山釣り紀行TOP

 今年は、サクラの開花が10日ほど早かったが、その後も真夏日が続いたので、雪代は終盤にさしかかっていると思った。ところが、山には意外に雪が多く、雪代のピークは今なお続いていた。5月のGW・・・雪代で沸き返るゴルジュ帯には、オオサクラソウが満開・・・イワナのポイントはイマイチだったが、待ちに待った山菜採りは、既に本番に突入していた。
 2015年5月3日〜5日、今年初の山釣りへ。昨年、病で1年間療養していた長谷川副会長が元気に復帰し、1年半ぶりの参加となった。リハビリを兼ねて、心臓破りの急坂を登る。健康な人でも、初めての山釣りは、体が重く、なかなか足が前に出ない。すぐに心臓の鼓動が激しくなり、休む回数も多い。急ぐ旅でもないので、休み休みゆっくり登る。
 満81歳の山釣り最長老は、今年も胴長にピンソールという珍奇なスタイルで元気に歩く。一歳年上のプロスキーヤー・三浦雄一郎氏より若く感じるほどの超人である。だから山釣り最長老の記録をどこまで延ばせるのか・・・興味が尽きない。
▲ラショウモンカズラ ▲オドリコソウ ▲シラネアオイ
▲タチツボスミレ ▲クルマバソウ
▲ハコネサンショウウオ

 ハコネサンショウウオは、他のサンショウウオと比べて尾が圧倒的に長いこと。大型で体が細長く、体色は暗い赤褐色で、背面中央部には黄褐色の帯状斑紋が連なっている。日中は、森の岩や倒木の下、樹洞内に潜伏しているが、夜間や雨天時には行動して昆虫やミミズなどの小動物を食べる。
▲珍しいネマガリタケ(チシマザサ)の花

 ネマガリタケは、イネ科だから花は穂状である。何と60年に一度しか咲かない。それだけに、この花を観察できるのは、珍事に等しい。花が咲く時は、群落全体が咲き、結実後、枯死する。その後10年ほど経つと再び生えてくる。
▲背丈が伸びたトリカブト群落 ▲ニリンソウ
 4月29日、横手市と大仙市で31.2度、由利本荘市で30.9度を記録するなど真夏日が続いた。その後も好天が続き、5月のGW・・・山菜畑沢の草木がこんなに伸びたのは初めてのことである。シドケやアイコは、伸び過ぎて旬を過ぎつつあるものが目立った。山菜は、例年より10日〜2週間ほど早い印象である。 
▲シドケ
▲旬を過ぎて、伸び過ぎたアイコ

 日当たりの良い斜面のアイコは、茎が伸びて葉が大きく開いていた。こうなると、根元側からかたくなるが、茎の上部は十分食べられる。茎をつかみ、自然に折れるところから折り採る。
▲春ヒラタケ・・・味噌汁用に採取 ▲ミヤマキケマン
満81歳の山釣りその1・・・重い荷を背負い、山菜畑沢の急斜面を自在に歩きながら山菜を採る。
満81歳の山釣りその2・・・穴の開いた胴長を補修し、激流を渡渉したり、急斜面を攀じ登ったりしながらイワナを釣る。
満81歳の山釣りその3・・・自らノコギリで風倒木を切り、盛大な焚き火をおこす。イワナの塩焼き用の串を作ったり、三脚もつくる。焚き火で飯を焚いたり、山菜の調理もする。車止めで山釣りをスタートした時点から、片時も黙っていない。そのエネルギーの源はどこからくるのか・・・介護・高齢者福祉とは全く無縁な超人である。
 雪代で沸き返るゴルジュ帯は、流れが速く、笹濁り状態で釣るポイントはほとんどなし。渡渉は、もちろんスクラム渡渉をしない限り、足をとられて流されるのは必須の状態であった。こんな時は、臭いと動きで誘うミミズが一番である。
 雪代時の釣りは、重いオモリとミミズをエサに、わずかなポイントに垂直に落とす点釣りがベスト。「の」の字を描くように探り、イワナの頭周辺に来ると、ミミズの端っこをくわえる。道糸を緩めると、針を喉の奥まで呑まれる確率が高い。それではイワナへのダメージが大きすぎるから×。

 針を外しやすいように上顎に掛けるには・・・道糸を決して緩めてはならない。道糸を張ったまま、竿を上下に動かし、イワナを挑発すると、イワナは必ずエサをくわえて走る。その瞬間を逃さずアワセルと、針は飲みこまれることなく、上顎に掛かる。
オオサクラソウの楽園

 雪代の流れが轟音を発する岩場には、新緑に映える鮮やかな紅紫色の大きな花・オオサクラソウが満開に咲き乱れていた。白神の中でも唯一、ここだけでしか見ることが出来ない大群落・・・オオサクラソウの楽園と呼ぶにふさわしい聖域である。
  渓流沿いの岩場に群生するオオサクラソウは、谷筋の渓畔林が芽吹き、萌黄色の新緑に包まれる新緑初期に満開を迎える。新緑初期の柔らかい木漏れ日を一杯に浴びながら群れをなして咲く光景は、春の訪れを皆で喜び合い、実に幸せそうに見える。そして、雪代が終わり谷が深い新緑に覆い尽くされ、峡谷に届く光が乏しくなると、はかなく消えてしまう。まるでスプリングエフェメラル(春のはかない草花)のような花でもある。
▲岩場の上部に群生するオオサクラソウ

