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ヤマメ、ヤマブキショウマ、ウドの天ぷら、イワナ茶漬け、お花畑、残して釣る、雪代の渡渉、イワナ寿司、カラス
内陸部の谷は、まばゆいばかりの新緑に染まっているが、まだ残雪が多く雪代はピークを迎えていた。
谷沿いの草花は、春告げ花が主体で初夏には程遠い印象だ。
山菜は、ウド、ヤマワサビ、コゴミが主体で、シドケやホンナがわずかに出た程度。

食える青物が少ないので、やたら生えていたヤマブキショウマ、トリアシショウマを食べてみた。
ヤマブキショウマはクセもなく美味かった。今後、山菜採りの一つに加えたいと思う。
イワナたちは雪代の洗礼を受けて旬を迎えつつあった。
残雪を入れてテン場に持ち帰ると、鮮度抜群のイワナ料理を楽しむことができる。
今年初の岩魚寿司料理に挑戦・・・やはり絶品であった。
▲杣道をゆく
2013年5月下旬、4名のパーティで定番の岩魚沢へ
予報では珍しく三日間とも晴れ、実際も予報どおり好天に恵まれた。
林道を塞いでいた雪崩区間は、何とかギリギリ通過できた。

車止めで着替えをしていると、不覚にも雨具を持ってくるのを忘れたことに気付く。
幸い好天に恵まれたから良いものの、悪天候なら冷や汗ものだった。
テン場は、焚き火用の薪に不自由しない昨年と同じ場所に構えた。
▲新緑と雪代で沸き返る谷を釣る

雪代の谷は、渡渉が容易にできないほど増水していた。
釣り人が歩いた形跡はほとんどないが、下流部はいつもスレて釣れない。
中間部まで歩いてから竿をだす・・・エサは、増水時の定番「ミミズ」
階段状の壺、その渦巻きにエサを送り込むと丸々太ったイワナたちがエサをくわえた。
しかし水温が低いためか、なかなか針までくわえて走らない。
竿を上下に煽って挑発を繰り返し、走ったのを確認して合わせる。

それでも掛かりが浅く、何度か釣り落とすケースが目立った。
▲ヤマメ

シバちゃんが釣り上げた良型のヤマメ。
さぞかし鋭いアタリがあっただろうと思い聞いてみると、ほとんどアタリらしいアタリを感じなかったという。
仕掛けを緩めていたのか、完全なる向こう合わせで釣れたヤマメである。
谷に陽が射し込み気温が上昇すると、ブヨの大群が群がってきた。
快適な釣りを楽しむためには、頭から被る防虫ネットは必須である。
釣り上げたイワナは、少々面倒だが生きたまま網袋に入れて持ち歩いた。
ブナ科の広葉樹が谷に迫り出し、青空に萌黄色の新緑が映える。
その新緑と雪代が放つマイナスイオンを全身に浴びてイワナを追う。
心身ともにリフレッシュするには、こうした人跡稀な源流に勝るものはない。
ナベちゃんが釣り上げた泣き尺のイワナ
ヒットした瞬間・・・泣き尺イワナは上下左右に暴れ回り、なかなか取り込めなかったようだ。
見ていると、釣ったというよりイワナに遊ばれているような感じだった。

竿先が柔らか過ぎるようだ。
イワナ釣りには、竿先が硬調または超硬調がベスト。
これなら尺前後のイワナを一気抜きできる。
今晩のイワナ料理には十分・・・午後1時半頃には竿をたたむ。
生きたまま持ち歩いたイワナの頭を石で叩き、野ジメにする。
網袋に残雪を入れ、二重のビニール袋に入れて背負う。
▲エゾエンゴサク ▲キクザキイチゲ ▲エンレイソウ
▲シラネアオイ ▲ゼンマイ ▲ウド
▲オオバキスミレ ▲ヤマワサビの白花
▲スミレサイシン ▲ムラサキヤシオツツジ

谷沿いには、春のはかない花が目立つ。
雪解けの崖地には、旬のゼンマイが群生していたが、すぐには食べられないのでパス。
生食と天ぷら用にウド、イワナの刺身の薬味として根の太いヤマワサビを数本採取する。
▲ヤマブキショウマ ▲トリアシショウマ

山菜の御三家であるアイコ、シドケ、ホンナがほとんど見当たらず、食える青物が少ない。
そんな中、沢沿いの斜面に売るほど生えていたのがヤマブキショウマとトリアシショウマであった。
この二種の若芽を採取し、初めて試食してみた。

