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 今年は空梅雨が続き、どこの河川も超渇水状態・・・砂地には釣り人の歩いた足跡が無数にあった。だからエサ釣りは苦戦続きであった。そんな悪条件の中、日本の伝統釣法・テンカラでやってみたら、イワナは何のためらいもなく食いついてくれた。だから今回は、全てテンカラに徹して釣り上がってみたが、「盛期の山釣りは、テンカラが格段にオモシロイ」というのが実感であった。
 台風11号が四国、中国地方に上陸し、日本海を北上・・・幸い、日本海に入ると海水温は低く、熱帯低気圧になるとの予報であった。ギリギリまで判断に迷ったが、予定どおり、7月17日〜19日、5名のパーティでイワナ谷に向かった。流域が大きいだけに雨で増水すれば難渋する沢だが、超渇水で歩きやすい。それだけ釣り人も多く入っているらしく、砂地には真新しい足跡がたくさん残っていた。
▲極上のキクラゲ発見
 山菜やキノコとくれば、長谷川副会長の出番。釣りベストからカッターナイフと買物袋を取り出し、採取する。キクラゲは、中華風の炒め物や煮物に相性がいい。源流での調理は、熱湯にキクラゲを入れ、素早く上げて冷水にさらし、三杯酢であえると、コリコリして美味い。今回は、イワナとミズとキクラゲの味噌汁でいただいた。
 本流は、ご覧のとおり超渇水で底石まで丸見え。清冽な流れに力はなく、ポイントに近づいた時点で、イワナは瀬尻から盛んに走りまくった。慎重にアプローチしても、繰り返し訪れる釣り人たちにスレきったイワナたちは、生きたエサには見向きもせず、竿は沈黙したままであった。しかし、テンカラには・・・(撮影:柴田直俊)
▲イワナが次々とヒット(撮影:柴田直俊)

 テンカラは、フライフィッシングと異なり、竿、ライン、毛バリの3点セットだけで大変シンプルである。フライフィッシングのように毛バリを頻繁に交換することはなく、黒系、茶系を問わず1種類のみを使い続ける。もともと職漁師たちが生み出した伝統釣法だけに、滝やゴルジュなど障害物が多い山岳渓流を遡行しやすく、効率的にイワナを釣ることができる。だから盛期の山釣りには、最適な釣法と言えるであろう。
小生のテンカラ釣り(撮影:柴田直俊)

 テンカラは、長い竿と長いラインほど有利だが、障害物の多い源流では、一部の名人を除いて×。テンカラは、その人の力量に応じて正確なキャスティングがしやすい仕掛けがベストであろう。私の仕掛けは、初心者でも正確にキャスティングしやすい短めの仕掛けにしている。テンカラ竿3.5mに対して、ラインは標準3.5mだが、50cmほどカットして3mを使用。全長は4m〜4.5mと短い。

○テンカラ竿・・・ダイワ源流テンカラ35SE
○ラインは渓愚スペシャル3m(一般にはレベルライン3.5号〜4号、FF用のランニングラインを代用)
○ハリスは太めの1.5号、長さ約1.5m。
▲絶対的な信頼を寄せている竹濱毛バリ

 竹濱毛バリは、浮力と視認性を重視したフライで、頭部に白い飾りをつけたパラシュートフライタイプ。私は、極度の近眼と乱視に老眼もかなり進んでいる。そんな目の悪い私にとって、これほどフィットした毛バリはない。
▲最初の1尾は、この沢で釣ったことがないヤマメであった。
▲毛バリを疑うことなく呑み込み過ぎて、少々血まみれになったイワナ
 テンカラは、毛バリを浮かせて釣る場合と、沈ませて釣る場合がある。浮かせて釣る場合は、瀬を流れる毛バリが見える。その毛バリが狙ったポイントまでくると、イワナは水面を割って飛び出し、毛バリをくわえて反転、流れの中へ戻ったところで合わせる・・・この豪快な瞬間を見て掛けるので釣り人は、至って興奮する。(撮影:柴田直俊)
▲美味しそうに疑似餌をくわえたイワナ
毛バリを見失ったらどうするか(撮影:柴田直俊)

 毛針が見えなくとも、たるませたラインなら見える。イワナがヒットすれば、流れるラインが一直線になったり、上流へ走ったりする。そのラインの変化で合わせる。だからラインは視認性に優れた色を選ぶことが決め手である。
▲この笑顔を見れば、テンカラがいかにオモイロイか分かるであろう(撮影:柴田直俊)

早合わせは禁物、ラインをたるませ「遅合わせ」で釣る

 振り込むポイントは、エサ釣りとほとんど同じ。イワナの「食い筋」に流すことに尽きる。毛バリ釣りを始めた頃は、疑似餌だから早合わせが必要で難しいと思っていた。確かにエサ釣りのようにラインを張ったまま流すと、イワナは毛バリをくわえた瞬間、違和感を感じてすぐに吐き出してしまう。ところが、ラインをたるませたまま流せば、イワナは毛バリを離さない。コツはただ一つ、ラインをたるませたまま流すことに尽きる。そうすれば、遅い合わせで確実に釣ることができる。
合わせと取り込み(撮影:柴田直俊)

