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夏の豪雨災害、アケビ、イワナ、死んだサル、ダイモンジソウ、ミズナラ、紅葉、黄金イクラ、縄文人とキノコ
 9月下旬、今年最後の山釣りは、青森県の某沢に向かった。本来ならマイタケが最盛期を迎えるはずなのだが・・・夏のゲリラ豪雨の傷跡が凄まじく、林道は寸断されていた。奥地の沢沿いのキノコ木もことごとく洪水に洗われたらしく、マイタケはおろか、雑キノコさえ生えていなかった。ただし、清流のシンボル・イワナは健在であった。(写真:ブナとミズナラの尾根をゆく)
 林道に入り、左岸から右岸に向かう橋を渡ると、すぐに通行止め。洪水で林道は完全に寸断され、スギの大木が何本も根元からなぎ倒されていた。その凄まじさがヒシヒシと伝わってくるような惨状であった。局部的な災害とはいえ、嫌な予感がした。
 林道を横断する小沢は、ことごとく洪水で洗掘されていた。洗掘崩壊がひどく、沢の右岸にある杣道の始点が分からなくなっていた。やむなく、昔利用していた尾根筋の直登コースに向かった。
▲アケビ

 アケビは、利用価値が高い。春は新芽を、秋は果実や皮を食用にする。ツルは細工物などに利用される。語源は、大きく口を開けた果実の形から「開け実」が変化したという説などがある。果肉は、半透明のゼリー状で、一見、和製のバナナといった感じ。黒い種がたくさん入っているので食べにくいが、ほんのりと甘い。
 山形では、アケビの皮を使った詰め物料理が有名である。
▲直登コースの尾根をゆく ▲アキノキリンソウ ▲マイタケの生えるキノコ木

 目的のテン場に向かう杣道沿いに、ミズナラの巨木が仁王立ちしている。荷を下ろして探るも、マイタケなし。地元のマイタケ採りであろうか・・・周囲に明瞭な踏み跡があった。こんな奥地にまでマイタケ採りが来ていることに驚いた。 
 K沢出合にベースキャンプを構える。この奥地のテン場を利用するのは、10数年ぶりのことであった。洪水の心配がない高台に平らなテン場がある。何とか、テントを二つ張る。源流部のイワナを追うには、ここにBCを構えるしかないが、周囲は風倒木が少なく、焚き火用の薪を集めるのに苦労させられた。
 アッちゃんが早速、竿を出す。晴れで、かつ超渇水の悪条件であったが、ほどなく刺身サイズのイワナを釣りあげた。以降、入れ食いが続く。結論的に言えば、サルでも釣れるイワナ釣りであった。
 流れは細く、イワナが丸見えだが、ポイントごとに釣れてくる。ちょっと合わせのタイミングが遅れると、喉の奥まで針を呑み込まれてしまう。産卵期を間近に控え、荒食いしているようだ。右上の写真のように、真っ黒にサビついたイワナも数匹釣れた。
 2時間弱で今晩のイワナに十分の釣果。早々と竿を畳み、デポしたイワナを回収しながら下る。BCに午後4時半頃着。河原でイワナの調理をしていると枝沢班が帰ってきた。水が極端に少ないので、イワナは期待できないとのことであった。だから明日は、全員で本流の源流部を探釣することに決定した。
▲これは何でしょう?

 死んでいたサルのお尻の部分。毛がフサフサして美しい。それにしても大型のサルであった。ボスザルの争いに敗れたのか、それとも老衰なのだろうか。全体も撮影しているが、綺麗とは言えないので割愛した。
▲ダイモンジソウ

 洪水で沢全体が洗い流され、秋の渓流の定番・ダイモンジソウの花がほとんど見当たらない。上の写真は、沢沿いではなく、洪水の影響がなかった高い岩盤に咲いていたもの。スギヒラタケとダイモンジソウが満開になると、マイタケが生えるサインなのだが・・・・。
 二日目、他の4人は源流部のイワナ釣りへ。私は一人マイタケ探しに出掛ける。まずはテン場下流のV字ゴルジュ帯の斜面に林立するミズナラを調査しながら歩く。
 花崗岩の岩場地帯・・・ミズナラが林立する急峻な尾根筋にとりつく。柴をつかみながら上り、半枯れのミズナラ周辺を探る。尾根を上って行くと、杣道沿いに仁王立ちしていたミズナラの巨木に辿り着いた。めぼしい尾根は、ことごとく踏み跡があった。諦め、下流に下る。
 右岸にミズナラの巨木が倒れていた。もしかして、と思い近付くと、マメすらなかった。両岸は、ミズナラが林立していたので尾根筋を入念に探ったが、マイタケの気配はゼロであった。
▲ツキヨタケ ▲ニガクリタケ