意外に美味かったのがヤマブキショウマのおひたし。
マヨネーズをつけて食べたが、クセがなく、しゃきっとした歯触りで美味い。
▲ヤマメの刺身 ▲イワナの刺身

久しぶりにヤマメとイワナの刺身を食べ比べてみた。
素人なら食べ比べても違いが分からないほど、両種ともに美味い。
ただし、身が引き締まったコリコリ感は、イワナの方が勝っている。
▲ウドの天ぷら

山菜の天ぷらは、現場料理としては面倒な調理法だけれども、食べればさすがに美味い。
日中は汗ばむほど暑かったが、夜の冷え込みは半端じゃない。
新緑と雪解け水の流れに酔ったのか、酒がやたらすすみ饒舌となる。
しまいには記憶がなくなるほど酩酊・・・いつしかシュラフに潜り込んでいた。

それほど酔って熟睡していたはずなのだが、真夜中、余りの寒さに目が覚めた。
その厳しい冷え込みは、雲一つない好天の兆しでもあった。
二日目・・・雲一つない青空にまばゆいばかりの新緑が輝く。
シバちゃんは、昨日捻挫したらしく左足が痛いという。
彼はテン場で留守番、残り3名は源流部をめざして出発した。
▲ワサビが群生していた小沢 ▲沢に降りる手前の枝沢 ▲コゴミ 

この岩魚谷の左岸には、杣道が約2.5km続いている。
1.5km程は、旧軌道跡で所々崩壊しているものの歩きやすい。
その奥地約1km程は、アップダウンが激しく踏跡も不明瞭である。

左下の眼下に、雪解け水で増水した険谷の轟音を聞きながら、不明瞭な踏跡を慎重に辿る。
屹立する岩場には、新緑に混じってオオヤマザクラの花が満開に咲いていた。
源流部始点の谷に降りるまで約二時間を要した。
 
沢に降りて、一番最初に釣り始めたのはダマさんであった。
同じポイントで粘り続けていたので、私とナベちゃんは追い越して上流へ向かった。

深い瀬脇の好ポイントでイワナを立て続けに二匹ほどあげると、ダマさんが追い掛けてきた。
第一投目のポイントで大物を逃がしたらしく、しきりに悔しがっていた。
「大きがった・・・釣り上げようとしだら、重くて上がって来にゃがった・・・途中で落どしてしまった」という。
▲残雪と雪代の谷を釣る

陽当たりの悪い斜面には雪が残っている。
源流奥地になると、まだ雪渓が延々と連なっていることだろう。
だから午後ともなれば、雪解け水で渡渉が困難なほど一気に増水する。
雪代期のポイントは、大場所に限られる。
イワナが瀬に出る前だから、大場所のポイントにはイワナが群れている。
だから粘って釣れば、数匹は簡単に釣れる。
▲枝沢合流点の小滝でイワナを釣り上げる
ヨドメの滝の手前・・・網袋に入れたイワナを生きたままデポする。
水が枯れた急登の小沢を上り、ヨドメの滝を大きく高巻き、滝上に出る。
ゼンマイが生える対岸には、大量の雪渓が残っていた。
時計は11時・・・昼には早いがお湯を沸かして昼食とする。
メインは、「イワナ茶漬け」・・・

冷えたご飯に、昨日焼いたイワナを乗せ、サケ茶漬けをふりかけてから熱湯を注ぐ。
新緑と清流を借景に食べれば、最高の昼食・・・エネルギーが全身に漲ってくる。
▲ニリンソウの群落とシラネアオイ
▲ミヤマカタバミ ▲スミレサイシン ▲シラネアオイの群生

 源流の渓畔林は新緑、その清流を彩るニリンソウやシラネアオイ、スミレサイシン、ミヤマカタバミ、ヤマワサビなどの花々も満開・・・「イワナ遊ぶお花畑・桃源郷」に迷い込んだような夢心地に浸る。
▲穏やかな源流部を釣る

イワナは大場所だけでなく、瀬にも出ていた。
しかし、雪解けで水が冷たいのか動きが鈍い。
浅掛かりで釣り落とすケースが頻発した。

しかし、「残して釣る」には、これ以上ないベストコンディションであった。
新緑に包まれた原始庭園・・・ポイント毎にイワナが竿を絞る。

▽イワナに遊ばれる

イワナがミミズに食い付く・・・慎重に待って合わせても、なかなか針掛かりしない。
水面に上げた瞬間、浅掛かりで外れると、その勢いで空を切った仕掛けは上の枝にからまる。
その度に仕掛けをダメにし、一から仕掛けを作り直すしかなかった。

