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 奥が極めて深い岩魚谷源流部の探釣は、これまで幾度も計画しながら、台風や大雨に見舞われ実現することができなかった。2015年8月上旬、願ってもない好天に恵まれ、初めて未知の源流部に足を踏み入れることができた。

 数段が連なるナメ滝を越え、狭く深く長い廊下状のトロ場を抜けると、雪煙が舞う大雪渓が行く手を阻んだ。真夏の渇水期、釣れない釣り日和にもかかわらず、34cmを筆頭に尺を超えるイワナは十数本・・・やはり「イワナの楽園」であった。
 今年の夏は雨が少なく、どこの谷も渇水状態が続いていた。さらに前日は33℃、当日は34℃の猛暑に見舞われた。しかし、こういう時にしか、アプローチが極めて長い険谷の源流部を踏破することはできない。その願ってもないチャンスがやってきた。

 ブナ帯の広葉樹が両岸から岩魚谷を覆い尽くすほどの渓畦林・・・4人のパーティは、その木漏れ日を浴びながら清流を右へ左へと渡渉を繰り返しながら源流へ。やはり猛暑の夏は、沢歩きに限る。今回は、新調したコンパクトデジカメの実写テストを兼ねて400枚以上を撮影・・・結果は、「◎」。
▲コンデジ「キャノンPowerShot G3 X EVF KIT ▲オオカメノキの実・・・真っ赤な実は、黒く熟す
▲ホツツジ ▲リョウブ
▲エゾアジサイ ▲ノコンギク
▲ウスヒラタケ ▲8月には珍しいブナハリタケ
▲エサは現地採取 ▲羽のないバッタ・・・最高の常食エサ

 中流部は、訪れる釣り人も多く、市販のエサでは食いが鈍い。エサ釣り組は、石をひっくり返して川虫採りをしたが、大半が羽化したらしく小物が多い。バッタは、8月〜9月、かつて職漁師たちが使っていた最高のエサである。早朝、羽が濡れている時に虫かごに入れて採取する。現地では、バッタや谷を飛び回る赤トンボをつかまえ、それをエサに釣り開始。その効果は、すぐに出た。
▲81歳の中村会長、34cmのイワナを釣る

 中村会長の仕掛けは、視認性の良い玉ウキを使っているのが最大の特徴。長い仕掛けでも、オモリをつけずに玉ウキの重さで飛ばすことができる。だから夏の渇水期に落下昆虫を浮かせて釣る場合は、絶大な効果を発揮する。エサは、バッタや羽を切った赤トンボを浮かせて釣る。イワナは、毛バリ釣りと同じく、瀬を流れるエサに水面を割って食いつくだけにすこぶる楽しい。
 いつもなら高巻きを強いられるゴルジュ帯・・・中村会長は、その深い瀬に赤トンボを流す。その深い淵に潜むイワナは、電光石火のごとく水面を割って飛び出し、赤トンボをくわえて反転、水中に潜った。竿は弓なりになり、上下流へと激しく動き回った。素晴らしいファイトを見せてくれたイワナも、次第に力尽きる。ナベちゃんが川虫採り用の網をタモ代わりにして取り込む。
▲34cmの尺イワナ

 斑点はやや不鮮明だが、無着色斑点のアメマス系イワナ。底まで透き通るような清流にふさわしく全身白っぽい魚体。激流を生き抜くたくましい尾ビレと、口が大きく精悍な面構えが印象的なオスであった。
 私は、竹濱毛バリを使ったテンカラで釣る。現地採取のエサでも釣れるが、テンカラでも8寸から尺前後のイワナが釣れた。雨後の増水時は、毛バリを流れに乗せるだけで釣れるが、晴天の渇水時は、イワナに偽エサだと見破られる確率が高くなる。そんな場合は、毛バリを流れとは別方向に動かす。すると、イワナは本物のエサと見間違い食いつく。
▲現地採取のエサを使い、浮かせ釣りをする中村会長

 晴天の渇水時は、ポイントの横に立てば100%釣れない。なぜなら瀬尻にいる偵察隊のイワナが釣り人に気付き上流に走るので、そのポイントでは釣れなくなる。だからポイントからできるだけ離れた下流に立ち、瀬尻からポイントに向かって順次釣り上げていくのが鉄則である。
▲毛バリを丸呑みにしたイワナその1
▲毛バリを丸呑みにしたイワナその2
▲竹濱毛バリに食いついた尺イワナ
▲クマイチゴ・・・果実は赤みが強く美味しい。
 二日目は、岩魚谷の源流部を目指す。夜が明ける5時に起床し、早めに朝食を済ませ、いつもより早い7時頃にテン場を出発した。足早に1時間ほど歩き、中間部から竿を出す。第一投目でいきなり尺前後のイワナが、エサにも毛バリにも食いついた。釣りは、やはり朝の方が食いが良い。
▲斑点が鮮明で、薄い着色斑点を持つ尺イワナ

