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2017初の山釣り

 今冬は雪が多く降ったのに加えて、4月は悪天候、かつ低温が続いた。GWに入ると、一転、好天が続き、20度を超える日もあったが、山にはまだまだ残雪が多い。日当たりの良い斜面では、新緑真っ盛りだが、日当たりの悪い斜面になると、大きな雪渓が残り、山菜の姿は全く見られない。奥に入るにつれて、イワウチワの花が目立つようになる。これじゃ山菜は早いか・・・と思ったが・・・。最終日、4人全員がクマ避け鈴を鳴らしながら歩いていたにもかかわらず、クマに吠えられた。
 5月の連休、4名のパーティで定番のイワナ谷に向かった。下流部はオオヤマザクラが満開で、ブナ帯の森は萌黄色に染まっていた。命芽吹く風景に元気をもらいながら歩く。
  • 春紅葉・・・ブナ帯の新緑は、光合成が本格化するまでの間、緑色が薄く、元々の色素である赤や黄色が見える。その多彩な色彩を「春紅葉(はるもみじ)」と呼んでいる。
▲オオヤマザクラ 
  • 心臓破りの急坂と蘇生・・・崩壊林道をしばらく歩き、いよいよ心臓破りの急坂に突入。重い荷を背負い、半年間鈍った体には地獄の苦しみが続く。全身から汗が噴き出し始める。何度も休みながら前進を繰り返す。そうすることによって下界の毒素が全身から排出される。谷に降りたら、山の聖なる水とイワナ、山菜で全身を満たせば、生き返ったように元気になる。こうした至福の感覚は、地獄の苦しみを味わわないと、決して得られない。
 急坂のスタート地点の斜面には、キバナイカリソウやモミジイチゴが満開に咲き誇っていた。この花が咲いていると、いつもなら山菜最盛期なのだが・・・。
▲タチツボスミレ ▲ヒトリシズカ
 奥に入るに連れて、残雪の多さに驚く。山の稜線付近には、残雪が斑状に残り、木々は芽吹く気配すらなかった。いつもの水場は、大きな雪渓が連なり、大量の落葉に埋もれていた。その落葉を全て取り除くと、岩穴からコンコンと水が湧き出し始めた。それをやかんに汲み、お湯を沸かして遅い朝食をとる。
 ブナ帯の森の斜面は、雪が解けると真っ先に生える山野草がオオイワウチワである。いつもなら、この花が終わらないと、山菜は生えてこない。そんな早春の花がやたら目立つようになる。 
 日当たりの良い場所は、萌黄色の新緑に包まれているが、奥に見える稜線は、今だ眠ったままである。
▲エゾエンゴサク
▲エンレイソウ  ▲スミレサイシン
  • 山菜・・・日当たりの良い山菜畑を下る。山菜は、あちこちに確認できるが、まだ土から顔を出したばかりの初期段階と言ったところ。中でも早生のシドケとアイコを選んで採取する。車止めを朝7時に出発して、目的のテン場に着いたのは12時、何と5時間もかかってしまった。
▲一日目の山の野菜として採取した山菜・・・アイコとシドケ 
  • イワナ釣り・・・山の頂には、まだ大量の雪が残っているので、雪代のピークは続行中。初日の釣り班は、私とダマさんの二人。 白泡渦巻く渓流は、釣れるポイントが少ないが、真っ黒にサビついたイワナが入れ食いで釣れてきた。
▲早春の花その1・キクザキイチゲ  ▲早春の花その2・オオイワウチワ
▲早春の花その3・バッケ(ふきのとう) ▲ムラサキヤシオツツジは、まだツボミ状態 
▲轟音を発して流れ下る雪代・・・渓流の忍者・カワガラスは、この沢沿いを何度も低空飛行していった。
 中間部でさえ、雪渓が連続している。源流部は、恐らくスノーブリッジの連続で、釣るポイントはほとんどないに違いない。これなら源流部を諦めるほかない。ならば、明日のために、イワナを釣る区間を残しておくほかない。二人の釣果が10匹に達した時点で竿を畳む。 
 川岸で、釣りたての旬のイワナをさばき、内臓と背中の血合いを取り除く。上右写真のイワナ4尾は刺身に、残り6尾は塩焼きにする。イワナの刺身を調理している最中に、突如、その臭いを嗅ぎつけた黒い小動物が現れ、周りをうろつき始めた。 
  • カワネズミ・・・最初はモグラかと思ったが、よく見ると尻尾が細長いのでネズミ類・・・カワネズミだ。カワネズミは、小さなイワナが大好物である。ネズミとはいっても、眼が非常に小さく、ほとんど見えないような行動をする。先ほど取り除いた内蔵の一部を、顔の先端両側の長いヒゲで感知し、美味しそうに食べていた。一方、大きなイワナは、このカワネズミを丸のみにして食べてしまう。生き物たちは、皆、自然の命をいただいて生きている。人間も同じである。
  • 今年初の山釣り定食・・・焚き火を囲み、イワナの刺身と山菜のおひたしで乾杯!いつものことだが、久々の山釣り談議に花が咲き、全員飲み過ぎてしまった。酩酊状態でシュラフに潜り込む。 
▲二日目の朝・・・新緑の輝き 
  • 二日目、イワナ釣り・・・釣る区間がほとんどないので、私とダマさんの二人が釣りに出かける。雪代が出る前だったので、昨日よりサイズはワンランクアップ。 
▲顔が真っ黒にサビついた尺イワナ 
 イワナを生きたまま持ち運ぶ種もみ用の網を忘れてきてしまった。旬を保つために、落葉が大量に降り積もった水たまりに、釣り上げたイワナを入れて生かしておくことに。 
▲今回最大の33cm 
▲1枚しかない網に尺イワナ入れて、大事に生かしておく

