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尺イワナ9本、エサ釣り考、源流イワナの未来、イワナとヤマメ、タケノコ採り遭難、マタギサミット欠席
 梅雨期になると、イワナ谷の緑も深くなる。イワナたちは渓畔林から落下した昆虫や水面を飛び交う羽虫、梅雨で増水した流下昆虫を盛んに貪り、一年で最も美味しい旬を迎える。上のイワナは全て尺上・・・小さいイワナで31cm、最大は35cm。誰しも雨は嫌だが、「釣れる釣り日和」の格言どおり「梅雨期はイワナ天国」であった。
 二日目は尺イワナが8本も釣れた。ならば滅多にできない尺上イワナの活造りをやってみた。この肉厚な刺身を見れば、旬であることがお分かりいただけるだろう。参考までに、自作のまな板の長さは35cmである。
 雨が降り続く梅雨期に2泊3日の山釣りへ・・・ラッキーなことに初日は小雨に見舞われたが、残り2日間は真夏のような快晴に恵まれた。いつもの杣道は深い草に覆われ、不明瞭になっていた。ということは、この奥山周辺を歩く人がほとんどいなくなった証左でもある。
 ブナの風倒木が横たわる左岸の平らな台地にテン場を構えた。渓畔林は、ブナ科の広葉樹が渓流に迫り出すほど豊かである。沢に点在する石は苔に覆われ、その間を透き通るような清流が心地よい瀬音を発しながら流れ下る。イワナの宝庫を象徴するような渓相が続いている。
エサ釣り考

 エサ釣りの場合、一般的に早春の頃は市販のミミズやブドウ虫を使う。イワナが淵から瀬に出て羽虫や落下昆虫を盛んに捕食する初夏になると、市販のエサでは釣れなくなる。そんな場合は、川虫やブナ虫、トンボなどの現地採取のエサに切り替える。

 ところが最近は、昔の常識が通用しなくなった。例えば、初夏〜夏になってもミミズやブドウ虫でも充分釣れるのである。だから最近、川虫採取用の網を使うことがほとんどなくなった。これは何故かと言えば、源流のイワナ釣り人口が減る一方、それだけ無垢なるイワナが増えたからであろう。
▲会長の足ごしらえに注目

 アップダウンの激しい杣道を歩く時はスパイク付き地下足袋。イワナを釣る時は、滑らないようにワラ縄を巻き付けている。本人曰く・・・「和製フェルト」だという。
▲32cmの尺イワナ

 釣り始めてからほどなく、水深のある瀬で32cmのイワナが釣れた。6月下旬・・・こんなに簡単に尺イワナが釣れるということは、釣り人が少ない証左であろう。明日が楽しみである。
▲ギンリョウソウ
▲フタリシズカ ▲サワハコベ
▲階段状のゴーロ帯を釣る ▲丸々太ったイワナ

 わずか500mほど釣り上がった所で、今晩のオカズに十分のイワナが釣れた。早々に納竿とし、ゆっくりのんびり宴会の準備にとりかかる。
▲集めた倒木を、ノコギリで薪のサイズに切り揃える
▲4人で4匹のイワナを刺身用に調理する
 絶えることのない瀬音に混じって、ときおりカジカガエルの「ヒュルルルルルル・・・」という美しい音色が響く。盛大な焚き火を囲み、清流のマイナスイオンを浴びながら熱燗で乾杯!・・・焚き火を囲む源流酒場は、何度やっても至福の時である。
 二日目の朝5時起床、今日は快晴のようだ。早起きの二人は、チャーハンとミズの味噌汁で朝飯を食べた。残りの二人はなかなか起きそうにない。全員起きる前に、気になっていた右岸の小沢を探ってみようと入渓してみた。
隠れ小沢で夢のような物語

 枝沢は、小イワナしかいない種沢のごとく、水深が浅く、流れも極端に細い。とりあえず水たまりのような所に、ブドウ虫を垂直に落とす。すると、我が目を疑う。どこに隠れていたのか・・・尺イワナがスーッと現れ、一発で食いついたのだ。
 合わせると、水たまりの中で「バシャ、バシャバシャ、バシャ」と激しく動き回る・・・さすがに尺物になれば一気抜きはできない。水たまりから岸へと引き釣り上げる。丸々太った31cmの尺イワナであった。こんな小沢に尺イワナがいたとは・・・驚きと興奮が交錯・・・とりあえずイワナをなだめながら写真を撮る。網袋に入れ、水たまりに生かしておく。
 次なるポイントは、やや大きい水たまり。水深は浅く丸見えだが、イワナの姿は見えない。水たまりの中央へブドウ虫を落とす。またしても、尺イワナがスーッと現れてエサに食いついた。下流へ引きずり上げると、またしても31cmの尺イワナであった。まるで夢でも見ているように、尺イワナが立て続けに釣れた。

