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東北の元気回復プロジェクト・・・その2
▲ブナの森は・・・冷たく美味しい名水が無尽蔵に流れている

2011年5月のゴールデンウイーク後半、命芽吹くブナ谷に3日間こもった
左太ももの調子は最悪で、仲間2人から遠く離され、亀のようにスローに歩くしかなかった
しかし、その分、不思議と今まで見えなかった風景が目に飛び込んでくるからオモシロイ

3日間で撮影した画像は1,200枚余り・・・これまでの倍以上も撮影してしまった
お陰で、生命踊る渓谷から「生きる力」「元気」をたくさん授かることができた
▲ブナの森は・・・イワナの宝庫

ブナ帯の渓畔林が豊かな渓流は、冷水性を好む山魚「イワナ」を育む
そんな渓流に今年一番乗りともなれば、8寸〜尺前後のイワナが入れ食いとなる
そんな体験を26年間も味わっていると、母なるブナ=イワナの方程式の確かさを実感させられる
▲ブナの森は・・・山菜、きのこの宝庫

 早春のギョウジャニンニク、バッケ、アザミ、コゴミ、ユキノシタに始まり、ブナの芽吹き〜新緑の頃になると、ホンナ、アイコ、シドケ、ヤマワサビ、ミズ、ウルイ、ヒラタケなど、ブナ帯の山菜シーズン最盛期を迎える

 5月下旬から6月の初夏を迎えると、早春の山菜に加えて、タケノコ、ウド、ゼンマイ、フキ、シイタケ、ヒラタケ、サワモダシ・・・夏は、ミズ、キクラゲ、トンビマイタケ、清流のアユやヤマメ、イワナ・・・

 秋は、ミズのコブコ、ヤマクリ、ヤマブドウ、アケビなどに加え、マイタケ、ヤマブシタケ、シイタケ、マスタケ、サワモダシ、ブナカノカ、ムキタケ、ナメコなとのキノコ類が大発生する・・・ブナの森は、早春から晩秋まで切れることなく多種多様な恵みを与えてくれる・・・

 ブナの森は、野生動物だけでなく、人間にとっても命を育む「母なる森」である
▲ブナ谷の華「オオサクラソウ」も開花
 今回出会った草花は、キバナイカリソウ、ヒトリシズカ、イワウチワ、キクザキイチゲ、ニリンソウ、エゾエンゴサク、スミレサイシン、タチツボスミレ、オオバキスミレ、バッケ、ネコノメソウ、エンレイソウ、ミヤマキケマン、ミヤマカタバミ、オオサクラソウ、シラネアオイの16種に及ぶ

 ブナの森は生物多様性の宝庫でもある
林道は、かなり手前で崩壊していた
無味乾燥な林道歩きは嫌だが、苦労を厭わない分、途中で出会ったのは地元の山菜採り一人だけ
その山菜プロの話によると、今年は出が遅く、アイコ、シドケを採るにはまだ早いとのことだった

左足の調子は相変わらず悪く、さらに山ごもり用の重い荷がのしかかる
何度も座り込み、小休止を繰り返しながらノロノロ歩く
その度に、芽吹く草木の風景を撮りまくる・・・すると、歩く元気が湧いてくるから不思議だ
▲黄色が鮮やかなイタヤカエデの花 ▲オオヤマザクラ

長い林道歩き終点で、朝飯を食べる
左足を引きずるようにして歩く姿を見た仲間が言った・・・「ここさぁ、泊まるが・・・」
「いや、いや、いつものテン場まで歩く」と、強気で言ってみたものの・・・

ここから続く杣道は、いきなり標高差200mを登らなければならない
さらに延々と上りが続く・・・左足は悲鳴を上げ続け、地獄の苦しみを味わう
しかし、命が芽吹く感動的な風景に何度も助けられた
ブナの芽吹き
春の陽射しにまどろみ、芽吹き始めたブナ(左写真)
丸くなると花芽が開く(右写真)
その芽吹きのエネルギーは、雪国の風雪に耐えた力が一気に爆発したかのように凄まじい

山全体が若葉と花で萌黄色に霞んで見える
ブナの芽吹きのドラマは、地獄の苦しみを忘れるほど美わしい
新緑の峰走り
モクモクとうねるように連なる萌黄色の波は、谷から峰へ、
下流から源流に向かって、ゆっくりと駆け上がる
眼下に展開される新緑の峰走りを眺めていると、元気がモクモクと湧いてくる

雪国でしか見られない命漲る春山に・・・
眠っていた獣も鳥も魚も虫けらも草木も人も、皆一気に目覚め、「生きる元気」を取り戻す
▲奥へ進むと、ブナは今だ冬芽の状態で茶褐色に霞んで見える
斜面を見下ろすと、芽吹く前の代表・イワウチワの花がブナの根元を取り囲むように咲き乱れていた
これじゃ山菜はまだ早いかなと思ったが・・・

歩き始めて4時間余り・・・足の痛みも身体の疲労もピークに達する
最後の急登は、5回も休んでやっと上り切る
思い通りに動かない左太ももを手でさすっては・・・「何とも情けない」と呟くしかなかった
▲通称「山菜畑沢」の清冽な源流水

急斜面の下りとはいえ、足を上げない分、左太ももにかかる負担は軽い
笹薮の急斜面を半分ほど下ると、岩穴から音を立てて源流水が湧き出している
冷たい源流水をコップに汲み、一気に飲み干す・・・美味い、美味い

