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 2015年6月12日〜14日、4名のパーティで再び「イワナの楽園」に向かった。前回は一番乗りで、かつ雨と雪代で水量が多く絶好の釣り日和であった。もしかして「イワナの楽園」は、ラッキーが重なった結果かもしれない。再訪の結果は・・・渇水状態にもかかわらず、35cmを筆頭に尺イワナは22本。「イワナの楽園」は、夢でも幻でもなく本物であった。
▲ヤブと化した杣道をゆく ▲イワナもデカイが、ナメクジもデカイ
▲マスタケ ▲ユキザサ
▲マイヅルソウ ▲ヒメシャガ
▲サルメンエビネ  ▲ヤグルマソウ
▲ミヤマカラマツ ▲タニウツギ
▲ヒメアオキ ▲ツクバネウツギ
▲ガマズミ ▲エゴノキ
▲真新しいクマの糞

 タケノコを採ろうと、ネマガリダケの林に入ると、巨大なクマの糞があった。そのすぐ右手には、子グマと思われる小さな糞も・・・恐らく、大好物のタケノコを食べて一休止した親子グマであろう。

タケノコ採りとクマの人身被害

 2007年6月14日、鳥海山にタケノコ採りに出掛けた男性が、クマに襲われ遺体で発見されるという悲惨な事件があった。周辺には、弁当の空き箱や空き缶、レジ袋が捨ててあった。遺体が発見された現場には、被害者が持っていた食料が食い散らかされていたという。人間の味を覚えたクマが、食べ物目当てに近付いた悲劇と推察されている。

 今年も同じく鳥海山4合目付近で人身被害が発生している。2015年6月8日、タケノコ採りをしていた夫婦がクマに襲われ、二人とも重傷を負った。また、ラジオを鳴らし、その下に昼食の入ったリュックを置いてタケノコ採りをしていたら、リュックが破られ昼食を食べられてしまったという事例も少なくない。

 タケノコ採りの人たちが放置した食料や捨てた残飯で、その味を知ったクマには、クマ避け鈴やラジオをいくら鳴らしても、エサのありかを知らせる道具に一変してしまう。そんな餌付いたクマは、人間に寄ってくるので最も危険である。だから、タケノコ採りのマナーとして、昼食用の食料を放置しないこと、残飯や生ゴミは絶対に捨てないことを徹底する必要がある。
山釣りと森林セラピー効果

 山釣りは、森林セラピー効果を得る最高の趣味だと思う。森林セラピーとは、これまで感覚的に語られてきた「森林浴」の癒し効果を科学的に解明し、「ココロとカラダの健康づくり」に活かそうという試みで、一歩進んだ「森林浴」ともいえる。

 イワナを追いながら渓流を歩けば、森林浴とマイナスイオンの効果で、細胞が活性化し、疲労度が大幅に軽減される。だから一日中歩き回ることが可能で、それだけ運動量も多く、血圧の正常化や足腰の筋力強化が期待できる。さらに、眠っていた五感が研ぎ澄まされる。

 森の葉が風に揺れる音、水の流れる音・瀬音、野鳥の囀り、セミなどの天然の音は、脳活動の沈静化に効果がある。木の葉や幹を触る、巨木に抱きつく、森林・渓谷美を見る、滝の飛沫を浴びる、木の香りを嗅ぐ、名水を飲む、野生のイワナを釣る、山菜、キノコを採り、天然の恵みを丸ごと味わう・・・森と水のパワーを五感で味わうことによって、ストレス解消、免疫力アップ、ひいては心身の健康維持・増進、疾病の予防が期待できる。山釣りは、ストレス社会を生き抜く最高の趣味ではないだろうか。
 今年は好天が続き、雨が極端に少ない。イワナの楽園とはいえ、渇水状態でイワナ釣りのコンディションとしては決して良くなかった。テン場は、前回より上流部に構え、「イワナの楽園」の源流部まで詰める計画である。初日は、会長とダマさんが上流へ。私は一人下流に下がって本流を釣り上がることにした。

