頭のつぶれた岩魚谷Part1 頭のつぶれた岩魚谷Part2 山釣り紀行TOP


高巻き新ルート、連続するSBに敗退、スーパー爺さんは健在、焚火で燻したイワナ、新緑と清流美・・・
二日目は快晴・・・今日は、朝早く仲間のK氏が来る予定であった
しかし、林道は遥か手前で通行止め・・・空身で歩いても3時間ほどかかる
恐らく、日帰り釣行は無理と判断し引き返すだろう

念のため、9時まで待ったが、やはり来る気配がない(彼は朝の5時半、車止めで諦め引き返した)
いつもより遅い9時過ぎ、頭のつぶれた岩魚谷に向かった
天気は快晴・・・残雪と新緑の谷は美しく、歩く気分は最高であった
▲SB上部から新緑谷の上下流を望む ▲ブナ林の杣道をゆく
▲分厚い残雪
▲サンショウウオの卵 ▲シドケ
▲白い花が咲き始めたヤマワサビロードをゆく

この谷には、ヤマワサビの大群落が連なり、ワサビ沢と呼びたくなるほど多い
杣道は1.5kmほど歩くと、急な上りとなる
上り切ると、右の写真の小沢に出る

清冽な流れの周囲を取り囲むようにワサビ群落が連なっている
流水は冷たく、喉を潤すのに最適である
▲エンレイソウ ▲残雪と新緑

長い杣道歩きに別れを告げ、谷に下りる
谷は、雪解け水でいつもより水量が多い
右岸に渡り、三角形の雪が残る左岸を見上げる・・・青空にブナの新緑が眩しい
萌え出たばかりの新緑と雪が残る渓を上る
スーパー爺さんは、ゼンマイを入れる山菜袋を背負って歩く
けれども雪が解けたばかりの斜面には、ゼンマイどころか、シドケやアイコさえ生えていなかった
流れに直角に倒れたブナを頼りに左岸に渡る
分厚い雪の斜面を滑り落ちないように慎重に歩き、行き詰ると右岸に渡渉する
そんなことを何度も繰り返しながら遡行する
歩き始めて2時間・・・やっと頭がつぶれた岩魚谷の入口に着く
入口は、屹立する絶壁の岩穴トンネルになっている
岩の上に座って休憩していると、コウモリが盛んに虫を追いながら飛び交っていた

頭のつぶれた岩魚谷へのアプローチは、絶壁が連なり危険が伴う
今回は、最も安全なルートを探ってみた
滝の右岸を高巻き、灌木類が生い茂る左岸の斜面をトラバースして
目的の沢との分水尾根にとりつく

次なる問題は、下降地点を探すこと
険しいV字谷は、谷の底の部分が崖になっていて簡単には降りられない
思考錯誤の末、やっと下降地点を見出し、雪代逆巻く谷に降り立つ
やはり、最短ルートの倍の1時間ほどかかった
▲頭のつぶれた岩魚谷最下流部

この谷の下流部は、右岸の壁が立っている
その屹立する右岸から下りねばならないだけに、ルート選定が難しい
時計を見れば、既に12時を過ぎていた

体力を使い果たし、全員ガス欠状態であった
お湯を沸かし、昼食をとる
昼食後、スーパー爺さんは、先ほど降りてきたルートに目印を付けると言って下流に下がった

残りの3名は、頭のつぶれたイワナを求めて釣り上がった
この谷のイワナは、斑点が大きく鮮明で、一見エゾイワナに近い
体色は緑っぽい印象を受け、体の割りに口が小さいのが最大の特徴である
さらに腹部は、ほとんど真っ白・・・よく見ると中央に薄い橙色が少しだけある

源流部に多い「赤腹イワナ」とは全く違う・・・これは食性の違いなのだろうか
今回は、頭のつぶれたイワナを釣るべく、針は7号と小さめを使用した
▲ショウジョウバカマ ▲ブナの新緑を見上げる
▲8寸イワナ ▲SBと新緑

