2020年初のイワナ釣り
|
|
新型コロナの猛威は、現代のグローバル化と首都一極集中の弱点を見事に突いているだけに怖ろしい。その感染防止対策として、「密閉」「密集」「密接」を避けることが、声高に叫ばれている。この三つの「密」を完璧に実行できる趣味は、人跡稀なイワナ釣りであり、誰とも出会わない山釣りの旅であろう。なぜなら、イワナ釣りあるいは山釣りは、アンチグローバル、アンチ都会を志向する人たちの趣味だからである。それだけに渓流の解禁日が待ち遠しかった。 |
|
- 今年は記録的な暖冬で、里では梅の花も満開だ。例年より一週間早い4月3日、相棒と二人で定番のイワナ谷に向かった。狙い通り、車止めには、誰もいない。一日中誰とも会うことなく、イワナ釣りを楽しむことができた。
|
|
|
- 天候は、一日中曇天。上りが延々と続く崩壊林道を歩く。日帰りのイワナ釣りとは言え、1時間以上歩かないと人跡稀な渓流の世界には入れない。半年間、なまった体から汗が滴り落ちる。今年初めての山だけに苦しい。「イワナ、イワナ」と呪文を唱えながら、ひたすら歩くこと1時間余り。体がやっと山に慣れてきたところで谷に降りる地点に辿り着く。途中、早春の花を撮影したが、最も驚いたのは・・・
|
|
- カタクリが咲き始めばかりだが、何とニリンソウの白い花もちらほら咲き始めていた。こんな光景を見るのは初めて。例年なら、カタクリとキクザキイチゲの花が終わると、ニリンソウが咲きはじめる。それが記録的な暖冬で山野草の花も狂わされているようだ。
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
- 山の斜面には、残雪がほとんど見られないものの、いまだ山全体が眠っているような鉛色に染まっている。やっと日当たりの良いところのブナが芽吹き始めたところを見つけたのでシャッターを押す。木々の芽吹きは意外に遅い。これは気温が上がったと思ったら、雪が降ったりと寒暖差が大きい日々が続いているからであろう。だから雪解けはすこぶる早いものの、採取できる山菜は、まだゼロに近い。
|
|
- 小躍りしながら、めざす渓流に降り立つ。周辺の雪は皆無。奥山の雪も、まばらに残っているだけ・・・雪代のピークは、とうに過ぎた、というよりも、本格的な雪代がなかったのではないか。
|
|
- 相棒は、第一投で良型イワナを釣り上げた。イワナの食いはよさそうだ。雪代の洗礼を受けていないと、川底の石は黒い苔に覆われ、ヌルヌルした感じになるが、そんな様子は見られない。雪は少ないものの、雨が相当降ったようで、黒い苔も洗い流されたのであろう。記録的な暖冬とはいえ、これならイワナの生息に問題はなさそうだ。
|
|
- 初イワナは、雪代の洗礼を受けたような白い魚体だが・・・頭がデカイ割には、痩せた印象を受ける。
|
|
- 2匹目は、真っ黒にサビた魚体に橙色の斑点が鮮やか。魚体は、丸々太っていたので、エサ不足ではなさそうだ。以降、入れ食い状態で釣れてくるものの、サイズに不満が残る。その理由は至って簡単・・・瀬尻からイワナに走られ、釣れてくるのは二番手、三番手だからだ。
|
|
- 解禁当初の仕掛けは、いつも短いチョウチン仕掛けにしている。早春のイワナは、岩穴に隠れて瀬には出ていないからである。ところが、大きな淵では、瀬の中心付近に尺前後のイワナも見えた。ポイントに近づくと、偵察隊のイワナに何度も走られた。だから、掛かってくるのは二番手、三番手ばかり。イワナは明らかに瀬に出始めている。点と線の中間的な仕掛けがベストのように思ったが、仕掛けを変えるのは面倒この上ないので、そのまま釣り上がるしかない。
|
|
- 相棒も、サイズが小さい、と不満を漏らしつつも、順調にイワナを釣り上げていた。
|
|
- 深場を狙って点釣りを続けていただけに、釣れてくるのは、頭が黒くサビついたイワナが多かった。全身真っ黒にサビついたイワナは、半年間、暗い岩穴に隠れていた証左。
|
|
- 典型的な早春イワナ・・・顔は、これ以上ないほど真っ黒にサビついている。今年は、本格的な雪代がないだけに、イワナのサビも、なかなかとれないのだろうか。
|
|
- 苔生す岩が点在する奥地に達しても、周囲に残雪は見られない。けれども山野草の花や山菜の姿も皆無。見上げれば雨が降りそうなほど雲がぶ厚く、谷は夜が明けたばかりのように暗い。その谷に吹き下ろす風もまた冷たい。ひたすらイワナを追うしかない。
|
|
- 釣れてくるイワナは、またしても顔が真っ黒。合わせのタイミングが遅過ぎるのか、イワナに針を胃袋まで呑まれるケースが続発した。それだけイワナの食いは良かったと言えるが、釣りの技術レベルは、まるでエサ釣り初心者だ。
|
|
- 渓流沿いに点在するバッケは、ほとんど花が開いて旬を過ぎていた。比較的早いアザミやコゴミは、芽さえ出ていない。 イワナだけでは、どことなく物足りない。
|
|
- 釣り上げたイワナは、しばらく暴れて、なかなかシャッターチャンスを与えてくれない。渓流に降り積もった落葉を蹴散らしながら暴れる。
|
|
- 落葉がイワナの頭と目の上に被さると、本人は隠れたつもりなのか、動かずおとなしくなる。イワナは、水中でも頭を岩穴に突っ込むと、隠れたつもりで動かなくなる。あの賢いイワナでも、外敵に対して「頭隠して尻隠さず」のパターンを繰り返すのを見ると、実に滑稽である。
- 時計を見るとまだ10時だが、ピグが重くなったので納竿することにする。河原でお湯を沸かし、パンと漬物、温かいカップラーメンを食べ、コーヒーを飲む。帰りは、車止めまでまっすぐ歩いて2時間余り。すこぶるいい運動になった。やっぱりイワナが棲む山は最高だ。
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
- 今年から「特集 昆虫シリーズ」に挑戦すべく、資料を収集している。その中の一冊「昆虫はすごい」(丸山宗利)の見出しには、「私たちのやっていることのほとんどは、昆虫に先にやられてしまっている。狩猟採集や農業、牧畜、建築。あるいは恋愛、嫉妬・・・。そして戦争から奴隷制、共生まで。あらゆることを彼らは先取りしてきた。もはや゛虫けら゛なんて呼べない」
- 新型コロナに世界中が翻弄されている今だからこそ、むしろ゛虫けら゛に謙虚に学ぶ必要があるように思う。今西錦司博士が、渓流に生息する水生昆虫から学んで「棲み分け理論」を提唱したように。
|