では、新緑の季節になると、春一番を告げる花たちは一斉に姿を消すのが一般的である。
▲赤腹イワナが踊る
▲刺身サイズのイワナ、28cm

右から小沢が合流するポイントで久々に手応えのあるイワナがヒットした。
一瞬、尺はあるかと期待したが、測定すると28cmしかなかった。
痩せたイワナばかり釣っていると、サイズの直感がかなり鈍ってしまう。

顔は黒くサビついているが、腹部は着色部分が少なく白さが際立っていた。
今回は、イワナだけでなく旬のワサビ採取が目的であった。
そのワサビを薬味にするには、イワナの刺身がメインディッシュ
その新鮮さを保つためには、釣り上げたら即座に野ジメにし、クーラー製ビグに入れた。
▲美白のイワナ

透き通るような白い魚体に腹部の柿色が際立つ。
側線前後の淡橙色の着色斑点、口紅のような着色も化粧したように美しい。
イワナを釣りあげては、草むらや流れ、落葉を借景に撮る。
標準サイズは8寸前後・・・全身に散りばめられた斑点が鮮明で美しい。
上流に上るにつれて残雪が目立つようになり、ブナ林の芽吹きもまばらである。
春の陽射しは、ほぼ100%谷に降り注ぎ谷の明るさはMAXに。
階段状の釜は、平水であれば好ポイントの連続なのだが・・・

いずれの釜も雪解け水で沸騰し、見た目より遥かに釣るポイントは少ない。
▲新緑 ▲エゾエンゴサクの群生  ▲ヤマワサビの白花

エンゴサクは4種
 エンゴサクは、日本海側に多いエゾエンゴサクとミチノクエンゴサク、太平洋側に多いヤマエンゴサク、ジロボウエンゴサクの4種。
▲紫色のキクザキイチゲ

 この谷のキクザキイチゲは、圧倒的に紫色が多い。さらに沢筋に大きな群落をつくり、他の花を圧倒するほど群生の範囲、規模が大きい。白い花と混成している群落は、濃い紫色から白との中間色まで色の濃淡は多様である。
泣き尺(29.5cm)のイワナ

滝壺の巻き込みに太いミミズを流し込むと、すかさず強いアタリが返ってきた。
一気に引き抜くと、滝壺の主のようなイワナであった。
サイズの割に顔はデカク、黒いサビが残っていた。全体的に緑っぽい体色が印象的であった。
▲残雪が目立ち始めた源流部

午前10時過ぎ、早めの昼食とする。
食べるには、防虫ネットを外さなければならない。
ミニカップラーメンを汁におにぎりをほおばると、ブヨの大群が顔中にまとわりついた。

たまらず防虫スプレーを顔と首にふりかけ、ブヨを退散させてから再び昼食開始。
これから初夏にかけて、ブヨ対策を万全にしないと快適な山釣りは楽しめないので注意
▲残雪に覆われた源流部

正午近くになると、雪解け水も増し、釣るポイントは皆無に等しい状態となる。
イワナたちも大石の穴に隠れて出てこない。
魚止めまで行く予定であったが、早めに納竿とする。
天然ワサビ畑

 白い花をつけたワサビの若葉は、湧水が滴り落ちる斜面を覆い尽くすように巨大な群落を形成する。この沢は、行けども行けどもワサビ、歩けど走れどワサビの群落に埋め尽くされている。だからこの岩魚沢は、別名「ワサビ沢」と呼んでいる。
▲白花が咲き始めたワサビ群落

ワサビの賢い採取法

斜面から一筋の湧水が流れる周辺のワサビは、品質が良い。
それでも天然のワサビの根は、意外に細く小さい。
だから刺身の薬味として利用する根は太いものを選び、数本程度採取するにとどめる。

本命は、根を除いた茎葉と花。
まず茎の太いものを選び、根の上部をナイフで切り取り、本命を採取する。
薬味用の根は、切り取った残りの根を手で触り、太い根を確認したものだけ数本採取する。

採り方の注意点・・・根はできるだけ残し、茎葉も間引くように採取すること。
「残して採る」ようにすれば、毎年その恵みを授かることができる。
こうした持続可能な賢い採取法は、山菜もイワナも同様である。
まばゆいばかりの新緑

雲一つない青空、あふれんばかりの陽光を浴びて、萌黄色の新緑が生命を謳歌するように輝く。
雪国の四季の中で最も美しく輝く季節・・・それは生命踊る新緑の季節である。
▲雪代で沸き返る谷を下る

午後を過ぎると、雪解け水で水量が増し、濁りながら洪水のように押し寄せてくる。
だから、雪代期は、昼前に納竿するのが賢明である。
凄まじい雪代の轟音を聞きながら、崩れかけた杣道を慎重に下る。

今日一日、雪代のマイナスイオンと新緑のシャワーを浴びて、
イワナを釣り、山菜採りを楽しみながら、心地良い汗をかいた。満足、満足・・・。
▲丁寧に洗い、刻んでから熱湯を注ぐ ▲太い根は、イワナの刺身の薬味に
ヤマワサビの醤油漬け

 山ワサビをよく洗い、食べやすい長さに刻む刻んだワサビをザルに入れ、上から熱湯をまんべんなく注ぐストックバックに入れ、万能つゆを注ぐ冷蔵庫で冷やす・・・一晩寝かせば出来上がり
雪代期の山の幸定食

 今夜のメインディッシュは、イワナの刺身と天然のワサビ。大皿にワサビの若葉と花を敷く。その上にイワナの刺身を活造り風に盛り付ける。天然ワサビの根をすり、薬味として添える。冷たい雪代に磨かれた刺身に、粘り気抜群のワサビをつけて食べる。独特の辛味とコリコリした触感・・・釣り人にしか味わえない逸品である。

 写真左下はアイコのおひたし、右下はシドケのおひたし、上の左右は1年前に採取した塩漬けワラビ。特にイワナは、雪代の洗礼を受け格段に美味しくなってきた。

 新緑の波は海岸部から内陸部へ加速度的に広がってきている。これから初夏にかけてイワナの旬を迎えるだけに今後が楽しみである。

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