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隠し沢とは、ヤマツツジ、先行者に苦戦、黄金イワナ、タケノコ、ワラビ、尺イワナ、隠し沢滝壺の主、水の美・・・
かつて魚止めの滝上に人知れずイワナを放流し、自前の漁場をもつ沢を「隠し沢」と呼んでいた。
今から11年前、総落差100m余りもある大滝上流へイワナを二度にわたって放流したことがあった。
今回、一緒に放流したダマさんを含め仲間5人で滝上を探った。
「隠し沢」の滝壺では、尺イワナが二本・・・ともにジャスト33cmであった。
しかも「黄金イワナ」と呼ばれる「美魚」の遺伝子を継承していた。
イワナの寿命は、長くて7〜8年と言われる。

放流したイワナは、滝の下流で釣り上げた小型のイワナ・2〜3年魚である。
あれから11年経過したから、この尺上イワナは、恐らく放流魚の二世であろう。
見事に成長した隠し沢のイワナに感激もひとしおであった。
▲ヤマツツジ

「あのイワナはどうなっているのか」
一緒に放流したダマさんとは、常々話し合っていた。
しかし、日帰りでは遠いだけになかなか実行できずにいた。

今回、7人の大パーティを組み、昨年と同じ沢へ初夏の山釣りに向かった。
ところが、林道のかなり手前で斜面が大規模に崩落したらしく、「通行止め」になっていた。
急きょ沢を変更せざるを得なくなった。

その時、ダマさんは咄嗟に「隠し沢」の名前をあげた。
隠し沢は、たまたま通行止めの沢から近い・・・私も同感であった。
「通行止め」の沢を引き返し、隠し沢に向かった。
車止めで着替えをしていると、オフロードのバイクに乗った若い釣り人に追い越されてしまった。
杣道途中の草地でワラビを採り、笹薮でタケノコを採りながら超スローに歩く。

追い越して行った若者が「ウサギ」なら、我々は「カメ」であった。
そんなカメに食べる分のイワナが釣れるのか・・・苦戦が予想された。
▲エゾアジサイ
▲タニウツギ ▲ミズキ
▲ウワミズザクラ ▲トチノキの花
杣道を1時間ほど歩くと、滝上の岩場に出る。
左岸の笹薮は比較的平坦で広い・・・テントを二つ張るには充分の広さがあった。
しかも滝上の岩場は、天然の水場と快適な宴会場に見えた。

重い荷を背負い、アップダウンが続く杣道をむやみに歩いてもしょうがない。
あっさりテン場に決定した。
テントを二張り、薪を集め、ワラビのアク抜き・タケノコの下処理をしてからイワナ釣りに向かう。
この沢は、20年ほど前、日帰り・単独釣り場の定番であった。
その後、日帰り定番の沢を別に変えて以来、十年以上もご無沙汰してしまった。

左岸の杣道を歩き、右岸に杣道が変わる地点の沢で瀬尻からイワナが走った。
そこで仲間2〜3人がエサ釣りで探る。
先行した若者の濡れた足跡が谷の岩場にはっきり残っていた。
丁寧に釣り上がっても、塩焼きサイズがたまに釣れる程度だった。
先行者がいれば、警戒心の強い良型イワナは釣れない。
残念ながらセオリーどおりの展開だった。
谷に残る残雪はわずか・・・
遅れていた雪代は終わり、水量は渇水状態のように少ない。
釣り上がるにつれてイワナの魚体は黄色味が強くなる。

右上のイワナは、黒くサビついているものの隠し沢を代表する黄金イワナである。
腹部だけ見れば「赤腹イワナ」と呼びたくなるほど色が濃く鮮やかである。
▲コンロンソウ ▲ミヤマカラマツ
二又近くのカーブ地点の深淵で、顔が黒くサビついたイワナが釣れた。
ほどなく先行していた若者が下ってきた。
聞けば、二又の上流は右の沢を釣り上がり、隠し沢が合流する地点まで釣り上がった。

釣果は、20〜30匹と大漁だったという。
二又上流部は、先行者が釣っていない左の沢に入る。
水量は少なく、釣るポイントは極端に少ないものの、やっと8寸前後の良型イワナが釣れだした。
▲黄金イワナ

黒くサビついているものの、全身黄金色に彩られた独特の個体である。
側線前後の着色斑点も濃く鮮やか。
仲間内では、この神秘の美魚を「黄金イワナ」と呼んでいる。
▲ヨドメの滝で竹濱毛バリに食い付いたイワナ

この沢は水量が少なく釣れる区間も極端に短い。
ヨドメの滝上を釣るには、一人だけしかキャパシティがない。
ダマさんが釣り、私は釣り上げたイワナを生かしたまま網袋に入れて後を追った。
釣れるサイズは、全て刺身サイズの9寸前後。
ポイント毎に釣れるものの、魚止めは意外に近い。 
▲源流の美魚