 まず手始めに、右岸から合流する小さな沢に入ってみた。渇水状態でイワナは丸見え・・・エサを入れると、岩陰に隠れていたイワナがサッと現れ、ブドウ虫のエサに食らいつく。サイズは9寸前後と良型であった。
▲小沢の魚止めで釣れた34cmの尺イワナ

 小さな沢の魚止めは、本流との出合から100mほどと近い。魚止めとは言え、滝壺の水深はそれほど深くなく、不用意に近づくと、イワナには丸見えで決して釣れない。だから下流から低姿勢で接近。できるだけ離れた位置から流れの中心に振り込む。2、3回振り込むもアタリなし・・・オ・カ・シ・イ・・・しつこく粘っていると、イワナは、我慢できずにくらいついた。

 竿は満月状態になり、上下流へ激しく走り回った。強引に水面に顔を出させ、弱らせてから岸に引きずりあげる。計測すると34cm。一人興奮しながらカメラのシャッターを押し続けた。
 本流に戻ると、テンカラかチョウチン毛バリが最適のようなコンディションだったが・・・仕掛けを変えるのが面倒で、そのままエサ釣りで釣り上がると、いきなり尺イワナが釣れた。以降、イワナはほぼ入れ食い状態で釣れた。そんな警戒心の薄いイワナを見れば、この沢の中流部も、釣り人が少ない証左であろう。
▲31cmの尺ヤマメ

 それを決定づけたのが、上の尺ヤマメである。テン場付近の流れが穏やかな区間までは、イワナとヤマメが混生している。やや水深の深い瀬にブドウ虫を振り込むと・・・イワナがヒットすれば、一旦目印が止まるはずだが、いきなり赤い目印がサーッと上流に走った。慌てて合わせると、凄まじいアタリが返ってきた。そのファイトを楽しみながら、岸辺に引きづり込む。小形巻尺で測定すると31cm。釣り人憧れの尺ヤマメであった。
▲黄金イワナとヤマメ
▲33cmの尺イワナ・・・片手でつかみ切れないほど体高のあるイワナであった。
 初日の釣果は・・・上から34cm、33cm、30cm、31cm。上流組は33cmが1本で、尺以上は合計5本。「イワナの楽園」の予行演習としては、申し分のない釣果であった。
▲粘り気抜群のヤブワラビ
 予報どおり、宴会が始まると、雨が降り出してきた。その雨は、ほとんどやむことなく、朝まで降り続いた。翌朝になると、水嵩は増し、濁流と化していた。それでも雨が止むと、濁りは消え、水量もみるみる減っていった。雨後の入れ食い・・・それを想像しながら、源流部のイワナの楽園に向かった。
 二日目の予報は曇りであったが、山は小雨が降り続いた。だから、カメラをほとんど出すことができず、イワナ釣りに専念するほかなかった。イワナの楽園は・・・丸々太った丸太イワナ、それも尺イワナが入れ食いで釣れるという夢のようなドラマが続いた。
▲33cmの丸太イワナ

 前回、釣り上がった区間でさえ、丸太のような尺イワナが釣れた。だから決して「入渓一番乗り」だけの珍事ではなかったことが分かる。一般に、尺イワナは、頭がデカク、スマートな魚体が多い。それに比べて、この丸太イワナは、体高が高くズシリと重い。こんなに肉厚なイワナは、他で見たことがない。
 珍しく「頭のつぶれたイワナ」が釣れた。奇形にしてはデカイ。計測すると、何とジャスト30cmであった。小型犬の1品種狆(ちん)と顔つきが似ていることから、学術的には「狆頭(ちんとう)イワナ」と呼ばれている。
 「頭のつぶれたイワナ」は、上顎が切り取られたように目の直前でなくなり、下顎が突き出している。正面から見ると、「人魚」のように見えるが、口の変形が著しいのが気になる。奇妙な顔を除けば、ごく普通のイワナである。 
 下が普通の尺イワナ、上が頭のつぶれたイワナである。頭のつぶれたイワナの成長速度は、通常個体と比べて低く、明らかに適応上不利と考えられる。けれども、30cmというビッグサイズに成長している。この事実は、お互いに競争することを避け、食い分けをしながら共存しているようにも見える。劇的に変化したイワナの楽園といい、イワナの謎は深まるばかりである。
▲「頭のつぶれたイワナ」はリリース

