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 今年は雪が少なく、雪代もほとんどないことから、定番のイワナ谷を下流から遡行してみた。下流部は、ゴルジュや滝が連続する険谷だけに、左右岸に巻き道がついていた。ところが、ほとんど巻き道はないに等しく、中間部に懸る20m滝は滝頭が崩壊してまるで別人のような滝になっていた。故に谷の遡行は、困難を極めた。
 ブナの新緑は、早くも稜線まで達し、アイコ、シドケなどの山菜は最盛期を迎えていた。二日目は雨にたたられたこともあり、「イワナより山菜」の山釣りとなった。
▲モミジイチゴ ▲サンショウ
 林道が激しく崩壊した後、谷を下流から遡行するのは初めてのことだった。一日目は、天候に恵まれたものの、予定のテン場まで8時間もかかろうとは・・・「急がば回れ」の格言が身に沁みる遡行となった。
 入口から狭いゴルジュ帯が続く右岸には巻き道があったはずだが・・・雪崩斜面は、ことごとく崩壊して跡形もない。重い荷を背負って雪崩斜面を歩けば、足を滑らせてゴルジュ帯へ一直線に滑落しかねない。雪代はほぼ終わったとはいえ、狭いゴルジュ帯を左右に渡渉できる状況ではなかった。空身なら何とか遡行できるが、重い荷を背負っていれば困難を極める。ザイルで荷を引っ張り上げたりしながら、第一難関を突破。
 わずか100mほどの区間に1時間半も費やしてしまった。午前9時、遅い朝食をとる。雪崩斜面には、極上のアイコが到る所に群生していたが、釣り人も山菜採りも歩いた形跡はゼロ。
▲雪崩斜面に萌え出たアイコ(ミヤマイラクサ)の群生・・・
▲傘が開いたシドケ ▲今晩のサブ食材「山菜」を採る
▲新緑の木漏れ日を浴びて咲くオオサクラソウ
▲気の抜けない遡行が続く
 枝沢合流点上流のゴーロの階段を上り、切り振り返ると息を呑むほどの絶景が広がった。青空に映えるブナ帯の新緑と清冽な渓・・・カメラを首からぶら下げていないと撮れない瞬間を撮る。
▲旧大滝 ▲新大滝
 
 上の新旧大滝の写真をじっくり見比べていただきたい。滝頭が崩落し、さらに滝壺が土砂で埋まって浅くなって、落差が2/3程度に小さくなっているのが分かる。いかに凄まじい豪雨があったか、想像に難くない。右岸を高巻く小沢のガレ場は、大きく崩壊・・・落石の危険すらあった。だから全員余り離れず、落石させないように慎重に攀じ登った。
 ゴルジュの岩場に群生するオオサクラソウの大群落は無事のようだ。しかし、水際に近い岩場に咲いていた超希少種・シロバナノオオサクラソウは、流されてしまったのか見つけることができなかった。
 車止めを午前7時に出発して、テン場に着いたのは午後3時であった。昼飯を食べずに歩いていたので、完全なガス欠状態・・・胃袋の中が空っぽで、体が思うように動かなくなるガス欠状態は、日常では味わうことのない希少な体験。こういうガス欠状態は、健康にすこぶるいいらしい。さらに全員力を合わせて、難関を突破した充実感もあった。だから、終わってみれば、全て「◎」。
 遅い昼食を終えると、早くも午後4時。こうなれば作業を分担して効率よく作業を進めるほかない。食材調達班とテン場設営・薪調達班に分かれて作業開始。
 釣り班は、2時間ほどで尺イワナ4本を含む11匹・・・今年一番乗りを象徴する釣果で、今晩の旬の刺身には申し分ない食材がそろった。
 雲間から光り輝く星、清流の音、萌え出たばかりの葉音をBGMに2016源流酒場が開宴。会を結成して30年余りになると、会長の年齢は山釣り最長老を更新中の満82歳、加えて病を克服した者2名・・・年々体力の衰えは進むものの、その分経験と知恵、技は蓄積され続ける。ゆえに、トータルで考えると・・・会長が自称「28歳」というほど元気なように、心掛け次第で山釣りライフを存分に楽しむことができる。
 二日目は、朝から昼まで雨が降り続いた。初日に二日分も歩いたので、これは山の神様が「休め」というお告げなのであろう。焚き火の周りに車座になり、新緑に包まれた天然庭園を眺めながら、雨が止むまで待つことにする。
▲ブナ帯の斜面中腹から湧き出す小沢は、雨の中でもほとんど濁らない清流。

