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最後の最後に出てきたナメコ

 冬に向かって気温が急激に下がり、連日悪天候が続いていた。そんな中、唯一晴れの予報だった11月7日、最後のナメコ採りに向かった。全く期待していなかっただけに、最後の最後にブナ林の宝石・ナメコの群れに出会えたのは嬉しさ百倍であった。結果論だが、今年は倒木や半枯れの木に生えるキノコが全て大幅に遅れるという異常な年であった。 
 雲一つない快晴・・・車止めには、先行の軽トラが二台あった。ナメコの森は、わずかに赤茶けた葉が残るものの、ほとんど落葉していた。林床まで太陽の光が降り注ぎ、見通しもすこぶる良くなっている。ナメコ採りには、最高のコンディションであった。しかし、途中のナメコ木は全て採られた後・・・本命の場所まで真っ直ぐ歩くしかない。途中、水場でお湯を沸かし、コーヒーを飲みながら一服する。
 数日前に大雨が降ったらしく、沢はかなり増水していた。その大雨が刺激となったらしく、ナメコが一斉に目覚めたようだ。湿り気が多い倒木の下側にナメコが発生していた。
 めざす沢沿いの斜面・・・前回マメが見られた倒木を見て回るも、全て先行者に採られた後だった。やむなく諦め、最奥の地点まで一気に歩くことにする。
 藪と化した杣道を歩いていると、倒木に群生したムキタケを発見。これを採ったのでは重く嵩張るので写真を撮るだけにとどめる。 
 最奥のブナ林地帯は、過去に伐採された形跡はなく、いわばブナの原生林地帯。倒木は、樹齢二、三百年の巨樹が多く、それだけナメコの群生規模も大きい。しかし、車止めから真っ直ぐ歩いて2時間余りを要する奥地だけに、かなりの気力、体力を要する。
 倒れてから4年ほど経過していたブナの巨樹・・・その斜面上部の下側を覗くと、やっとナメコが出ていた。斜面下側を見れば、ナメコ、ナメコの山・・・大当たりだった。連日の雨で刺激され、やっとナメコが群れをなして生えてきたようだ。
▲一部マメも見られた。 ▲傘が凍っていたナメコ。
 倒木の斜面下側は、最も水分が多い。それだけナメコの群生規模も大きい。 
 幼菌から傘が開いた成菌までサイズはバラバラだが、これが天然ナメコの特徴。ナメコにできるだけ泥をつけないよう効率的に採取するには、小さなザルが大活躍した。ナメコの旬に当たれば、やっぱりナメコ採りは楽しい。
▲傘が凍りついたナメコのアップ。それだけ山の冷え込みは半端じゃない。だから防寒対策は必須だ。
 通称ナメコ沢に入ると、これまた数百年ブナの倒木に初めてナメコが生えていた。つまり、この一帯は、ちょうどナメコが生える倒木の新旧交代の時期に差し掛かっていた。ブナの原生林地帯は、寿命が尽きたブナの巨樹が、雪崩や強風で絶えることなく倒れる。だからナメコたちは、生える倒木を新旧交代しながら、毎年絶えることなく木の花を咲かせ続けることができるのである。
▲晩秋の陽にキラキラ輝くブナ林の宝石「ナメコ」 
▲傘が開いた成菌 ▲楽しい、楽しいナメコ採り 
 同じ倒木の斜面上部には、ブナハリとムキタケが一杯生えていた。もし、欲張ってムキタケまで手を出せば、重くて歩けなくなることは明らか。採るのは本命のナメコだけ。さらには旬のものだけ選りすぐって採取する。
▲凍りついた幼菌 ▲ムキタケ
▲晩秋のナメコの森
▲数百年ブナの巨樹と落葉したブナ林 ▲枯れたブナの幹に生えたムキタケ
▲落葉が降り積もった緩斜面の倒木に生えたナメコ 
 高台のブナの倒木に生えたナメコ。ここで、採取したナメコを背負うとズシリと重い。時計を見ればちょうど12時を過ぎていたので、ナメコ採りは終了。沢まで一気に下って昼食とする。お湯を沸かし、ミニカップラーメンを汁にオニギリをほおばる。最後は、暖かいコーヒーを飲んでのんびり大休止。例年、キノコ採りには予備として必ずチョコレートを持参するが、今年は全く手つかずに残してしまった。
 冬に備えてすっかり葉を落としたブナ帯の森。奥地に位置するナメコの森には、ただ歩くだけで往復4時間もかかる。楽しいナメコ採りは、歩く時間より短い。好きでなければ決してできない道楽である。常に激しいアップダウンもあるから、苦行に思うこともある。けれども、よくよく考えると、ブナ帯のキノコ採りは、老体に負荷をかけながら実践する健康トレーニングとして、これに勝るものはないように思う。だからブナ帯の森に感謝、森の恵み・キノコたちに感謝、そして山の全てを支配する山の神様に感謝、感謝である。

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