二匹目も普通のイワナであった
左岸から流入する枝沢は、全て雪に覆われていた
ここから谷がやや開ける

これからエンジン全開という時に分厚いSBが行く手を阻んだ
今まで見たこともないほど雪が多いのに驚く
雪解け水で水量も多く、渡渉にも難渋する
前方に分厚いスノーブリッジ(SB)が現れる

SBの下を通過するのは危険・・・かつ、とてもじゃないが寒くて入る気にもならない
SBの中間部は雪が薄い・・・危険なため通行不可
できるだけ厚い岸側を渡る
SBの頂点に立って、前方を見下ろし唖然!!
何とSBが連続しているではないか
しかも右の斜面の残雪の厚さも半端じゃない
上流に行けば行くほど雪が多くなるのは常識・・・

これじゃ、釣るポイントは皆無に等しいだろう・・・やむなく竿を畳む
頭のつぶれたイワナを釣るどころか、キープしたイワナもわずか二尾に過ぎなかった
完全なる敗退である
雪が解けたばかりの斜面に、白と紫色のキクザキイチゲの群落
右の写真は、日当たりの良い場所に唯一咲いていたニリンソウ
▲見上げると、日当たりの良い脇尾根沿いのブナは新緑のピーク

左岸から枝沢が流入する地点の右岸の尾根は、唯一勾配が緩い
帰りは、このルートを辿ろうとスーパー爺さんが追い掛けてくるのを待つ
しばらく来そうにないので、カメラを持って尾根を上ってみる
▲V字谷の雪解けは極端に遅いことが分かった ▲爆弾低気圧で倒れたブナの巨木

尾根から残雪と新緑の谷を見下ろすと、素晴らしい絶景に息を飲む
V字谷は、両サイドから雪崩が一気に落下し、谷底全体を埋め尽くしてしまう
しかも、谷底は日当たりが最も悪いがゆえに、遅くまで連続したSBが残っているのであろう

この尾根は、一部崖はあるものの最も安全なルートであった
午後3時半には止める予定であったが、爺さんは3時になっても来る気配がない
いくらスーパー爺さんとはいえ、満78歳だ

もしかして、足を滑らせて谷に落ちたのではないか・・・
姿が見えないだけに、最悪の事態が頭をかすめる
狭いV字谷を下るのは嫌だったが、最初に降りた地点まで下ることにする

確かに爺さんが付けた真新しい目印があった
しかし、爺さんの姿は見えない
二人で一斉に合図用の笛を吹く

すると、左岸の遥か上から応答の笛の音が微かに聞こえてきた
見上げると、日当たりの良い絶壁の上でゼンマイ採りに興じていたのだ
スーパー爺さんは、今年も健在だった
▲灌木類が生い茂る斜面をトラバース ▲二段の滝上源流部

本流に戻り、取り急ぎ今晩のイワナを釣ることにする
右岸の急斜面を上り、痩せた分水尾根から灌木類が生い茂る斜面を斜め下にトラーパース
穏やかな二段滝上源流部に降り立つ

残された時間はほとんどないが、釣るしかない
せめて、一人2尾、4人で8尾が目標である
本流の源流部は、頭のつぶれた岩魚谷に比べて雪解けが早い
雪代のピークは過ぎ、イワナの活性度も高かった
入れ食いで釣れてくる

頭のつぶれたイワナ用に小さい7号の針を使っていた
だから、胃袋まで飲まれるケースが続発した
その度に針を外すのに難渋した
▲丸々太った9寸余のイワナ
▲29cmほどのイワナ

▽「ソフィスティケートされた未開人」(今西錦司、1967)の抜粋その1

サルはいろいろな点で人間に似ているが、
またいろいろな点で人間とは異なっている。
その異なる点を一つ。

サルは魚をとることができない。
どうだサルよ、まいったか。
▲黒くサビついた泣き尺のイワナ

ポイント毎に刺身サイズのイワナが竿を絞った
釣り上げてはイワナの写真を撮りながら、急いで釣り上がること30分余り
目標の8尾に達したので竿を畳む・・・時計を見れば午後4時半を過ぎていた
▲シラネアオイ ▲ブナの巨樹 ▲源流イワナ