いつも尺イワナが釣れる魚止めの滝に達した。
ダマさんは焦ったのか・・・滝壺下流の流木に針を引っ掛けてしまった。
その針を取りに向かったが、イワナには丸見え・・・

再度振り込むものの、イワナは出てこなかった。
▲ヨドメの滝上の黄金イワナ

終わってみれば、イワナ寿司用のイワナは、最後の1時間程度で釣れただけであった。
それでも今晩のイワナ料理には十分の釣果であった。
帰路は、テン場まで真っ直ぐ歩いても1時間半ほどかかる。

長時間背負っても、刺身用、イワナ寿司用の鮮度を保つには・・・
生かしていたイワナを野ジメにし、残雪を多めに入れて背負えば鮮度を保つことができる。
下る途中に採取したウスヒラタケを入れてタケノコ汁をつくる。
初夏の味「タケノコ汁」は絶品。
▲タケノコとワラビ ▲山の幸料理風景
まな板にホオノ葉を敷き、「パコっとにぎり寿司10貫」を使ってサルでもできるイワナ寿司をつくる。
一人4貫、7人分で27貫をつくった。
塩焼き用のイワナは、明日のイワナ茶漬け用に7尾を串刺しにして遠火でじっくり焼く。
酒の肴は、イワナの刺身、イワナ寿司、唐揚げ、シドケのおひたし、タケノコのマヨネーズ和え、ワラビのおひたし、タケノコ汁

まずは缶ビールで乾杯・・・美味い
次に熱燗を飲み干し、ついにはウィスキーまで飲みはじめた。
前回同様、どうやって寝たのか記憶にないほど酩酊してしまった。

反省はサルでもできるのだが・・・お蔭で翌日は二日酔いで最悪の体調であった。
二日目のメインは、隠し沢を探ることに尽きる。
二又付近まで一気に歩き釣り始める。
本日は先行者なし・・・ゆえにイワナはほどほどに釣れた。
▲階段状の釜が連続する天然釣堀を釣る。
▲数は出るが、サイズに不満が残った。 
隠し沢が合流する二又には残雪があり、春告げ花のキクザキイチゲが咲いていた。
この二又に生かしたイワナをデポする。
帰路は、この残雪を入れて背負えばイワナの旬を保てるからである。
二又上流左の沢は、階段状のゴーロが続き、ポイン毎にイワナが釣れた。
しかし、魚止めまで釣る区間は極めて短いのが欠点。
▲イワキンバイ
右岸の岩壁は垂直に切り立ち、その岩の割れ目にイワキンバイの黄色の花が際立っていた。
連続する階段状ゴーロの釜から、腹部が柿色に染まったイワナが飛び出す。
ほどなく魚止めの滝に辿り着く。
▲懐かしの三段魚止めの滝
滝壺のイワナは、顔に黒いサビが残るものの、全身黄金色の黄金イワナであった。
腹部は、濃い柿色が鮮やかで実に美しい。
二又まで戻り、昼には早いが昼食とする。
昼食は、定番の「イワナ茶漬け」
副食としてパン、チョコでエネルギーを充填し、最後にコーヒーでしめる。
ミズナラが目立つ分水尾根を上り、隠し沢に向かう。
下から見上げても、尾根から葉陰越しに眺めても滝の全貌は見えない。
滝の延長が長く、総落差は100mを超える大滝である。
かつてのルートは、のり面が根こそぎ崩落していたため、標高差100m余りも直登させられた。

登りは息切れするほどきつく、二度ほど休みながら登り、横へトラバース
40分ほどかけてやっと滝上に辿り着く。
▲シドケ ▲茎の太いシドケ ▲サンカヨウ
放流地点下流の小滝から、イワナ生息調査を開始した。
ところが、走る魚影もアタリも全くなかった。
しばらく竿は沈黙したまま・・・

放流イワナは、全て洪水で流されてしまったのでは・・・
果ては、放流したイワナはオスばかりだったのでは・・・などと杞憂ばかりが脳裏をよぎった。
穏やかな河原が続く放流地点を過ぎると、やっとイワナが掛かった。
サイズは7寸ほどと小さいが黄金イワナの遺伝子を引き継ぐ個体であった。
11年前に放流したイワナの三〜四世ぐらいであろう。
水量が少なく、イワナが隠れるポイントも少ない。
案の定、二匹目も7寸余の小物であった。
おかしい・・・釣り人の痕跡は皆無なのに、なぜ良型イワナが釣れないのか。

右にカーブすると、やっと流木滝の深い壺が現れた。
しばらくアタリがない・・・粘っていると、副会長の竿が弓なりになる。
水面に顔を出したイワナは・・・さすがにデカイ!
イワナに暴れるスキを与えず一気に河原に引きずり上げる。
その無駄のない一連の動作は、ベテラン副会長の技が冴えわたっていた。