それを3回も繰り返すと釣欲を失ってしまった
この沢のイワナは、斑点が鮮明で大きいのが特徴である。
一見北海道のエゾイワナに似ているが、良く見ると側線前後の斑点には薄い着色斑点がある。
雪渓が連なる魚止め付近で釣れたイワナ。
まだ顔が真っ黒にサビついていた。
デポしたイワナを回収し、旬を保つために残雪を入れてザックに背負う。

▽雪代の渡渉


午後になると、雪解けで水位は急激に上昇してきた。
本流を渡渉する地点・・・ダマさんが激流を強引に渡渉した。
水位は腰近くまであった・・・一人で渡渉するには危険水位だ。

最も川幅が広く渡りやすい地点まで下がって、後続のナベちゃんが来るのを待っていた。
ところが後ろを振り向くと、無謀にも激流を強引に渡渉しているではないか。
ミオ筋に来ると、激流に足をとられ転んだ。

心配しながら見ていると、態勢を立て直し何とか流されずに突破した。
しかし、転んだ時に足を石にぶつけたらしく苦しそうな顔をしている。
しばらく休むと、回復したようで問題なく歩けた。

教訓は・・・失敗の数だけ賢くなる。
これだけは、身体で覚えるしかない。
冷静に振り返れば、仲間と一緒にスクラム渡渉するのがベストであった。
▲サルでもできる「岩魚寿司」

 「パコっとにぎり寿司10貫」は、一度に寿司が10貫できる寿司シャリ容器である。材質がポリプロピレンで、重さが100gと軽いので源流で造る岩魚寿司には最適である。

 「パコっとにぎり寿司10貫」にすし飯を入れ、蓋をギュッと押さえる。蓋をはずし、シャリを「パコっと」落とす。天然のワサビを乗せ、岩魚の極上ネタを乗せれば、岩魚のにぎり寿司10貫が簡単にできあがる。ただし、すし飯を入れ過ぎると酒の肴としてはボリュームがあり過ぎるので注意。
▲サルでもできる岩魚寿司完成!

 ネタは、9寸前後の岩魚を二等分にすれば、1匹で4貫できる。今回は8匹の岩魚をさばき、4人前30貫を調理。写真のとおり、シャリからネタがはみ出るほど贅沢な岩魚寿司である。
▲シドケのおひたし ▲コゴミ
▲ヒラタケ

▽カラスに塩焼きイワナを食われる

 留守番をしていたシバちゃんが山菜採りに出掛けた隙に、焚き火で焼いていたイワナをカラスにやられたという。塩焼きイワナは4尾、骨酒用の頭と骨は6匹分、そして昼食用の弁当箱に入れていたご飯も一粒残らず食べられてしまったという。

 野営する場合、人間の食べ物は、野生鳥獣が狙っている・・・だから、出掛ける時は、食べ物を全てテントの中に収納しておくのが鉄則である。頭で分かっていても、痛い目にあわないとなかなか実行できないのが人間の弱点である。
留守番をしていたシバちゃんのお蔭で、焚き火用の薪は充分にあった。
イワナの塩焼きは、盛大な焚き火ほど美味しく焼ける。
ただし、燃え盛る焚き火の炎から離し、煙で燻しながら遠赤外線でじっくりと焼き上げるのがコツである。

薪の材は、ブナがベスト・・・
火力が強く、長く燃える。
さらに、塩焼きイワナにブナの香りが骨までしみ込み絶品の味となる。
▲ブナの新緑

三日目の朝5時頃、人の声で目が覚める。
釣り人がやってきたのであろう。
焚き火に火をつけ、寝転ぶ・・・幾重にも重なったブナの新緑が実に美しい。

朝陽が昇る前の柔らかい透過光・・・
眼にも優しい新緑の美は、何度眺めても心が穏やかになる。
▲新緑を借景に記念撮影

▽新刊「マタギとは 山の恵みをいただく者なり」(田中康弘、竢o版社)

第一部 山のメインディッシュ−獣肉の狩りと調理
第二部 山で芽吹く幸−茸・山菜の採り方、味わい方
第三部 川や海からの恵み−マタギの身近な魚たち・・・

ブナ帯のマタギのフィールドと、山釣りのフィールドは、ピタリと重なっている。
それは何故か・・・
山釣りとは 山の恵みをいただくものなり」だからである。
▲新緑の杣道 ▲ウド ▲ムラサキヤシオツツジ

三日目は真夏日・・・汗が滴り落ちるほど蒸し暑かった。
以降三日間、30℃近い真夏日が続いた。
これで山の雪も大分解け、遅れていた山の季節を一気に取り戻したことだろう。

初夏・・・毛バリに食い付く旬のイワナに期待したい。

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