山釣り紀行TOP

 2015年4月24日(金)・・・ブナの木々が芽吹き、雄花が一斉に垂れ下がる。雪解けの早い海岸部は、サクラが満開。沢の下流部では、ニリンソウの大群落が白い絨毯を敷き詰めたように花を咲かせ始めた。山菜採りシーズンを告げるニリンソウに負けじと、アイコ、シドケ、ホンナ、ヤマワサビ、クレソンなど雪国を代表する山菜たちが次から次へと出始めた。
 ナベちゃんと二人でイワナ谷に向かう。数年ぶりに下流部を釣ろうと、手前の小沢を下ると・・・下流から釣り上がってきた単独釣り師と出会った。ならば三人で一緒に釣り上がるしかないか。ところが、関東から来たという単独釣り師は、「三人じゃ釣りにならないから、30分ほど邪魔にならないよう歩いてから竿を出してくれないか」とのこと。

 釣り始めたのは、1時間ほど前の5時半・・・既に良型を5尾ほど釣り上げていた。目の前で良型を釣り上げるのを見届けてから、イワナのポイントを荒さないよう足早に上流に向かった。中流部で唯一巻きを強いられるゴルジュ帯を過ぎてから竿を出す。
 渓畦林が芽吹く中を雪代水で増水した流れは、やや笹濁り状態であった。こういう時のエサは、ミミズが一番。重いオモリでポイントの底を探り、ミミズ特有の臭いと動きでイワナを誘う。
 雪代の洗礼を受け、黒いサビが薄くなったイワナが顔を出す。着色斑点が鮮やかなニッコウイワナと無着色斑点のアメマス系が交互に釣れてくる。しかし、それも束の間・・・イワナの魚影が薄い荒れたゴーロ帯に突入してしまった。
 ゴーロが続く前後は、渓相良好だがイワナの型は今一つ・・・白泡渦巻くポイントで粘っても、釣れてくるのはリリースサイズ。見渡せば、根こそぎ倒れた木々や真新しい崩壊巨岩が目立つ。そんな不安定なゴーロ区間をイワナが好むはずもない。足早に上流をめざすも、巨岩を乗っ越すのが難儀であった。
▲ちらほら白花が咲き始めたニリンソウ ▲エンレイソウ
▲カタクリ ▲スミレサイシン
 ゴーロを抜けると、狙いどおりに良型がヒット。エゾイワナのように白い斑点は大きく鮮明だ。背中の斑点は虫食い状に乱れ、側線前後の斑点は鮮やかな橙色に染まっている。
▲ヤマワサビとクレソンの群落

 雪解けの湧水が沁み出す斜面一帯は、ヤマワサビとクレソンの大きな群落を形成している。しばし竿を置き、今晩の刺身用の薬味として根の太い株を選び数本採取する。
 薬味用のワサビを採取すると、ほどなくメインデッシュ・刺身用サイズのイワナが釣れた。かつては、沢を歩いて釣る余りの難儀さに、皿の上に刺身で調理された状態で釣れれば、などと楽なことばかり想像したこともあった。けれども、自らイワナを釣り、自らイワナをさばいて調理するからこそ、釣りの楽しさは何倍にも膨れ上がることを知る。
▲濃い紫色のキクザキイチゲ ▲エノキタケ(ユキノシタ) ・・・味噌汁、和え物、天ぷら、お吸い物、野菜炒め、鍋物など。
 雪代に磨かれた白い魚体・・・惚れ惚れするような清流の美魚に満足。けれども、残雪を吹き抜ける風は、殊の外冷たく、雨具を着ないと寒さで震えるほどであった。
 ほどなく、辺りは急に暗くなった。いつ雨が降り出してもおかしくない雲行きに一変した。時計を見ると、まだ11時だが、早々と納竿。昼食をとり、エネルギーを充填した後、山菜でも採りながらのんびり下ることにする。
▲ブナの花と若葉
▲タラノメ ▲アイコ ▲シドケ
▲ミズバショウ ▲オオバクロモジの花  ▲キブシ 
▲ミヤマキケマン ▲タチツボスミレの群落
▲イタヤカエデの黄色の花 ▲ハウチワカエデの紅色の花
▲ニリンソウの大群落

 下流に下ると、林床を彩るカタクリやキクザキイチゲが姿を消し、ニリンソウの大群落が到る所に目立ち始めた。この風景こそ、雪国の人たちが待ちに待った山菜採りシーズンの幕開けを告げる風景である。毎年開催している森の学校「山菜講座」には、多くの山菜ファンが押し寄せる。山菜の宝庫・秋田は、レベルの高い山菜王国であると、つくづく思う。
▲シドケとアイコを湯がく ▲今年の初物・・・シドケとアイコのおひたし
▲そして今晩のメインデッシュ・・・イワナの刺身と野生のワサビ

 一風呂浴びてから、山の恵みを調理する。これまた楽し。まず鍋に湯を沸かし、塩を少々入れ、シドケとアイコを湯がいた後、冷水に浸し水を切る。アイコは、一本一本皮を剥いてから食べやすい長さに切る。次いでヤマワサビの根のヒゲ根をとり、包丁の先で皮を丁寧に削ってから摩り下ろす。

 最後にイワナの刺身を大皿に盛り付け完成。今晩は、全て山の幸を肴に熱燗を飲む。自らの手と足で釣り、採った食材で飲む晩酌は、まさに至福の時間。釣り師冥利に尽きる。  

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