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 しばらく入渓したことがない源流部を久しぶりに訪れてみた。元々魚影は濃い方だったが、不思議なことに、地元の釣り人はもちろん誰一人として訪れた形跡はない。その証は・・・瀬尻からイワナが走っても、早合わせでイワナを釣り落としても、何の疑いもなく何度でもエサに食らいついてくるからである。釣果は、36cmを筆頭に尺イワナは14本。野生イワナの増殖スピードは、釣り人の想像を遥かに超え、その凄まじさには驚くほかない。
▲ヤマツツジ ▲ヒメアオキ
▲タニウツギ ▲タニウツギの白花
▲ウゴツクバネウツギ ▲ユキザサ
▲サワハコベ ▲ミヤマカラマツ
▲ヒメシャガ  ▲マイヅルソウ
▲ツキノワグマの足跡その1
▲ツキノワグマの足跡その2

 昔のクマは、沢沿いの藪に隠れるように歩いていた。ところが今は、沢沿いや杣道に足跡や糞を残しながら堂々と歩いている。鹿角市十和田では、タケノコ採りの男性3名がクマに襲われ、相次ぎ遺体で発見されるという悲惨な人身事故が多発している。

鹿角市十和田「またクマか 山中に遺体」 (秋田魁新報2016年5月31日要約)

 5月30日、タケノコ採りをしていた65歳の男性がクマに襲われ遺体で発見された。遺体発見現場から南西に2~3キロ離れた熊取平周辺では、クマに襲わた男性2人の遺体が相次いで発見されている。遺体は損傷が激しく、クマにかまれたような痕が多数あった。腰の辺りにクマ避けの鈴を取り付けていた。田代平の遺体発見場所近くでは、クマと見られる動物のうなり声が聞こえたという。
 テン場の選定で最も重要なことは、焚き火の燃料となる倒木があること。沢沿いの湿った所にはサワグルミの倒木も多いが、水分を多く含み焚き火には不適。焚き火に適した薪を確保できる平らな場所をテン場に選ぶ。テントを二張り設営してから、3日分の薪を調達する。その後、2時間ほど「イワナ釣り」を楽しむ。
▲丸々太った9寸前後のイワナがヒット
▲橙色の斑点が鮮やかな尺イワナ
▲木漏れ日が当たる水面を無数の羽虫が飛び交っていた。
▲テンカラにヒットしたイワナ・・・白い斑点が鮮やかなアメマス系イワナ
▲腹部の橙色が鮮やかな尺イワナ
▲山釣り最長老、天然シイタケを前にイワナを釣る。もちろん、イワナもシイタケもゲット。
▲2時間ほどの釣りで尺イワナは4本!・・・まずまずの釣果
▲イワナの刺身は、泣き尺を含めて6本を調理
▲ワラビ ▲ミズ
▲左からワラビのおひたし、アイコとシオデ、タケノコ、ミズの塩昆布漬け、シドケのおひたし、味噌汁用タケノコ。他にワラビたたき、イワナの刺身、唐揚げ、イワナ丼など。 
 今回は7名の大パーティ・・・一日目の宴会は、なぜか異様に盛り上がり、気付けば午前2時であった。最後は、タケノコ入りラーメンで締めた。深酔いしていたが、そのタケノコの歯触りが素晴らしく、目が覚めるほど美味かった。お陰でシュラフに潜ると、一度も起きることなく熟睡・・・再び、鳥のさえずりで目が覚めたのは、いつもより遅い午前7時であった。3名は、奥まで歩くのがつらいと辞退・・・結局、4名が源流部の探索に出掛けることに。出発したのは、亀のように遅い10時頃・・・この時、まさか「夢の岩魚谷」に遭遇するとは、誰一人思っていなかった。
▲コンロンソウ ▲ツリバナ
▲踏み跡は藪と化していたので目印をつける ▲クマの糞
▲大滝を高巻く途中で小休止・・・手前の低木は、多雪地帯に適応したエゾユズリハ

