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初夏のイワナ、クール沢遊び、美渓、ワラビ、タケノコ、ウド、食い気のないイワナ、雪煙、渓流植物、ブナの若葉・・・
▲丸々太った山魚・・・初夏のイワナ

奥が深く雪解けが遅い内陸部の沢は、雪代が収らないと沢通しの遡行は不能である
だから、奥山の山釣りは、雪代が終わった「初夏」がベストシーズンである
ブナ帯の森では、「初夏」を告げるかのように、賑やかなエゾハルゼミが一斉に鳴き出した

2011年6月上旬・・・5名のパーティでブナ帯の源流に向かった
久々の好天に恵まれ、初夏のイワナやワラビ、タケノコ、フキ、ウドなど、旬の味を堪能した
▲ブナ帯の渓畔林に覆われたイワナ谷・・・花崗岩の岩床を滑るように走る美しき水

夏の節電対策で扇風機や土鍋、魔法瓶が飛ぶように売れているという
さらに団扇、扇子、風鈴、スダレ、打ち水などの和の暑さ対策グッズに注目が集まっている
しかし、夏の暑さを心身共に吹き飛ばすには、ブナ帯の渓流に勝るものはないだろう

今年の夏は、滝や渓流、湧き水など、マイナスイオン+天然クーラーにも注目してもらいたい
中高年登山が大きなブームになっているが、今年の夏は、山の頂ではなく、その懐へ
清冽な水しぶきを全身に浴びて、沢を遡行する「沢遊び」に注目が集まるのではないか

今年の夏は、「天然クール沢遊び」・・・大いに期待したい
渓流の忍者「カワガラス」

これまで何度も撮影を試みたがことごとく失敗・・・やっと撮影に成功・・・
さらに渓流を流れ下るシノリガモの撮影にも成功した
繁殖シーズンにシノリガモがいるということは、この沢で繁殖しているに違いない

これは、左足不調でスローに歩くしかなかったからこそ撮れたと思う
苦痛に耐えながら歩くのは心底情けないが、予期せぬ幸運を手にすることもある
やはり諦めてはいけない
▲谷に初夏の訪れを告げる木の花・ヤマツツジ

初夏ともなると、新緑から深い緑へと変わる
朱赤色の花は、深緑に映えて一際美しい
タニウツギと並び、渓流に初夏を告げる木の花の代表である
▲山で食べるワラビを採る

初夏を代表する山菜と言えば、ワラビとタケノコである
林道を走っていると、後ろから来た車がワラビ山で止まった
頭から虫除け用の網をかぶり、手足も露出ゼロの完全武装であった

聞けば、山ビル対策だという
「イワナ釣りだど思ったども、ワラビ採りだが」
「いやいや、イワナ釣りだ・・・ワラビは山で食べる分だけ採ろうと思って」
しかし、5人もいれば、あっという間に山で食いきれないほど採ってしまった
▲谷の残雪
▲杣道から谷を望む ▲初夏の渓をゆく ▲左足不調で荷を下ろし休む

相変わらず左足は最悪だった
歩く速度は、普段の1/2以下と極めて遅い
休むたびに仲間から遠く離されていく・・・情けない

先行した仲間は・・・笹藪を見つけると、タケノコを採りながら追いつくのを待つ
毎度、毎度、スイマセン!
▲滴る緑とマイナスイオンを浴びて谷を登る

20年以上前は、この沢のかなり奥まで杣道があった
しかし、近年歩く人が少なくなったらしく、藪と崩壊が著しい
左足不調の身では、アップダウンが続く杣道より沢を歩く方が快適である
▲テン場のブナ

このイワナ谷は、V字峡谷でテン場適地が極めて少ない
唯一穏やかなザラ瀬が続く左岸の高台をテン場とする
一帯は、ブナとミズナラの巨木に覆われ、別荘でも建てたくなるような別天地である
▲ブナの森のテン場 ▲倒木を切り薪をつくる ▲ワラビとタケノコの処理作業

