山釣り紀行TOP

イワナとマイタケの森

 ●●岳周辺は、昔からマイタケ銀座と呼ばれている。一帯の林相は、ブナ・ミズナラ林だが、標高の低い谷沿いは圧倒的にミズナラの巨木が多い。日帰りのマイタケマン限界地点より奥地に行けば、イワナも期待できるだろうと安易に考えていた。 幸い、小沢を下る途中で3日分のマイタケ2株に当たる。奥地にテン場を構え、イワナを追ったが、行けども行けども走る魚影すら見えなかった。その理由は、幾つものマイタケマングループが沢を歩いたせいであった。その健脚ぶりには驚くほかない。(写真:柴田直俊)
 二日目、何とかマイタケマンが歩いた奥地まで達し、尺イワナを含む13本のイワナを釣り上げることができた。イワナとマイタケの両方をゲットできる山釣りは、下界では決して味わうことができない最高の贅沢・・・そんな幸福を味わうことができる森は、ブナ帯に位置する秋田と言えども、そうザラにはない。
 9月17~19日、今回のパーティは5名。車止めに着いたのは朝の6時頃。既にマイタケフィーバーは始まっているだろうから、車止めには駐車するスペースがないはずだ。だから、あらかじめ手前の広い駐車場に駐車。荷造り、足ごしらえを済ませて、歩き始めると、マイタケマンたちの車がズラリと並んでいた。後ろからきた車がUターンできないほどだった。その凄まじさには、毎度のことながら驚かされる。
 杣道から小沢を下る途中、ミズナラの根元が空洞になっているところに生えたマイタケを発見!マイタケマンたちは、ミズナラの巨木が生えている尾根筋を下るから、この小沢は歩いていないようだ。実にラッキーだった。荷を下ろして急斜面を上ると・・・。
 近付くと、下から見上げただけでは見えない空洞の下にも一株生えていた。これだけあれば、5人で3日分食べるには、十分過ぎる量だ。根元のウロに生えたマイタケは、泥がつきやすいので、手で丁寧にウロから外し、買物袋に入れて急斜面を下る。
 根元のウロに生えたマイタケには、陽が当たらないので白っぽい。一見食味が劣る白マイタケのように見える。しかし、一部陽が当たったマイタケの色を見ると茶色だったので、茶系マイタケと判断。事実、歯切れも良く食味も良好であった。
 小沢から本流に降り立ち遡行開始。谷沿いには、マイタケマンたちの足跡が明瞭についていた。S字状に曲がりくねった右岸には、焚き火用の倒木がたくさんあった。その対岸は、比較的平らな高台になっているので、そこをテン場に決定。
 テントと雨対策用にブルーシートを張った後、倒木をノコギリで切って薪を集める。その作業中、下流から下ってきたマイタケマングループ6名が、すぐ傍のミズナラの老木からマイタケを見つけたらしい。それを見ていたナベちゃんは、2キロもある大株だったと大騒ぎしている。 
 河原で泥のついたマイタケを洗っていると、マイタケマンたち一行が下ってきた。そのうちの一人が「菅原さんじゃないですか・・・やっぱり」と言うので見上げると、昨年、遭難騒動があった際に出会った3人組のマイタケマンであった。聞けば、ここから歩いて30分ほど上流に行けば、イワナの魚影がたくさん見えたという。日帰りとは言え、こんな奥地まで歩いていることに驚かされた。 
▲マイタケの森 
 昼食後、私とナベちゃんは、テン場周辺の斜面を上り下りしながらマイタケを探す。ほどなく、大粒の雨が繰り返し降るので、岩場や巨木の下で雨宿りをする。しばらく待ったが止みそうにないので、あっさり敗退・・・早々にテン場に戻る。イワナ班は、既にテン場に戻っていた。
 ブルーシートの下で焚き火を囲みながら休んでいると、次第に雨足は強くなり、ついにはバケツをひっくり返したような大雨に。恐らく秋雨前線が通過しているのだろう。ほどなく本流は濁流と化し、一気に水嵩が増してきた。一瞬、鉄砲水が来たらと辺りを見回すと、この高台なら大丈夫だろうと判断。
▲マイタケを焚き火で焼く

 初日は、マイタケマンが沢を歩くのでイワナは期待できないと予想していた。だから、夏に釣り上げたイワナの燻製を真空パックにして持参していた。本日のメインのマイタケ料理は、天ぷら、お吸い物、焼きマイタケ。酒は、あっという間に底を尽き、予備のウイスキーまで空に・・・時計を見ると午前1時を過ぎていた。不覚にも飲み過ぎてしまった。 
▲トリカブト  ▲ミズのコブコ
▲カマツカの赤い実 ▲ダイモンジソウ

 朝6時半頃、マイタケマン二人が尾根筋のキノコ木を探しながら降りてきた。さらに、私たちが寝ている間に、もう二組のマイタケマンが既に上流へ向かっていた。まだ暗いうちから山を歩く健脚ぶりと行動範囲の広さには驚くほかない。日帰りの山歩きでは、恐らくマイタケマンが日本一であろう。TV局から何度かマイタケ取材の依頼があったが、全て断っている。その理由は、とてもTV局のスタッフが取材に来れるような世界ではないからだ。 
 マイタケ激戦区では、イワナとマイタケの二刀流は通用しない。今日は、イワナ釣りに専念することに。まずは、足跡が無くなる所まで歩くことにする。人が一度歩けば、イワナは岩穴に隠れて出て来ない。当然のことながら、イワナが走る魚影は全く見えない。30分ほど歩くと、二人組のマイタケマンが帰ってきた。彼らによると・・・