 昔から、「頭のつぶれたイワナ」を釣り上げると、釣りを引退する習わしがあった。もし、それに逆らうと大変な災いがあるといわれている。それほど、この怪魚を釣る確率は低く、釣り上げるのも難しい。まして尺物ともなれば、イワナの楽園でしかお目にかかれない希少価値がある。釣り上げたのは、釣りキチ・ダマさん。彼は、大きな怪魚のタタリを恐れたのか、あっさり竿をたたんでしまった。

 「頭のつぶれたイワナ」は、生物学上極めて貴重な個体であることは言うまでもない。また、我々釣り人にとっても、イワナの「原種保護」を考える際に、なくてはならない貴重な個体である。だから、万が一釣り上げたらリリースするのが釣り人の習わしである。それは同時に、タタリを逃れる唯一の方法でもある。
 前回、竿を納めた区間より上流の源流部に来ると、これまで経験したことのない爆釣となった。我々に気付いて浅瀬を走るイワナでも、エサを入れると食いついてくる。早合わせをしてしまい、空中に舞い上がったイワナを落としても、再度エサを振り込めば、食いついてくる。しかも、サイズは尺以上の丸太イワナである。「イワナの楽園」は、一過性のものではなく本物であった。
 上の写真は、イワナの楽園の最源流部。このポイント右側の瀬尻で9寸余のイワナを釣りあげた。後ろから来た中村会長が、それを知らずに落ち込みの左側に振り込んだ。「ここで釣ったんだ」というと、上流へ移動しようとして竿を上げた。すると、既にイワナが掛かっていた。しかも、サイズは33cmであった。
▲丸太イワナの塩焼き

 イワナの楽園で竿を納め、出発したのが午後4時過ぎ。途中、イワナ用の竹串を採取したが、テン場に着いたのは、暗くなる寸前の午後7時をとうに過ぎていた。足早に歩くこと3時間余・・・歩き過ぎて、股ズレならぬ膝ズレを起こしてしまった。イワナの楽園は、やはり遠い。イワナは、技術ではなく「足で釣る」ことを象徴するような一日であった。
 イワナは、大物ほど警戒心が強いと言われる。しかし、「イワナの楽園」では、その常識が通用しない。二日目の釣果は、35cmを筆頭に尺以上が合計16本。リリースした1尾を加えると、17本。二日間合計は、22本である。会を結成して31年目になるが、こんな爆釣は記憶にない。

 思えば、この沢に初めて入ったのは28年ほど前のことである。奥地の源流部に位置する沢とは言え、意外に魚影が薄かった。だから、15年もの間、この沢に入ることはなかった。そんな忘れ去られた沢が、「イワナの楽園」になるとは想像だにしていなかった。

 この沢をテリトリーにしていた釣り好きのマタギや杣人は、とうの昔に引退している。だから、近年、クマもイワナも増えているのは、急速に進む少子高齢化時代を迎え、人間が自然から撤退しているからであろう。だとすれば、「イワナの楽園」を探すには、少子高齢化が顕著な地域にターゲットを絞れば良いことになる。

 けれども、その真偽のほどを確かめるには、各沢々をくまなく歩き、足で確認する以外にない。だから、イワナの楽園を探し当てるのは、昔も今も、簡単なことではない。ただし、その確率は、昔より高くなっていることだけは確かである。(写真は全て尺イワナである)

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