 ブナ帯の渓は、春から秋まで様々な樹の花、草の花が咲き、飲める安全な水が森の中を無尽蔵に流れ、人間だけでなく全ての生き物たちの命の糧を無償で提供してくれる桃源郷のような場所である。
▲ムラサキヤシオツツジ

 昼ちょっと前に雨が止む。釣り班と山菜班に分かれてテン場を出発。山菜は最盛期だが、釣りは沢が増水しているから滝より上流部のゴルジュ帯は通過不能で、昨日釣ったばかりの区間を釣るしかない。だから、二日目は「イワナより山菜」にならざるを得なかった。
 上の写真は、シドケ(モミジガサ)の大群生地帯・・・ここ一帯は極上品の山菜が生える天然山菜畑。おおまかに言えば、斜面が急な所にシドケ、緩い斜面にアイコ(ミヤマイラクサ)が生えている。
▲天然山菜畑でシドケ、アイコを採る
▲山菜の王様・シドケを採る
▲アイコの葉が、カモシカに食べられていた跡が散見された。

 アイコの茎にはトゲがあるので、カモシカは、柔らかい葉だけをつまみ食いしているようだ。カモシカが意識しているのかどうかは分からないが、結果的に一番栄養のある葉を食べていることになる。周辺には、カモシカの糞もあった。
▲イワナ釣り班は、短い距離ながら8寸〜9寸クラスを8本の釣果。
▲早春キノコの代表・エノキタケ(ユキノシタ)
 全員がテン場に戻ったのは、意外に早い午後3時半。本日のメイン食材は良型イワナ8匹・・・5匹は5人用に刺身、剥いだ皮は唐揚げ、残り3匹はイワナ丼に調理。焚き火で燻した頭と骨は、山菜汁の出汁に使う。アイコとシドケはおひたしに。
 新緑に萌え出た森が放つフィトンチッド、清流が放つマイナスイオン、白から紅まで色とりどりの花たちが新緑の森を彩り、カワガラスが水面上を上下流へと忙しく飛び回る。樹上からキビタキ、オオルリ、コルリ、シジュウカラ、カケスなど野鳥たちの囀りがあちこちから聞こえてくる。こうした花鳥風月を楽しみながら、山の恵みを有難くいただく・・・下界では決して味わうことができない最高の贅沢・・・だから、誰しも中毒になるのであろう。
 三日目の朝・・・鳥のさえずりで目が覚める。遠くの枝に鳥がとまったので、G3Xの25倍ズームで撮ったがことごとく失敗。何とか撮れたのが上の一枚。後ろ姿で何の鳥なのか不明。キャノンG3Xは、望遠側が600mm相当あるが、野鳥撮影には全く無力。ピント合わせが遅いうえに手ぶれ補正も甘い。ただし、あらかじめ野鳥用にカスタム設定をしておけば、もしかして撮れるかもしれない。
 帰りは、いつもの山菜畑沢ルートで、アイコ、シドケ、ホンナを採りながら急斜面を登る。
▲トリカブトとニリンソウの混生

 背丈が低く白い花の群落がニリンソウ、茎が大きく伸びたものが猛毒・トリカブト。土から萌え出たばかりのニリンソウを食べようとすれば、葉の形が極めて似ているトリカブトと誤食するリスクが極めて高いことが分かる。そもそもニリンソウは、味もクセもなく、山菜としての価値が低いので、決して手を出さないことがベストの選択。
▲昨年咲いたネマガリタケ(チシマザサ)の花→今年は下の写真のように枯れていた。
 昨年、花が咲いたネマガリタケ(チシマザサ)一帯が一斉に枯れていた。文献によれば、花は約60年に一度群落全体が咲き、結実後、一斉に枯死する。
▲クルマバソウ・・・紛らわしいクルマムグラとの識別は、葉の枚数が8枚(6〜10枚)と多いこと。 
▲クルマムグラ・・・葉が6枚輪生
▲今回のメンバーは5名
▲2016年4月下旬、秋田市仁別で撮影したカケス。

 今年の新緑は、緑が深く、萌黄色というより初夏の深緑に近い。そんな森の奥から幹を激しく叩くドラミングの音が聞えた。アカゲラより叩く音が長いのでアオゲラであろう。新緑の森に「ジェー、ジェー」とカラスのようなしわがれ声が響く・・・見上げるとカケスのツガイだ。そこに別のオスがやってきてメスの争奪戦が始まった。今度は、左手から甲高い声で「ツィピーツィピーツィピー」とさえずる声・・・こちらは見慣れたシジュウカラのツガイ・・・新緑の季節は、野鳥たちの恋の季節でやたら賑やかだ。まさに生命踊る季節の到来を強く感じる。

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