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2017初のイワナ釣り&ニホンザル 

 今冬は雪が多く、雪解けが早い日本海側の山々にもまだたくさんの残雪があった。4月11日、日本海に直接注ぐ小河川は、雪代がピークで、イワナの活性度は高かった。お蔭で尺イワナが釣れたが、9時頃になると雪代で水かさが増し、左右への渡渉が困難になったので、2時間弱の釣りで竿を畳んだ。中でも特筆すべきは、デジカメでミソサザイのベストショットを撮れたこと。早目に車に戻り、野鳥撮影用のカメラに切り替え、早春の草花や偶然出会ったニホンザルの群れを追い掛けた。 
 海が見えるほど下流の山々にも残雪があり、今だ眠れる森といった感じであった。上り坂の崩壊林道をしばらく歩くも、鈍った身体は容易に足が前に出ない。30分ほど歩き、枝沢を下って沢に降りる。砂地には、ウェーダーを履いた釣り人の足跡が残っていた。 
 雪解けが最も早い下流部でも、残雪があちこちにあった。流れは、雪代も加わって白く波立っていた。釣り人の足跡やバッケを摘み取った跡があちこちに見られたので、今年一番乗りでないことは明らか。さほど期待もせず、大岩の陰の淀みに第一投目を投じた。あの懐かしい、「コツ、コツ」というイワナ独特のアタリが竿を握る手に伝わってきた。 岩穴に引っ張り込もうとしたので、すかさず合わせると、意外に重い。
 何と第一投目でジャスト30cmのイワナが釣れた。昨年は、雪が少なく雪代もないに等しかった。それだけにイワナの活性度は極端に低く、尺イワナどころか8寸以下とサイズも小さかった。雪の多い年は、イワナの当たり年と言われているが、まさにそのとおりの展開。だが、良いことばかりではない。これからイワナ釣り本番と言う時に、準備していたクーラ―タイプのビグを車に忘れてきてしまった。こんな時に限って・・・悔やむほかなかった。
 源流部には、まだ相当の雪が残っているのであろう。連日、雪代の洗礼を浴びているにもかかわらず、下流のイワナでさえ、まだ顔には黒いサビが残っていた。これは、イワナが瀬に出ていない証左である。事実、瀬や瀬尻ではアタリが皆無であった。尺イワナは、買物袋に保冷剤として雪の塊を入れてザックに背負う。
 渓流でよく見かけるミソサザイ・・・繁殖期に入ったらしく、残雪の上で尾を立て、小さな鳥とは思えないほど大きな美声でさえずっていた。この美声を聞くと、雪国の渓流にも遅い春が来たことを実感する。
 すばしっこい小鳥で、片時も同じ場所にとどまっていないので、野鳥撮影用のカメラでないと撮影が極めて難しい。ところが、縄張り宣言でもしているのだろうか・・・意外に狭い範囲の木々の幹を伝い歩きしながら、「ツピツピツピチヨチヨチヨツリリ・・・」とさえずっていた。いつもならシャッターチャンスを待たずにイワナを釣っていただろう。野鳥の名前や生態を覚えると、近くに来た鳥は何となく友達になったような気分になる。

