頭のつぶれた岩魚谷Part1 頭のつぶれた岩魚谷Part2 山釣り紀行TOP


笹タケノコ、ウスヒラタケ、薪、尺イワナ、残雪と新緑、クマがカモシカを食べた残骸と糞、縄文人・・・
2012年5月中旬、3日間の山ごもりは久しぶりに好天に恵まれた
2日目・・・この谷の源流部・頭のつぶれた岩魚谷に向かった
しかし、上の写真のとおり、V字谷は分厚いSBに覆い尽くされていた

それでも残雪の谷とブナの新緑美は見事であった
同じ谷であっても、毎年違った風景を見せてくれるから楽しい
林道は途中で、雪崩の残雪に阻まれ通行止めとなっていた
それを知っている地元の人たちは、車から自転車に乗り換えて上流に向かった
我々は、3日間の重い荷を背負い、林道を歩くこと8km、さらに杣道を2.5km、計10.5km歩く
▲林道終点まで歩くこと8km ▲笹タケノコ

天気が良いと、林道歩きでも楽しい
さらに、山野草や木の花を撮影したり、
食えるものを採りながら歩くと、楽しみは何倍にも膨らむ

林道沿いの笹薮を覗くと、早出の笹タケノコがたくさん生えていた
味噌汁用に採取する
チシマザサのタケノコは、初夏から梅雨期にかけて生えてくる
▲清流と新緑に映えるムラサキヤシオツツジ

清流と新緑を背景にムラサキヤシオツツジを切り撮る
四季の中で最も美しい新緑の季節、萌黄色の新緑に鮮やかな紅色がよく映えて美しい
ゼンマイ採りからワラビ採りの頃まで咲く
▲ワラビ ▲ゼンマイ ▲ヒデコ(シオデ)
▲ウド・・・白い根元は生のまま、皮はキンピラ、若い葉は天ぷらに。その他、味噌汁の具、茹でてごま和え、味噌和えなど。 ▲オオバキスミレ・・・多雪地帯の日本海側に自生する黄色のスミレ。葉や花はおひたしや天ぷらにして食べる食用種。 ▲エゾエンゴサク・・・ケシ科類の植物は一般に有毒であるが、北海道では食用の山菜とされている。
▲スミレサイシン・・・花や葉はおひたしや天ぷらに。根はすりおろすとトロロ状になり、春の土の香りがするという。 ▲オオカメノキの白花・・・葉によく虫がつくので、別名「ムシカリ」
▲ミヤマカタバミ・・・葉は3枚、小さな白い花を1個付ける。
茎や葉にシュウ酸を含んでいるため酸味がある。夜になると葉が閉じ、睡眠運動をする。
▲新緑と清流 ▲林道をふさぐ土砂崩壊

冬の豪雪、春の爆弾低気圧の被害は至る所に散見された
右の写真は、法面崩落で林道を土砂が埋め尽くしていた
完全復旧は容易でないだろう
▲ウスヒラタケ・・・その名のとおり、ヒラタケより肉質は薄い。
傘裏は白く、倒木に側生する。料理は、
味噌汁、鍋物の具、炒め物、煮物など。
▲バッケ(ふきのとう) ▲シノリガモ
林道歩きは約3時間・・・その終点で遅い朝食をとる
杣道に入ると残雪が目立つようになる
テン場周辺は、爆弾低気圧でなぎ倒れたブナの倒木が多く、薪は売るほどあった
テン場に着いたら、まずは平らな場所を選びテントを張る
次に雨でも焚き火ができるようにブルーシートを張る
最初で最後の大仕事が、3日分の薪集めだ

薪は、焚き付け用の細枝、中、大に分類しておく
雪代はピークで水温は低く、水量はかなり多い
春一番乗りの割には、イワナの活性度は低かった
▲ジャスト30cmの尺イワナ

カーブ地点の大淵から竿を出す
粘っていると・・・春一番乗りを象徴する尺イワナが竿を絞った
無理をせず、水面を引きずり込んで取り込む

丸々太った魚体、無着色斑点が大きく鮮明なアメマス系イワナであった
奥に入るに連れて残雪と倒木が目立つ
キノコ木が朽ち果てる頃になると、雪崩や台風などで新しい木が倒れる
倒れてから3年ほどすれば、新たなキノコ木に変身する

それを永遠に繰り返しながら多様なキノコの恵みをもたらす
ブナの森は、無償で命の糧を与えてくれる・・・まさに母なる森である
アタリはまばらだが、丸々太った良型イワナに満足だった
この沢のイワナたちは、斑点が鮮明で美しい
中には、右下のようにエゾイワナと同じくらい斑点が大きく鮮明なイワナも生息している

3人で10匹釣り上げたところで納竿
中村会長が釣り上げたイワナは、32cmの見事な尺イワナであった
▲白い花が咲き始めたヤマワサビ
ブナの新緑は、命が芽吹く輝きに満ちている
帰路、ブナの森に西日が射し込むと、新緑が燃え上がるような輝きを放った
▲残雪とブナの新緑美

▽「街道をゆく41北のまほろば」(司馬遼太郎、朝日文庫)より抜粋

 青森県ぜんたいが、こんにち考古学者によって縄文時代には、信じがたいほどにゆたかだったと想像されている。むろん、津軽だけでなく、東日本ぜんたいが、世界でもっとも住みやすそうな地だったらしい。