 アタリがあったら、竿を立てて一気に合わせる。小さなイワナだと、手元や後ろに一気に飛んでしまうこともある。竿を立てたままラインをつかみ、イワナを取り込む。尺前後の大物になると、水中を暴れまわる抵抗力が思いのほか強く、なかなかラインをつかみきれない。そんな野生の引きを存分に堪能できるのもテンカラの魅力である。
▲毛バリに騙されたことに気付き、暴れまくるイワナ(撮影:柴田直俊)
▲暗い淵の底に潜む黒くサビついたイワナでさえ、毛バリに騙され食いついた。
▲竹濱毛バリに食らいついた良型イワナたち
ナベちゃんのエサ釣りにヒットした34cm(撮影:柴田直俊)

 エサ釣りは、場荒れが激しい本流の釣りでは、気の毒なほど苦戦続きだった。中間部の滝の下流、右岸から流れ込む沢は、釣り人が無視するような小さな沢である。しかし、これまでエサ釣り、チョウチン毛バリでも実績があっただけに、ナベちゃんに入るよう薦めた。すると、苦戦続きだったエサ釣りは、一転、入れ食いとなった。小さな沢で、34cm・・・これほどのサイズに成長するには、長い間釣り人が入っていない証左であろう。
 小沢の魚止めは意外に近い。その魚止めの滝で大物がヒットしたが・・・ハリスを切られて逃げられたらしい。真偽のほどは定かでないが、本人曰く、「40cmは超えていた」という。(撮影:柴田直俊)
▲中間部の滝壺でテンカラにヒットした尺イワナ

 柴ちゃんとナベちゃんが小沢に入っている間、私は一人、本流に懸る滝壺に接近・・・淵尻から順次滝壺の上流に向かって毛バリを落としながら本命のポイントへと近付く。しばらくアタリがなかったが、滝壺の中間当たりの瀬に落とすと、ほどなくイワナがガバッと水面を割って飛び出した。

 竿を一気に立てると、これ以上ない大きな孤を描き、素晴らしいファイトを見せてくれた。最後はラインを手繰り寄せて、河原に引きづり込む。エサ釣りだと、尺イワナがヒットしてもさほど興奮しない。テンカラは、ラインが長い分、尺イワナを弱らせ取り込むまでのやりとりが極めて長い。それだけ釣りの醍醐味を充分味わうことができる。やっはりテンカラは楽しい。
▲ミヤマホツツジ ▲ソバナ
▲ヤマブキショウマ ▲エゾアジサイ
▲ハナニガナ ▲ヤマカガシ
 一日目は、台風が熱帯低気圧になったとは言え、天候にすこぶる恵まれた。久々に山の恵みを肴に仲間と語らいながら熱燗を飲む。渓語りは尽きることがなかったが、今晩の酒はとうに尽き、ウイスキーにまで手を出す。お蔭で酩酊・・・翌朝は二日酔い状態であった。真夏の山では、飲み過ぎると熱中症にかかる確率が格段に高くなるので厳に慎まねばならない。反省、反省・・・。
 朝は、飯盒で飯を炊き、昼食の弁当を詰めた残りのご飯を主食に食べる。柴ちゃんは、弁当箱を忘れたので、オニギリにするという。その完成品が右上の写真・・・塩焼きイワナとおにぎりを合体させた特製イワナオニギリを自作した。
▲連続するゴルジュ帯は高巻く ▲早くも出だした毒キノコの筆頭・ツキヨダケ

