想い出の源流紀行@

21世紀の渓師たちに贈る20世紀の山釣り紀行


1987年6月上旬、3泊4日、真瀬川から追良瀬川へ

ブナ林の彼方、イワナ満つる渓

 サルがイワナを食べる。それを聞いて一瞬我が耳を疑った。
 今年五月下旬、友人N氏一行四人が水沢川からのルートで粕青秋県境のコルにて毛川源流二又にキャンプした時のことである。

 そこでサルの群れを発見。一晩中、サルの奇声が聞こえたという。前日釣ったイワナを焚き火のまわりにさして釣りに出かけ、帰ってみると跡形もなくなっていた。ゴミ袋も破られ、ソーセージなどを食い荒らした後を見れば明らかにサルの仕業だ。

 串焼きイワナは串ごとなくなっていた。
 粕毛川源流を訪れる釣り人が近年急激に増え、焼きイワナのおいしさに味をしめたサルが、この上二又に居付いているらしい。居付きイワナならぬ居付きサルである。

 サルがブナの木にあぐらをかいて、程良く焼き上がったイワナを頭から丸ごと食べている光景を想像すると、笑っていいのか、泣いていいのか、なんとも複雑な心境にさせられる話である。

 また、このN氏は今度打当川支流で41cm大イワナを釣り上げたという。釣りに行けない私にとって、こんな話が聞こえてくると、居ても立ってもいられない気分になる。一回目の釣行計画である六月二日が、子供の遠足以上に待ち遠しく感じられる日々が続く。

 長期予報によると、低気圧の接近に伴い、今夜から崩れ、にわか雨が続くとのことである。白神岳はまだ残雪があり、白く薄化粧している。雨に伴って雪代水も予想されるため、下流からは遡行困難と判断し、真瀬川上流・中の叉源流を詰め、追良瀬川源流へ直接入るルートをとることにする。

 峰越えで直接源流へ入るルートは私の好みでない。やはりイワナと同様、下流から源流めざしてゆっくり遡行するのが本来の姿だと思う。

 タケノコ狩りなら青秋県境 第1日目

 国道101号線を能代市から北上、「真瀬渓谷」と書かれた標識から右折し、真瀬川林道へ入る。三番目の橋を越えると、道路は二叉となっている。右の方向は保護か開発かで揺れる青秋林道へ通じる道である。左へわずか進むと中の叉と三の叉の分岐点となり、禁漁公告の看板が見えた。

 真瀬川は三本の沢を三年間順ぐりに禁漁とし、中の叉沢は今年解禁のはずであったが、なぜか七十年まで延長されていた。十年間も禁漁とすれば、巨大な潜水艦に成長するだろうと思うと、禁漁公告の看板がたのもしくなってくる。

 中の叉沢右岸沿いの林道をしばらく走ると真瀬岳登山道の案内板がある。左に少し進むと車止めである。

 荷物の配分をし、60リットルのザックに詰めるも全て入らない。相変わらずぜい沢な釣行である。車止めを四時に出発。中の又沢右岸の山道は、よく踏まれているので歩き易い。平坦な杉林の中をしばらく行くと次第に登り坂となる。四時四〇分、中の又沢上二叉上流の河原で朝食のオニギリを食べる。

 ここから左岸の山道となるが、この道は真瀬岳の方向へ行ってしまうので、あくまでも右岸ルートを歩く。県境はタケノコの宝庫

 次第に踏み跡も乏しくなり、沢通しに進む。車止めからコルまでの標高差は四百m。だんだん勾配もきつくなる。急ぐ旅ではないので二十分歩いては十分休むといった調子で登る。

 源流部まで杉の植林が目立ち、沢はところどころ土砂で埋まっているコルへ近づくにつれて、沢沿いに紫色のシラネアオイ、ピンクのヤマツツジ、白いヤマアジサイなどの花が咲き乱れ、春の息吹きが伝わってくる。

 中の叉源流部最後の滝を右岸に大きく巻くと、もうすぐコルだ。次第にタケヤブとなり、泳ぐように進む七時四五分、やっとコルに到着。

 このコルは中の又沢とサカサ沢をほぼ南北同一線上に結んだ位置にあるが、タケヤブのため、あたりは何も見えない。タケヤブの下を見ると採ってくれと言わんばかりに太いタケノコが顔を出している。きゅうきょタケノコ採りをする。

