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未知の谷のゴルジュと滝、キクラゲ、閉塞性動脈硬化症、渓流流しソウメン、山案内人・嘉門次・・・
真夏の源流・・・想像するだけで、心は踊る

連日「猛暑日」が続き、熱中症で救急搬送された人が2万4千人(7月末)を超えたという
これはたまらん・・・8月中旬、情報が全くない未知の岩魚谷に向かった
流木に同化したアズマヒキガエルは、清冽な飛瀑を浴びて、ひたすら虫を待つ
未知の岩魚谷は、長年気になっていた沢の一つであった
イワナ釣りや沢登りの記録も皆無に等しく、少なからず不安はあった
案の定、思わぬゴルジュの突破に苦労させられた

目的のN沢は、ゴーロの階段が延々と続き、まるでミニ・マンダノ沢のような美渓であった
「釣れない釣り日和」とは言え、魚影の濃さには驚かされた
未知の谷は、不安や苦労も多いが、それだけ感激も大きい
谷の両岸は切り立ち、典型的なV字峡谷である
廃林道と杣道を利用するか、それとも谷沿いを歩くか・・・迷った
問題は・・・雨が降っても安全で快適なテン場があるかどうかである

ならば、沢通しに歩くしかない
遡行してほどなく、空は俄かに曇り、大粒の雨が降り出した
最近は、信じられないようなゲリラ豪雨が多発している

先を急ぎたいところだが、左足絶不調では亀のように歩くしかない
仲間には悪いが、何度も腰をおろして休む
標高360mを越えると、谷は急に狭くなり、険悪なゴルジュとなる
2泊3日の荷を背負って遡行するには難渋する
左右に蛇行したゴルジュ帯は、意外に長い

こんな所で大雨・濁流に襲われたら・・・と思うとゾッとする
ゴルジュの淵は深く流れも速い
3回ほどザイルを出して難所を突破する
長いゴルジュ帯を抜けると、やっと渓は開ける
右岸から一条の滝となって流れる小沢が流入する
標高は約400m地点・・・その対岸に、この谷唯一のテン場があった
左岸の高台は、ブナが林立し、これ以上ないテン場であった
河原にブルーシートを張り、いつもの焚き火&源流酒場が完成する
山で3日間過ごすには、水と食料、エネルギーの確保が絶対である

渓流沿いのテン場は、その条件を全て満たしている
流木を切り、3日分の薪を集め昼食とする
幸い雨は止んだ・・・いよいよ未知の谷のイワナ釣りへ
巨岩が点在する小滝の壷や深い瀬が連続し、イワナの好ポイントが続いている
すぐさま、懐かしいイワナのアタリがあった

ツンツンと竿先が震える・・・竿を上下し挑発すると、岩陰に走った
強く合わせると、、何故かハリスが切れ空を切ってしまった
巨岩の小滝・・・その右の巻き込みにエサを送り込む
狙い通りに強いアタリが返ってきた
確実に掛ったはずだが、今度は1号のミチイトが切れてしまった

おかしい・・・昨晩、仕掛けを作ったばかりなのに・・・
壷を覗くと、イワナに持って行かれた目印が水面下に見えた
巻き込みに漂う仕掛けをつかめば、イワナを捕まえることができる

近付こうとすると、目印が消えた
恐らく、イワナは右の巻き込みから左の流れのある方向に逃げたようだ
未練がましく、必死で目印を探すも二度と現れることはなかった
▲N沢とS沢が合流する二又 ▲右のS沢に入る
極上のキクラゲ発見!
イワナはもちろんのこと、倒木に連なるキノコを見つけると心の底から嬉しくなる
中華料理でお馴染みのゼラチン質のキノコ・・・良い出汁が出る

盆のキノコと言えば、ブナの老木に生えるトンビマイタケ
昨年はマイタケ同様豊作だったが、今年は不作のようだ
沢が左にカーブする地点に落差5mほどの滝が現れる
壷は深く大きい・・・釣れてきたのは、真っ黒なイワナであった
恐らく、暗い滝壺に定位しているイワナであろう
▲5m滝上、トヨ状の淵
▲3mほどの直滝 ▲谷は狭くなりゴルジュ帯出現

5m滝は、右岸を巻き、滝上に出る
すると、トヨ状の流れの向こうに直登不能な直滝が懸かっていた
連続巻きで沢に下りると、今度は深い淵が連なるゴルジュとなる

これじゃ釣りどころじゃない
引き返して、明日の本命であるN沢へと向かう
N沢は階段状の壷が連続・・・
雨のち曇天、かつ夕方という好条件であったからであろう
良型イワナが立て続けに釣れた
目標は一人3匹、3人で合計9匹であった
あっという間に9匹目が釣れ、あっさり竿を畳む
N沢は、イワナの魚影が濃い・・・明日の楽しみに胸が膨らむ
真夏でも渓流の水は冷たく、涼むには最高の場所である
涼感満点のマイナスイオンを浴びながら、釣りたてのイワナをさばく
4尾を刺身に、5尾を塩焼きにする

心地よい瀬音を聞きながら、乾杯!
まるで仙人になったような気分で飲み語らう
しかし、現実は仙人にはほど遠い

左足不調の原因は、筋力低下などではなく、閉塞性動脈硬化症だと判明
左足の血圧は、腕の半分ほどしかなかった・・・血液の循環が悪く左足が病むらしい
心臓血管外科の医者には、こう告げられた

「タバコを止めないと、治療も手術もしない」
40年間吸い続けたタバコを止め、只今禁煙中の身である
今回の山釣りは、痛みをこらえて歩くリハビリの一環なのだが・・・

仙人どころか、何とも情けない病人である
やはり病にかかると、当たり前の健康がどれだけ幸せか痛感させられる
山を自在に歩けるようになるのなら、何でも実行するしか選択の余地がなくなった
二日目は、予報とは裏腹に快晴のようだ
朝食は、夏定番の「渓流流しソウメン」
ソウメンを湯がき、川虫採り用の網に入れて、冷たい渓流で洗い流せば完成

万能つゆを渓流水で割り、薬味を入れていただく
食べても食べても喉越しが良く、いくらでも胃袋に入っていく
昼飯用に昨晩焼いたイワナ5尾を背負ってN沢に向かう 
▲清冽な飛瀑

山案内人、伝説の猟師&イワナ職漁師・上條嘉門次
嘉門次は、32歳の時に明神池のほとりに猟師小屋を建てた
夏は梓川でイワナを釣り、冬は山にこもって愛犬とともにカモシカやクマを撃っていた

明治26年、ウェストンは山案内人として嘉門次を紹介された
雨が激しく降り、梓川は水嵩を増していた
その時、嘉門次は次のように言ったという

「すぐ出発することはできません」
その理由がおもしろい
川が増水するとイワナがたくさん出るから、案内役をするよりイワナ釣りをする方が金になるからだという

二日目は、30度を超す真夏日
「釣れない釣り日和」となれば、さしずめ嘉門次なら、釣りはやらずに山案内に徹しただろう
・・・つづく・・・

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