斜面には、ブナやイタヤカエデの倒木も売るほどあった
テン場の設営が終わると、倒木を切って三日分の薪をつくる
さらにワラビの穂先を取り除き、二重にしたビニール袋に入れる

重曹を振りかけ、熱湯を注ぎアクを抜く処理をする
こうすれば、今晩から食べられる
今度は、タケノコの皮をむき、タケノコ汁の下処理をする
▲初夏のイワナ釣り

足の遅い仲間を連れて歩くと、肝心のイワナを釣る時間がほとんどなくなる
釣りがスタートしたのは、午後3時を過ぎていた
私は竿を出さず、仲間のエサ釣りを撮影することに
▲丸々太ったイワナは「旬」の証

初夏のイワナは、水生昆虫や落下昆虫、水面を飛び交う羽虫を胃袋満タンに食べている
だから腹部の膨らみが大きく、肉厚で最も美味しい時期である
上のイワナは、薄い着色斑点を持つニッコウイワナのメスである
▲イワナが群れるトロ場で粘り続けるK氏

左へカーブする地点の淵尻は、深いトロ場になっている
一般にこうした大場所は、向かって左から接近し、トロ場の淵に振り込むだろう
しかし、そういうアプローチでは、イワナに丸見えで、ほぼ100%釣れない

K氏の立っている位置に注目願いたい
イワナに気付かれないように、下流の大きな岩に隠れて竿を出している
「石化け、木化け」としては合格である

しかし、エサを入れると、イワナが寄って来るものの、なかなか食いつかない
トロ場に定位するイワナは、たいてい食い気がない
頭にきたK氏は、釣りバカの名にかけて粘り続けた

それを見ていた会長が言った
「なんだ、あれ!、コイ釣りでもしてるんだがぁ」
その時、釣りバカにイワナが釣れる確率は・・・誰しもゼロと思っていた
▲K氏が粘って釣り上げた尺イワナ

食い気のないイワナを釣る

最初、トロ場で遊ぶイワナは、K氏をもてあそんでいるように見えた
しかし、さすが釣りバカ・・・あの手この手で攻めまくり、
ついには根負けしたイワナを釣り上げるのに成功した

しかも、姿、形の美しい尺イワナであった
どんなに警戒心の強いイワナであっても、美味しそうなエサで何度も誘惑されると、
思わず食いついてしまう・・・野生のイワナも人間に近い弱点がある

「見えるイワナは釣れない」
とは言うものの、尺前後のイワナを見てしまったら、無視できなくなる
僕も何度か粘って、食い気のないイワナを釣り上げたことがある

思い出すのは、八幡平大深沢三段の滝の岩穴に取り残された数匹のイワナ
増水時に岩穴に入り、減水して岩穴に閉じ込められたイワナであろう
止水の岩穴プールに悠然と泳ぐ姿が丸見えであった

しかし、魚眼レンズのイワナにも釣り人は丸見えであった
エサを目の前に入れても、当然のことながら無視して食いつかない
エサを水面で踊らせる、上下左右に動かす・・・あらゆる誘いの動作を繰り返す

根負けしたイワナは、ついにエサに食らいついた
粘れば、イワナはエサの誘惑に負けて食いつくことは確かである
つまり、食い気のないイワナであっても、本能を引き出せば釣れるということ
▲網袋に入れ、生かしたまま大事に釣り上がる ▲イワナの胃袋には、てんとう虫など落下昆虫がビッシリ入っていた
▲釣りの途中で採取したウド ▲2時間弱の釣果・・・全て刺身でいただく
▲皮をむいたタケノコ ▲刺身の残り、皮とアラの唐揚げ料理
▽参考 タケノコ鍋