計測すると33cm、オスの尺イワナであった。
サイズの割には、鼻が曲がり、顔はデカイ・・・かなりの齢を重ねているのであろう。
全身が黄金色・・・まさに「黄金イワナの美魚」そのものであった。
11年前、二度にわたって放流したイワナは6寸〜7寸前後の小物20匹程度。
当時の記録によると、朝5時に車止めを出発。
イワナを釣り、滝上に放流して車止めに着いたのは午後6時・・・実に13時間を要している。

その子孫がこんなにたくましく、素晴らしい美魚に成長していた。
嬉しさの余り、「スゴイ!、スゴイ!」と叫びながら写真を撮り続けた。
隠し沢周辺には、ワサビの大群落がある。
誰も採らないから、その根はほとんど太い・・・刺身の薬味として数本採取する。
次第に小滝が連続する。
副会長は、小滝でしばらく粘っていたが、尺イワナを逃がしたらしい。
滝上を探っていたナベちゃんは、イワナを釣り上げ、この上にもいたと叫んで下ってきた。
隠し沢滝壺の主

隠し沢最大の釜をもつ好ポイントにナベちゃんが立つ。
この滝壺の主は、釜の最下流でエサを待っていた。
それを知らないナベちゃんは、釜の中央にブドウ虫を落とす。

そのエサを発見した主は、猛スピードでエサに向かって走った。
スピードを緩めることなくエサを丸呑みにして動き回った。
「上がって来ねぇ〜!」と悲鳴をあげた。

何事かと近づくと、既に竿は主にのされ、釜に横たわる流木に絡まってしまった。
ダマさんが絡まった糸をとろうと小枝をよせたが、その途中であえなく糸が切れ逃げられてしまった。
本人曰く「40cm以上はあった」と豪語していたが・・・

私もイワナが逃げる瞬間を目撃したが、どう見ても35cm程度。
ダマさんに聞くと、先ほど副会長が釣った33cmとほぼ同じサイズだったという。
つまり、「逃がした魚は大きい
 
隠し沢最大の釜より上は、滝が連続しており、イワナの遡上は無理に見えた。
副会長がその途中の釜を探るもアタリなし・・・もはやいないと思い、私は下り始めた。
すると、下流で見ていた仲間が「大きい、釣った、釣った」と叫んだ。

急きょ、最上段の滝壺に駆け上がると・・・
魚止めの主は、計測するとまたしても33cm。
一匹目の尺イワナと同じだが、体高は驚くほど高く太っていた。
水量は少ないものの、エサは豊富であることが分かる。

それでも隠し沢のように小さな沢では、35cm程度が限界なのかもしれない。
もしそれ以上大きくなれば、隠れる場所は、先ほど逃がした大釜一か所しかない。
満杯に膨らんだ胃袋を裂くと、半分溶けたサンショウウオが8匹ほども入っていた。
それでもブドウ虫に食らいつくイワナ・・
例え満腹でも、目の前に落ちたエサなら何でも食らいつく獰猛さには驚くほかない。

恐らく、上から落ちてきたエサを独占して捕食しているから体高が異常なほど高いのであろう。
それにしても落差の大きい滝を次々と遡上し、最上段の滝壺まで生息していた。
そのイワナの生命力、逞しさに改めて脱帽せざるを得ない。

隠し沢のイワナは、二世、三世、四世へと世代を引き継ぎ確実に繁殖していた。
二度にわたって放流してから11年・・・
丸々太った尺上イワナの成長を見て感無量・・・ただただ嬉しいの一言である。
▲山の幸料理・・・イワナの刺身と天然ワサビ、唐揚げ、シドケ・ウド・タケノコの天ぷら、ミズの塩昆布漬け、シドケのおひたし、ワラビなど
▲人生の桃源郷「源流酒場」

今夜は、刺身を大量に作ったので、イワナ寿司は食べたい人がセルフで作ることに。
すし飯のシャリを20個ほどつくる。
それに天然ワサビと刺身の切り身を乗せて食べれば「セルフイワナ寿司」になる。
▲水の美・・・清冽な滝その1
▲水の美・・・清冽な滝その2
▲水の美・・・エメラルドグリーンに染まった淵
▲滝を縦構図で撮る 
▲今回のメンバーは7名

隠し沢の尺イワナ・・・11年ぶりの再会を果たせたことは無上の喜びであった。
予期せぬ通行止めは・・・まさに「災い転じて福となす」ドラマを生んだ。
これも11年前に滝上に放流した苦労があったからこそ生まれたドラマである。

山釣りの世界では、苦労は必ず報われる
だから楽しい。

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