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 鹿角市十和田でタケノコ採りの男女がツキノワグマに次々襲われ、4人が連続して死亡するという大惨事に・・・ツキノワグマによる死亡者数は、1988年山形県で3人が連続死亡した事件を抜いて史上最悪の4人に。 6月10日に射殺されたクマの胃の内容物を調べた結果、タケノコに混じって人のものとみられる肉片や髪の毛が見つかった。人の味を覚えた「人食いグマ」が次々と人を襲い食べたとみられる。秋田はマタギの本場であるが、「マタギが絶滅危惧種」と言われて久しいだけに、恐れていたことが現実になった感が強い。

 その背景は、単にブナの実やドングリの豊凶だけでなく、農林業の衰退、里山の荒廃、耕作放棄地の拡大、限界集落・廃村化、猟師激減と高齢化など人間側の急激な変化にあることは間違いないであろう。だからクマ対策として、昔の話が通用しない時代に入ったと言える。日帰りの沢に一人でイワナ釣りに入る場合、クマとの無用なトラブルを避けるためには、「熊撃退スプレー」が手放せなくなってから10年以上にもなるのだが・・・。
  • クマ対策・・・左から爆竹、笛、クマ避け鈴、熊撃退スプレー・カウンターアソールト
  • 黒のクマ撃退スプレー(右から二つ目)は耐用年数が切れたので、今年は右端のカウンターアソールト・ストロンガーを購入 (噴射時間約9秒、噴射距離約10m)
  • 1988年、山形県でおきた3人連続死亡事件では、クマが捜索ハンターに襲い掛かり、1mの至近距離でやっと射殺・・・危うくハンターが4人目の犠牲者になるところだったという。ちなみに遺体は大量に食害されていたらしい。だから人の味を覚えた人食いグマには、熊撃退スプレーも通用しないので注意!
▲崩壊した林道を歩く  ▲エゴノキの花

 豪雨で林道が崩壊、寸断されても、山で仕事がなくなっているから復旧せず、荒れ放題。6月19日(日)、その崩壊林道を歩いていると、バイクの跡がはっきり残っていた。マイタケ採りはもちろんのこと、イワナ釣りでも車止めからバイクに乗り換えやって来る強者もいる。
 私の日帰り定番の岩魚沢は、かつて森林軌道があったことを物語るレールの残骸が、今でも残っている。かつて林業が盛んな頃、この岩魚沢もブナ、ミズナラなどの広葉樹が大量に伐採されたことだろう。幸い、杉を植林した形跡が全く見られず、広葉樹の森が見事に再生している。 
 岩魚沢は、落差が激しく、ゴーロの階段が延々と続く。標高の低い所は、ブナよりもミズナラが多く、標高が高くなるとブナ-チシマザサ群落になる。こうした沢は、イワナも多いがクマも多い。クマ対策には、「山中でクマのフンや足跡などの痕跡を見つけたらすぐ引き返す」とある。イワナ釣り師が、それで引き返すようでは釣りにならない。極論を言えば、クマがいないような沢にはイワナもいないからである。
▲毛バリを丸呑みしたイワナ

 気温がグングン上昇した真夏日・・・エサには、ほとんど反応しなくなったイワナだが、毛バリには水面から顔を出して食らいついた。明らかに水面を飛び交う羽虫を主食にしているからだろう。クマによる4人連続殺人事件とクマ出没情報が絶えない昨今、イワナが釣れる度に背後が気になった。
▲小滝が連続する岩魚沢 ▲草をなぎ倒してできたクマ道 

 今年は、雪が少なくタケノコの出も早かったようで、この沢筋のタケノコの旬はとうに終わっていた。クマたちは、タケノコから草食いに変化・・・一斉に沢筋に集まってアキタフキやエゾニュウを食べた食痕があちこちに見られた。その食痕があった方向の藪に入ると、明瞭なクマ道ができていた。
▲腹部と橙色の斑点が鮮やかなイワナ
▲釣り上げたイワナを清流に泳がせ撮る
▲毛バリをおいしそうにくわえたニッコウイワナ
▲エサ釣りかと見まがうほど毛バリを喉の奥まで飲み込んだイワナ
▲ヤマモミジ ▲ホウノキ
▲ミヤマカラマツ ▲オオバミゾホオズキ
▲ミズ ▲ヤグルマソウ
▲ハナニガナ ▲エゾアジサイ
▲クマたちが食べた食痕

 昔よりクマの痕跡はかなり増えた・・・ということは、クマの生息数も増えていることは確かであろう。そんなイワナ釣り場に一人で入ろうとすれば、武器なしには怖くて入れない。けれども、武器でクマを倒そうなどと考えているわけではない。クマと遭遇した場合を想定すれば、「慌てず、騒がす、クマと向き合ったまま静かに後ずさりして離れるのが基本中の基本」である。

 頭では分かっていても、いざクマと遭遇すれば、武器なしに冷静な対応をすることは困難。だから山釣りでは常に熊撃退スプレーを腰に下げている。知床財団では、ヒグマに対して熊撃退スプレーを何度も使用し、効果的にヒグマを追い払っているという優れもの。ツキノワグマ研究の第一人者・米田一彦さんは、熊撃退スプレーを2本も持参するという。今のところ、これに勝る武器はない。

 私はこれまでヒグマやツキノワグマの親子にも遭遇したことがあるが、いずれもこの武器を携帯していたお陰で、「慌てず、騒がす、クマと向き合ったまま静かに後ずさりして離れる」ことによって、無用なトラブルを起こすことなく助かっている。         
 「新世代のクマ出現」とも言われるほど、クマの動きが急激に変化しているが、それはクマだけの話ではない。秋田県でも、宮城県や山形県側からイノシシが北上、岩手県側からはニホンジカが侵入し、目撃情報が年々増えている。白神山地のサルも増えた群れが分化し南下している。福島第一原発事故で避難区域になっている村は、無人となった家にハクビシンやアライグマ、イノシシが住み付き、野生動物に村が乗っ取られている。

 野生動物の動きがおかしいのではなく、人間社会の急激な変化=「自然からの撤退」に反応しているだけであろう。この事実に、人間社会が気付いていない悲劇・・・「シカが日本の自然を食べ尽す」と言われるほどニホンジカの爆発的な拡大による生態系の破壊と、鹿角市十和田のクマによる4人連続殺人事件は、その象徴的出来事と言えるであろう。そろそろ、この危機的状況に目を覚ますべき時ではなかろうか。

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