 ブナの倒木にツキヨタケやニガクリタケが一部に生えていたが、例年より少ない。いつもなら、白く目立つブナハリタケの群生に出会うのだが、全く見当たらない。シイタケもサワモダシもなし。夏の局所的なゲリラ豪雨でキノコの菌が、ことごとく流されたのだろうか。嫌な予感が的中してしまった。
▲ハウチワカエデの紅葉

 葉は切れ込みが浅く、カエデの中では最も大きい。紅葉が逆光に透けて美しい。右岸の尾根を上り、杣道を辿ってBCで昼食をとる。マイタケに当たれば、疲れも吹き飛ぶが、当たらないと疲れは溜まるだけである。マイタケは×でも、次回のために林相調査はしておかなければならない。気を取り直して上流部を探る。
▲ミズのコブコ(ムカゴ)

 この時期最も美味しい山菜は、ミズの茎と葉の付け根に小さな丸いムカゴ状の実である。一夜漬けが美味い。
 上流部は、左岸にミズナラが目立つ。尾根を上り、キノコ木らしきミズナラの巨木に近づくと明瞭な踏み跡があった。ここでBCにカメラを忘れてきたので、この踏み跡を辿って下る。何と、この道は、斜面の中腹を沢とほぼ平行についており、ミズナラのキノコ木を結ぶマイタケの道であった。しかも、倒れた草も新しい。サカリ、スワリ状態のマイタケがないのは分かるが、マメすら見えないのはおかしい。  
▲仲間がデポしたイワナ
 沢を上ると、仲間が釣り上げたイワナがデポしてあった。巻きを強いられる滝までデポした箇所は3ヵ所。入れ食いで釣れているようだ。この滝上は、恐らくイワナ天国であろう。急峻な尾根を上ったり、下ったりしながら林相調査を行ったが、マイタケが当たらないと疲れはピークに達した。

 BCに午後2時半着。ガス欠状態だったので腹ごしらえをしてから、テントで昼寝をする。午後4時頃、仲間が帰ってきたようだが、しばらく気付かずに眠っていた。予想どおり「イワナ天国」を満喫してきたようだ。
イワナの卵・「黄金イクラ」

 産卵期を間近に控えたメスイワナの腹を割くと、大粒の卵が二列になって入っている。それを綺麗に洗い、水を切る。入れ物は密封容器。酢をたっぷり加えて、醤油を少々入れて味付けをする。30分ほどねかせると、味が沁み込んで美味しい。

 上の写真は、偶然できた「黄金イクラ」。残り物を密閉容器に入れてザックに背負い、昼に食べようと蓋を開けると、卵が一粒一粒に分離し、見事な黄金イクラになっていた。口の中でプチッと弾けて絶妙な味である。ということは、釣りが終わった現場で腹を割き、卵に酢醤油を加えた密閉容器をザックに背負ってテン場に下れば、「黄金イクラ」が完成しているのではないか。今度はぜひ試してみたい。
 今年最後の源流酒場。このテン場周辺は、岩場が連続しており、塩焼き用のネマガリダケが皆無である。やむなくヒモで吊るして焼くしかなかった。

 北の基層文化は、縄文文化・・・無人境の谷で焚き火を囲むと、何となく「縄文人」になったような気分になる。縄文人は、狩猟採集民ではなく、「採集漁労民」といった方が実態に近いと言われている。ということは、山釣りが縄文人に最も近い遊びと言えるかもしれない。
▲色付き始めたブナの森 ▲3日目の朝食。

 三日目の朝の朝食は、卵納豆、サラダ、卵の酢醤油漬け、キノコ汁。特に昨日、少量採ったサワモダシとナメコが入ったキノコの味噌汁は絶品であった。これにマイタケがあれば、山釣り天国であったが・・・それは来年に持ち越しと相成った。
▲伊勢堂岱遺跡のキノコ形土製品 ▲三内丸山遺跡のキノコ形土製品

 縄文時代には、ブナ、ミズナラなどの広葉樹の森に覆われていた。東北及び北海道の遺跡から、たくさんのキノコ形土製品が出土している。だから縄文人にとって、キノコは貴重な食料であったことが伺える。
▲今回のメンバーは5名

 山釣り最長老・満80歳の中村会長(前列左)は、今も健在そのもの。秋は、山菜がミズぐらいしかないので、キャベツとキュウリ、玉ねぎを持ってきたら怒られた。会長曰く、「山さ来たら、山の物で賄うのが当たり前だべ」・・・さすが縄文人的最長老である。 
予告・・・太平山系でマイタケリベンジ
 今年のマイタケはダメかと思ったが・・・10月1日、遅ればせながら出てきた!マイタケ。苦戦が続いただけに、1本の木から大小7株の黒マイタケに当たった時は、思わずガッツポーズをしてしまった。ありがとうマイタケ、ありがとうミズナラ、ありがとう山神様・・・であった。

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