 中間の魚止めの滝まで数百メートルの区間しかないが、33cmを筆頭に尺イワナは3本、釣果は13本であった。時計を見れば、まだ9時を過ぎたばかりだが、竿を畳むほかない。テン場まで急ぎ戻ったが、元気に生きていたのは8匹。弱っていた5匹は、野ジメにして雪中貯蔵にした。 
▲カツラの若葉
▲新緑に映えるオオヤマザクラ ▲しばし、日陰で昼寝
  • 昼寝・・・二日目も雲一つない好天で、直射日光を浴びると暑くて寝ていられないほど光が強かった。日陰にマットを敷き、しばし昼寝をする。頭上では、ヤマガラが繁殖期に入ったようで「ツーツーピィー、ツツピー、ツツピー」と、うるさいほど鳴いていた。
  • ニホンカナヘビ・・・渓流脇の石の上に乗って、しばし動かず日光浴をしていた。
  • 命芽吹くドラマ・・・新緑の波が谷から峰に向かって走っているのが分かる。二日間、好天に恵まれたので、新緑の峰走りは凄まじく、山の稜線まで達し始めた。こうした新緑のドラマは、年を重ねれば重ねるほど感動が大きいように思う。その理由は・・・年を重ねると、次第に生命力が衰えてくる。雪国の春は、眠っていた山が一気に目覚め、「命の芽吹き」が爆発するような生命力を強く感じさせてくれる。その生命のドラマから元気をもらえるからであろう。
  • ブナの若葉・・・白い毛が密生する。「山毛欅」と書くこともあるが、これは葉に毛の生えた山のケヤキという意味である。
  • 岩魚骨ラーメン・・・焚き火でじっくり燻した頭と骨は、抜群の出汁が出る。その出汁で、昼食用のインスタントラーメンを作ってみたら、しこたま美味かった。名付けて「岩魚骨ラーメン」。
  • 山菜採り・・・昼から全員で山菜採りに出掛ける。二日間の好天で、シドケもアイコも大分伸びてきた。誰も採りに来ない山菜天国で、萌え出たばかりの山菜を摘む。
  • 山釣り文化・・・イワナ釣りにしても、山菜採りにしても、お金で買った方が楽でコスト的にも安い。なのになぜ、そんな無駄なことをするのだろうか・・・仮に経済性、合理性を最優先すれば、ライフワークとしての趣味は全て否定されてしまうだろう。自分で採って、処理して、料理して食べる。それが生き物本来の生き方である。生きるために「食べる」本能を刺激するわけだから、満足度が格段に高い。さらに言えば、食べ物全てをお金で買っている「愚かさ」に気付かされる。遥か縄文の昔から行われている山菜採りやイワナ釣り、きのこ採り、山釣りは、自然の恵みに感謝する文化的行為であることを理解してほしいと願う。
▲シラネアオイ  ▲クルマムグラ
▲採取したアイコとシドケ
  • イワナの刺身・・・イワナの内臓をきれいに取り除いた皮を剥ぎ、三枚におろして赤身の刺身をつくる。残った頭と骨は焚き火で燻す。アラは、唐揚げにする。つまり、内臓以外は捨てるところなく食べ尽くす。そしてイワナの分まで元気に生きることでイワナも成仏するとされている。
  • イワナの塩焼き・・・ネマガリダケに刺し、塩をふって盛大な焚き火の遠赤外線でじっくり焼き上げる。
▲シドケの天ぷら 
▲イワナの唐揚げ 
▲シドケ、アイコのおひたし 
▲シドケのごま和え  ▲ミズの塩昆布漬け
  • 春の山釣りフルコースで乾杯・・・イワナの刺身、唐揚げ、シドケ・アイコのおひたし、天ぷら、ミズの塩昆布漬け、シドケのごま和えなど、天然の庭園を鑑賞しながら、春山の恵みのフルコースをいただく。野鳥に興味を持つと、頭上でさえずる鳥の声がやたら気になる。今回、確認できた鳥は、ヤマガラ、シジュウカラ、カワガラス、キジバト、アオゲラ、アカゲラ、カケスである。
  • イタヤカエデの変種・ベニイタヤの花と若葉・・・ベニイタヤの若葉は、紅紫色をしているので、別名アカイタヤとも言われている。ブナ帯の新緑の中では、この黄色の花と紅紫色の若葉がよく目立つ。
  • クマに注意!・・・4人全員がクマ避け鈴を下げ、一緒に行動していたにもかかわらず、クマと遭遇し、吠えられた。古くからクマ避け対策の常識とされた対策が通用しなくなっている現実を改めて感じた。