 一般に水量の少ない小沢は、イワナの種沢で、大きくなると本流に下る。だから大物は稀である。ところが、この小沢は、長い間、釣り人が訪れた形跡はない。それだけ人を警戒することもなく、そのまま水たまりに居付いて成長していたのであろう。
 3尾目は9寸余り・・・この程度のサイズなら、小沢で何度も釣り上げたことがある。ただし、キャパシティの小さい小沢を徹底して釣れば、イワナは枯渇してしまう。だから小沢の釣りは、間引くようにほどほどに釣るのが肝要である。
 落差2mほどの流木滝の水たまりは、これまでより壺が大きく水深も深い。エサを入れるとほぼ同時に、竿がのされそうに折れ曲がった。前後左右に激しく動き回るので、強引に引きづり込む。32cmの尺イワナであった。わずかな時間で、今晩の尺イワナ3本を含む刺身サイズが4本・・・朝の出掛け前に釣れてしまった。だからここで納竿・・・俄かに信じがたい夢のような出来事であった。興奮したまま、急ぎ足でテン場に戻った。
 奥で釣り上げたイワナなら、真夏日のような暑さの中、デポしたイワナを野ジメにしてから背中に背負ってテン場まで1時間ほど歩かねばならない。その間、イワナの鮮度は確実に落ちる。しかし、テン場のすぐ傍の小沢で釣れたイワナなら、調理するまでそのまま生かしておける。こんな地の利のある隠れ沢なんて、これまで記憶にない。
 奥の釣り場を目指して歩く途中、アキタブキの素晴らしい畑を見つけた。ナイフで茎を切り取ると、中から水が滴り落ちる極上品であった。
 アキタブキは、渓流沿いに群生し、食べるだけでなく日よけ、雨よけに最適である。秋田音頭には、「コラ秋田の国では 雨が降っても唐傘などいらぬ 手頃な蕗の葉 さらりとさしかけ サッサと出て行くかえ」
▲渓畦林の緑が深くなったイワナ谷
▲尺イワナ・・・巨岩が点在するゴーロ連瀑帯で尺イワナが2尾釣れた。
▲滝を大きく高巻く壺に、釣り上げた良型イワナをデポしておく。右の写真の赤いキノコはマスタケ。
▲散り始めたタニウツギ ▲カラマツソウ ▲ギンリョウソウ
▲ヤグルマソウ ▲コンロンソウ ▲ラショウモンカズラ
▲深山幽谷のイワナ釣り
▲良型イワナ 
▲腹部と側線中央部の着色斑点が鮮やかな個体
▲丸々太った尺イワナ・・・上流部で釣れた尺イワナは4本

 昼を過ぎたばかりだが、既に尺イワナは4本に達していた。こんなことは滅多にないのだが、釣れ過ぎると釣欲が失せてしまう。滝を越えて源流部に行くのは中止・・・あっさり納竿とする。早目にテン場に戻り、早朝探った隠れ小沢を探ってみることにした。
隠れ小沢で夢のような物語Part2・・・35cm

 早朝釣った流木滝の上は、しばらくザラ瀬が続き、二段のトヨ状の滝が現れた。慎重に近づき、滝壺にエサを振り込む。何年も釣り人が入っていない滝壺である。予想どおり、滝壺の主が何の警戒もなく喰いつく。美和ちゃんの竿がのされそうになる。両手で竿をしっかりと握り、低い姿勢でこらえる。そして、そのまま手前の河原に寄せる。暴れまわるイワナは、さすがにデカイ・・・。
 計測すると35cm・・・デカイだけでなく、美しい。深山幽谷の美魚に相応しい魚体であった。秋田美人のように、全身が白っぽい。ただしオスで、精悍な面構えをしている。斑点は明瞭で無着色斑点のアメマス系。尾ビレの上下に鮮やかな朱色のラインが入っているのが印象的な個体だ。
 腹部は鮮やかな柿色に染まり、滝壺に居付いているイワナであることが分かる。サンショウウオやカエル、ネズミ、蛇などを丸呑みできる鋭い歯が際立つ。その不思議な生態を知れば、「イワナは魚ではなく、獣」だと、つくづく思う。 
▲本流上流部で釣れた尺イワナ4本 ▲隠れ小沢で釣れた尺イワナ4本

尺イワナ8本の謎

 二日目は、真夏日で釣れない釣り日和であった。しかし、35cmを筆頭に尺イワナが8本も出た。大きなイワナほど警戒心が強いはずなのに、これはどういうことか。・・・

 エサは、盛期には釣れなくなると言われている市販のブドウ虫である。ゼロ釣法や特殊な仕掛け、技術は何一つ使っていない。にもかかわらず、これだけの尺イワナが釣れたということは、釣り人を警戒していなかったと考えるほかない。2年前にも「岩魚の湧く谷」を経験している。

 人間社会にとっては、少子高齢化、廃村化というのは大問題だが、クマやイワナなど野生の生き物たちにとっては、我々が考える以上に増加する方向に作用しているように思う。
それでも源流イワナの未来は危うい?