 山や野に木の実がゆたかで、三方の海の渚では魚介がとれる。走獣も多く、また季節になると、川を食べもののほうから、身をよじるようにして−サケ・マスのことだが−やってくる。そんな土地は、地球上にざらにはない。・・・
 
 古代はよかった。
 
 採集者である縄文人には、所有欲がすくない。川をのぼってきたサケやマスも、渚に貝類も、木に実るクリやトチも、すべて神々からの賜りものだという。それに対し、新来の稲作人は稲は自分がつくったものだ、という。たがいに所有の観念が違うのである。

 「あの連中はいやだ」
 と、縄文勢力は、おもったにちがいない。
▲クマがカモシカを食べた残骸と糞

「シカが増えたことで、熊がシカを襲うケースが増えている」
「熊は、カモシカも含めて、肉食化している」
と、マタギサミットで話題となった事実を示す現場に遭遇した

クマがカモシカを食べた残骸は、ほとんど原型がなくなるほど食べ尽くされていた
周囲にクマの糞が6ヶ所もあったことから、犯人はクマに間違いない
雪崩で死んだカモシカか、あるいはカモシカを襲って食べたのかは不明
▲木に巻き付いていたカモシカの毛の一部 ▲カモシカの骨と毛以外は全て食べられていた

この場所は雪崩が起きるような場所ではない
毛皮が木に巻き付いていたり、その下の平坦な場所には白い毛がたくさん散乱していた
その上側の斜面には、カモシカが食べた残骸と糞・・・

クマはカモシカを襲い、絶命させた後、下の平坦な場所に引きづり込んで食べたのではないか
一度に食べ切れないので、上の斜面に隠し、何回かに分けて食べ尽くしたのではないか
▲カモシカの毛が散乱していた ▲大きなクマの糞が6ヶ所もあった

なぜ大量のクマの糞が、6ヶ所もあったのだろうか

1匹のクマが何度も食べに来て糞をしたのか、
それとも複数のクマがカモシカを食べて糞をしたのだろうか
もしかしたら・・・子別れする前の親子グマかもしれない・・・想像は膨らむばかりだ
さらに、別の砂地斜面にあったクマの足跡・・・
この谷では、クマの痕跡が多く、その生息密度は年々高くなっているように思う
最近、親グマに二度も吠えられたが、いずれもこの谷での出来事である

ブナ=クマ=イワナ=ヤマワサビ・・・といった図式が頭に浮かぶ
夕方になると気温は急激に下がった
さらに雪解け水は、手が痛くなるほど冷たい
10匹のイワナの腹を裂き、内臓をとって冷水で血合いを洗い終える頃には、手の感覚がほとんどなくなった

急きょ、焚き火で暖め、手の感覚を取り戻してから刺身料理にとりかかった
▲イワナの刺身用は、9寸〜32cm ▲細タケノコは、ウスヒラタケ入り味噌汁に
▲定番のイワナの刺身 ▲刺身の残り、皮とアラは唐揚げ用に

自分で釣ったイワナ、採った山菜こそ最高のディナー
水も食料(イワナ・山菜・きのこ)もエネルギー(焚き火)も自給自足する
これこそ縄文人の感覚であろう

▽「原始生活への誘い」(今西錦司、1967)抜粋その1

「味という点になると、そのへんの低い山の小谷にすむイワナは、残念ながら黒部川の本流の、激流の中で育ったものには、とうてい及ぶべくもない。それにもかかわらず、山が低ければ低いなりに、この魚はその山のいちばん奥深く、いちばん人気の少ない、渓流で言うならその最上流部にしか住んでいない、ということが気に入って、私は、またしてもイワナ釣りに出かける」
焚き火の炎をみれば、焚き火の大きさが分かるだろう
手製の三脚には、塩焼きイワナ5本と刺身をとった残りの頭と骨を串刺しにした計6本を立てる

▽「原始生活への誘い」(今西錦司、1967)抜粋その2
「専門のイワナ釣りと言うのは、人跡絶えた渓流のほとりに小屋掛けして、何日も釣りくらしていることが多い。だから、釣れた魚の貯蔵ということが問題で、塩蔵という方法もないわけではないが、一般には、焚き火の熱で乾燥さす。この方が軽くなって持ち運びにも便利である。

 直火が当たらぬよう、焚き火からかなり高いところに、何段にも棚をつくって、その上に魚を並べ、何日もかけて干すのである。家の中なら、さしずめ囲炉裏のうえの棚に並べて乾燥さす。一種独特の風味というのはこうして干す間に、焚き火の煙の匂いがうつるのである。」
日本の深層を探れば、縄文文化に行きつく
縄文文化を知るには、ブナ帯の文化を知らねばならない
ブナ帯の山釣りも・・・ブナ帯文化の一つと言えるであろう

なぜなら、ブナ帯の源流酒場で酩酊すれば・・・
まるで縄文人になったような錯覚に陥るからである
▽「原始生活への誘い」(今西錦司、1967)抜粋その3
「イワナは、東北地方の岩手県あたりまで行けば、水温の下がるせいか、中流部でも釣れるけれども、釣っている横をパスが通ってゆくというのでは、もはや何としてもおもしろくない。そんなところでイワナを釣っても、ちっとも釣った気がしないのである。

 釣りが目的なら、これでは少しおかしいではないか。私の本当の目的は、どうやら山の中へ入って、そこでできる限り文明から遠のいた、原始生活が味わいたいのであるらしい」

 明日も好天・・・いよいよ源流部の頭のつふれた岩魚谷へ・・・(つづく)

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