いくら陽が長くなったとは言え、午後7時を過ぎれば暗くなる
テン場まで急ぎ足で下って、2時間・・・何とか7時前にテン場に辿り着いた
全員ガス欠状態・・・

まずはチョコやカンパン、菓子類を食べてエネルギーを充填する
日常の世界では、体がガス欠状態になったり、エネルギーを充填するという感覚がゼロに等しい
この当たり前の感覚を取り戻せば、生きている喜びにもつながると思う
▽「ソフィスティケートされた未開人」(今西錦司、1967)の抜粋その2

 未開人といえども、大きい奴のかかった瞬間には、その毛深い胸をわくわくさしたにちがいない。釣りはかれらにしてみれば、食糧獲得という、のっぴきならぬ目的のためでもあったが、しかしまた、かれらも釣りの楽しさを知り、その楽しさにひかれて、釣りに出かけるようなことが、なかったとはいえないのである。

 つかみ、なぐり、突き、ひっかけと同じように、釣りもまた原始以来の魚のとり方の一つである。しかし、釣りは、それらの中で、あるいはその他のとり方を加えても、一番ソフィスティケート(都会的に洗練)された、魚のとり方である。
▲焚火で一晩燻したイワナの塩焼き
▲刺身をとった残りの頭と骨の燻製・・・骨酒用に持ち帰る

▽「原始生活への誘い」(今西錦司、1967)抜粋その4

 いまでこそ、ちょっと気の利いた山の宿では、食膳にイワナの刺身や塩焼きを出すようになったが、もとは信州あたりで食わすイワナといえば、カチンカチンになったイワナの干物を、たいていもどし、これに味付けしたもので、その点では調理法として身かきニシンに似ているが、

 とにかく一種独特の風味があって、わたしなどはまだ中学生のころ、上高地ではじめてこれを食って以来、いまでもこれ以上にうまいイワナ料理はない、と思っている。なお、この干しイワナを土産に持ち帰り、出し昆布といっしょに煮たてて、湯豆腐をつくろうものなら、それこそ、おのずから杯を重ねざるをえない、というものである。
 
三日目・・・雲ひとつない快晴に恵まれた
一眼レフデジカメにNDフィルターを付け、三脚をセットして、新緑と清流美を撮ることにする
まずは足ごしらえ・・・沢登り用のズボン、フェルト足袋をはき、スパッツを付ける

雪代の谷は、平水時より多く白く波立っている
岸の浅い所は底石までくっきりと見え、透明度がすこぶる高いことが分かる
マイナスイオンを体いっぱいに浴びて、新緑と清流美を撮るのは実に楽しい
真っ青な青空をバックに連なる新緑の山並み
その下を清流が音を立てて流れ下る
時折、黒いカワガラスが低空飛行を繰り返す

正面の新緑の森から、エゾハルゼミの大合唱が鳴り響きはじめた
河原に寝そべり、朝寝でもしたい衝動に駆られる
▲エゾエンゴサク ▲サシドリの芽

いつもならタケノコが生えていてもおかしくない時期だが・・・
竹藪は雪が解けたばかりのようで、何も生えていない
周囲を見渡せば、サシドリの赤い若芽や早春の花・エゾエンゴサクの大群落があった

今年の山菜は、総じて二週間近く遅れている感じだ
▲眼にも心にも優しいブナの新緑

山菜が二週間も遅れているということは・・・
冬眠から覚めたクマも食べ物が少なく飢えているに違いない
もしかして、クマがカモシカを襲って食べたのは、いつもより飢えていたからだろうか
▲夏のような暑い陽射しを浴びて谷を下る

この山ごもりから一週間後・・・
今回来れなかったK相棒と再びイワナ&山菜採りに入った
そこで・・・危惧していたことが現実となった

釣り上がる途中で、草食いの大クマにバッタリ出会ってしまった
後で振り返ると、一生に一度あるかないかのシャッターチャンスではあった
しかし、いざとなると・・・カメラを首に下げていることすら忘れ、見惚れてしまった・・・(つづく)

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