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想定外の豪雨と緊急ビバーグ

 7月の連休を利用した山釣りは、2泊3日の日程であったが、3日目(7月16日)に激しい雨に見舞われた。夜半から雷とともに降り始めた雨は一向に止まず、沢の水位は下がるどころか上がる一方・・・やむなく緊急ビバーグを決断した。かつて白神山地でテン場を移動しながら沢から沢へと長距離を移動した際、途中で雨に見舞われ、一日遅れたことがあった。しかし、比較的近場のベースキャンプ方式をとっていた際、緊急ビバーグするのは初めてのこと。近年、クマの動きと同様、雨の降り方も昔と違ってきていることは確かだ。
  • ブナの実凶作か、森林管理局予測・・・7月13日、福島を除く東北5県のブナの結実予測を発表。秋田県は「凶作」と見込まれた。しかし、杣道沿いのブナの実は、並作~豊作であるかのようにたくさん実をつけていた。豊凶は、県内でも地域差が大きいのだろうか。
  • 梅雨に似合う花「エゾアジサイ」・・・杣道沿いはエゾアジサイの花が満開で、さしずめ「エゾアジサイロード」と呼びたくなるほど、あちこちに群生していた。 
▲杣道から枝沢を下りイワナ谷に降りる ▲ショウキラン
  • 渇水のイワナ谷・・・梅雨に入ったとは言え、空梅雨が続き、沢は超渇水状態。釣りには最悪のコンディションで、かつまだ日帰り釣りの領域だけに、イワナの走る魚影は皆無であった。
  • 天気予報によれば・・・二日間は晴れ、三日目は曇り時々雨であった。一日目は、雲一つない好天だったので、雨対策用のブルーシートは省略した。まさか3日目に激しい雨に見舞われるとは、全くの想定外であった。
  • 日帰り領域は、サイズに不満・・・どこの釣り場でも同じことだが、日帰りの釣り人が訪れる沢は、夏場になると釣れるサイズが格段にダウンする。釣られてイワナがいなくなったのではなく、大物ほど警戒心が強くなるからである。事実、見えるイワナより、小さいイワナしかヒットしなかった。恐らく、その年一番乗りなら尺イワナも釣れるであろう。
  • 竹濱毛ばりを使ったテンカラ釣り・・・もちろんヒットはするものの、サイズに不満が残る。今日は、夕食のイワナを確保すればいいので、早目に納竿する。 
  • 交尾期はクマも沢に集まる・・・沢筋に生えているクマの好物・ニョウサクを食べた痕跡が到る所にあった。そして目を斜面に転じるとクマ道ができている。 交尾期は、クマが沢に集まると言われているがその通りだと思う。目撃情報が多い里山周辺だけでなく、奥山もクマの密度は高い。
▲ブナの幹に刻印まれたクマの爪痕 
  • 久しぶりの源流酒場・・・ブナ、ミズナラ林の緑のシャワーを浴びて、定番のイワナ料理をメインに乾杯。何度やっても楽しい。仲間の一人は、つい飲み過ぎてしまい、立つと千鳥足で斜面を転げ落ちそうだった。危ない、危ない。
  • 二日目も快晴・・・梅雨期の7月は、二日間連続の快晴に恵まれることは珍しい。真夏の強い陽射しを、ホオノキの風車型の大きな葉が和らげてくれる。 深緑も透過光で見上げると美しい。夏は、涼しい沢に勝るものなしだと思う。
  • 釣りモード全開・・・昨日釣り上がった区間まで一気に歩き竿を出す。不思議なことに虫一匹飛んでいなかった。故に毛ばりではほとんど反応なし。やむなく、エサ釣りに切り替えて釣り上がる。 
  • サイズはワンランクアップ・・・上流に釣り上がるにつれて、イワナのサイズはワンランクアップ。腹部の柿色が鮮やかで、側線前後に薄い橙色の着色斑点をもつニッコウイワナ。 
  • サイズは8寸~9寸程度の良型。激流を生き抜く尾びれの逞しさに注目。着色斑点は薄いがニッコウイワナ系である。 
  • 全身が黄金色をした黄金イワナ・・・顔は浅黒く、着色斑点をもつニッコウイワナ。
  • 透明度抜群、エメラルドグリーンの水面下を黒い影が何度も走る・・・瀬尻から走るイワナの数を見れば、魚影の濃さが良く分かる。 
  • ゴルジュ帯を抜けると、さらにサイズはアップ・・・恐らく、日帰り釣りの人たちは、このゴルジュ帯の下流までであろう。だからイワナの食いは俄然アップする。一度浅い掛かりで落としたイワナでも、再度エサを入れると釣れた。明らかにスレていないことが分かる。
  • 泣き尺サイズのイワナ
  • 日帰り領域を超えると・・・両岸が迫るゴルジュ帯の壺では、9寸~泣き尺サイズのイワナが竿を弓なりにする。長谷川副会長は、メインの竿を忘れてきたが、サブの4.5mと短い竿でも入れ食い状態で釣れた。つまり、イワナの楽園に突入すれば、竿も腕も仕掛けも関係なく釣れるということ。
  • これも泣き尺サイズ
 