 イワナは、大洪水や大地震などで下流に押し流され、上流にいなくなることがある。その度にゼンマイ採りやマタギ、イワナ職漁師たちが下流で釣り上げたイワナを再び上流に運び復活、生息域を拡大してきた歴史をもっている。我々が源流のイワナ釣りを楽しむことがてぎるのは、こうした先人たちの山に生かされた文化があったからである。

 近年、地球温暖化とともに異常気象が頻発・・・ゲリラ豪雨でイワナが上流にいなくなったらどうなるだろうか。今や釣り上げたイワナを上流に運ぶイワナ職漁師や奥地に小屋掛けしてゼンマイを採るプロも既に絶滅、マタギも絶滅危惧種になっている。だからイワナの生息分布は、次第に狭くなるであろう。

 さらに地球温暖化が進むと、ブナもイワナも絶滅すると言われている。だから、イワナが増加するのは一時的な現象に過ぎないのではないか。イワナの未来は、決して楽観できないどころか、危ういようにさえ思う。
 最高の食材には、最高の調理で応えなくてはならない。早速、尺イワナの活け造りに挑む。

 まな板のサイズは35cm・・・真ん中のイワナが先ほど釣れた35cmである。いずれも肉厚でかつ淡い紅色・・・旬であることが分かる。薬味は天然のワサビでないと釣り合いがとれない。急きょ、ヤマワサビの根を採取し、薬味として添える。 
 尺前後のイワナを美味しく焼くにはどうするか。イワナは焚き火から少し離し、できるだけ火力の強い焚き火が必須・・・その遠赤外線効果を利用してじっくり焼き上げるしかない。宴会途中で、何回も串焼きイワナを裏返し、完璧に焼き上げる。
 7寸〜8寸前後の塩焼きはそんなに難しくない。しかし尺前後のイワナともなれば、骨の髄まで焼き上げるのは殊の外難しい。今回の尺イワナの塩焼きは、火力の強さと細かな調整でほぼ完ぺきな仕上がりであった。一般的な塩焼きというよりは、ブナの倒木の香りが沁み込んだ燻製風塩焼きである。盛大な焚き火でしかできない絶品の味である。
 焚き火は火力調節が難しく、飯盒で飯を美味しく炊くには熟練した技を要する。満80歳の会長は、ほとんど焦がすことなく美味しい飯を炊く。さすがである。
▲27cmのヤマメ・・・朝飯前に釣り上げた幅広の良型ヤマメ

イワナとヤマメ

 渓流釣りの対象魚は、イワナとヤマメの二種である。一般的にイワナ釣りは簡単で、ヤマメ釣りは難しい。だからヤマメ派は、イワナ釣りを冷笑する人もいる。しかし釣りの技術とは、釣り場に至るまでの遡行術、野営術も含めたトータルの技術であることを見落としてはならない。さらに言うならば、テントを担いだ源流釣行こそ、イワナ釣りの究極の面白さだと言える。

 イワナとヤマメの決定的な違いは何か。ヤマメは、釣り上げられて河原に横になると、立つことができずすぐに降参してしまう。イワナは、ムクッと起き上がり、流れに向かって歩く、あるいは走る行動をとる。釣り上げられても決して降参しないのがイワナである。
▲エゴノキの白い清楚な花 ▲ヒメアオキ
タケノコ採り遭難と防止の基本

 今年の谷は解けずに残る雪渓が多い。また、今年のタケノコは虫食いが多く不作と言われている。だからタケノコ採りで山に入った人たちは、良いタケノコを求めて見通しのきかない笹薮を歩き過ぎた結果、帰るべき方向が分からなくなり、遭難するケースが実に多い。

 6月25日、田代岳にタケノコ採りに入った親子が10日ぶりに救助されたとのニュースがあった。二人は沢水と山菜だけで命をつなぎ奇跡を呼んだ。2年前には、岩手県葛根田川へ迷い込んだタケノコ採り・78歳の男性が、何と20日も生き延びて救助されたことがあった。でも、これは悪天候に見舞われなかったという運もあってのことである。

 遭難を防ぐ基本は、山釣りでも山菜採りでも同じ・・・私の鉄則は以下の二つだけ
@.欲を出せば、山に殺される。だから山の恵みをいただく時は、欲を半分殺すこと。
A.山を勘だけで歩くのは危険・・・地図と磁石、高度計で常に現在地を確認しながら移動すること。
▲ゼンマイ ▲ヤマウドを採る
▲サワフタギ 
▲ハナニガナ ▲シロバナハナニガナ
▲岩魚つき林「ブナ」の若葉

「第25回ブナ林と狩人の会・マタギサミットin遠刈田」欠席


 今回の山釣りの3日後、38.2度の高熱が出て、病院に行ったところ「肺炎」を患っているとのことだった。2日後にマタギサミットに出席するため、宮城に向かう予定であったが、医者に無理と言われた。思えば、11回から24回まで一度も欠かさず出席してきただけに無念でならない。体力や抵抗力が落ちてくれば、病原微生物の感染力の方が上回り、肺炎になるという。

 山のベストシーズンとはいえ、6月はスケジュールが過密過ぎた。年齢とともに衰える体力、抵抗力・・・肺炎は「日本人の死亡原因の第4位」だという。侮れない病である。7月の山釣りに備えて、しばらく養生するしかない。

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