 瀬に毛バリを流すと、イワナが下流に向かって毛バリを追い掛けてくるのが見えた。いつもなら下流にいる釣り人に気付いて逃げられるケースだが、なぜか毛バリに夢中・・・水中に飛び出して食らいついた。合わせると、上流に走りテンカラ竿は大きな孤を描き、素晴らしいファイトを見せてくれた。弱った所でラインをつかみ河原に引きづり上げる。
▲赤トンボをエサに次々と釣り上げるダマさん

 真夏に刺身ができるほど鮮度を保つには、イワナを殺さず生かしたまま保管しておかなければならない。中村会長は、種モミ用の黄色の網を持ち、ダマさんが釣り上げたイワナを網に入れ生かしたまま持ち歩く。5匹前後になったら、目印をつけて流れに浸してデポしておく。帰りに回収すれば、旬のイワナを美味しくいただくことができる。
▲エサ釣りにヒットした尺前後のイワナ
 核心部に突入すると、左岸の高台にテン場跡があった。その周辺のイワナは、しばらくの区間、ワンランク以上サイズが小さくなった。リリースを繰り返しながら、足早に進む。
▲緑滴るイワナの楽園核心部

 源流部に懸る滝の左岸を高巻くと、イワナのサイズは格段にアップ。いよいよイワナの楽園に突入した。谷は狭く、両岸から草木が覆い被さり、テンカラでは釣りづらい。仕掛けをチョウチン毛バリに代えると、草木に引っ掛けることもなく快適に釣ることができる。
▲毛バリを喉の奥まで丸呑みにしたイワナ

 チョウチン毛バリは、渇水期になると流れに乗せただけでは釣れない。水面を躍らせながら毛バリを動かし、食い気のないイワナをも誘うと釣れる確率が高くなる。毛バリめがけて水面に現れたら、合わせるのではなく、逆にラインを緩めるように送り込み、イワナが違和感なく毛バリをくわえやすいように操作するのがコツである。
▲鼻曲がりの尺イワナ

 下界では34度の猛暑・・・沢の源流部でも、立っているだけで汗が滴り落ちるほど暑い。さらに渇水で流れに力がなく、水深も浅いから丸見え。そんな悪条件でも尺前後のイワナが釣れる。例えば、エサを市販のブドウ虫に代えても釣れる。つまり、サルでも釣れるイワナ釣りモードに突入・・・これが「イワナは足で釣る」と言われる理由である。
▲頑固一徹「赤トンボ」をエサに次々とイワナを釣る中村会長
▲チョウチン毛バリにヒットした尺イワナ

 源流部のイワナは、底石に隠れているのか黒くサビついたような魚体が目立つ。背中の紋様は、虫食い状に乱れている。側線前後に鮮やかな橙色の斑点があるニッコウイワナ。
▲頭がデカク、丸々太った丸太イワナ

 一般的にイワナは、大きくなるにつれて斑点が不鮮明になる傾向がある。しかし、この沢のイワナは、尺前後になっても斑点は大きく鮮明な点が大きな特徴である。
 奥に入るにつれてエサ釣りは、何でも釣れるようになったが、毛バリは疑似餌だからそう簡単ではない。ただでさえ渇水で水量が少ないのに、源流部に遡るにつれて水量は格段に減少していく。だから毛バリを水面で躍らせても、寄っては来るが食い付かなかったり、合わせのタイミングが微妙にズレると、手前まで寄せてから逃げられるケースが続出した。つまり、イワナに偽物のエサだと見破られる確率が格段に高くなった。
「半毛バリ釣り」

 プライドの高い釣り人なら、毛バリにエサをつける禁じ手は決して使わないだろう。毛バリにエサをつける方法は、昔、職漁師の人たちも使っていた釣法の一つで、「半毛バリ釣り」と呼ばれている。竹濱毛バリにブドウ虫をつけてみる。