 サカサ沢にイワナが走る

 サカサ沢に入ると中の又沢源流部とは一変し、スノーブリッジが続き、あたりは深いブナの樹海が広がり、左前方には、まだ白い帽子を被った白神岳が見える。SBを下る

 なぜ中の又沢になかったスノーブリッジがここにはあるのか。おそらく白神岳を中心とする東西の山々に囲まれているため、雪も多く、暖かい日本海から吹く風からも遮断されているせいだろう。

 右岸を巻いてスノーブリッジをころがるように下ると、今度は左岸脇尾根を大きく巻く。大きなスノーブリッジはここで終わりであった。三番目の滝を左岸に巻くと、後はザラ瀬が続く。まだ魚影は見えない。

 サカサ沢4.3キロ地点二又よりイワナの魚影が見え出した。ここまで出発してからすでに六時間が経っている。疲労も頂点に達していたが、群れをなして逃げ回るイワナの姿を見ると、不思議と体一杯に元気が湧いてくる。追良瀬川マス止めの滝
 下る我々に気づいて逃げ回るイワナが多く、会長が思わず「イワナの頭を踏むなよ!」と冗談をとばす。徒渉する人の股間を駆け抜けていくイワナもいれば、驚きの余り、岸辺に跳ね上がってしまうイワナもいる。

 二年ぶりの追良瀬川であるが、貴重なイワナの楽園は以前のままである。

 ツツミ沢、サカサ沢合流点より五十m程下流の右岸高台をキャンプ地とする。

 道草を食いながらの遡行とはいえ、ここまで七時間追良瀬川本流をゆくも要した(寄り道しなくても五時間はかかる)。この高台は雑木があるものの平坦で、増水の危険もない。キャンプ地としてはAクラスである。さっそく野営の準備にとりかかる。雨でも焚き火ができるよう大型シート張りと慣れた手つきで準備は進む。

 午後二時より夕食用イワナ調達のため、ツツミ沢班、本流班の二班に分かれる。

 キャンプ地真正面の左岸の瀬に、肩慣らしと思い第一投。先程まで騒いでいたので、まさかイワナが食いついてくるとは思っていなかったが、ゴツゴツというなつかしいアタリが道糸から竿を握る手へと伝わってきた。心が躍る瞬間である。少し穂先を立てると、底石めがけてイワナは走る。一気に抜き上げるとサビのとれた26cm程のイワナであった。イワナの楽園・穏やかなツツミ沢

 ツツミ沢とサカサ沢合流点の渕で三尾を上げた後、ツツミ沢に入る。

 この沢は、どこまでも穏やかな瀬が続いている。水量は少ない。ポイントはカーブ地点であるが、今年はまだ訪れる人が少ないためか、入れ食いで釣れてくる。

 どこまでも広がるブナの森、その中を静かに流れるせせらぎの音、足下には一面白い花をつけたヤマワサビの群生……丸ごと自然の宙空を黄腹の居付きイワナが舞う。まさにイワナの楽園である。

 今宵もまた源流に感謝乾杯!

 0.5キロ地点枝沢合流点よりわずか進むとゴーロ帯となるが、距離が短く、せいぜい三十m程で、またザラ瀬が続く。1.6キロ地点上二叉より左の沢に入る。渇水で水は極端に少ない。小岩が転在する瀬尻でエサを待つイワナが丸見えである。イワナの鼻先にエサを入れると猛然と食いついてくる。糸を張り挑発すると、エサに逃げられてたまるかと針ごと飲みこみ、岩陰へ逃げ込もうとする。

 一部始終そのイワナの姿を見ながら釣る。ミャク釣りならぬ見釣りである。日暮の滝で尺イワナをゲット

 百m程進むと、左手に十五mほどのナメ滝(実は100mもある日暮しの滝だ)が見える。水はシャワーのように岩を伝って滑り落ちている。大岩に隠れるように前進したが、下は一枚岩盤でツボはない。ものは試しにと思って投入すると、ゴツゴツときた。滝ツボの主かと思ったが、上がってきたのは九寸程のイワナであった。