昨年の9月下旬に採取したマイタケを洗わずに冷凍保存していた
その天然マイタケとタケノコ、豚バラを入れてタケノコ鍋の料理をやってみた
これが最高に美味かった

まず、天然マイタケを洗わずに冷凍保存すれば、歯切れも香りもすこぶる良かった
そして、想像していた以上にタケノコとの相性が抜群であった
▲山釣りのクライマックス・・・山の幸定食を囲み、熱燗で乾杯

頭と骨は竹串に刺し、盛大な焚き火で燻製にする
今宵も最高の源流酒場が開宴

今晩の山の幸定食は、刺身、唐揚げ、ワラビ、ウドの酢味噌和え、
ミズの塩昆布漬け、タケノコ&ウド若芽の天ぷら、タケノコと卵の味噌汁の8品である
盛大な焚き火になればなるほど、撮りたい衝動に駆られる
焚き火を囲む源流酒場は、山釣りのクライマックスを象徴する最高の被写体だからだ
この風景には、山釣りの知恵と技術が凝縮されている

▲底石が見えるほど透明度が高い
▲頭と骨の燻製 ▲早朝の渓流・・・奥にフキの大群落が見える

二日目は、願ってもない快晴に恵まれた
ブナ帯の森から、野鳥たちの鳴き声をかき消すほど、エゾハルゼミの大合唱が鳴り響く
生き物たちの賑わいから元気をもらう
▲ウワミズザクラ・・・これがサクラの仲間とは驚かされる。葉が開いた後に、花穂が咲く。 ▲ダイモンジソウの若葉
▲湧水が滴るような岩場を好むフキユキノシタ・・・瑞々しさと涼感を誘う草花であるダイモンジソウやタニガワスゲと並び代表的な渓流植物。 ▲タニガワスゲ・・・渓流沿いの岩や渓流の畔に大きな株となって生える。
白い花崗岩が連なる美渓

花崗岩の白さが際立つ美渓のゴルジュ
下流出口の幅は狭く深い・・・流れも速く、沢通しの遡行は困難を極める
中間部は、こうした狭いゴルジュ帯が多く、何度も高巻きを強いられる
▲SBと雪煙 ▲滝上の残雪から雪煙が舞い上がる枝沢

山から吹き下ろす風で雪煙を浴びると、震えるほど寒い
まるで天然の冷蔵庫そのものである
雪渓は、天然クーラーとして一級品である

釣り上げたイワナの旬を保つには、これ以上の場所はない
江戸時代後半、旅マタギは、長野県秋山郷で夏のイワナ漁を展開していた
その際、こうした雪渓を利用して、釣り上げたイワナの旬を保っていたのではないか
▲イワナの大好物・蛾の幼虫 ▲ゼンマイ ▲開いてしまったゼンマイ畑
▲エチゴキジムシロ・・・中流部の岩場に大きな株となって咲き誇る黄色の花は見事 ▲ミヤマカラマツソウ
▲初夏の渓を釣る

初夏のポイントは、淵頭ではなく淵尻、瀬、瀬脇である
さらに晴天の初夏の渓は、イワナも丸見えだが、釣り人も丸見え
不用意にポイントに近付くと、イワナは一斉に瀬尻から上流に向かって走る

従って、イワナに気付かれないようなアプローチとできるだけ長い仕掛けがベスト
中村会長のエサ釣りは、標準仕掛けだが、オモリはつけない
ポイントに正確に飛すために「ウキ」を使う独特の釣法である

本人は、目が見えなくなったので「ウキ」を使っていると言うが、
初夏の釣りには、実に合理的な釣法である
ただし、雪代や雨で増水する場合は、ウキが速い流れに引っ張られるので×

ちなみに、「ウキ」を使った釣法は、毛針釣りにも応用できる
毛針釣りの弱点は、上流から風が吹くと、ポイントまで振り込めず、釣りにならない
そんな時、半チョウチン仕掛けあるいは標準仕掛けに毛針を結び、