 本物のエサをつけているので、水面で躍らせる方法は不要。エサ釣りと同様、瀬を流すだけ・・・イワナは、水面に飛び出して半毛バリに食いつく。本物のエサがついているから慌てて合わせる必要もない。イワナを水面の上に引き出してから釣る毛バリ釣りの醍醐味を味わいながら、実に簡単に釣り上げることができる。つまり、毛バリ釣りとエサ釣りの良いとこどりができる釣法である。
 いよいよ谷は狭くなり、両岸が屹立するV字峡谷となる。中村会長が廊下状のトロ場に入っていったが、深すぎて背負っていたザックが濡れてしまうと引き返してきた。ザックと釣りベストを脱いで再度突入・・・
 釣り竿だけを持って深い廊下状ゴルジュを突破する中村会長・・・これが満81歳の後期高齢者とは、とても見えないだろう。仲間が、歳を考えて無理をするなと忠告しても、馬の耳に念仏・・・親の言うことをきかない子供と同じである。
 右上のイワナは、中村会長が廊下状ゴルジュ帯を突破して釣り上げたイワナである。種モミ用の網がないので、落ちていた枯れ枝にイワナのエラを通して生かしたままデポしていた。こうした知恵も、素晴らしい。
 上流に向かって歩いていくと、イワナが釣れるようなポイントがなくなる。そんなザラ瀬からイワナが盛んに走り回る。ほどなく、雪煙が舞う大雪渓がV字谷を塞いていた。近付くと、汗がスーッと引いていくほど冷気が漂い、まるで冷蔵庫の中にいるのと同じ状態であった。崩れたブロックを踏み外さないように前進したが、雪渓から降りられないほど高く、さらに狭く深い廊下状のトロ場が続いていた。時計を見ると、午後2時・・・魚止めの滝を確認できないのは残念だが、竿を納めざるを得なかった。
 右岸から滴り落ちる湧水を手ですくい、喉を潤す。猛暑の夏は、熱中症に要注意だが、沢なら冷たい名水が売るほどあるのがありがたい。しかも、廊下状のトロ場を胸まで浸かりながら歩けば、涼しさは満点である。足早に沢を下ること約3時間、やっとテン場に辿り着く。やはり憧憬の釣り場は遠い。
 30℃を超す猛暑にもかかわらず、二日目の釣果は、尺イワナがちょうど十本・・・「イワナの楽園」と呼ぶにふさわしい場所であった。ただし、この奥地に足を踏み入れるには、「渇水」と「好天」という二つの条件が重ならなければ決して辿り着けない場所である。それだけに心は充実感で満たされていた。
▲内臓のNDフィルターをONにし、シャッタースピード1秒のスローシャッターで焚き火を撮る

 焚き火で飯を炊くには火力が強くなければならない。中村会長は、焚き火で飯を焚く名人。5合用の丸い飯盒を使い、強火と弱火を上手に使い分けて、焦げ目なしで飯を炊き上げる。これは誰も真似のできない熟練の技である。イワナを焼く手づくりの三脚にも注目・・・燃やすにはもったいないほど上手に作る。まさにスーパー爺さんである。
▲くそ暑い夏こそ、京都の「川床」ならぬ「滝壺レストラン」「渓流レストラン」が一番。
▲重い荷を背負い涼むには、「足湯」ならぬ「足滝壺」「足渓流」が一番。
▲早くも黄葉した落葉が渓流を彩る ▲猛暑の夏・・・日陰で冷たい飛沫を浴びながら涼んでいたアズマヒキガエル
 余りの暑さに、杣道を歩かず、沢通しに歩く。イワナは、人跡稀な冷たい清流に棲んでいる。だからこそ、山釣りの愛すべき山魚のトップに君臨しているのである。この岩魚谷は、イワナが自力で遡上できない滝が二ヵ所ある。その滝上にイワナを放流したのは、山に生かされた杣人たちである。

 谷を覆い尽くすブナ帯の森と底石まで見える清流、そしてイワナを愛した杣人がいなければ、山釣りの楽しみはないに等しい。イワナが生息できるような自然も大事だけれど、その自然と向き合って生きてきた人間も大事、そこから生まれた共生の文化も大事・・・「自然と人間と文化」・・・そのことを痛感する夏の山釣りであった。
コンデジ「キャノンPowerShot G3 X EVF KIT」の評価

 描写力は、期待以上に素晴らしい。さらに沢を遡行したり、釣り上がったりする際、常時、首から下げていても全く苦にならない。電池の消耗が激しいと思い予備の電池を持参したが、400枚以上撮影(省電力設定)しても電池交換をする必要がなかった。山釣りで使うコンデジとしては、これまでにない最高のカメラだと思う。これさえあれば、山釣りに一眼レフデジカメの出番は不要である。ただし、不満な点もある。

 外付け電子ビューファインダー「EVF-DC1」は、クルクル動き過ぎるので、慣れないと使いづらい。特に動き回るイワナのズームアップをする際、ファインダーが動くとフレーミングしづらい。電源のON/OFFは、一眼レフと違ってプッシュ式なので、これまた慣れないとうまく入らない時がしばしば。起動もやや遅いので、動きが速い野生の生き物を撮る場合、シャッターチャンスを逃す恐れがある。以上、改良を望みたい。

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