 この奥地は、5~6年もご無沙汰している源流部。下る斜面には、クマの足跡が至る所にあった。クマの密度も極めて高い。それだけに期待はしていたが・・・終わってみれば、その期待を遥かに超えるイワナの楽園になっていた。恐らく、地元の釣り人も含めて、数年間誰一人入っていないに違いない。そんな夢の釣り場を体験できたことは、釣り師冥利に尽きる。
 高巻いた後、源流部は細い流れのザラ瀬が続いている。左岸の河原に座って、お湯を沸かし昼食の準備をしていると・・・下流の浅瀬にイワナが群れているのが見えた。会長がたまらず、上流から下流に向かってエサを投入。釣り人は、群れるイワナたちに丸見えだから、警戒心の弱い小物のイワナが食いついた。この時点では、夢の釣り場に変貌していることに全く気付いていなかった。だから4人全員が竿を出したら釣りにならないと思っていた。
 昼食後、会長が早速釣り開始。会長の仕掛けは、オモリなし玉浮き釣法。イワナがいるとは思われない浅瀬に投げ込む。すると、第一投目で泣き尺サイズのイワナが釣れた。これは夢の釣り場の序章に過ぎなかった。
 わずかな深みのある瀬にブドウ虫を投じると、竿が弓なりに。デカイので簡単には上がってこない。弱った所を見計らって河原に引きずり込む。そのすぐ横の溜まりに会長がエサを入れると、またもやイワナが食いついた。ほぼ同時に上げたために、お互いの道糸が交差し危うく絡まりそうになった。これが夢の釣り場の爆釣ドラマの幕開けであった。 
 水深は浅く、水の透明度は極めて高いから、イワナは丸見え。ザラ瀬のあちこちにイワナが群れているのが見える。4人で入れ替わり立ち代わり竿を入れると、次から次へとヒットする。ちょっと遅合わせにすると、針を喉の奥まで飲まれてしまい、針を外すのに苦労する。そこでイワナの上顎に掛けようと早合わせにすると、、空中に舞い上がったイワナが針から外れて落とすパターンが続出。それでも同じイワナが何度もエサに食らいついてきた。針と糸、釣り人を全く警戒していないことが分かる。
 通常は、イワナのポイントではない浅瀬にも尺前後のイワナが潜んでいた。だからイワナのポイントは無数・・・4人で釣り上がっても遅々として前に進まない。「天然釣り堀」という言葉があるが、それを上回る爆釣に、釣り人はイワナの虜になっていった。上の写真は、背後の浅瀬で釣り上げたイワナ。
▲イワナを釣り上げる瞬間を撮る・・・水面上にヒットしたイワナが見える
▲サンショウウオを丸呑みしていたイワナ
 初めての爆釣に感激のナベちゃん。彼曰く「こんな爆釣は初めてだ」。私もすかさず返す・・・「会の結成以来30数年間で初めての爆釣だから当然だ。こんなチャンスは、一生に一度あるかないかだ。」
▲イワナを次々と釣り上げる長谷川副会長・・・水面が波立っているのがヒットしたイワナ
 尺イワナとは言え、33cm~36cmとデカイサイズがほとんど。30cm前後のイワナが小さく見えるほどであった。
▲頭だけがデカク、全体的に痩せた尺上イワナ

 上の個体は35cmほどだが、頭だけがデカク、魚体は痩せていた。エサ不足を象徴するような魚体も少なくなかった。これは、エサの供給量を上回るほどイワナが増え過ぎた結果であろう。落人のような源流部に陸封されたイワナたちは、弱肉強食ではなく、お互いに食い分けをしているような印象を受ける。
▲水面を踊るイワナ

 昔、白神山地粕毛川源流部のイワナは不味いとの話を、地元の古老から聞いたことがある。余りにイワナの魚影が濃すぎて、頭はデカイが、肝心の身がガリガリに痩せていたという。だから古老は、適度な間引きが必要だと語ったのを思い出した。
 余りの爆釣に、写真を撮るのがバカらしくなるほどだった。なぜなら、一生に一度あるかないかのビックチャンス・・・カメラで撮るより釣る方が遥かに興奮するからである。ちなみにイワナは、水面を飛び交う羽虫や落下昆虫を狙っているから、水中ではなく水面上を見ている。だから、オモリを外してエサを水面に浮かせて流す「オモリなし釣法」を選択した。こうすれば、根掛かりも、ほぼ100%防ぐことができる。
 釣り区間は、わずか500m弱しかないが、36cmを筆頭に尺イワナは14本。他に泣き尺多数。こんな夢の釣り場が現実にあるとは、俄かに信じがたいような出来事であった。
▲コンロンソウ
▲ミヤマカラマツ ▲ラショウモンカズラ
 帰路、苔むす小沢の名水をコップに汲んで飲む。ブナ帯の森から湧きだす名水は、殊の外冷たく、五臓六腑に染み渡る美味しさ。一日、谷を歩き、体内の毒素を汗とともに体外に100%排出した後、ブナ帯の名水と山の幸で潤せば、体が殊の外軽くなったように感じる。これが私たちの健康の源である。
 テン場に着いたのは午後6時半頃。昼間は夏日かと思うほど暑かったのに、夕方になると急激に冷え込む。そんな中、清流の傍らでイワナの腹を裂き、内臓をとって背中の血合いを洗い流す作業を繰り返した。沢の水の冷たさ、風の冷たさが身に沁みる。急きょ、雨合羽を羽織った。尺以上のサイズは、改めて巻き尺で計測・・・尺イワナ14本のうち、34cm~35cmクラスが最も多いサイズであった。
 釣ったイワナは、できるだけ美味しくいただかないと成仏しない。盛大な焚き火の遠赤外線で、一晩中、尺イワナをじっくり燻し上げる。
▲今回のメンバーは7名
 思えば山の仕事がなくなってから久しい。災害で林道が崩壊しても、復旧はせず、荒れたまま。山村の少子高齢化は凄まじく、地元でクマを撃ったことのある猟師がゼロ。イワナ釣りや山菜採り、キノコ採りで奥地を訪れる地元の人たちもいなくなった。加えて林業が盛んな頃、伐採された広葉樹の森は見事に再生している。だから「イワナもクマも増えている」。

 さらに言えば、人を恐れない新世代のクマが増えている一方、釣り人を見たこともない新世代のイワナも増えている。「夢の岩魚谷」の出現・・・かといって、喜んでばかりはいられない。「自然と人間と文化」・・・そのバランスが極端に崩れている現状の危うさを感じずにはいられない。鹿角市十和田でタケノコ採りの男性3名がクマに相次いで襲われ遺体で発見されるという衝撃的な事故は、その危うさを象徴しているように思う。

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