「ウキ」で飛ばせば、その弱点を克服できる
創造的な釣りは、無限に考えられる
要は、釣りマニュアルに記された固定観念を捨てることである
左下の写真に注目・・・不鮮明だが、淵にイワナが3尾写っている
「釣れない釣り日和」になると、「見えるイワナは釣れない」
この大淵には、数十尾のイワナが群れていた

こうした魚影の濃い渓は、大雨前後の笹濁りになると、イワナは狂ったようにエサを追う
そんな幸運に遭遇すると、信じられないような「入れ食い」が続く
イワナの底知れぬ魅力にはまるには、そんな異常な体験が必要である

ただし、増水で遡行は困難を極める
逆にイワナの入れ食いに冷静さを失うと、仲間内では「イワナに釣られる」という
それは、想定外の増水に命を奪われるという意味である
▲テンカラで釣り上げたイワナ

イワナは「足で釣る」とは分かっていても、
肝心の足が不調では、イワナにも相手にしてもらえない
亀のような歩き方だが、久々にテンカラを振ってみた

瀬に向かって毛針を振り込む
透明度の高い流れを見ていると、毛針に向かうイワナが見えた
本能的に早合わせをしてしまい失敗

連続して二回もバラしてしまった
毛針ではなく、黄色のラインが走るのを確認してから・・・
竿を立てると、ラインが一直線に張り、竿は弓なりになる

上流へ走るイワナの引きが手にビンビン伝わってくる
その感触を楽しみながら、黄色の長いラインを左手でゆっくりたぐり寄せる
その感激は、やはりテンカラ独特のものである
▲深山幽谷の山魚・イワナ

全体的に黒っぽく精悍な面構えをしたオスイワナ
よく見ると、背中に岩で擦ったような擦り傷が横に走っている
野生では、こうした個体が意外に多い

これは洪水時の傷だろうか、それともナワバリ争いの傷だろうか?
背中に明瞭な虫食い状の斑紋が見られる
さらに擦り傷も認められる
同じ沢のイワナであっても、十匹十色の個性があり、遺伝子の多様性を実感させられる
▲ウドを根元から折り採る
▲斜面に生えたウド・・・雪解けの遅い斜面は、まだまだ旬のウドが生えている。しかし、シドケやアイコは皆無だった。やはりV字峡谷は、ゼンマイの宝庫だが、山菜の種類は少ない。 ▲オオバミゾホオズキ・・・正面から見れば唇形の花で、横から見るとラッパ状に咲く。初夏ともなれば、沢筋は草木が伸びて薮と化す。そんな中でも一際目立つ草花だ。
▲ブナの若葉

ブナの新緑は、透過光で撮影するに限る
透過光で見上げると、透明感に溢れ、見る者を釘付けにするほど美わしい
新緑が燃えているようにも見える

風に揺れると、まるで音楽でも奏でているようにも見える

「私たちは、異常の経験によって人生の深みに入るように、
自然の深みに入るには、自然に関して異常なる経験をしなければならない。

新緑の真に美わしいものに接せんがためには、
水清く岩美わしい処女的な自然の深みに入らなければならない

(「新緑の印象」大正7年5月、田部重治)

現代に残された「処女的な自然」とは、水清く岩美わしい沢の源流域をさしている
「山釣り」あるいは「沢登り」は、「処女的な自然の深み」に狂わされた遊びである、とも言えるだろう
さらに、今年の夏は、「天然クール沢遊び」にピッタリの遊びでもある

▲ショウジョウバカマ(2011年5月) ▲ツバメオモト(2011年5月)  ▲クロサンショウウオの卵(2011年5月)

・・・つづく・・・

Part2は・・・イワナと渓畔林、フキ、テントウ虫、ナメ滝、渓流で繁殖するシノリガモ、カワガラス、渓畔林の代表樹種、美しき水と美渓、ミズナラの巨木、バカにつける薬はない、白神山地・横倉の湧き水と棚田・・・

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