  • 夏は生かしたままデポ・・・真夏は、すぐに野ジメにすると鮮度が格段に落ちてしまう。少々面倒だが、釣り上げたイワナは、種モミ用の袋に生かしたまま入れ、釣り上がる。5匹ほどになったら、目印をつけてデポしておく。デポしたイワナは、帰りに回収すれば、真夏でも刺身ができるほど鮮度を保つことができる。つい釣り過ぎて、デポし過ぎた場合でも、元気に生きているので簡単にリリースすることも可能である。 
  • 深緑滴る源流部を釣る・・・入れ食いモードに突入すると、二人とも持参したエサが無くなるほどだった。自ずと魚影の濃さが分かるであろう。
  • 9寸以上のイワナ 
  • 流木と巨岩が点在する源流部
  • 泣き尺(29.5cm)のイワナ・・・超渇水で、釣り人はイワナに丸見え。瀬を走るイワナの数は半端じゃない。魚影は濃いが、底まで丸見えだから、尺には届かない。スレていないとは言え、尺以上になると、忍び寄る外敵を察知する能力、警戒心は極めて高いから、簡単には釣れない。逆に言えば、釣り人に簡単に釣られてしまうようなイワナは、尺以上になるまで決して生き延びられないのが現実である。
  • ただし、雨後の笹濁り状態か、あるいは春一番なら、尺イワナの警戒心より食欲が勝るから、尺イワナが釣れる絶好のチャンスになる。ただし雨後の笹濁り状態になれば、V字峡谷が続く源流部は、高巻くことすらままならず、一歩も前に進むことができないであろう。
  • 二人ともエサを使い果たして納竿・・・まだ午後2時を過ぎたばかりだが、源流のイワナ釣りに大満足。あっさり竿を畳む。副会長がニコニコ笑いながら、「エサが無くなるのは久しぶりだ」と言った。それを知ってか知らずか、カワガラスが上下流へと低空飛行を繰り返した。
▲ミヤマカラマツ 
▲ホオノキの萌芽更新 ▲ヒメアオキの赤い実 
  • 二日目の源流酒場・・・空は曇ってきたので、雨対策用にブルーシートを張り、その下で乾杯。夜遅くまで語らっていたが、寝るまでは雨が降っていなかった。だから明日、まさか緊急ビバーグするとは想像だにしていなかった。 
  • 大雨、濁流・・・夜、テントを叩き付ける雨音と、雷の音で目が覚めた。水かさが増した激流の轟音が凄まじい。ベースキャンプは、沢の源流部だから出水は早いが、雨が止めば水位が下がるのも早い。この時点では、さほど心配はしていなかった。
  • 朝、水位が下がったが・・・雨が止むと、確かに水位は下がった。しかし、それはほんの一瞬でしかなかった。今回の大雨は、東北北部に停滞した梅雨前線に南から暖かい空気が流れ込み、大気の状態が不安定になったため、7月16日午前0時~午後4時までの総雨量は、北秋田市阿仁合158mm、鹿角市150.5mm、男鹿市・五城目町130mmなど、一日激しい雨に見舞われた。
  • 一日中、水位が下がるのを待つ・・・荷造りを済ませ、いつでも遡行を開始できる態勢で、天候と沢の流れの変化を観察。雨は一向に止まず、水位は下がるどころか上がる一方だった。副会長がラジオを取り出したが、沢が深く電波が届かない。時折強い風が吹き、一瞬空が明るくなることもあったが、雨が衰えることはなかった。時計の気圧計は、右肩下がりで一向に回復する兆しはなかった。ラジオがなくても、梅雨前線が停滞していることは明らかだった。
  • タイムリミットの午後4時まで待ち続ける・・・明るいうちに車止めに着くには、午後4時がタイムリミットだった。自然に逆らい、「今日中に何としても帰らなければ・・・」などと自分勝手な行動をとれば、自然に殺される。だから、こんな時はひたすら安全な状態になるまで待ち続けるしかない。午後4時までジッと待ち続けたが、水位が下がる気配はなかった。やむなく緊急ビバーグすることを決断した。
  • 緊急ビバーグ・・・今回のパーティは4名。予備食料は、インスタントラーメン4個、塩焼きイワナ、漬物、ご飯1合程度、ビスケット・チョコ・飴など1泊のビバーグには充分。だから生死を彷徨うような遭難感覚はゼロ。むしろベースキャンプを多少手直しした程度で、そのまま利用できたので快適だった。
  • 問題は残された家族が心配して遭難騒動を起こさないか心配・・・家族や職場には、あらかじめ悪天候に見舞われた場合を想定し、1~2日遅れる場合があることを告げておくことが肝要である。家族に心配させまいと無理をすれば、簡単に命をとられる。
  • 雨は、幸い午後5時前後で止んだ。明日は一刻も早く沢を脱出しなければならない。早目に夕食を済ませ、シュラフに潜り込んで就寝。翌朝は、まだ暗い3時半に起床。荷造りとテン場を綺麗に片付け、午前5時、朝飯を食べずに遡行を開始した。水位が下がったとは言え、沢に入るとすぐに股下まで達した。スクラム渡渉を繰り返しながら下り、枝沢を上って杣道に達した。今回、悪天候に見舞われたことはアンラッキーなことだが、こういう経験は、望んでできるわけではないので、実に貴重な体験だった。   

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