 何も花見は、樹木のサクラに限らない。山釣りの花見は、オオサクラソウ・・・沢のゴルジュ帯に咲き誇る新緑とオオサクラソウでも充分満喫できる。それほど、この希少な大群落は素晴らしい。
 
▲カエル合戦

 春になれば、アズマヒキガエルは、温かくなった沼や沢筋の水溜まりにに集まってくる。メスは、オスの半分ほどしかいない。水溜まりでは、多数のオスたちが、メスを巡ってカエル合戦を繰り広げる。負けたオスは、交尾中のオスの上に何度も跳び乗ろうとする。その度に、足で蹴飛ばされ、ひっくり返る。一匹のメスに群がるオスたちで団子状態になったりする。やがて巨大な卵塊から、多数のオタマジャクシが誕生する。雪国の春は、新たな命を生む季節でもある。
▲刺身サイズのイワナは一人一匹。6名のパーティにつき6匹を刺身用にさばく。
▲イワナの刺身 ▲皮とアラは唐揚げに
▲頭と骨は骨酒用に焚き火で焼く ▲山菜を湯がき、冷水にさらす
▲アイコの皮むき ▲アイコのおひたし
▲シドケのおひたし ▲焚き火を囲んで宴会モード突入

 久々の源流酒場。さらに長谷川副会長とは1年半ぶりの再会だったから、積もる話が尽きず、本日の酒はとうに飲み干し、ウイスキーもほとんど空になるまで飲んでしまった。お蔭で翌朝は、二日酔い状態であった。山釣りで飲み過ぎると、熱中症の危険が大きくなる。だから水分をかなり多めにとった。
 朝飯と昼飯のごはんを焚く。朝は、納豆ご飯とヒラタケの味噌汁。昼は、お茶漬けと焚き火で焼いたイワナの塩焼き。山菜班は2名、残り4名は源流のイワナ釣りに向かう。
▲ムラサキヤシオツツジ ▲オオカメノキ
 ゴルジュ帯の高台に広がる緩斜面は、ちょうど食べ頃のシドケ、アイコがあちこちに群生していた。山菜班2名は、この斜面で極上品を選びながら2時間ほど採取したという。
▲ハウチワカエデの花 ▲ハルリンドウ

 崖が連続する斜面を直登していると、春に咲くハルリンドウが咲いていた。標高差200m余を直登するルートは、何度歩いても、超ハードなルートだ。
 杣道を辿り、一気に源流部二又へ。周囲には今だ残雪があり、カタクリが満開に咲いていた。テン場周辺が「初夏」のような季節に対して、源流部はまだまだ「早春」・・・その落差に、改めて驚かされる。
 昼食後、二班に分かれ、二又集合時間は午後3時とする。会長とナベちゃんは、本流へ、私とK氏は、枝沢へ入った。キクザキイチゲが咲く早春のイワナらしく、真っ黒にサビついたイワナが釣れた。
 この時期、枝沢は、釣りができる区間が数百メートルと短い。さらに悪いことに雨が降り出してきた。雪代に雨が加わると、最悪である。釣りは、1時間余で納竿。それでも、全身真っ黒にサビついた刺身サイズのイワナは4尾であった。二又には、午後2時半過ぎに到着。雪代のピークに雨が加わり、水嵩が増した。本流班は、約束の3時を過ぎても帰る気配はなかった。

 ナベちゃんが先に帰ってきたが、先行した会長は一向に帰る気配がない。胴長を履いた81歳の高齢に加え、雪代と雨で水嵩が増している。心配は募るばかりだったが・・・待つこと1時間余、やっと杖を頼りに激流を渡渉しながら下る会長の姿が見えた。
  上の写真は、午前中に撮影・・・朝は、雪代も治まり、一人でも渡渉できた。しかし、帰りは、雪代に加え、雨が降り続いたため、格段に増水していた。二人程度のスクラム渡渉では流される勢いであった。4人全員で横一列にスクラムを組み、カニの横這い方式で何とか渡り切った。テン場に着くと、雨足はさらに強くなり、一気に濁流と化した。もう少し遅れると、沢の渡渉は不能に・・・雪代期の雨は、本当に怖い!
 3日目・・・テン場をきれいに片付け、荷を背負う。長谷川副会長は、2日目に採った大量の山菜を背負った。だから、もう採らないと思ったが・・・重い荷を背負ったまま、斜面をジクザグに歩きながら山菜を採り始めた。さらに、私より早く、標高差220mを登り切った。その元気な姿を見れば、「完全復活」といっていいだろう。山と渓谷は、人の病を直し元気にしてくれる。これは、単なるお話ではなく「真実」である。

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