 今度は正面のスノーブリッジが連なるほとんどの水のない枝沢合流点に歩を進めてみた。水の流れはなく、淀んでいる。エサを投入すると右の大きな岩からイワナがサッと出てきた。今までより強いアタリが返ってきた。水面を引きずり込むように慎重に取り込む。丸々と太った尺イワナであった。ここで竿をたたむ。

 0.6キロ地点ゴーロ帯上流右岸でヤマワサビを採取。日本海側の沢部より一カ月程雪解けが遅いため、山菜は今が最盛期である。山ワサビ畑

 夕食の準備は忙しい。イワナの腹裂き、タケノコ、ウド、シドケの皮むき、刺し身、焚き火など豪勢な宴会をしたいとなれば、それに比例してやることは沢山ある。夕方五時から始めてあっという間に八時になってしまった。

 今日は盛り沢山の山菜とイワナ料理で酒を飲む。タケノコの香りとイワナのだしがよく調和したイワナ汁、ウドの程良いにが味、アイコ、シドケのおひたし、先程まで生きていたイワナの活魚料理、そして酒。イワナの楽園は時を忘れさせてくれる。

 白神イワナの星あられ白し
 ポイント連続のウズラ石沢
 
二日目

 朝四時、テントを打つ雨の音で眼がさめる。二時前から雨が降り出していたが、焚き火の上に大型シートを張っていたので、おきは白い灰とともに真っ赤に燃えていた。さほど増水もしていない。渓流に足を入れると思ったより冷たい。雪代のせいだろう。コーヒーを飲みながら、シトシト降る雨の中、メモをとる。ウズラ石沢のイワナ釣り

 今日は、金光野営長とウズラ石沢をめざす。ウズラ石沢は白神山地の盟主白神岳を源流とし、追良瀬川で最大の支流である。

 ウズラ石沢の出合は大きな釜となっているが、左右に突き出た岩をジャンプして渡る。増水時は左岸をきわどくへツルか、左岸の竹ヤブを大きく巻くと通過できる。白神岳の雪代水で思ったより水量が多い。穏やかな渓相の続く追良瀬川の中で最も変化に富み、ポイントも連続している。

 水量が多いため、釜の落ち込み両脇は白い泡となって渦巻いている。釜終点のカケ上がり、大石の陰、カーブ地点の瀬脇がポイントである。雨のためか、これはというポイントでは必ずゴツゴツというアタリが返ってくる。食いも活発である。平均サイズは八寸級であるが、ところどころで小物も混じるためリリースするのに忙しい。ゴーロ滝

 ゴーロ、小ゴルジュがしばらく続くので交代しながら釣り上る。四百m程で、両岸巨大な岩に狭まれた三mの滝となっている。この壷ではリリースサイズしか釣れなかった。主はとうに釣られて不在らしい。ここは右岸を巻く。ここから渓が開け、穏やかな河原となる。大石の陰、カーブ地点の瀬尻から班点の美しい白神イワナが雪代の中から顔を出す。ゆっくり釣り上る。

 八百m程進むと谷は急に狭くなり、長いゴルジュ帯となっている。ところどころスノーブリッジの残骸が見える。ここで十二時を回っていたし、雨も一向に止む毛配がないので、0.7キロ地点まで下がり、左岸から流入する枝沢に入る。本流とは違い極端に水量が少ないため、まだサビのとれない黄腹のイワナが釣れてくる。

 昨日歩いたような踏み跡や、草木を折った真新しい跡があった。下流でキャンプしている組がいるようだ。

 ところどころにあるスノーブリッジを越え三百m程進むと、横に数段の柱状節理の見られる三mの魚止めの滝に到着。ここでも大物は出ずじまいであった。ここで納竿とし、ウドを採りながら下降。

 やや水は増えてきたが、まだまだ大増水の心配はなさそうである。ブナの豊かな保水力に感謝しながら、流れ下る雪代水を追い駆けるように下る。

 キャンプ地よりわずか上流右岸は竹ヤブとなっている。竹も太く、イワナを刺すのにちょうどいい太さである。竹は、ブナなどの小枝より真すぐで簡単に串を作ることができるし、腹を裂いたイワナを刺すにも最適である。

 竹の両端を斜めに切り、イワナを口から背中を踊るように刺し、尻尾の手前で止める。尾を突き通してしまうと、イワナはクルクル回転し、固定されないので必ず尻尾の手前で止めるのがコツである。