 このところ気温が高いので、マイタケはまだ早いな。それにしても、イワナの影が見えないのがおかしい。どうしたんだろう、としきりに首を傾げていた。その答えは・・・この二人組は、本日一番乗りだと思い込んでいたが、彼らよりもっと早く、もっと奥地に入ったスーパー二人組がいたからである。
 1時間ほど歩いても、まだ踏み跡があったが、まずは試しにと竿を出す。相変わらず瀬から走るイワナは見えない。たまに釣れたとしても、7寸以下のリリースサイズ。大物ほど警戒心が強いから、隠れている岩穴から出てくる気配はない。それでも、マグレで8寸余りのイワナが釣れた。 
 顔は浅黒く、腹部は鮮やかな柿色、細かい斑点が星屑のように全身を彩り、側線前後に橙色の斑点があるニッコウイワナ。 
 河原から次第に谷は狭くなりV字のゴルジュ帯となる。その奥地から二人組のスーパーマイタケマンが下ってきた。目が合うなり、「何匹釣れだぁ」、「いや~、まだ一匹だけだ」。「ちょっと行げば、巻げないV字の廊下があるが、その奥に行げば大きなイワナがいっぴゃ見えだ。」

 マイタケは採れたようで、若い方のザックが大きく膨らんでいた。それにしても、こんな奥地まで日帰りで来るとは・・・心底驚かされた。マイタケマン、恐るべしである。河原に座り、湯を沸かしてのんびりコーヒーを飲みながら大休憩。
 時計を見ると既に11時半。日帰りマイタケマンたちが歩く限界地点を過ぎると、サイズがワンランクアップしたイワナが入れ食い状態となる。まさに予想通りの展開となる。
▲9寸ほどのオスイワナ 
▲ゴルジュ帯に懸るナメ滝 
▲着色斑点ともに不明瞭な個体・・・なぜか釣れてくるのはオスが圧倒的に多い。
▲秋田美人のように透き通るような体色を持つ美しい個体。イワナは大きくなるに連れて、パーマークが不鮮明になるが、この個体は縦のパーマークもはっきり分かる。
▲キツリフネの大群落
▲エゾオヤマリンドウ 
▲黒いサビが入った黄金イワナ 
 午後1時半頃、落差4mほどの滝に辿り着く。柴ちゃんが右岸を巻こうとしたら、降り口が垂直に切れ落ちていた。「ザイルは~」と叫んだが、何とテン場に忘れて来てしまった。これからという時に、竿を畳まざるを得なかったのは残念。それでも今晩のオカズには十分のイワナが釣れたので満足、満足。 
▲上のイワナが30cm、下が28cm
 秋の山釣り贅沢定食・・・焼きマイタケ、イワナの唐揚げ、刺身、卵の酢醤油漬け、ミズのコブコの塩昆布漬け。締めは、マイタケ入りラーメン。
▲酒がいくらあってたも足りない源流酒場兼源流カフェ

大当たりしたマイタケマン40キロ

 先に帰っていた金さんによると、今朝に出会った二人組のザックは満杯・・・聞けば、二人で40キロも採ったという。1~2ヵ所で大当たりしたのだろうか。こんなラッキーな人は、今のところ稀であろう。マイタケ採りは、苦労すればするほど、当たった時の感動が大きい。これが黒マイタケなら、ガッツポーズをしながら舞い踊りたくなるであろう。そして足が動かなくなる高齢まで、一生マイタケ狂になるであろう。それが悔いのない「山の人生」というものであろう。
▲朝食は贅沢カレー・・・マイタケのお吸い物付きカレー
▲渓を飛び交うカワガラス

 3日目、やっと太陽の陽射しが射し始めた。帰路は、草花を撮影しながらのんびり下る。途中、単独のマイタケマンに出会う。ナベちゃんの知り合いらしい。この渓でイワナも釣るし、マイタケも採るという。一週間前、マメだった木を見てきたが既に採られていたと苦笑い。けれども、その近くで茶系のマイタケが採れたとニッコリ。
▲アキノキリンソウ ▲ミゾソバ(牛の額)
▲イタドリの白花と赤花 
▲ツリフネソウ ▲キツリフネ
▲ミズヒキ ▲カメバヒキオコシ
▲オオカメノキの実 ▲サラシナショウマ
▲ウワミズザクラの実 ▲ミズナラのどんぐり 
▲ノリウツギ ▲エゾアジサイ(まだ咲いていたとは)
▲テンニンソウ ▲キバナアキギリ
▲ゴマナ  ▲ノコンギク
▲秋の渓流を彩るダイモンジソウの群落 
 小沢を上る途中で見つけたナメコとサワモダシ。来る時は、雑キノコがゼロであったが、昨日の雨と気温低下で雑キノコもパラパラ出だした。マイタケも、ほどなく最盛期を迎えることだろう。夏の台風でキノコ木が刺激されると、マイタケは豊作になると言われている。その諺どおりになることを期待したい。      

山釣り紀行TOP

inserted by FC2 system