 しばらく釣りを忘れて、静止したまま観察を続けた。すると、私の目の前の倒木に止まって、尾羽をピンと上げ、さえずり始めた。そのチャンスを逃さず撮ったのが上の写真。目にはアイキャッチ、背景は残雪の白で焦げ茶色の鳥が際立って見える。風景撮影用のデジカメで、こんな写真が撮れるとは・・・ラッキーとしか言いようがない。
 優しい顔をしたメス、28cm。大場所は、最近、釣り人に釣られているせいか、7寸~8寸と小さかった。それでもイワナの食いは悪くなかった。見落としてしまいそうな小さなポイントで、意外なサイズのイワナが釣れた。ビグがないので、釣れるたびにザックから袋を取り出してイワナを入れ、再度背負うことを繰り返していたので面倒なこと、この上ない。
 さらに雪代が入ってきて水かさが増し、左右の渡渉が困難になってきた。沢に張り出した枝にからみついていたフジのツルを頼りに激流を渡った。もう一匹釣れたら、やめようと思い、好ポイントに振り込むと・・・ 
 29cm余りの泣き尺サイズのイワナが釣れた。時計をみれば、まだ9時前だったが、快く竿を納めた。時には、ビグを忘れるのも悪くはない。買物袋に新しい雪を入れ、しっかり保冷してからザックに背負う。今晩、初物イワナは、何としても刺身で賞味したい。とにもかくにも、釣った魚は美味しくいただかないと成仏しないからである。 
▲ヤマワサビの花と群落 
▲カタクリの花アップ
 豪雪地帯に適応した低木・ナニワズ・・・雪が降ると地に伏しているが、雪が消えるとネマガリダケのように起き上がる。森がまだ芽吹く前は、林床に光が最大限降り注ぐ。その間、冬緑樹の葉で盛んに光合成を行い、黄色い花をたくさん咲かせる。高木の森が深い葉に包まれる夏になると、落葉して赤い実をつける。一般の植物とは、逆の戦略で分布を拡大してきたオモシロイ樹木である。
▲ネコノメソウ
▲スミレサイシン ▲わずかに咲いていたニリンソウ
▲ギョウジャニンニクは芽が出たばかり。
 森が芽吹く前の一瞬、林床は一面百花繚乱の花園で埋め尽くされる。白はキクザキイチゲ、赤紫色はカタクリ、手前の黄色はナニワズ・・・花たちは一斉に、「春だ、春だ~いつまで寝てる、起きろ~」と叫んでいるような、華やかさ、賑やかさがある。
 車に乗って林道を走っている途中、すぐ目の前にニホンザルの群れに出くわす。窓を開け、カメラを構えると、さすがに警戒して沢の方向に下って行った。車を止め、一定の距離を保ちながらサルの群れを追った。
 厳寒の冬、寒さと飢えを凌いできたサルたちは、ブナの芽吹きを求めて、奥山から沢の河口部へと移動してくる。サルも、雪国に春を告げる花が好きなのか、群れは早春の花園の真っただ中にいた。何やら摘んでは食べているようだ。
 春は、カタクリの花やフキノトウ、キバナイカリソウを食べるらしいが、観察しているとどうも違う。地上に芽を出したばかりのノビルのような細い葉を抜いて食べているようだ。
 花園周辺の木に上っているメスのサル(乳房が二つ見える)は、膨らんだ芽を手繰り寄せて食べていた。群れの行動を観察していると、一般に言われるボスザルは存在せず、母系社会と言われるだけあって、成獣のメスが群れ全体の行動を決めているようだ。群れの規模は意外に小さく、10数頭であった。
 枝を手繰り寄せて膨らんだ芽を食べる。もう1、2週間もすれば、ブナの芽吹きが始まるので、腹一杯食べられるだろう。群れは、エサを探しながらゆっくり移動していた。 
 林道を横断する際は、一旦路肩付近で立ち止まり、安全かどうかを確認するしぐさを見せた。後続の若いサルを気遣って何度も後ろを振り向く。
▲後続の若いサルたち
 雪の多い年は、イワナも花も山菜も活性化する。今年は雪が多い分、ブナの森の恵みが豊かになる予感がする。釣り上げたイワナは、クーラーボックスに移し大事に持ち帰る。尺イワナと泣き尺の2本は、皮を剥ぎ、三枚におろしてワサビ醤油でいただく。冷たい清流で育った旬の刺身は、コリコリした食感で絶品。残りは新聞紙にくるみ、一日冷蔵庫に寝かせてヌメリをとった後、塩焼きと唐揚げにする予定。毎年のことだが、イワナに生かされた人生の至福を味わう。

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