 焚き火の回りは岩盤で地中に串を刺すことができないので、両端に三脚を組み、横に渡した棒に並べて焼く。こうするとどんな所でも安定してイワナを焼くことができる。

 夕食の準備をしていると、本流組の会長と章カメラマンが帰ってきた。
 三の沢上流で他の釣り人を見たという。恐らく昨日ウズラ石沢に入ったキャンプ組であろう。なぜか声をかけるも、会長の姿を見るや、竿をたたみ逃げるように姿を消したという。

 今日も雨の中、あり余る程のイワナと山菜で焚き火を囲み、酒を飲む。シートを打つ雨の音、瀬を流れる水の音、そして焚き火のはぜる音、原生林の静寂の中に響くこれらの音は全て心地よい音楽に聞こえてくる。

 ツツミ沢で増水前の荒食い 3日目

 またもテントに落ちる雨の音で眼を覚ます。二日連続の雨であるがさほど増水していない。そろそろミミズでは食い渋ってきたので、一時間程川虫採りをする。追良瀬川はオニチョロ、クロカワ虫が多い。源流部まで棲息しているため、いつでもどこでも採取できる。増水前のツツミ沢

 午前八時半、章カメラマンの後を追うようにツツミ沢に入る。増水前の荒食いであろうか、オニチョロを尻掛けにしてポイントに入れるとすぐに飛びついてくる。同一ポイントで数匹は釣れてくるが、型が小さくなるので、一、二匹釣ったら移動し釣り上る。

 次第に雨が強くなり、十一時を過ぎたところで今度は強い風が吹いてきた。テント場が吹き飛ばされないか心配になる。濡れた体に追いうちをかけるように大雨と風が容赦なく体を打つ。寒さで震えながらオニチョロを針に掛ける。オニチョロ、クロカワ虫ともに食いは良かったが、仕掛けが強風にあおられ、思うようにポイントへ投入できない。

 サワグルミの大木の下で風雨を避けながら、パンとチョコレートで昼食とする。増水の気配があったが、テント場は近いのでそう心配はない。あっという間に増水してきたツツミ沢

 二又より1キロ程釣り上ったカーブ地点で釣っていると枯葉が流れてきた。

 時計をみると午後一時半であった。
 すぐに水は濁り出し、増水してきた。
 これで最後と思い、餌をミミズに換え投入する。ゴツゴツという強いアタリとともに竿が孤を描く。29cmのイワナであった。1.1キロ地点で濁流となる。ここで竿をたたみ、先行している章氏に笛を吹く。まだ釣りたい顔をしていたがこれ以上いると危険なので帰ることにする。雨で濡れた章氏の竿が縮まらない。平たい石の上に手袋を置き、竿の上にタオルを置いて石で軽くたたく。二、三回たたくと簡単にたたむことができた。

 そうこうしているうちに水嵩はどんどん増してくる。ブナの森は緑のダムと言われる通り保水力は抜群であるが、その限界を越えるとダムが決壊したごとくにすさまじい勢いで増水してくる。あせる気持ちを押えながら、深さのわからない茶褐色に濁った川を下る。

 一昨年の追良瀬川での悪夢が脳裏に浮かぶ。あの時と全く同じ現象である。違うのはキャンプ地まで四キロも近いことである。これが三の沢下流にキャンプしていたら帰れないところであった。

 濁流を泳ぐように下り、三十分でキャンプ地に着くことができた。留守番の金光氏が風からテントを守り、ゴミ袋に濁る前の水を確保していてくれた。一人で心配だったのか、我々の顔をみるなり笑っているが、心なしか青ざめている感じであった。

 さっそくコーヒーをごちそうになる。
 ウズラ石沢班が心配だ。
 水位は先程からすでに五十cm近く上昇し、本流の徒渉は腰上までくる。
 濁流で深さもわからないため危険だ。
 あれこれ心配すること十五分。会長と副会長が不安を打ち消すように、笑いながら帰ってきた。これで全員が無事帰還できた。一昨年の愚は二度と繰り返さないあたり我々も成長したものだ。

 風にあおられ、移動したシートを張り直し、夕食の準備にとりかかる。
 この源流部二又は渓が開けているためラジオの入りがいい。この大雨と強風は前線の通過によるものらしい。