 私とナベちゃんは、昨日釣った中間部の滝まで一気に約1時間ほど歩き、その上流部へと向かった。滝の上流部まで来ると、さすがに釣り人の足跡がなくなり、カモシカの足跡だけが目立つようになった。
 二日目は、やっと「足で釣る」世界に突入。さらに本日は風もなく曇天・・・最高のテンカラ日和であった。毛バリを瀬に流すと、次々とイワナが飛び出した。小物はリリースしながら釣り進む。超渇水のためか、それともアプローチが悪いのか、エサ釣りは以前として苦戦ぎみであった。
▲毛バリを丸呑みしたイワナ31cm
 両岸が狭くなったゴルジュ帯の淵は深い。いかにも大物がいそうな場所だったが・・・巨大なブナの倒木が倒れ込み、肝心のポイントを塞いでいた。とてもテンカラでは、枝に引っ掛かりそうで×。ここは、エサ釣りの出番。ナベちゃんは、勇んでポイントへと近づく。ほどなく大物が掛かったらしく、「デカイ、デカイ」と叫び始めた。
 振り返ると、イワナの強い引きに竿がのされそうになっていた。相手に逆らわず、動くだけ動かして疲れるのを待つ。やや疲れが見えた所で、水面に顔を出すように竿を立てて弱らせる。次第に弱ってきたところで数枚撮影する。いよいよ、最後の取り込みに入るが、手前の枝が邪魔であった。
 ナベちゃんは不用意にも短い道糸をつかんで一気に上げようとした。当然のことながら、イワナが空中に上がった途端、ハリスはむなしく切れてしまった。今回最大のイワナは、淵の奥へと消えてしまった。「リリースしたと思えば・・・」とは言ってみたものの、本人にしてみればかなり悔しかったに違いない。目測で35cm以上はあった大物である。
 その上流部の瀬では、丸々太った尺近いイワナが次々とヒット。そのイワナを撮影しようと、カメラを近づけると、暴れてなかなかシャッターを切れない。倍率の高いデジカメなら、生きたイワナに警戒されることなく撮影できるが、倍率の小さいイワナは最悪。水辺で撮ろうとすると、暴れまくられ連続2回も毛バリから外れて逃げられてしまった。
 次の瀬でも尺物がヒット・・・今度はハリスが弱っていたようで、毛バリごと持っていかれてしまった。連続三回も失敗してしまったが、入れ食いモードに突入・・・これは、いよいよイワナの桃源郷に入るシグナルでもあった。時計を見れば11時半頃・・・まだまだこれからという時に、突然、真っ黒い雲が空を覆い始め、「ヤバイな!」と思った瞬間、大粒の雨が水面にバチバチと音を立てながら落ち始めた。超渇水の水面は、底石が全く見えなくなるほど波立ち始めた。

 これは熱帯低気圧になったものの台風11号の影響であることは確か。流れはあっという間に濁り始めた。ナベちゃんに「止めるぞ!」と叫ぶと、納得できないような顔をしていた。テン場まで真っ直ぐ歩いて2時間余掛かる。このまま降れば、流れは濁流と化し、深さが分からなくなる。もちろん沢の横断は不可能になるだろう。中間部には、巻きを強いられるゴルジュ帯が何ヵ所もある。雨の恐ろしさは、経験した者でないと、その怖さは分からない。
 急ぎ竿を畳み、下ることに・・・大雨は15分ほどで止んだ。しかし、雲の流れは速くいつ大雨が来るか予想もできない状況であった。雨が止んだ合間をぬって昼食を食べる。今度は強い風に、稜線の木々が大きく揺れ始めた。笹濁り状態の沢を下ること約2時間、無事にテン場に着く。
 下流組や枝沢組もテン場に戻っていた。とりあえず全員無事で何よりであった。後は、楽しい宴会の準備モードに突入。採取したミズの皮を剥き、湯がいて塩昆布漬けに。味噌汁は、焼いた頭と骨でダシをとるべく2匹分と生のイワナ1尾をブチ切りにして入れる。それにキクラゲとミズを大量に入れて特製の味噌汁をつくる。
 宴会の準備をしている途中に、またも雨が降り始めた。焚き火でじっくり焼いた塩焼きイワナ、山の恵みをふんだんに使った特製の味噌汁、イワナの骨酒は絶品であった。持参した全ての酒、ウイスキーが空になるまで飲み、またしても酩酊状態でシュラフに潜り込む。雨は一晩中止むことなく降り続いた。テントを打つ雨の音、沢を流れる濁流の音で眠られないほどひどかったらしい。
 増水のピークは、明るくなりかけた朝の4時頃。濁流が猛り狂ったように踊る流れを見ていると、とても帰れそうにないほどだった。上の写真は、雨が止み、次第に水位が下がり始めた午前7時半頃のもの。この時点では、「山に逆らえば命をとられる」・・・もう一泊することも覚悟せねばと思った。

 ラッキーにも、空は一気に明るくなった。後は水位が下がるのを待つのみ。昼まで待つと、何とか遡行できる水位まで下がってくれた。しかし、かつての杣道は、到る所が崩れて草茫々と化し、道はないに等しい状態であった。安全な杣道に達するまで、わずか1.5kmの距離を、いつもの倍以上の2時間余をかけてやっと辿り着いた。
 テン場まで一眼レフカメラを持参したが、肝心の充電したバッテリーを家に忘れてきてしまった。またしてもナベちゃんから防水タイプのコンパクトデジカメを借りて撮影するしかなかった。やはり借り物では撮影に集中できず、枚数が極端に少なくなってしまった。その代わり、テンカラには目一杯集中することができ、テンカラの楽しさを改めて実感することができた。

 いつもは、私が記録担当なので、私が釣っている風景は皆無に等しい。今回は、柴ちゃんに私の希少なテンカラ釣りの風景を撮ってもらうことができた。感謝、感謝である。たまにはカメラを忘れるのも悪くはなさそうだ。

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