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 かつて林道が健在な頃は、イワナ釣り師からほとんど見向きもされなかった谷・・・そんな谷に初めて入ってみた。さすがに手前は、入渓者が多くアタリが少ない。しかし、日帰り釣りの区間を過ぎた源流部に入ると、ミズナラを主体とした原生林が素晴らしく、魚影も濃くなっていった。今回は、イワナ調査ということで魚止めには遠く及ばなかっただけに、次回は魚止めの滝まで調査したいと思う。単なる釣り人の勘だが、今回釣り上がった所より上流部は、尺イワナが釣れる予感がした。「クマもイワナも増えている」・・・だからまだまだ未知の谷で楽しめそうな「新岩魚谷」がありそうだ。
 この谷の左岸には崩壊した林道、渓流沿いには伐採した木材を索道で運んだワイヤーの残骸が残っている。今から30年以上前、まだ雪が深い渓流解禁日に釣り上がったことがある。当然のことながら、イワナの魚影が薄かったことから、以降、一度も竿を入れたことがなかった。2泊3日の山釣り、5人のパーティで訪れるには、実績も何もない無謀な計画だったが・・・。
▲ノリウツギ ▲エゾアジサイ 
▲ミヤマカラマツ  ▲ニワトコの赤い実
 ブナ帯の深緑を底まで透き通るような清流が流れている。渓相だけみれば、いかにも魚影が濃いように見える。けれども走る魚影は見えず、エサ釣りには、全く反応がなかった。広葉樹の森の深さを考えれば、イワナがいないはずはない。多くの釣り人に攻められ、かなりスレていることは明らか。 
 イワナの盛期を過ぎた真夏ともなれば、市販のエサには反応が鈍くなる。だから、私はテンカラで釣り上がる。そんな毛バリにもしばらく反応がなかった。諦めかけた頃、何とか8寸ほどのイワナが掛かった。腹部の橙色は鮮やかだが、側線前後の斑点はやや薄い橙色、側線より上の無着色斑点は星屑のように小さいニッコウイワナであった。
 以降、2尾ほど毛バリにヒットしたが、いずれもリリースサイズ。その後、俄かに雨が降り出し、水面が雨滴で波紋を描き始めた。絶好の釣りコンディションになると、9寸ほどのイワナがテンカラの毛バリを丸呑みにした。
 それでもエサには全く反応がなかったので、長谷川副会長は早々と竿を畳んでしまった。時計を見れば、まだ午後2時半だが、私も竿を畳んだ。一日目の釣果は、わずか3尾・・・貧果に終わった。
 わずか3尾のイワナを大事にさばいて、刺身とアラの唐揚げをつくる。酒だけはたくさんあったので、熱燗をしては飲み語らう。挙句の果ては、二日目の酒まで手を出して飲み干してしまった。何で酒は、渓流の傍らで飲むと美味いのだろうか。

 午後10時半、酩酊してシュラフに潜り込む。けれども酔いが覚めると、背中の凹凸が気になってなかなか眠れなくなった。しきりに悔やんだのは、テントを張る場所は、面倒でも平らに均すことを怠ってはならない、ということ。
 午前6時起床・・・空を見上げると、鱗雲が発生していた。頭上からはミソサザイの美しいさえずりのシャワーが降り注ぐ。予報では曇りなのだが、雨が降らないことを祈る。朝食は納豆ご飯とウスヒラタケの味噌汁。今日は、できるだけ奥まで歩き魚影調査を行う予定で出発。
 昨日釣り上がった場所まで一気に歩き、テンカラで釣り上がる。昨日よりは明らかにヒットする確率が高くなる。次第に瀬尻からイワナが走る魚影も見えだした。すると長谷川副会長のエサ釣りにも、やっとイワナがヒットし始めた。 
 エサ釣りに初めてヒットしたイワナ・・・魚体が丸々太り、メタボイワナのよう・・・エサが豊富であることが分かる。
 毛バリにヒットしたイワナも丸々太っていた。これらの魚体と瀬尻から走るイワナの魚影を見れば、もはやテンカラで調査する必要はなく、エサ釣りでも十分釣れる。私は竿を畳み、仲間のエサ釣りを撮影することに専念する。
 次々とイワナをヒットさせる長谷川副会長。昨日、エサ釣りには、イワナのアタリが「ゼロ」だったことを考えると、まるでウソのような入れ食いとなった。
▲釣る人、撮る人

 釣り上げた魚を手に記念撮影する写真は、自己満足的で好きになれない。やはり、イワナを釣り上げた決定的瞬間を撮りたい。けれども、いざカメラを構えて待つと、なかなか釣れない。
▲清流の証その1・・・透き通るような美しい魚体
▲清流の証しその2
 上るに連れて爆釣状態となる。釣り上げた仲間の嬉しそうな笑顔を見れば、「足で釣る」楽しさがお分かりいただけるだろう。どうせ撮るなら、こんな決定的瞬間を撮りたい。しかし、こういう写真を撮るには、釣りながらでは無理・・・写真に専念しないと撮れないところがツライ!
▲梅雨期に生えるウスヒラタケ
 交代しながら釣り上がり、5人全員がイワナをゲット!。
 それを祝うかのように清流を飛び回る鳥で目立ったのは、全身黒い衣服をまとったような「渓流の忍者・カワガラス」。巣立ちが終わったようで、二羽のヒナが並んで渓流沿いを飛び回る姿が見られた。
▲腹部の柿色が「赤腹イワナ」のように濃い個体
 いくら釣っても尺には届かない。エサが豊富で魚影が濃いことを考えると、尺イワナは一番乗りの釣り人に釣られているのであろう。幸い、焚き火や野営した痕跡はゼロだった。車止め以降の廃林道をバイクで走り入渓する健脚者の限界線を越えれば、間違いなく尺イワナが釣れるであろう。次回訪れるのが楽しみな岩魚谷である。 
▲ミニ「ネコバリ岩」・・・岩の上にミズナラが根を張っているように見える
クマがエゾニュウやフキなどの草を食べている痕跡
 上の写真は、クマの痕跡があったほんの一部。人を恐れない新世代のクマが奥山から里山へと生息域を拡大・・・「クマの方が先に人間の存在を察知し逃げる」といった昔の話が通用しない時代になった。7月25日発売、月間つり人9月号に「釣り人のための新世代ツキノワグマ対策」が掲載される予定です。ご笑覧いただければ幸いです。
▲刺身サイズのイワナを並べて撮る

 納竿した地点より魚止めの滝は、まだまだ遠い。源流部は、ブナとミズナラが主体の原生林が広がっているだけに、納竿するのが惜しいくらいであった。釣り終わった地点から、テン場まで歩いて2時間半ほど。次回は、テン場をもっと奥地に張り、魚止めまで探ってみたいと思う。その価値は十分にある「新岩魚谷」であった。 

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