     沢から杣道まで落差が200mほどある。杣道まで9割以上登った笹薮で、クマの糞を見つけた。ほどなく、我々の目指す杣道方向から、突然、「ブォーン、ブォーン・・・」という地鳴りのような重低音が、耳だけでなく全身に響き渡った。これは、明らかにクマだ。子連れのクマだろうか。親離れが近いだけに、「親離れ訓練」として3匹同時に襲ってきたりすれば防ぐのは難しい。「これ以上来るな!」という警告音・・・それを無視して進めば、襲われる確率は高いだろう。

     かといって、谷に下ったのでは帰れなくなる。クマとの距離が10~20m以上ある場合は、むやみに動かず相手の動きを待つのが良いとされている。腰に下げているクマ撃退スプレーを確認し、ひとまず斜面に足を止めて、クマが移動するのを待った。クマは、我々が動かなくなったのを確認したのか、警告音は止まった。こちらは4人だから、クマは無用なトラブルを回避する行動に出るだろう。クマが安全な場所に移動するまで待った後、それを慎重に確認しながら登りはじめ、やっと杣道に達した。

     この谷には、30年ほど毎年欠かさず来ているが、この谷でクマに吠えられたのは、今回が初めてのことである。この谷も、他のイワナ谷同様、歩く人が年々減少し、今では谷の巻き道も杣道もヤブと化している。そのうち、「杣道」が「クマ道」になるのも時間の問題であろう。今回、ダマさんはクマ撃退スプレーを持参していたにもかかわらず、集団で行動しているからクマに会うことはないと、勝手に判断し、ザックの奥に入れて背負っていた。人を恐れなくなったクマには、過去の常識が通用しない。油断はくれぐれも禁物である。

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