 夕食の準備をしているうちに水位は下がり始め、風も止んできたが、雨は依然降っている。自然の猛威に負けないよう盛大な焚き火をし、最後の夜を楽しむ。

 いつものメニューに加え、ウドの葉、茎を油で炊め、みそで混ぜたウドの油いためみそ合え。そして、山ワサビの葉、茎、根ともに刻んだものを、カラになった酒の紙パックに入れ、熱湯を注ぎ、蓋をして渓流水で冷やした山ワサビ料理。辛さ、味ともに抜群で痔が悪化するのを忘れて飲んでしまった。先程の心配はどこえやら、イワナの楽園の最後の夜にふさわしい宴会となった。

 午後十一時頃、再び強風がやってきた。前線が去っていく最後の風である。余り強いのでシートを押さえたが、とうとう切られてしまった。

 これで焚き火はできない。
 テントが強風にあおられ、バホバホと頭をたたき、テント全体が揺れる。とても寝てはいられない。大雨と強風、そして濁流の音、イワナの楽園が地獄と化していくような恐怖を感じた。

 雨また雨の追良瀬を去る 4日目
増水したサカサ沢を遡行
 鳥のさえずる音、ブナ林の中を穏やかに流れるせせらぎの音で眼をさますはずであったが、今日もテントをたたく雨の音がする。前線が通過したらしく、風も止み、雨も小降りだ。カマドの灰を除いてみたが、下は水が溜まって使いものにならない。

 切れたシートを修復して再度張り直し、カマドを移動して焚き火に挑戦する。濡れた生木に火をつけるのは難しく、完全に火がつくまで一時間を要した。

 金光氏がテント場近くの湿地帯からウルイを採ってきた。イワナ汁にウルイを入れ、御飯と一緒に煮込んだオジヤで体を温める。昨夜より水位は下がっているが、底石にぶつかった流れは白い泡となって逆巻いている。雨は止む気配がないので、予定どおり帰れるだろうかと不安になる。ラジオの天気予報によると、各地に大雨を降らせた前線は去り、次第に回復するという。焚き火を囲み、濡れた衣類を乾かしながら、雨が止むのを待つ。

 昼近くになると二日と半日止むことなく続いた雨が止んだ。衣類も乾き、明るくなった空を眺めていると元気が湧いてきた。

 午後二時二十分キャンプ地を出発。
 降る前のサカサ沢は、渇水のためもの足りない感じであったが、雨後は増水でちょうど沢登りの魅力にふさわしい水量である。ツツミ沢出合二又より少し歩くとわずかの落差を伴ったナメ床がある。左右に徒渉を繰り返しながら、しばらく行くとブナの巨木が横たわってできた釜がある。この釜には相当のイワナが入っていた。

 この釜尻を右岸から左岸へ渡渉し、どこまでも穏やかなサカサ沢を遡る。
 二又より六百m地点の左岸キャンプ跡地で休憩とする。まわりはブナの巨木におおわれている。ブナ原生林の中でキャンプしたい人にとっては追良瀬川の中で一番の環境であるが、釣り人にとっては上流すぎて釣るエリアがない。
SBが残る源流をゆく
 出合1.3キロ地点二又を右にとり、百m程進むと、また二又となるが、ここを左に進む。渓は次第に狭くなり、上を見上げると両岸からブナがうっそうと茂り、谷を埋め尽くしている。ここより少し遡ると、大雨の中でもまだ解けずに残っていたスノーブリッジがあった。そこを越えるとサカサ沢源流部第三の滝にぶつかる。ここを左岸に巻いて進む。

 第二の滝はまだスノーブリッジに被われていたが、左岸の脇尾根を大きく巻く。すると渓は急勾配となり、前方に追良瀬川・真瀬川分水尾根のコルが見えた。スノーブリッジはコルまで達している。大雨でかなり解けているので、その上を登るのは危険である。右岸脇尾根を直登し、コルにたどり着いた。

 三十分程タケノコ採りをしてから、中の又沢を下降する。登ってくる時はさほど感じなかったが、上から下を見ると急勾配で、よくこんな所を登ってきたもんだと改めて思う。文字どおり、転がり落ちるように下った。

 (現在、追良瀬川は世界自然遺産に登録され、禁漁となっているので注意!)

inserted by FC2 system