その清冽なマイナスイオンを浴びると、不思議なことに細胞が活性化してくるのが分かる
ここから清冽な流れに身を任せるように、テン場まで快適に下る

この美しき水の周辺には、多種多様な草花、山菜が生えてくる
また、野鳥やサル、カモシカ、クマなどの野生動物たちも集まってくる
ブナの美水は、生き物たちのオアシスと言えるだろう
▲沢筋の日当たりの良い斜面に山菜が群生する
沢筋の斜面を見上げると、落葉の腐葉土から
アザミ、ヤマワサビ、アイコ、シドケ、ミズ、ニリンソウの若葉がたくさん生えていた
山菜が出るには早いと思ったが・・・意外な光景に笑顔となる

先発の二人が今晩の山菜を十分採取したはず・・・私は写真に撮るだけにとどめる

歩く途中で見掛けた山野草たち
▲キバナイカリソウ ▲ヒトリシズカ ▲イワウチワ
▲タチツボスミレ 
▲ニリンソウ ▲スミレサイシン ▲オオバキスミレ
▲エンレイソウ
▲シラネアオイ ▲ミヤマキケマン ▲ミヤマカタバミ
▲アイコ(ミヤマイラクサ) ▲シドケ(モミジガサ)
▲まずは燃えやすい倒木を切り、薪をつくる
テン場には、仲間に遅れること1時間・・・何と5時間半余りも掛かった
荷を下ろし、大の字になって寝転ぶ・・・苦しんだ分、辿り着いた感激も大きい

自然の中では、「水」と「食」と「焚き火」が必須条件
この三点セットを確実に確保できる場所は、谷川しかない
春一番のイワナ釣り

今晩の山菜と薪は現地調達した
残るは、山で唯一のタンパク源・イワナ調達に出掛ける
雪代が逆巻き、決してコンディションは良くないが、良型イワナの入れ食いが続いた

それは何故か・・・理由は簡単明瞭・・・
林道が崩壊していたため、この奥地で竿を出すのは、我々が一番乗りだったから
しかし、いくら魚影が濃い沢であっても、釣り人が訪れる数が増えるにつれて、
大きいイワナほど警戒心が強くなり、プロでさえ簡単には釣れなくなる

特に夏の渇水期ともなれば、イワナの姿すら見えなくなる場合も少なくない
イワナ釣りを知らない門外漢の人が、そんな沢を登り、一匹のイワナすら見えなかったとすれば、
魚を殺生する釣り人を恨むに違いない


しかし、翌春になると、どこから湧いてきたのかと不思議に思うほど、
またまた尺前後のイワナが入れ食いとなる
それは何故なのだろうか・・・

毎年、イワナは一定量、釣り人に釣られる
しかし、人の気配を感じるにつれて、イワナの防御本能が強くなる
イワナがスレルにつれて、釣り人の足も遠のく

また、天然のイワナは、自然が豊かであれば、勝手に増えてくれる
例え一時的にイワナが激減したとしても、イワナの回復力は凄まじい
それは、イワナを育むブナの森の力だと言えるだろう

つまり、数年単位でならせば、差し引きゼロに等しく、全体量が減っていないことを示している
ただし、このような自然の回復力を持つ沢は、ブナなどの渓畔林が豊かな渓流に限られる
▲明日の山菜採り場を視察中・・・まだ出始めだが、採取するには十分であることを確認 ツキノワグマの糞・・・真っ黒でしかも大量、これは冬眠明けの糞だろうか
▲わずか2時間弱の釣果・・・8寸から泣き尺サイズがそろった。魚体はサビ付き、一様に黒っぽい。大きいサイズ4尾は刺身用にさばく。 今晩の山の野菜・・・山菜は、出始めの若芽の頃が柔らかく最も美味しい。
▲焚き火でじっくり焼き上げたイワナの塩焼き完成品
飴色に輝く魚体、焚き火の煙による芳香な香りは、薫製に近い
こういうベストの焼き方をするには、決して早く食べようとしてはいけない
早く食べるイワナ料理は、刺身と唐揚げ料理で十分・・・

串刺しイワナは、直火から離し、遠赤外線で時間をたっぷりかけて焼くことがポイント
その遠赤外線効果を発揮するには、できるだけ盛大な焚き火をすることが必要である

自然の真っ只中で焚き火をすることは、単なるお遊びではない
暖房や照明、濡れた衣服を乾かす、イワナを焼く、飯を炊く、仲間の心を一つにするなど
山ごもりの中心的な存在である・・・だから焚き火は山で生きる技術の筆頭であろう
 
久々に聞くブナ谷の音・・・
夜空には、明日の好転を約束するかのように満天の星が輝いていた
この世に、命が芽吹く原始庭園を借景にした源流酒場ほど贅沢なものがあるだろうか

ブナの森の恵み・山菜と山魚料理を肴に、26年間苦楽を共にした仲間と酒を酌み交わす
左足の不調で地獄の苦しみを味わされたが、それでも来るだけの価値はあった
むしろ、「生きる力」「元気」はクライマックスに達したように思う

ただし、左足の不調は簡単には治らない
筋肉の老化なのだろうか、それとも普段怠けていた罰なのだろうか・・・(つづく)

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